第18話 合同主任会議の準備

文字数 1,763文字

翌日、掃除をいつもより早く済ませ石岡校長を待った。
生徒が来る前に来てくれればいいが。

9時45分 石岡校長の車がやってきた。
「おはよう」
「昨日はどうして来ていただけなかったんですか」
「別に約束はしてなかったはずだけど」
「あの時わかりましたっていいませんでした?」
「早川さん、あなたなにか勘違いしていませんか」
「何をですか?」
「私は管理者ですよ、私の仕事はローテーション作成やみなさんの指示監督です」
「わかっています」
「講師は、あなただけではないんですよ」
「どういうことですか」
「もし私に不満があるんなら、来る来ないはあなたの自由です」
「首ってことですか」
「そうではありません。早川さんはどこでもやっていける力はありますよ」
この言葉で自分の教室開業の意思が固まった。
首と言われるまでここで働かせてもらおう。25万の給料は失いたくない。
意地を張って飛び出すほど若くない。少し我慢すればチャンスは訪れる。
次の日から石岡校長を冷静に見られるようになった。
しばらくは対立せずに過ごすように心がけた。冗談も極力少なめにした。

正社員となって6カ月経った頃だった。
石岡校長は相変わらず教室にあまりいない。
講習料収入は全国150教室のトップクラスを維持している。
私は独立開業の夢を胸に秘め、できるだけ石岡校長に逆らわないように努めていた。
25万の給料は本当にありがたい。生活も開業資金もこの給料が必要になる。
それからしばらくは無難な日々が過ぎていった。
石岡校長も実績向上の「最優秀教室」の責任者として本部から表彰された。

ある日石岡校長に呼ばれた。
「オーナーからの指示で、毎月主任会議を開くということになりました」
「ああそうなんですか」
「今回のテーマは講習料収入を20%上げるという事です」
「20%ですか、大変ですね」
「何か改善する事があれば考えておいて下さい」
「いつ会議は開かれるのですか」
「今度の土曜日です」
「あと3日しかないですね」
「初めての会議ですからオーナーの趣旨の説明くらいだと思います」
「わかりました。何か考えておきます」

私は昔からいろいろ工夫改善するのが好きだ。
工夫して結果が良いと充実感と達成感に満たされる。
会社時代も多数の改善提案を出して、いくつかは特許を取得したものがある。

この教室で研修生になった頃から気付いた事をノートに書いておいた。
裏技や便利技や生徒の間違い易い所を細かくメモをしておいた。
教室経営の事も自分だったらこうしようと思うことをノートに書いておいたのだ。
これもいつかは自分で開業しようという意識があったのでそのための準備だった。
その中の一部を改善提案にして報告書にまとめた。


1.<1日のローテーションを変更して1コマ増やす>
  この教室のシステムは、1コマ授業時間75分と休憩15分。
  1回75分を1日7回の授業を実施している。
  これを1コマ70分。休憩10分にする。1日合計70分の時間が短縮される。
  授業時間は1回5分の短縮なので、変更しても不満が出るほどではない。
  休憩時間の5分短縮は教室の都合なので変更は簡単だ。
  これで1日7コマを8コマに増せる。ほぼ15%の講習料収入のアップとなる。

2.<VIPコースを作ってマンツーマンで教える>
  鴻巣教室は二階建ての建物で2Fが空き部屋になっている。
  生徒の中には、つきっきりで教えてもらいたいという人がいる。
  受講料金を高めにしてマンツーマン講習でお客様を増やす。
  2FをマンツーマンのVIPコースにして講習料収入を増やす。
  生徒一人に講師を一人専属につける。
  これで20%以上の講習料金収入が期待できる。

3.<最初の基礎学習が終わったら希望の学習ができるようにする>
  現在はワード→エクセル→インターネットとテキスト通りに進む。
  途中で希望する学習へ行くということは禁止されている。
  ワードが終わるとやめていく人が多い。この方針を変える。
  基本操作が終わったら希望の学習ができるようにする
  辞める人がいなくなれば売り上げ減少を防げる。
  売上アップよりも売り上げ減少を防ぐほうが経営的には安全だ。


この3点を報告書にまとめて準備した。我ながらいい案ができた。
石岡校長もオーナーもきっと感心するに違いない。
会議の日が待ち遠しい。
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