第2話 パソコンの技能訓練開始

文字数 1,588文字

記念すべき西暦2000年になった。
正月明けの1月5日から熊谷市にあるPCゼミナールに行った。


AM9:45 すでに受講生全員が揃っている。
全員で24名の中で50代と思われる人も何人かいた。
多くは若い20代の女性が多かった。
殆どパソコンの知識はなし。家にはパソコンもない。
目の前の机の上に置かれているパソコンを見ても感心しているだけだった
数字や記号が散乱していて何がなんだかわからない。
もうなるようになれと腹をくくるしかない。
50歳になると記憶力も減退しているだろうとは想像がつく。
記憶力の衰えた分を練習の回数で補うしかない。
20代の頃一度パソコンは習ったことはあるが、途中でギブアップした経験がある。
さらに今は条件が悪い。パソコンが日に日に進歩して機能が複雑になっている。

パソコン技能訓練は朝10時から午後4時までの6時間になる。
3ヶ月の日程で合計300時間で修了となる。
訓練科目はワード・エクセル・インターネット・パワーポイント・アクセス。
それぞれのテキストが渡された。どれをとっても難しい外来語の羅列だ。
気持はだけは「よしやるぞ」と闘志がみなぎり始めてきた。団塊の世代の特長だ。

パソコン技能訓練 1日目
周りの人たちは明るくおしゃべりしている。みんな頭のいい秀才に見える。
いよいよ10分後から講義が始まる。体がわなわなと震えてきた。
私は根っからの小心者でしかも臆病者だ。ここ一番に弱い。
目の前のパソコンを触ってみたがその手が小刻みに震えている。

自分の隣の席に来たのは東北なまりが強い50代のオヤジだった。
これから3ヶ月間このおじさんが隣の席となるが何か頼りない。
でも気分的には同世代のオヤジ同士で安心できる。
類は類を呼ぶ、自分と同様な人間に見えて隣に来たようだ。
授業開始前、少し東北オヤジと雑談して過ごした。緊張が少しずつほぐれてきた。

AM9:55 教習開始
若い女性講師が教壇の前に立って自己紹介を始めた。
講師は24~25歳だろう。自分の娘と同じように見える。
富士通のパソコンインストラクターといっていた。

AM9:00 感動の一瞬を迎える。
「皆さん、それではパソコンのスイッチを入れて下さい」
ボタンがいっぱいあって起動するボタンがどれだかわからない。
隣の東北オヤジも自分のほうをキョロキョロ見ている。
周りからはジーン・ジーンとパソコンのモーターの回転する音が聞こえてくる。
変なボタンを押すととんでもない事になりかねない。なかなか押せない。
前の席を見るともう画面に何か映像が出始めている。
東北オヤジが後ろの席の女の子に聞き始めた。
それをみて若い女性講師が席までやってきて、起動ボタンを指差してくれた。
助かった。その様子を見て周りの目が集中してきた。
嘲笑の目が「何でこんなオヤジがパソコンを」とそんな気がした。

もう絶対忘れない。このボタンだ。これを押すとパソコンの電気がつくんだ。
東北オヤジとにっこり顔を見合わせた。
次にキーボードの押し方の講義が始まったが、またこれで悪戦苦闘する。
両手の指をキーボードの指定の位置に配置しろと言う。これは無視する。
日常でさえ使っていない小指や薬指が使えるはずがない。当然人差し指を使う。
幸い前から8列目の席だ。指の動きは講師からは見えないと思う。
う~ん。アルファベットが見つからない。一文字押すのに5秒~6秒かかる。
なんで分かりやすいように並んでいないんだと疑問を感じる。
ABCとかアイウエオとか順序良く並べてあればいいのにと恨めしくなる。
遅れに遅れて講師の教えている所と相当かけ離れてきた。
頭の中はパニック状態だった。
部屋の暖房が熱く感じてきた。下着までべっとりしている。

「それでは10分間休憩します」
やっと1時間が経過したのだ。
画面には「あいうえお」の50音が3行しか入っていない。
ギブアップしたいところだが、これに将来の生活がかかっている。
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