第41話 二つの光【リンク視点】
文字数 4,225文字
思いもよらぬ形で迫る
ファクティスの魔の手から
逃れるべく出口を目指すリンクとミールだが
「あっ!」
ミールの速さに追いつけなかった
リンクは足がもつれて膝を崩してしまった
「リンクさま!大丈夫ですか?」
「え、えぇ…はぁ、はぁ…」
病み上がりのせいかいつもより早く身体が悲鳴を上げていた
それを知りながらも無理に彼女を動かした罪悪感から
ミールが一言謝るも、リンクは決して咎めたりはせず
「あたしは大丈夫ですから…早く、外にっ…」
「リンクさま…」
まだ息が整えきれてないのにも関わらず
走ろうと立ち上がるリンク、そこへ…
ガサガサガサ…!!
「!!」
中庭にある生い茂った草の中から
狼の姿に似たモンスターが群れとなって現れた
「こ、この者達は…!」
「リンク=アソワール殿。今すぐ我々の元に来るのです…さもなければその妖精に多少なりとも傷を負わせることになりますよ?」
「っ!!?」
更に現れたのはなんと
アクアール達が引き止めていたはずのヴォルトスであった
「ヴォルトス先生…女王様は…皆さんは…!」
「皆様方にはしばしの間、眠ってもらいました」
「えっ!?」
冷静なく口調で告げる彼に血の気が引いた
「ヴォルトスさま…何故です…なぜあなたさまのような方が…ファクティスなどに与するのですっ!!」
「私は…我々の
「ゆ、め…
「えぇ…その通りです」
当たり前のようにはっきりと答えるヴォルトスに
ミールとリンクは何一つ理解出来ないほど愕然とした
「何かを実現させる為には、何かを犠牲にしなくてはなりません」
「だからと言って…何の罪もない人々にまで危害を加えるのは間違ってます!!」
「ならばその者達への被害が広がらぬようにするためには…リンク殿…あなたの力が必要なのです」
「!」
おねえさんの存在は、力は、僕達ファクティスには必要不可欠なんだ
リンクは、あの日…金髪の少年が放った言葉を思い出した
「…ドラゴンの力…ですか?」
「ん?」
「あたしの…ドラゴンの力さえあれば…あなた達の
「リンクさま?」
「!……えぇ、そうです」
「それに…あたしが従えば、もう誰も傷付けられずに済みますか?」
「リンクさま!?」
「出来る限り、善処致しましょう…我々が欲するのはあくまでもリンク殿…あなただけです」
「…っ」
ヴォルトスの誘いに望みを掛けようとするリンク
自分の力のせいで誰かが傷付いてるのなら
自分がそれを止めなくては
もうこれ以上、誰も失いたくない
誰も傷付いてほしくない
そう願うからこそ…リンクは、覚悟した
その瞬間…
ガッ!!
「!!」
「リンクさま!!彼の言葉に耳を傾けてはなりません!」
「ミールさん!?」
突然、リンクの震える細い手をミールが掴んだ
「リンクさま…あなたは、わたしやシンさま、皆さんにとって恩人であり…大切なお方…どんな事があっても必ずお守りします!ですからっ!彼らの言いなりになってはなりません!!自分を見失ってはなりません!」
「ミール…さん…」
出現させた大きな炎の槍を片手にリンクを守ろうとするミール
そんなミールの力強い言葉と溢れる優しさに戸惑いながらも
リンクの目には涙が一粒二粒とゆっくりと零れた
「彼女のためなら死をも厭わない…ということでしょうか?」
「勘違いしないでくださいヴォルトスさま…わたし達は…わたし達の大切なものを守るために戦う…これ以上、あなた方に奪わせはしない!あなた方の勝手な行いのせいで傷付いたシンさまやサイゾウさま、メイリンさま……そして、レイリンさまのために!わたしは戦う!!!」
ミールの固い意思と凄まじい気迫に
その場にいるモンスターは後退りし
ヴォルトスは思わず面食らい、頭を抱えた
「…なるほど…実に勇敢な妖精だな…だがしかし、我々とてここで譲るわけにはいきません。救世主である彼女がいなくば…この世界に安寧はありません」
「その安寧を壊してるのは、あなた達の方でしょ!」
「おしゃべりはここまでです…大人しく渡す気がないのなら…これ以上、容赦はしません」
ヴォルトスが手を上げた瞬間
モンスター達が唸りを上げながら突撃してきた
「ふんっ!!」
豪快な一振でモンスターを追い払うミールだが隙が大きく
一方で狼の性質を持つモンスターは素早い身のこなしで避け
ミールの死角に入ると、すかさず左足にかぶりついた
「ぐっ!!」
「ミールさん!」
「諦めるのだ」
怯んだ瞬間が訪れると
モンスターは無慈悲にも一斉にミールへと迫った
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
少女が悲痛な叫びを上げた、そのとき…
パキパキパキ…
「む、なんだ?」
ガシャアアアアン!!!!
リンクとミールの周囲から、突然氷のようなものが
浮かび上がると、急速に彼女達を包み込むような壁が出来上がった。予想外の展開にモンスター達は勢いを止められないままその壁に衝突してしまう
「この力は…!」
すると間もなく、氷の壁が崩れると
なんと先程までいたはずのリンクとミールが消えてなくなった
まるで手品のような出来事を前にまたしても面食らうヴォルトスだが、思い当たる節がないわけではなかった
「……やはり来たようですね…サファイア王女。あなたが
それを
選ぶのなら仕方ない。お前達、このまま彼女達の行方を探せ…まだ、そう遠くへは行ってないはずだ」ーーー
ー アクアール宮殿 西門付近 ー
間一髪で難を逃れたリンクとミール
この場所がどこかは分からないが
宮殿の外であることだけ理解したふたりは
急いでモンスターに噛まれた足に包帯を巻いてると
「あなたは…」
ふたりの前に現れたのは
以前メイリンの屋敷でリンク達の窮地を救った
短い青髪の謎の女性…サファイア王女、なのであった
「サファイア…王女様…」
「ケイ」
「え?」
「ケイよ…そんな忌々しい名前…とうの昔に捨てたわ」
サファイア…もといケイと名乗る彼女は
ぶっきらぼうにそう伝えてそっぽ向いた
リンクとミールは不思議に思い目を合わせるが
助けてくれたことに変わりはないと思い
「ありがとう」と感謝の言葉を言おうとするのを
ケイは被せるように告げた
「感謝される覚えはないわ。それにあなた、敵か味方かも分かってない相手にもありがとうなんて言うつもり?」
「で、でも…助けていただいたことは本当ですし」
「お生憎様。私は奴らとは目的が違うが、あなたを利用するつもりであなたを助けたの」
「…っ!」
「私だけじゃない。他の誰もがあなたの力を求めてやってくる…他人なんて、そう簡単に信じるものじゃないわ」
ケイは冷たい口調でリンクを突っぱねた
それを聞いてミールは、いてもたってもいられず
間に割って入った
「ケ、ケイさま!なにもそこまで冷たくあしらわなくても…リンクさまはただ、あなたさまに感謝を申したい一心で…!」
「ミールさん」
「…意外ね。妖精が人間の肩を持つなんて」
ケイは冷静な表情でミールを見つめた
「あなた、人間が怖くないの?」
「人間は…確かに恐ろしい存在ですが…素晴らしい存在でもあるんです」
「なぜ?」
「わたしの命を救ってくれたのは、他でもない…人間だったから。わたしを恐れず、家族のように、友達のように歩み寄ってくれたのが人間だったから…わたしは人間を憎むことなく…今日を生きられることが、出来たのです」
「…」
「ケイさまにも、そういった方が傍にいらっしゃったのでは…ありませんか?」
「…!…私は……私にはっ………っ!?」
ドゴオオオオオオオン!!!!!!!!
リンク達のいる場所から少し先で何かが落ちたのか
凄まじい爆風が起こった
完全に吹き飛ばされたと思った、だが
「!……ケ、ケイさん!」
なんとケイがリンクとミールを覆うように身を呈して庇ったのだ
「ケイさま…あなた」
「…!!」
我に返ったケイはすかさず立ち上がって背を向けながら離れた
(ケイさん…)
リンクはほんの少しだが、理解した
彼女がなぜ人々から慕われていたのか?
それは…持って生まれた力に対して悩み、苦しんできたから
苦しんできたからこそ、王になって人々のために
この世を変えたかった。だがそれは大切な妹の妬み、嫉みの種と
なってしまった…その事に対して彼女はきっと…今も苦しんでいる
人を、家族を、みんなを大切に思うからこそ
戦うと決意したからこそ…
危険な孤独の道を選んだ純粋な人だったのだと
(ケイさん…)
リンクは胸に手を当て深呼吸した
「…ケイさん」
「なに?」
「助けてくれて、ありがとうございます」
「…人の話聞いてなかったの?あなた、敵か味方かも分からない私に感謝の言葉なんて…」
「あたしは、ケイさんを信じます」
「なっ…」
満面の笑みでそう言い切るリンクの言葉にケイは呆気に取られた
「ケイさんの言うとおり、あたしは誰が敵か味方かも分かってないくせに、知ったような口を叩いて、弱くて…そのせいでみんなにいつも、迷惑かけてばかり…でも…こんなあたしを受け入れ、信じてくれるみんなのために…あたしは…!」
「…!!」
遠くで響く爆音の中で
リンクはケイに優しく微笑んだ
「あなた…どうしてそこまで」
「シンさんが…あたしに教えてくれたのです」
君は君自身を信じてくれ、俺が君を信じてるように
ポゥ…!!
「!?」
「リンクさま!!」
リンクの想いに応えるように
首飾りの宝石が再び神々しく輝いた
「シンさんは…自信が持てなくて怖がってばかりのあたしを信じ、奮い立たせてくれた…だから今度は、あたしがみんなを奮い立たせ、守る番です…!」
「だめ、だめよ…」
「ケイさんの大切な人は…必ずあたしが、止めてみせます…だからケイさんも、誰かを信じることを恐れないで…!」
「ダメっ!!!!!!!」
ー聡明なる希望の光よー
ー永劫の輪となりてー
ー優しき声を届けよー
ー メビウス・テネリタースー
パアアアア……!!!!
白い光は言葉とと共に輝きを増すと
花火のように一気に上空へと登った
「リ、リンクさま!いけません!リンクさまぁ!!」
「うっ…くぅ…!」
至近距離で目も開けられない
ふたりはリンクを引き止めるも、時すでに遅し
白い光は無情なまでに天高く登り
形は次第に大きくなっていった
「リ、リンク…さま…」
彼女の無謀にも見える純粋さに
取り残されたケイとミールは呆然とした
「……バカ、ね……なんでっ……なんでそうなるのよ…っ」
ケイはひたすら
自分の無力さとリンクの優しさに
涙が溢れるのだった
【終】