第46話 難問、珍問、奇問の毎日

文字数 1,474文字

2001年 10月
やっと各時間帯に予約が埋まるようになってきた。
来る人来る人みんな不安を持って来る。
「私にもできるでしょうか」
「やってみましょうか」
「パソコンを壊してしまいそうで・・・」
「壊してもいいから思い切り操作してください」
「家では触らせてもらえないんですよ」
「ここでは何をやってもいいですよ」
こんな会話が初めてパソコンに触る人との会話になる。
壊れたらいつでも下田さんが来てくれる。
このパソコンに大事なものが保存してあるわけじゃない。
まず安心してもらうことだ。

家族に教えてもらうと最後には喧嘩になる。
「そこはさっき教えたろー」
「だってわかんないよ」
「面倒くさいなー」
「じゃあ、もういいわよ」
これでパソコンをやらなくなるケースが多い。

教室の中に入るとそれ以外やることがないから意識が集中できる。
世間や家事や雑務から隔離された世界になる。
そして何を聞いても教えてくれる人がそばにいる。
周りがゲラゲラ笑ってやっているから安心する。
この別世界の安心した空間が心地よさそうだ。

ノートパソコンを持ったおばちゃんが入ってきた。
「猫がパソコンの上を歩いちゃって、文字が打てなくなっちゃったのよ」
「何にも文字が入んないんですか、ちょっと見せて」
「き(KI)と入れると 25と数字が出ちゃうのよ」
「ナムロックNumLockが押されたんですね」
「?・・・・・・なにそれ」
「ノートパソコンはNumLockを押すと数字がでるんですよ」
「Kのボタンの前のほうに2と数字が書いてあるでしょう」
「ああこれね、なんの数字かと思っていた」
「この数字が有効になっているんですよ」
「・・・・なんだかよくわかんない」
「NumLockをもう一度押してください。元に戻ります」
機種によるが、NumLockのオンオフボタンで文字が出たりでなかったりする。
結構このトラブルは多い。


その人の持っている悩みを解決すると、安心して教室に来るようになる。
電話での質問や問い合わせも少しずつ多くなってきている。

一番多いのがパソコンのフリーズだ。画面が固まって動かない。
「すいません。パソコンが動かなくなっちゃったんですけど」
「マウスは動きますか」
「動きません」
「今パソコンの前ですか」
「ええ、何にもいじってないんですけどね」
「起動ボタンわかりますか」
「パソコンのスイッチを入れるボタンですか」
「はい、そのボタンを画面が消えるまで押し続けてください」
「・・・・・・・・あ!消えました」
「10秒位したら又そのボタンを押してください」
「・・・・・・あああ、点きました」
「それで正常に戻っていますよ」
「息子のパソコンを黙っていじってしまったんです」
「よかったですね。もう大丈夫です」
「もうすぐ息子が会社から帰ってくるんです。よかった!」
「いつでも電話してください」
「助かりました~、ありがとうございましたあ」
電話の前で何度も頭を下げているのがわかる。
次の日、その方が菓子折り持参で入会した。

月・水・金の11時には白いサニーで班長さんがやってくる。
「パソコンが動かなくなっちゃったよ」
「どうなったんですか」
「真っ黒の画面に英語がいっぱい出てきたんだよ」
「何もできないんですか」
「だから電源、引っこ抜いちゃったよ」
「フロッピーデスクが入ったままじゃないですか」
「なにそれ?」
「フロッピーデスクが入ったままだとパソコンの電源が入りませんよ」
「あああれか、そういえばまだ抜いていないや」
「それを抜いてもう一度電源を入れてください」
「何だ、そんなことだったんか」

1時間の授業の中で大体半分くらいはこんな会話になっている。
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