第39話 教室開業まであと2週間

文字数 1,766文字

2001年 8月下旬
週に3日は上尾のパソコン教室に行く。あとは新教室で開校の準備をする。
電話機、冷蔵庫、冷暖房機、カーテン、壁掛け時計も買った。
カラーボックスや書類入れ等部屋の体裁も整ってきた。

9月16日にオープンする。9月初めには折り込みチラシを入れる。
「若い人には負けられない」「中高年世代のパソコン教室」
キャッチコピーがいつも頭の中に浮かんでは消えていく。

下田さんにはメンテナンスを担当してもらうことにした。
金部先生には生徒が増え次第来てもらうことにした。
妻のケーコには事務関係と雑務をしてもらう。
9月16日の開校日に応募者がいっぱい並んだらどうしよう。
駐車場が足りなさそうだ。近くの駐車場を2台追加した。

最初の生徒として来てくれる人が3人いる。
受講生番号No1 前の会社時代の友人 寺田勲。
受講生番号No2 鴻巣教室時代の生徒 鉄工所の社長。
受講生番号No3 妻のケーコ。
ケーコはまったくパソコンを知らない。“サクラ”としてちょうどいい。

隣の不動産の社長が高速印刷機を貸してくれた。
ワードで作ったチラシ。A3用紙、片面で白黒の原稿を1万枚作成した。
1分間に40~50枚。まる1日かかった。印刷工場の工員のような日だった。


その自作のチラシを近所の新聞店に持ち込んだ。
「A3サイズだと機械に入らないので2つ折にして下さい」
そんなことも知らなかった。
1万枚のチラシを2つ折にする。気の遠くなるような作業だ。
これでまる2日間かかった。内職で生活しているような2日間だった。
これに懲りて次からはA4サイズに変更した。
近所の住宅地に行きチラシをポストに入れる。
犬にほえられた。きつい文句も言われた。真夏で汗がびっしょりだ。
今できることはこれしかない。午前中3時間で500枚程度しか配れない。

チラシの補充に教室に帰る。教室では8台のパソコンが並んで仕事を待っている。
チラシを紙バックにいれまた出かけて行く。下田先輩とその友達も手伝ってくれた。
嬉しかった。3人で飲んだ缶ジュースがうまかった。

幸いなことにまた30日間の断食修行体験が幸いした。
あの苦しさから比べたら、苦しいだとか辛いという気持ちをあまり感じない。
夕方からはテキストの内容をチェックする。誤字脱字が何ヶ所も出てくる。
ワード、エクセル、インターネットで240ページ。それを隅々までチェックする。
何回見直してもまた間違いや誤字脱字が出てくる。
この作業のおかげですべてのテキストが暗記できるまでになった。

教室の中をゆったりとした雰囲気にしようと観葉植物も買ってきた。
壁には楽しいポップも飾った。お茶セットや掃除用具や文房具も揃えた。
入会書類や受講案内もすぐに取り出せるよう整理した。
トイレもピカピカに掃除した。
そういえば断食道場時代や鴻巣教室時代でも、なんだかトイレ掃除がついて回る。
ウンがよくなるのかなあ!すべての雑務までが自分の仕事になったのだ。
自分の業務をすればいいだけの会社時代の快適さが夢のようだ。

残すところ2週間。
大丈夫かなあ!私は少しヌケてる所がある。いつでも何かを見落としている。

以前、浅草橋時代の上司からよく言われていた。
「おまえは、ザルみたいだな」
「なんで?」
「俺の言ったことを全部こぼしているよ」
「そんなことはないですよ」
「おまえは、中途半端なりこうだな」
とも褒められた。
「おまえは、ほんとに、できのいい馬鹿だよ」
褒めているのか、けなしているのかわからない言葉もいただいた。
注意力の足りないことはわかるが、会社では誰かが気が付きなおしてくれていた。

不思議なことに私の足りない所は誰かが助けに現れる。
思いは必ず実現している。会社時代偉くなろうという思いが弱かった。
失敗したなあ。もっと強く願えばよかった。
断食道場からパソコン講師修行時代を経て教室開業までの道程は長かった。
この1年半が今までの50年間くらいの感覚がした。波乱に富んでいて面白かった。

<心で考えることは、いつでも現実化される>
<一歩先は自分の心の中にある>
断食修行で自分の心を見直すという原点に返れた。
今の気持ちで仕事をしていれば、リストラはされなかったかもしれない。
ただ長い人生で考えると、リストラされて運が良かった。
人の命令される事のない自営業の道を進んでいく。

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