第71話 相手に自分をさらけ出す

文字数 1,353文字

ほっそりした私の姿を見て、寺田はびっくりして目を丸くしている。
「先生かっこいい!!」
「ほんとかい!」
「それだったら、もてるよ」

男はもてるという言葉に弱い。なんだか寺田がすごくいい人に見えてきた。
「あのさあ、そこまでしたんだったらGパンをはきなよ」
「そうかなあ・・」
「かっこよく見えるよ」
「よーし買ってくるか」
「そうだよ、そうだよ。今度の忘年会でGパンデビューしなよ」
「思い切ってやってみるか」
「そう来なくっちゃ先生じゃないよ」
「この間は悪かったな」
「いいよ!俺だって好きな事を言っちゃったんだから」
忘年会の打ち合わせをした後、近くの飲み屋でいっぱい飲んだ。
自分の体をつくづくと見回している。
「俺、先生にほれちゃったよ」
「気持ちわり~よ」

満更でもなかった。人は褒められると会話が弾む。
日曜日 近くの衣料品店「しまむら」でGパンを3本買った。
まさかこんな細いGパンが入る。鏡の自分が他人のように見えている。
顔かたちも変わっている。この格好もセールスポイントになるんだろうか。

世の中が明るくなったような気がしてきた。
今まで自分で着るものを買うことがなかった。
家に帰ると妻のケーコがびっくり仰天している。
「何を考えているの」
「かっこよくなればお客さんが増えるだろう」
「いい年して何言ってるの!」
「寺田がかっこよくなればファンが増えるって!」
「教室で色気なんか出してどうするの」
「これも仕事のうちだよ」
夢と現実はほんとにギャップがありすぎる。

2007年 1月元旦
複雑なお正月を迎えた。
新聞折り込みチラシは1月6日の朝に入る。
今度のチラシは大丈夫だろうか。これで今年の運命が決まる。
自信があるけど不安はもっとある。
考えてみると学習内容はたいして変わっていない。
この3ヶ月で変えたのは自分自身の意識だけなのだ。
心の意識改革だけだった。

今までは早く修了させてあげたいが本音だった。
今はいつまでも来てもらいたいと思う気持ちになっている。
今まではやさしく丁寧に教えてあげたいだった。
今は一緒に楽しんでいきましょうよという気持ちになった。

今まではお客様のほうから私の事を知る方法がなかった。
これからは全部さらけ出してみることにした。
自分の考えている事やお得情報を満載したニュースレターを作る。

毎月発行する「パソコン便り」の創刊号を企画し作成した。


私の自己紹介、お徳情報、パソコンの役立ち情報、今月のプレゼント。
面白い話題コーナー、役立つホームページアドレス、目の錯覚コーナー。
それと講師の挑戦というコーナーに「断食道場体験記」を連載読物として掲載した。

今までは先生すごいなあ、よく知っているなあと思われたかった。
これからは先生って変わってるね。抜けているね、頼りないねと思われたい。
話しかけられやすい人、いじられやすい人に変身したい。

パソコン講師を10年もやっていれば、大概の知識は大丈夫だ。
良く知っているのは当然だ。それを売り物にする事はない。
親父ギャグや、ダジャレをいっぱい心の中に詰め込んだ。
とっさにダジャレが出るようにしたい。

今までは真面目すぎた。個人的にはそれでもいい。
本来の性格なんてそんな変わるもんじゃない。
楽しい笑いが何よりも必要な気がした。
かっこつけていたらいつまでたって受講生と心から仲良くなる事はできない。
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