第35話 パソコン徹夜の組立作業

文字数 1,629文字

2001年 7月上旬
お昼をとうに過ぎた時間だった。下田先輩が黒い車で教室にやってきた。
下田先輩はいつも手には缶コーヒーを持っている。
ちょっと飲んではそばに置き飲み終えるのに1時間くらいかかる。
それもブランドはいつも「ジョージア」の青い缶。

いよいよ組み立てショーが始まる。
「そこのケースを並べておいてください」
パソコンの箱を筐体と言う。それを机の上に並べる。
下田先輩はその筐体にマザーボードを取り付け始めた。
手慣れた手つきでドライバーを持ち、ネジを締めていく。
そこに電源ボックスを組み込む。一つ一つの作業が新鮮だ。
CPU・メモリ・ビデオカード・サウンドカード・
ハードディスク・CDRWドライブ・・・・・。
フロッピーデスクドライブと組み込んでいく。見事な手さばきだ。


見ていても何もわからない。私は言われた部品を渡すだけ。
次々と部品が組み込まれ線をつないでいる。
淡々と作業は続いている。ネジを締める手つきがかっこいい。
さらにパソコンケースにディスプレイ・マウス・キーボードをつなげる。
一通りの組立作業が30分くらいだった。
時々、下田先輩は脇にあるコーヒーをチョコッと口にする。

「早川さんもやってみますか」
「とてもとても・・・・・・」
でもこれを今からあと7回も繰り返すのだ。
後ろからポカンと見ているだけでは申し訳ない。
「何かできることはありませんか」
「ええ~と?・・・・コンビニで弁当買ってきてもらえますか」
「・・・・・? 何がいいですか?」
「カレーライスにして下さい」
やっと仕事がもらえた。

あとは散乱したダンボールやごみの整理をする。
早く片付けてしまうと仕事がなくなってしまう。
組み立ての作業を見ながらゆっくり後片付けをしていく。
私が手伝えるようなものはなさそうだ。
1台1台が次々に完成し8台の机の上に並んでいく。

夜の9時 開始から6時間が経過した。
机の上には8台のパソコンが勢揃いした。

「やっとできましたね」
「いや、問題はこれからですよ」
「完成したんじゃないんですか?」
「ここからが本番です」
「ええ・・・・・??」
「バイオスの設定とドライバーのインストール」
「ウィンドウズのインストールとオフイスのインストール」
「メール、プリンター、セキュリティ・・・まだまだですよ」
難しい言葉が下田先輩の口からこぼれてくる。
コンビニのカレーライスをニンジンと肉をはずして食べている。
私は一段落したところでビールでも飲みたい所だが、下田先輩はお酒を飲まない。
それに私は何もやっていない。

「早川さんは、何時ごろまで大丈夫ですか」
「何時でもいいですが」
実は少し眠くなってきていた。
「インストール作業が8台で、これから4~5時間かかるんですが」
「大丈夫ですよ、それで終了ですか?」
「いや、そのあと8台がインターネットをできるようにします」
「それはどのくらいかかりますか?」
「やってみないとわかりません」
「それから教室内でメールもできるようにしたほうがいいでしょう」
「ええ、お願いします」
「プリンターも1台で全部のパソコンからしたいんですよね」
「はい、お願いします」
「そうすると、1台のパソコンに、サーバー機能を持たせたいんです」
「・・・・? それもお願いできますか」
いつ終わりますかなんて言えない。言ったことが恥ずかしくなってきた。

「ビールが飲みたい」なんてなお言えない。
下田先輩は終わるまで徹夜で作業する覚悟のようだ。
よおし!こっちも断食で鍛えた精神。25歳の下田先輩にとことん付き合うぞ。

夜中の3時ごろ。後ろで見ているだけの私は眠くなってうとうとしてきた。
もしかしたらイビキをかいたのかもしれない。
「早川さん、眠ければうちに帰っていてもいいですよ」
「いや、大丈夫です」
「あとは、僕がやっておきますから」
「そ、そうですか・・・・すいません」

家に帰って5時間くらい爆睡した。再び教室に戻ったのは翌朝の8時ごろだった。
そこで見たものは、さっきまで布団の中で見ていた夢の世界のままだった。
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