第20話 ご機嫌な石岡校長の裏

文字数 1,141文字

石岡校長はトラブルのあった翌朝は大概早くやってくる。
その日も朝8時半にやってきた。
心の中ではいやだなあと思っていた。
呼び付けられて説教されるパターンだ。
「早川君、おはよう」
「ああ、おはようございます」
「昨日はすまなかったね」
「いいえ、私のほうが、差し出がましいことをして」
「いやいや、なかなかいい意見でしたよ」
あれ、様子がおかしい。何かオーナーと話があったんだな。
「あの件は私のほうでも参考にさせていただいて検討します」
「ああ、どうもありがとうございます」
「他に希望があれば言ってください」
「今は、特にありませんが」
「ところで今晩授業終了後、体はあいていますか」

キタ!キタ!キタ!キタ!
「特に用事はありませんから大丈夫です」
「そうですか、じゃあどこかへ飲みにでも行きましょう」
「何か話でもあるんでしょうか」
「いいや、早川さんと少しでも仲良くやっていこうと思ってね」
「こちらこそよろしくお願いします」
なんか気持ち悪いな。石岡校長はそんなに飲めないはずだけど。
昨日はあんなに興奮していたのに今朝はいやにニコニコしている。

こういう後が怖いんだよ。いろいろ無理難題を言ってくる。
今度は何だろう。前回の奥さんが社員になることは何とか阻止できた。

今日は授業中もずっと机に座っている。休み時間になると作り笑顔で寄ってくる。
「早川さんのファンだいぶ増えましたね」
「いいえ、ファンだなんて、違いますよ」
「教え方もなかなかいいですね」
「ありがとうございます」
「その調子でやって下さい」

近くで聞いていた金部先生も不思議がっている。小声で話しかけてきた。
「今日の石岡いやにご機嫌だね。何かあったの」
「いや、逆に昨日の会議でトラぶったんですよ」
「おかしいな、何かあるな、気をつけたほうがいいよ」
「今晩、飲みに誘われているんですよ」
「ええ、そんな事今まで一度もなかったよ」
「だから、意味がわからないんですよ」
「もしかしたら、辞めさせられるんじゃないの・・・」
金部先生がふざけて脅かしてくる。

石岡校長はその日は1日中教室にいた。
机に座って新聞読んだりチラシを見たりして過ごしていた。
昼休みにもどっかで買ってきた弁当を食べていた。気になって仕方がない。

午後も教室にいた。パソコンに向かったり手鏡を見ながら鼻毛を抜いたりしている。
時々はこっちを見て眺めている。落ち着かない日だった。



今日はあんまり冗談やダジャレが出ない。やけに1時間が長く感じる。
やっぱり石岡校長がいないほうがいい。これからは余計なことを言うのは止めよう。

あのVIPルームの件は話を取り下げよう。今度の提案はなかったことにしよう。
気もそぞろで授業に身が入らない。

やっと8時になって今日の授業が終了した。
これから校長と飲み会か。ちょっと嫌な予感がする。

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