第19話 合同主任会議の日で
文字数 2,583文字
今日は北鴻巣教室で第1回目の会議が行われる日だ。
東京からオーナーがやってくる。
石岡校長も少し緊張しているのか、朝9時から出勤した。
鼻くそほじりながら机に向かって何か資料を作っている。
石岡校長から呼ばれた。
「早川さん、なんか考えました?」
「ええ、考えてきました」
「そうですか、今日は初めてだからあんまり緊張しないでやって下さい」
「はい。わかりました」
「今日は、夜の授業はありませんから、6時には北鴻巣教室に行って下さい」
「はい、よろしくお願い致します」
「あまり気負わないで気楽な気持ちで行って下さい」
石岡校長はあまり私に期待していないようだ。
この会議で石岡校長との関係が最悪の結果となってしまった。
初めての会議だ。少しワクワクする。
車で北鴻巣教室へ向かう。会議予定時間の15分前に着いた。
教室にはすでに石岡校長とオーナーが先に来ていた。
近隣3教室の、正社員の講師が5人ほど集まっていた。
先日辞めさせられた下田さんの姿はない。メンバーは全員で8人位だった。
集まっている人たちに簡単な挨拶をして席に着いた。
午後6時から石岡校長の司会で会議は始まった。
最初にオーナーの挨拶があった。
毎月1回の会議を開き、講師の意見を取りあげたいという。
それらの改善策を検討し実施して、業績向上に結び付けたいという内容だ。
各教室とも20%を目標にして、実績向上に努力をして貰いたいと言う趣旨だった。
石岡校長は近隣3教室の責任者として鴻巣、北鴻巣、伊奈の実情と経過を報告した。
成績のいい鴻巣教室のやり方をいくつかの実例をあげ誇らしそうに報告していた。
この教室はテキストや授業の進め方、受講生との接し方等のマニュアルがある。
全てマニュアルに沿って進める事を求めている。講師の自由度はない。
まず、北鴻巣教室の講師から順番に意見を求められた。
“教室をきれいにして快適な環境にする。”
“受講生と明るく接して、回数を多く来てもらう。”
“知人友人の紹介者を受講生にお願いする。”
“パソコンの楽しさ等をきれいに作り壁に飾る。”
“近隣にポスティングで、チラシを入れる”
“電気屋、カメラ屋さんにチラシを置いてもらう。”
もっともな意見が出てオーナーも石岡校長も満足そうに聞いている。
特に石岡校長はニコニコ頷いている。
どうもこの頃あの石岡校長のニコニコ顔が気になってしょうがない。
笑い顔のあとには必ず無理難題を言ってくる。
そろそろ私の番が回ってきそうだ。準備した報告書をテーブルの上に出した。
出席者が何人かわからなかったので5部コピーしておいた。
報告書には現状と改善案、その改善による効果が数字で書いてある。
「それでは、早川君のほうから何かあればお願いします」
あ、今日は早川君か。普段は早川さんと呼んでいるのにな。まあいいか。
オーナーと石岡校長と各教室の責任者に報告書を渡した。
手渡したコピーの内容に沿ってゆっくりと説明を始めた。
「1日のローテンションを見直して7コマから8コマにするという案ですが」
話し始めて2~3分で石岡校長からストップがかかった。
石岡校長の顔が引きつっている。みんな驚いている。
「早川君、ちょっと待ってください」
「ええと何か?」
「何かじゃありませんよ」
「どこか問題がありますか」
「早川君、これは、改善案じゃありませんよ」
「20%売上を上げる改善案って聞いていましたけど」
「なにか、改善案があればと言ったでしょう」
「はい、言われたとおり改善案を考えてきたんですけど」
「これは改善案ではなく、教室の運営方針に関わることですよ」
「ええ、20%実績向上させるための案ですが」
「早川君、あなたは、今は大会社の部長じゃないんですよ」
「そうですけど」
「こういう事はまず校長の私に事前に相談して下さい」
「改善案を事前に相談ですか?今日がその改善案を検討する日じゃないですか」
「早川君!! あなたはいつも私にそうやって屁理屈を言うね」
オーナーも石岡校長の剣幕にびっくりしているようだ。
「いいじゃないですか初めての会議なんだし聞いてみようよ」
石岡校長は納得がいかないようだ。
なぜこんなに怒っているのかわからない。
「早川君、この1コマ増やした分は誰がやるんですか」
「私とアルバイトでいけると思います」
「じゃあ、このVIPコースはどうする。誰もやる人がいないじゃないですか」
「つきっきりを希望する方は、年配のパソコンを全く知らない方が多いですから」
「それを誰が教えるの。コマを増やしコースを増やすなんて現実性がないでしょう」
「大丈夫だと思いますが。みんなでやればできると思います」
「早川君、あなたが同時に教えられるんですか?矛盾しているでしょう」
「いいえ、VIPコースは石岡校長で充分教えられると思いますが」
売り言葉に買い言葉でうっかり口が滑ってしまった。
これで石岡校長が切れた。会議の場がしらけきってしまった。
みんな下を向いて私の報告書を回し読みしている。
「早川君、私は校長ですよ。何を考えているんですか」
「ああそうでしたね。失礼しました。」
又この言葉でまた切れたようだ。
「何ですかその言葉は」
「気になりましたら謝ります、申し訳ありませんでした」
「早川君、講師はあなただけではないんですよ」
「校長、みんなでやりましょうよ。そうしないと2割なんて実現しませんよ」
「何をあなたは言ってるんですか。私は管理者ですよ」
オーナーが止めに入った。
「もういいじゃないか石岡君、あとで私の所へ来て下さい」
会議はそれで終わってしまった。みんな無言でさっさと逃げるように散っていった。
触らぬ神にたたりなしの心境だ。
石岡校長はめったに教室にはいないし、来れば暇そうにしている。
一番適役だと思うけどな。おかげで石岡校長の改善策の発表は聞けなかった。
年配のお金に余裕のある人は、世間話をしながら教えるのが一番いい。
経営は適材適所が一番だ。石岡校長が最適だと思う。
人材活用、適材適所、場所や時間の有効活用、絶対に褒められると思っていた。
20%の業績向上の改善策が大変なことになってしまった。
前の会社で部長になれなかったのもここに原因がありそうだ。
こうみると前にいた会社の大前田常務は気持ちが大きかった。
「たまには、俺の立場になってみろよ」くらいですんでいた。
いやだなあ、明日どうしよう。また明日石岡校長になんか言われるな
東京からオーナーがやってくる。
石岡校長も少し緊張しているのか、朝9時から出勤した。
鼻くそほじりながら机に向かって何か資料を作っている。
石岡校長から呼ばれた。
「早川さん、なんか考えました?」
「ええ、考えてきました」
「そうですか、今日は初めてだからあんまり緊張しないでやって下さい」
「はい。わかりました」
「今日は、夜の授業はありませんから、6時には北鴻巣教室に行って下さい」
「はい、よろしくお願い致します」
「あまり気負わないで気楽な気持ちで行って下さい」
石岡校長はあまり私に期待していないようだ。
この会議で石岡校長との関係が最悪の結果となってしまった。
初めての会議だ。少しワクワクする。
車で北鴻巣教室へ向かう。会議予定時間の15分前に着いた。
教室にはすでに石岡校長とオーナーが先に来ていた。
近隣3教室の、正社員の講師が5人ほど集まっていた。
先日辞めさせられた下田さんの姿はない。メンバーは全員で8人位だった。
集まっている人たちに簡単な挨拶をして席に着いた。
午後6時から石岡校長の司会で会議は始まった。
最初にオーナーの挨拶があった。
毎月1回の会議を開き、講師の意見を取りあげたいという。
それらの改善策を検討し実施して、業績向上に結び付けたいという内容だ。
各教室とも20%を目標にして、実績向上に努力をして貰いたいと言う趣旨だった。
石岡校長は近隣3教室の責任者として鴻巣、北鴻巣、伊奈の実情と経過を報告した。
成績のいい鴻巣教室のやり方をいくつかの実例をあげ誇らしそうに報告していた。
この教室はテキストや授業の進め方、受講生との接し方等のマニュアルがある。
全てマニュアルに沿って進める事を求めている。講師の自由度はない。
まず、北鴻巣教室の講師から順番に意見を求められた。
“教室をきれいにして快適な環境にする。”
“受講生と明るく接して、回数を多く来てもらう。”
“知人友人の紹介者を受講生にお願いする。”
“パソコンの楽しさ等をきれいに作り壁に飾る。”
“近隣にポスティングで、チラシを入れる”
“電気屋、カメラ屋さんにチラシを置いてもらう。”
もっともな意見が出てオーナーも石岡校長も満足そうに聞いている。
特に石岡校長はニコニコ頷いている。
どうもこの頃あの石岡校長のニコニコ顔が気になってしょうがない。
笑い顔のあとには必ず無理難題を言ってくる。
そろそろ私の番が回ってきそうだ。準備した報告書をテーブルの上に出した。
出席者が何人かわからなかったので5部コピーしておいた。
報告書には現状と改善案、その改善による効果が数字で書いてある。
「それでは、早川君のほうから何かあればお願いします」
あ、今日は早川君か。普段は早川さんと呼んでいるのにな。まあいいか。
オーナーと石岡校長と各教室の責任者に報告書を渡した。
手渡したコピーの内容に沿ってゆっくりと説明を始めた。
「1日のローテンションを見直して7コマから8コマにするという案ですが」
話し始めて2~3分で石岡校長からストップがかかった。
石岡校長の顔が引きつっている。みんな驚いている。
「早川君、ちょっと待ってください」
「ええと何か?」
「何かじゃありませんよ」
「どこか問題がありますか」
「早川君、これは、改善案じゃありませんよ」
「20%売上を上げる改善案って聞いていましたけど」
「なにか、改善案があればと言ったでしょう」
「はい、言われたとおり改善案を考えてきたんですけど」
「これは改善案ではなく、教室の運営方針に関わることですよ」
「ええ、20%実績向上させるための案ですが」
「早川君、あなたは、今は大会社の部長じゃないんですよ」
「そうですけど」
「こういう事はまず校長の私に事前に相談して下さい」
「改善案を事前に相談ですか?今日がその改善案を検討する日じゃないですか」
「早川君!! あなたはいつも私にそうやって屁理屈を言うね」
オーナーも石岡校長の剣幕にびっくりしているようだ。
「いいじゃないですか初めての会議なんだし聞いてみようよ」
石岡校長は納得がいかないようだ。
なぜこんなに怒っているのかわからない。
「早川君、この1コマ増やした分は誰がやるんですか」
「私とアルバイトでいけると思います」
「じゃあ、このVIPコースはどうする。誰もやる人がいないじゃないですか」
「つきっきりを希望する方は、年配のパソコンを全く知らない方が多いですから」
「それを誰が教えるの。コマを増やしコースを増やすなんて現実性がないでしょう」
「大丈夫だと思いますが。みんなでやればできると思います」
「早川君、あなたが同時に教えられるんですか?矛盾しているでしょう」
「いいえ、VIPコースは石岡校長で充分教えられると思いますが」
売り言葉に買い言葉でうっかり口が滑ってしまった。
これで石岡校長が切れた。会議の場がしらけきってしまった。
みんな下を向いて私の報告書を回し読みしている。
「早川君、私は校長ですよ。何を考えているんですか」
「ああそうでしたね。失礼しました。」
又この言葉でまた切れたようだ。
「何ですかその言葉は」
「気になりましたら謝ります、申し訳ありませんでした」
「早川君、講師はあなただけではないんですよ」
「校長、みんなでやりましょうよ。そうしないと2割なんて実現しませんよ」
「何をあなたは言ってるんですか。私は管理者ですよ」
オーナーが止めに入った。
「もういいじゃないか石岡君、あとで私の所へ来て下さい」
会議はそれで終わってしまった。みんな無言でさっさと逃げるように散っていった。
触らぬ神にたたりなしの心境だ。
石岡校長はめったに教室にはいないし、来れば暇そうにしている。
一番適役だと思うけどな。おかげで石岡校長の改善策の発表は聞けなかった。
年配のお金に余裕のある人は、世間話をしながら教えるのが一番いい。
経営は適材適所が一番だ。石岡校長が最適だと思う。
人材活用、適材適所、場所や時間の有効活用、絶対に褒められると思っていた。
20%の業績向上の改善策が大変なことになってしまった。
前の会社で部長になれなかったのもここに原因がありそうだ。
こうみると前にいた会社の大前田常務は気持ちが大きかった。
「たまには、俺の立場になってみろよ」くらいですんでいた。
いやだなあ、明日どうしよう。また明日石岡校長になんか言われるな