第23話 パソコン教室を退職

文字数 1,202文字

次の日、石岡校長に辞める意思を正式に伝えた。石岡校長は軽く頷いた。
1分後には電話で人材派遣会社に講師募集の手配をしていた。
自分がゴミ箱に捨てられ紙屑のような気がした。残務といっても特にない。
半年間通ったパソコン教室を退職した。また一人になった。
次の日からまた失業の日を送る事となった。孤独との戦いが始まる。

1ヵ月後
少し離れた車の中から懐かしいパソコン教室をしばらく眺めた。
パソコン教室の回りも薄汚れていた。掃除する人を失った駐車場も汚れていた。
いつも水をあげていた花もしおれ、生徒の数も少なくなっていた。

3ヵ月後
時々車で教室の前を通りすぎる。私のいない教室の様子が見たかった。
運転席から見たパソコン教室は、生徒も少なく校長は机で新聞を読んでいた。
並んでいる8台のパソコンに生徒は一人しかいなかった。
ぽつりと中年のおばさんが金部先生に教えてもらっていた。
奥には奥さんと校長が会い向かいに座り、暇を持て余している様子が見えた
もうここへ来ることはない。目的はひとつしかない。パソコン教室の開業だ。
断食修行で大概のことは耐えられる精神もできた。
パソコン教室の見習い修行で多少の知識は身についた。
でも、何から手をつけていいかわからない。

パソコン教室の周辺情報をインターネットで調べた。
当時、自宅のある桶川市にはすでに8件のパソコン教室があった。
隣接する北本市には6件ある。すぐ隣の上尾市には27件ものパソコン教室がある。
それぞれ独自のノウハウと知名度がある。
ただ漠然と新規参入しても、たいした知識のない私にはできるかどうかわからない
この状態でパソコン教室開業しても、生活ができるわけがないことは明らかだ。

何か差別化しなければならない。
職業訓練時代に知り合った東北オヤジがモデルになるだろう。
生徒としては東北オヤジをイメージする。
中高年世代はパソコンをする人が少ない。今は必要ないからだ。
だが、近い将来たとえ中高年でも、パソコンがなければ仕事ができない日が来る。
趣味や娯楽にしても、その情報収集にはパソコンが欠かせないものになる。
桶川市の人口は75,000人。そのうちの50人くらいを生徒にすればいい。


ほんとにできるのか! 桶川市の自宅で自問自答が繰り返される。
何もすることがない今は自問自答以外に何もすることがない。
自問自答で何時間も考え続ける。朝から晩まで自問自答する。
断食修行時代の「瞑想」と似ている。

「瞑想」は、傍からみると「居眠り」にみえる。
残念ながら凡人である自分はそれを交互に繰り返していた。
気晴らしにパチンコにもいった。それが習慣となってしまった。
暇は人をだめにする。
何か目標を作らなければならない。
生活だって今の預金がいつまで持つかわからない。
焦り始めていた。何もしないと自分がどんどん社会から離れていく。
忙しそうに歩いている町行く人が羨ましくなる。

私だけが世の中の流れからどんどん遠ざかって行く。
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