第33話 パソコン部品と什器の準備

文字数 1,986文字

2001年 6月下旬
下田先輩に連れられて秋葉原電気街に来た。財布には100万円入っている。
午前中に回った路地裏の電気店へ入っていく。店内には部品が山積みで並んでいる。

「早川さんは、マウスとキーボードを選んでください」
「なんでもいいんですか?」
「ええ、好みでいいですよ」
パソコンの性能とは関係のない部品の選定を自分に任せてくれた。
おかげで下田先輩が難しそうな部品を選んでいる間は結構暇がつぶせた。
これも下田先輩の優しさの一つだ。
どれも町の電器屋さんの価格より半値以下で売られているものが多い。
ただ、ジャンク商品といってきれいな箱に包装されていない。

購入した商品は以下のようなものだった。
パソコンケース・CPU・メモリ・マザーボード・電源ボックス
ハードディスク・CDRWドライブ・ディスプレイ・ビデオカード
サウンドカード・マウス・キーボード・LANケーブル・ハブ・ルーター
windows2000・Office2000等ひと通り購入した。


規格に合ったものを組合さないとパソコンは動かない。
これらの部品とソフトを下田先輩はメモなしでどんどん集めていく。
私はそのあとから言われた金額を財布の中から取り出して支払う。
部品屋さんを5件くらい回った。どんどん財布からお札が飛んでいく。
大きなものは先日契約した貸店舗(教室)に送ってもらった。

午後4時頃、買物は終了した。
「牛丼でも食べましょうか」
下田先輩の誘いで駅近くの吉野屋に入った。
ここでも下田先輩はたまねぎをはずして食べている。
こんな時は下田先輩が子供に見える。
ふと、娘を思い出す。時々子供っぽい所が垣間見える。
うちの娘も冷やし中華からキューリをはずして私の皿の中に入れる。

「パソコン部品なんて、たったこれだけですよ」
「これを組み立てるんですか」
「プラモデルの組み立てより部品が少ないんですよ」
「信じられないです」
「いくら位かかりました」
「財布にあと9万円くらいですから90万円くらいです」
「大体予算どおりですね」
「あと足りないものがあれば近くの電器屋で買いましょう」

なんとあれだけの部品を買ってメモなしで計算できている。
しかも10台なら計算しやすいが8台分をよく計算できたもんだ。
「1台、いくら位で作ってもらえますか」
「えっ手間賃ですか? 昼飯を食べさせてもらえばそれでいいですよ」
「そんな・・・・・」
「8台も作れるなんて僕もワクワクしますよ」
「ただでですか、・・・・?」
「タダね、動くかどうか保障できませんよ」下田先輩のダジャレに気付かなかった。
「何日くらいかかりそうですか」
「うまくいけば、動作テスト含めて2日くらいですね」

私が昨年買ったパソコンが約30万円だった。
今回買った部品の組み合わせで作ると、1台約10万円で性能はずっといいと言う。
メーカーの完成品で買えば8台で約240万円。
今日使った金額が90万円。150万円のコストダウンだ。
これが下田先輩の腕にかかっている。
あとでそれなりのお礼はしたものの破格の金額だった。
まるで異次元の世界だ。こんな部品の組み合わせであのパソコンが動くのだ。
自分には信じられない分野だ。

「荷物が着いたら連絡下さい。それから組み立てします」
下田先輩は車の中でタバコを吸いながら缶コーヒーを飲んでいる。
さらにまた大先輩に見えた。
昨年買ったパソコンの配線だって説明書を読んでもわからなかった。
お客様センターに電話しながらやっと動いた有様だ。それもほぼ丸1日かかった。

いよいよあさってから組み立てが始まる。
そうだ、その間にパソコンデスクを買って組み立てよう。
机や椅子の組み立てなら自分にもできる。
よーし、明後日までには8台のデスクと椅子を組み立てておこう。

翌日10時 はりきってホームセンターに行った。
8台分のパソコンデスクと椅子を買った。買物はたった10分で終わってしまった。
金額で約7万円。あっさりしすぎて下田先輩のようにかっこよくできなかった。
早速、新しい教室でデスクと椅子を組み立てる。
部品はいくつもないのに1台組み立てるのに1時間もかかった。
それでも前後を逆に組み立ててしまったものもあった。


自分が情けなくなってきた。
部屋の中が暑くなってきた。
だんだん夏が近づいてきている。
あ、クーラーも買わなければいけないな。
カーテンもだ。看板はどうしよう。のぼり旗も必要だ。
下駄箱、玄関マット、スリッパ、やり始めるとどんどん必要なものが出てくる。

新聞折込チラシはどんなふうにしよう。
なんていう名前のパソコン教室にしよう。
あれこれ思い浮かべ1日中デスクを組み立てていた。

不思議なことに教室の開業計画の資料を作っている時よりも充実感があった。
デスクを組み立てているほうがずっと開業計画が前進した満足感があった。
パソコン教室が現実となってきたのだ。
いよいよ明日からは下田先輩のパソコン組み立て現場が見られる。
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