第77話 贖罪①

文字数 2,718文字

ー 十四年前 ー

『嘘…いや…いやよっ…目を…目を開けてぇ!!しっかりしてぇ!ソレアぁっ!!!』
『早く!手当ての準備を!!』
『はっはい!!』
『おにいちゃんっ……お、おにいちゃ…』

パシッ!!!

『触らないでよ!!元はといえば、全部、アンタのせいで……アンタのせいでソレアは…!!!』
『リンクに当たるのはやめなさいミナ!!今院長が治療するから…っ…だから……』
『ソレア…ソレア…っ』

『…』










『院長…あの子は、どうなったのですか?』
『…』
『ま、まさか…』
『…ごめんなさい…出来る限り手を尽くしたのだけれど…』

『う、嘘、嘘よっ、そんなの嘘よ!!…ソレアはっ!そんな簡単に死ぬはずない!!』
『ミナ…』
『ねぇ院長…まだ、まだ希望はあるでしょ?院長なら、ソレアを…ソレアを…!!』
『ミナ』
『…な…なんで……なんでよっ……ソレアが……死ななきゃ、いけないのっ…なん、で……!!』
『ごめんなさい…本当に、ごめんなさい』

『うっ……うぅぅぅ…っ…あ゙あぁっ…』




『おにいちゃんが……しん、じゃった…あたしの…せい……』

この日、幼い少女の心に
見えない十字架
深く深く刻まれた



ーーー



ー 雑貨屋メモリー 私室 ー

つい先ほど起きた騒動がまるでなかったかのように流れる静寂な空気が
店長の私室の中で流れる。その部屋には
黙々と負傷したシンの掌を治療し、包帯を巻くリンクと
彼女に対してありがたい気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいなシンの二人きりであった

お互い目を合わせることは無く
じっと掌だけを見つめる彼女の青い瞳は
今にも泣きそうなほど潤み
眉は悲哀混じりにひそませていた
それが一層シンの心に罪悪感が押し寄せる

「……はい、出来ましたよ」
「あ、あぁ…ありがとう…リンク…それから…………ごめんっ…」

治療が済んだと同時にシンは深々と頭を下げ謝罪した
当然リンクはあまりの唐突さに驚き、目を丸くした

「ど、どうしたのですか?急に…そんな…」
「…俺、ずっと君に迷惑ばかりかけてきた…この間のこともそうだし…君は、本当なら自分の事で精一杯悩んで、苦しんで、それでも頑張ってるってのに…俺のせいで余計なことばかり考えさせてしまって………本当に、ごめん」
「…っ」

胸の奥に溜め込んだ想いをぶつけるように
シンは懸命に彼女に謝罪し続けた
そんな嘘偽りのない彼の想いを前にリンクは

「顔を上げてくださいシンさん。本当に謝るべきなのは……あたしの方です」
「え…」

思わぬ答えが返ってきた後に
恐る恐る顔を上げると
リンクはシンの全てを優しく包み込むかのように微笑んでいた

「リンク、君は…」
「あなたは、いつもそうやって、あたしや皆さんの心に寄り添ってくれる優しい人…自分がどんなに傷だらけになっても、どんな困難な事があっても、あなたはいつも…誰よりも真っ先に敵に立ち向かおうとする…皆を守ろうと、必死になって戦う…あたしは、そんなあなたを見習おうと努力していたまでです…だから、本当に謝るべきなのは、感謝すべきなのは……全部、あたしの方なんです」

「リンク……」

「いつも…ありがとうございますシンさん。そして、ごめんなさい…あたし…あなたに、伝えなければならないことが…」
「!」

リンクの思いがけない告白を前に
シンは息を詰まらせる


ーーー


ー ルエン邸 客室 ー

コンコン…

『失礼します』
「入れ」

ガチャ…

「キョウさん」
「少しは身体を休めたか?」
「え、えぇ、まぁ…ところで、話というのは…?」
「ルエンが、リンク=アソワールの居所を見つけたようだ…この、マリアの地でな」
「えっ!?も、もう見つかったのですか?!キョウさん…やっぱり、オレは…」
「母の身が心配ではないのか?」
「…っ!?」

冷たく響くキョウの言葉に、ソラの背筋が凍る

「ソラ、これは単なる商売ではない。欲しいものを手に入れるための…戦争だ」
「キョウさん」
「同時に奴らも、自分達の大事なものを守るため、この戦争に足を踏み入れた。同じ土俵に立つ以上、死ぬまで奪い合う…それだけのことだ」
「あなたは…どうしてそこまで…」
「どうして、か………さて、どうであろうな?」


結局、彼の口から真意を聞くことは叶わなかった
そしてソラ自身も、結局は彼の意のままに操られる以外の選択肢がなかった

(…所詮は子ども、か。だがソラよ、今のお前は誰が相手であろうと、私のために死に物狂いで戦ってもらわねばならぬ……お前の母と、お前の母を救ったこの私を、守る為にな)



ーーー



「あたしが…物心がついて間もない頃は、なかなか孤児院の皆と馴染めなくてずっと一人ぼっちだったところを…以前お話したおばあちゃんより先にある人が手を、差し伸べてくれたのです」
「ある、人?」
「あたしより五つ年上の…【ソレア】という名の男の子です」

ドクン…

湧き出る胸騒ぎを必死に抑えながら
シンは彼女の言葉に頷く

「あたしは彼を兄のように慕っていました…誰とでも仲良く出来て、正直者で、弱い者いじめを嫌う………そう、まるでシンさんと瓜二つというくらい真っ直ぐな人だったんです」
「え、お、俺っ?」
「はい」

リンクの言葉ひとつひとつに驚くばかりのシン
平静を装ってるつもりだが、それも無意味なほど
顔が熱くなるのを感じた

「お、俺に似てるかどうかはよく、分からないが…そのソレアという子は、きっと君の事を心配して、手を差し伸べてくれたんだろうな」
「えぇ…本当に、優しい人でした…そんな優しい人が………あたしの…せいで」

息を詰まらせるように語るリンクの表情が暗くなった途端、雲行きが一気に怪しくなる

「リンク、大丈夫か?言いづらいことなら…無理に」
「いえ、大丈夫です」

リンクは一度深呼吸したあと、話を続ける

「ある日…みんなでピクニックに、出掛けたんです…近くある…広い草原で」

それは院長であるおばあちゃんの提案で始まったピクニック
草原の中でみんなで追いかけっこしたり、歌を歌ったり
みんなで用意したお昼ご飯を食べたりと
いつもと違った楽しい一時をみんなで過ごす…はずだった

ポロッ…

「リンク…!」
「あ…」

目から無意識にこぼれた、大粒の涙
それに気づいたリンクは隠すように涙を拭う

「ご、ごめんなさい…話の途中で……こんな」
「もういい…君にとって辛い話なら…これ以上は」
「いいんです…これは、今も昔もあたしにとって大切な事だから……それに…あたしはもう、あなたに隠し事なんて、したくありません……ですから」
「リンク」

潤んだ目に宿る真っ直ぐな思い
彼女の心を知る度、シンは己に宿る
目を背けたくなるほどの

を自覚した





(ごめん、リンク…俺は…君の言うソレアという子のように…誰にでも優しいわけでも、真っ直ぐな人間でもない…俺が今こうしていられるのは……

が戦う理由は……)

【終】
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登場人物紹介

シン(20歳)

この物語の主人公。三年前、突如記憶喪失となるも性格は明るく感情豊かで素直な一面を持つツッコミ担当。記憶を取り戻すための旅でサクスへ訪れた際に出会った少女・リンクに一目惚れして以来ずっと恋心を抱き、とある事情から彼女を守ることを決意する。


使用武器:双剣

属性:風

リンク=アソワール(19歳)

この物語のヒロイン。医師を志す家庭的で心優しい少女、ある事件を機に【白きドラゴン・メビウス】を覚醒させるが原因も分からないまま敵にその身を狙われることになる…


使用武器:なし。ドラゴンの力のみ

属性:?

サイゾウ(24歳)

【雷の都市ーサクスー】の忍として暗躍するシンの協力者。優れた分析能力と卓越した弓の使い手であるが、性格はドSで毒舌家、その上大食漢という端正な顔立ちからは想像し難い一面を持っている


使用武器:弓、忍道具など

属性:雷

アン・ダルチェル=ミーナ(19歳)

愛称は【アン】でトレジャーハンターと名乗る少女。好奇心旺盛で楽しい事が大好きな魔法と抜刀術の使い手。成り行きでシン達と出会い、興味を示した彼女は彼らと行動を共にする。ナッドに対して、恋心を抱いてからは毎日猛アプローチをするが全く相手にされていない模様


使用武器:杖+仕込み刀

属性:地

ミルファリア(およそ200歳)

幼い頃シンに命を救われた妖精(亜種)。愛称は【ミール】

非常に穏やかな性格で忠誠心に厚く、主であるシンを家族のように心から慕っている。実は恐ろしい獣の力を宿した事が原因で妖精界を追放された過去を持つ


使用武器:大槍

属性:炎

ケイ=オルネス(27歳)

【黒きドラゴン・リュクシオン】を追う女性。

勝気な性格だが根は優しく、面倒見の良い姉御肌な気質を持つ。アクアで最も忌み嫌う氷の魔力を持っていることが原因で人々から【氷の魔力】と呼ばれ恐れられている


使用武器:なし(魔法で剣などを作り出すことが出来る)

属性:氷(水の魔力から派生した力)

ナッド=モルダバイト(42歳)

ファクティスの罪を暴く為、暗躍し続ける狙撃手の男。かつてはネオンのエージェントとして活躍していたが、ある事情で引退し今に至る。シンの素性を知る者の一人として常に彼の事を気にかけている


使用武器:二丁拳銃(メイン)スナイパーライフルなど…

属性:闇

ハル老人(74歳)

【雷の都市ーサクスー】の住人で、かつては医師として活躍してきたが、現在は小さな診療館に隠居して余生を過ごすお茶目で明るいご老人である


使用武器:(非戦闘員のため)なし

属性:(覚醒してないので)無し

セシア=ウヅキ(26歳)

現在【雷の都市ーサクスー】の王として君臨する【マダラス】の甥。王族の身でありながら政治に関心が無く、非常にマイペースでずっと本を読んでばかりという事から周囲からは「本の虫」と揶揄されている。


使用武器:刀(護身用)

属性:雷

エル・ブリッヂ=サルジア(38歳)

【魔法科学支援団ファクティス】のリーダー。

表向きは長年の研究と実験の末に作られたファクティスの奇跡の象徴とされる「癒晶石」を使ってこのセブンズシティを支える存在として幅広く活躍するが、彼らの実態などが全く明かされていない為…不審に思う者達も少なくない


使用武器:無し(詠唱魔法のみ)

属性:闇

ルーリア(18歳)

同じくエルに仕えるルーファの双子の姉。

普段は高飛車な言動が目立つが、苛立ちを見せ始めると口調が徐々に崩れ、終いには容赦なく罵詈雑言を浴びせるといった気性の荒さも併せ持つ。弟の放浪癖にはかなり辟易しているが、内心では狼狽える程ひどく心配している。


使用武器:鉤爪(召喚型)

属性:闇

ルーファ(18歳)

エルに仕える少年で、ルーリアの双子の弟。

基本何でも楽観的でエルに対しても砕けた態度を見せたり、姉に無断で散歩に出掛けたりするといった非常に自由な性格であるが、その実は計算高く目的の為なら手段を選ばないといった非情さを併せ持っている。


使用武器:魔符

属性:闇

ヴォルトス(50歳)

医師としてセブンズシティのあらゆる情報を網羅するファクティスのスパイ。エルとは旧友の仲で共にファクティスが築く理想郷を実現させるために戦う。根は温厚で争いを好まず、人を慈しむ優しさを持っているのだが…


使用武器:棍棒

属性:地

ディーネ=アストラン・ヴォーク(50歳)

セブンズシティで最も名の知れた【フルクトゥス海賊団】の船長。

強面かつぶっきらぼうな性格で非常に取っ付きにくい印象だが、実際は面倒見が良く仲間を大事に想いやり、戦いの際は常に味方の士気を上げるほどの圧倒的な強さとカリスマ性を持っている。


使用武器:大剣

属性:雷

キャビラ=ネイス(29歳)

ディーネの右腕とも呼ばれるフルクトゥス海賊団の副船長。

普段は誰に対しても温厚かつ紳士的な振る舞いを見せているが、その裏ではなんの躊躇もなく汚い仕事をディーネの代わりに請け負い、敵対する者には冷酷かつ容赦の無い態度を見せる。眼帯で隠された左目には非常に強力な魔力が秘められているらしい


使用武器:細剣

属性:地

ジョー=イルベルター(24歳)

喧嘩と女性をこよなく愛するフルクトゥス海賊団の特攻隊長。

横柄な態度と短気な性格からディーネとキャビラとは度々衝突しているが、実力は本物で時折ディーネに引けを取らないカリスマ性を垣間見せる一面がある…。リンクに出会ってからは彼女に対して徐々に興味を持ち始めるようになる


使用武器:青龍刀

属性:水

リンドウ=ラジェ・ル(31歳)

女性と見まごうほどの美しい容姿と振る舞いが印象的なフルクトゥスの医長。れっきとした男性で、大の男を余裕で担げるほどの怪力も持っているが、治療だけでなく皆の相談も全て聞く器の広さや繊細さ、リンクの秘めたる才能を瞬時に見抜くといった一面を持っている。


使用武器:大鎌(召喚型)

属性:闇

メイリン=ファオロン(17歳)

【炎の都市ーグレイー】の王女

非常に好奇心旺盛で燃えるように明るいじゃじゃ馬娘。実はサイゾウの事が少し(?)気になってる模様。王になるため見聞を広め日々精進する彼女…その真意は…?


使用武器:なし(素手で戦う)

属性:炎

シャオル=エリリ(22歳)

メイリンが幼い頃から仕えている執事。

とても気弱で泣き虫な性分であるが、メイリンを傍で見守ってきた分、大切に思う気持ちは誰よりも強いあまり、過保護で子供扱いをしてしまうこともしばしば…実は料理(特にスイーツ)が大得意


使用武器:なし(非戦闘員)

属性:無反応型の為、不明

アクアール(25歳)

【水の都市ーアクアー】の女王

非常におっとりとした口調が目立つが、王としての気品と礼節さを重んじる芯の強さを併せ持つ女性。メイリンとは旧知の仲で互いの都市を行き来するほど交流が深い


使用武器:なし(魔法で戦う)

属性:水

トルマリン(年齢不詳)

アクアールに仕える護衛剣士の女性

彼女の右腕として冷静沈着に対処する参謀役でもある

アイオラは後輩にあたる存在で彼女のことをあたたかい目で(?)見守っている


使用武器:長剣

属性:水

アイオラ(年齢不詳)

トルマリンと同じくアクアールに仕える護衛戦士の女性

生真面目であるがゆえに他人(特に男性)を警戒または敵視している節がある。その中でアクアールは最も信じるに値する唯一の人として非常に慕っている。トルマリンは先輩でありライバルだとも思っている


使用武器:ハルバード

属性:水

キョウ=アルヴァリオ(28歳)

アルヴァリオ財団を率いる若き商人

たった一人で多くの利益をもたらし

各都市の名だたる人物達の信頼を集める傍ら

邪魔する者には徹底的な制裁を加える非情さをも持つ


使用武器:ナイフ(メインは魔法攻撃)

属性:雷

オルティナ(26歳)

キョウに仕える女アサシン

過去に命を救ってくれた彼のために

影に徹しながら任務を遂行する

愛情深い故にアサシンらしからぬ

感情の昂りを見せるのがたまにキズ


使用武器:ナイフ

属性:炎

ソラ=シラヌイ(18歳)

ガイア出身の少年。病弱の母のために

身を粉にして出稼ぎし

恩人であるキョウに協力する

根は礼儀正しくて純真無垢な母思いである


使用武器:なし(拳ひとつで戦う)

属性:地

ロック=ガーナック(50歳)

【地の都市ーガイアー】の王。別名【豪傑王】

現在のガイアを統率し、民達の暮らしを案じるが故に

秘密裏に街へ繰り出す(そしてその度に妻デイジーに怒られている)

性格は豪放磊落で、家族と仲間を心から愛する


使用武器:大斧

属性:地

デイジー=ガーナック(50歳)

ロックの妻(王妃)。普段は良妻賢母の名に恥じない

振る舞いを見せ、ロックに対しては妻としてでなく

同志かつ幼なじみとして彼を叱咤激励する。

料理が大得意で料理長顔負けの腕前だとか…

結婚する前は踊り子をやっていた(らしい)


使用武器:鉄扇

属性:地

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