第7話 自宅で孤独な学習の日々

文字数 1,481文字

2000年4月 失業から4ヶ月目を迎える。
「パソコン中級講座」の職業訓練も3月末で終了した。
簡単な資格試験にも合格した。
パソコン技能検定「文書処理3級」と「表計算3級」と言う資格だ。
誰も知らないような名前の資格だが多少は役に立つだろう。

さあ、これから就職活動を始めるぞ。
目標は「パソコン教室のインストラクター」
50歳のオヤジが若い女の子がやるような業種を目標にしている。
はたから見れば馬鹿とも思える目標をまじめに考えている。

会社時代の飲み仲間に連絡し一杯やりながら夢を語った。
「俺、パソコン教室をやろうと思っているんだよ」
「おめえ、夢みたいなことを話しているんじゃねえよ」
「夢なんかじゃねえよ」
「俺にホラふいてどうするんだ」
「ホントなんだよ、勉強だってしたんだよ」
「まじめに仕事を探せよ」
「まじめな仕事だろ~、パソコン教室の講師だぞ」
「頼むから、そんな馬鹿げた事をいうなよ」
「なんで信じねんだよ」
「そんなおめえの世迷言なんて酒がまずくなるよ」
「いつかはパソコン教室を開こうと思ってるんだよ」
「嘘つくんじゃねえよ」
嘘つきほら吹きと言われ、悔し泣きしながら喧嘩した。
失業中だから立場も悪い。あ~あ夢っていうのは人に話すもんじゃないなと感じた。
飲み友達ともだんだん疎遠になっていった。

パソコンの資格試験に[MOUS]がある。(現在はMOS)
初級・上級とあるが上級のほうがかっこいい。
「MOUS・WORD上級」 「MOUS・EXCEL上級」
この2冊を購入し勉強を開始した。


朝6時から夜の12時まで1日18時間学習した。同じ事を飽きるまで繰り返した。
断食道場の辛さに比べればこんな苦労は天国のようだ。
付録のCDに模擬試験がついていた。最初の頃は正解率20~30%程度だった。
それでも学習と模擬テストを1日中延々と続けた。
とにかく時間がある。暇に任せて模擬試験を1日20回くらい繰り返した。

孤独は人間を弱気にさせる。仕事をしていないという後ろめたさもある。
だんだんと熱意が衰え、ぼんやりと過ごす時間が多くなってきた。
よく人が言う「うつ病」の状態が続く。
ただぼんやりしているばかりはいられない。
日曜日に入る求人広告を見ながら何件かの就職活動をした。
手に職のない50歳の中高年を雇う所は少ない。
「学習教材営業職」「リフォーム会社の営業」「探偵業」の会社を訪問した。 
みんな年齢不問の所を訪問した。うやうやしく履歴書を提出する。
担当者は「S48年・早稲田大学文学部卒業」の欄を見てびっくりする。
冷たい視線で質問をしてくる。
「立派な履歴書ですね。それでうちにですか」と冷ややかに言われる。
中高年の職探しにこの学歴はないほうがいい。
その日からは2種類の履歴書を持って、会社によって使い分けた。
この就職活動は職業安定所への就職活動結果の報告のためだ。あまり身が入らない。

目指すはパソコンインストラクターだ。
日曜の折込チラシ求人案内は「パソコンインストラクター募集」がいつも出ている。
時給800円(パソコンMOUS有資格者)年齢30歳位までと大体どこも同じだ。
パソコンインストラクターなら「無給」でもかまわないと思った。
そうだ「無給」これが最後の殺し文句になる。履歴書を送ったら年齢で外される。
とにかく担当者に会うしかない。一度直接あって話すしか手がない。
「失業中で給付金が出ていますから無給で結構です」
「どんなことでもいいですから、手伝わせて下さい」
この言葉を何度も心の中で繰り返した。電話をしたいがなかなか勇気が出ない。

2000年4月 月曜日 朝9:30 ついに電話をする決心をした。
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