第16話 覚悟

文字数 9,560文字

ー フルクトゥス船上 ー

大海原で起きた他の海賊団による襲撃
敵は我先にと剣を持って侵入してきた
フルクトゥスは懸命に彼らの勢いを削ぐが
凄まじい士気の高さから徐々に押され
仲間達は一人二人と血飛沫を上げながら倒れ逝く

あまりにも不利な状況のなか
一人、血まみれの姿になっても戦う
ジョーが高らかに味方を鼓舞する

「オラァ野郎共!!なにビビってやがる!!しっかり手柄取ってこい!!」
「で、ですが隊長!この数はあまりにも…」
「だったら大人しく隅に隠れてろバーカ!!守るモンが…ひとつも無けりゃあなっ!!」
「…!!」

その言葉に思わずハッと我に返った船員達
顔を見合わせて頷き合うと
彼らは決意を固めたかのように
震えながら持っていた剣を強く、握り締めた

「隊長!背中は俺達が守ります!!」
「やってやりましょう隊長!!!」
「隊長!!」

「…ハッ…お前ら…簡単に死んだら…タダじゃおかねぇからなぁ!!!」
「うおおおおおおおおおお!!」

船員達の士気が一気に高まった
しかし、肝心の船長は戦場(ここ)にはいない
みんなにとって今一番頼れるのはジョーだけ
彼は荒波のごとき勢いで味方を率いて
群がる敵を次々と斬り倒してゆくのだった

「…あぁクソっ!!…あんのジジィ…こんな大事な時に、いったいどこで何してやがるんだっ……やっと…やっと本気(マジ)になれそうな女を見つけたってのにっ…こんな………ちくしょう!!…終わったら一発ブン殴ってやるからなぁっ…!待ってろよォクソジジィがぁぁぁ!!」




一方、当の本人である船長やキャビラ
そして、シン達は…


【第16話】


ー フルクトゥス船 廊下 ー

「せーん長ぉー!キャービラー!どこにいるのー?」

人気のない静かな船内の廊下にて
一人朝から姿が見当たらない
船長達を必死に探し回るリンドウ
随分と焦った様子で途方に暮れている模様
その訳は…

「あぁ困ったわね…昨日はそのままキャビラの部屋で寝過ごしちゃったと思ったらキャビラはもういなくなってるし…船長はおろか【

】までいなくなってるなんて…いったい全体どうなってるのよぉ!もうっ!!………………ん?」


大声で愚痴を垂れ流すリンドウの背後を
唐突に駆け寄ってきたのは
殺気を漂わせながら剣を持つ
敵側の船員数人であった

「あら、もしかしてあなた達侵入者?悪いけど今私とっても機嫌がよろしくないし、戦いたい気分じゃないの…さっさと消えてくれるかしら?」
「ふん…そちらが【

】をこちらに渡すってんなら、消えてやらん事も無いぞ。」
「例のって………あー…もしかして…あなた達もそういうクチなわけ?でも残念、私はその例のモノを知ってても隠し場所まで一切聞いてないから…渡せる状況じゃないわね」

「…ならば、今ここで死ぬがよい」

敵はリンドウに向けて一斉に剣を構えた

「はぁ、戦いたい気分じゃないって言ってるのに…話の通じない子達ね…でもいいわ…気が変わった…あなた達には少しだけ…私の憂さ晴らしに付き合ってもらうわ」

普段の声からかけ離れた低い声で呟くと
リンドウは履いてる赤いハイヒールでドンッ!と力強く床を叩きつけると…

「…!!?」

足元から艶やかな輝きを放つ
紫色の魔法陣が浮かび上がると
そこから黒く禍々しい大鎌を出現させたリンドウ
その異様な光景に敵は思わず恐怖し息を呑んだ

「今更逃げようだなんて思っちゃダメよ♪だって…どの道あなた達は…船長達の元へは誰一人として、行かせはしないから…覚悟してね?」


ーーー


ー フルクトゥス船内 小部屋 ー

ゴンゴンッ!!

「!…だ、誰だ?」
『俺だ』
「え、ディーネ…さん?」

部屋から中々出られずにいたシン達の元にディーネが
半ば乱暴なノックをして部屋にやってきた
内心不思議に思いつつもどこか安堵した
シンはゆっくりと扉を開けると
ディーネはキャビラや他の人を連れ添わず
たったひとりで彼らの部屋に赴いていたのだ

「船長さんどうしてここに?…てか、キャビラさんや他の人達は?」
「ふ、俺は船長といえど守られるだけなのはガラじゃねぇからな、それに俺は…小僧、お前に聞きたいことがある」
「聞きたいことって…船長さん、こんな時に何言って…」

カチャ…

「!?」

ディーネはいきなりシンに刃を向けた
聞きたい事があるという割には
随分と突然で乱暴過ぎる発言と行動に
シンだけでなく後ろで見ていたアンも思わず
背筋が凍りついたように硬直した

しかし

「…質問に、剣は必要なんですか?」
「それはお前の返答次第だ」

シンは思いの外冷静に答えた

しかしこれは、シンにとって
またしても予想外の展開であることは事実
ひとまずこの場を凌ぐため彼に逆らわず大人しく
質問に耳を傾けた。

「…それで、質問というのはなんなんですか?」
「小僧、てめぇは人を斬ったことがあるか?」
「え…」

思ったよりも非常に単純な質問ではあったが、今この大変な状況が状況なだけに、どのような意味が込められて質問してきたのか?

薄々嫌な予感をしつつ、シンは素直に答えた

「いいえ…少なくとも、今は…」
「なんだ、その煮え切らない答えは?」
「俺…昔の記憶がないんです。だから、今は誰かを斬ったことが無くとも…昔の俺がどうしていたのか、全く分かりませんので」
「そんな嘘くせぇ話を信じるつもりはねぇが…今のお前には【血の匂い】を感じなかった。初めて会ったときから…全くと、言っていいほどな」
「血の、匂い?」

ディーネの言う血の匂いとは
数多の戦場を駆け抜けた者達の体に染み付いた血や汗、泥など…あらゆるものを斬った経験から体だけでなく心にも染み付いた消したくても消せない【残酷な匂い】という意味である

そしてその匂いがシンから
全く感じ取れなかったのだとディーネは言う
正直そこまで理解し切れてはいないが
昨日対面した時よりもひどく真剣な眼差しを見て
ほんの少しだけ察したのかシンは…

「俺が未熟者なのは、認めます。記憶を無くすような情けないやつでどうしようもないくらい弱いけれど…けれど、それをどうして今…」
「今、お前達の頭上で起きてる事がなんなのかわかるか?……戦だ、宝を手に入れたい者と、守りたい者達が命懸けで剣を交え戦ってるんだ」
「…手に入れたい者と、守りたい、者」

ディーネの言葉に少しずつ重みが増していく

「正直てめぇが今まで何をしてきたのか、どんな事情があってここにいるのか…んなこと知ったこっちゃねぇ、だがな…てめぇみたいな人をろくに斬ったこともない、ただ純粋で馬鹿正直な奴も、どんなに卑劣でクソッタレな奴でも…戦では背中を斬られても、仲間がたくさん殺されても、大事な、たったひとつの大事な宝を奪われたら負ける…そういう場所だってことを…お前に理解できるか?小僧…!」
「…っ!」

心にズシンと重くのしかかるディーネの言葉に
シンは今日まで自分の出来事を振り返った

リンク達をドラゴンの攻撃から守りきれなかった。兵士達が放った毒矢からサイゾウを守りきれなかった。アンやハル老人達を危険な戦いに巻き込んでしまった…だがそんな状況になってもなお、シンは誰かと戦う事を心の片隅でずっと躊躇っていた

その結果が、これだ…
命懸けで助けてくれたサイゾウは未だに治療中で
戦いに巻き込まれたリンクとアンに
またしても命の危機が迫っている…

短い時間に犯してしまった
数え切れない失態を前に
シンは改めて己の甘さで
招いてしまった現実を痛感した

ディーネの言葉を借りれば
今のシンにとって彼らが一番の『宝』
完全に奪われたわけではなくとも
今後もこのような甘さを見せれば
いつか、本当に、全てを、奪われてしまうかもしれない

「…っ」

あまりにも自分が情けなくなったシンは
ギュッと拳を強く握りしめることしか
出来ないでいると、ディーネは

「小僧、お前の目は俺から見てもバカみてぇに純粋で真っ直ぐだ、あの大馬鹿なクソガキと時折被るくらいにな…」
「…え」
「だがな、アイツとお前が違うのものはただひとつ…それが…【人を斬る覚悟】だ」

「人を斬る…覚悟…」



ーーー


ー フルクトゥス船内 宝物庫 ー


「なんだ?朝から妙に騒々しいな、上でいったいなにしておるのだ?」
「だ、だめですよ

!無闇に外へ出たら…!上なら船長さんたちが何とかしてくださいますからどうか落ち着いてっ!」
「それなら尚更そうはいかぬぞ

!せっかく私達を匿ってくれた船長殿達に一つでも礼をせねば私の気が済まぬ!」
「それが一番余計なんです~!」

宝物庫内にある大きな箱の中でガヤガヤと話しているのは【姫】と呼ばれる桃色の髪をお団子ヘアにまとめた少女と、赤く染まったふわふわなくせっ毛が特徴的な【シャオル】という名の青年の二人であった

何やら二人はある事情でディーネ達に匿ってもらっている模様だが、真相は果たして!

………だが、その前に

ガチャッ…

「っ!?」

突如、何者かが宝物庫の扉を開けて侵入してきた
驚いた二人は急いで息を潜ませていると

(もしや、敵か!?)

少女は、恐る恐る箱に小さく開いた隙間から
侵入者の姿を確認すると…

(ん?なんだ、あの者は…)

それは、今朝まで救護室で
休息していたはずのサイゾウであった
武器や装備は先日の戦いで
ボロボロになって使い物にならなくなったので
今は完全に【丸腰状態】なのであった

当然少女達は彼と面識がないため
ますます疑心暗鬼に陥った

サイゾウは部屋に入って早々キョロキョロと
誰も居ないのを確認したのか、すぐさま扉を閉じ
散らばる箱から

を探すように漁り始めた

『な、何をしているんでしょうか?あの人は…』
『そんなことは知らぬ!…だがあやつ、身なりからして侵入者でなければ、ここの人間でもなさそうだな…となるといったい……はっ!…も、もしやあやつ…顔に似合わず盗っ……』

ガタッ!

「ん?」

(し、しまっ…!!)

探ってる途中、不信な物音を察知したサイゾウ
少女達が小声で揉めた勢いで箱が動いてしまったのだ

「…」

サイゾウはくまなく周囲を見渡した
少女達は恐怖に震えながらも必死に息を殺した

「………気のせい、か」

ため息ひとつ吐くとサイゾウは
引き続き箱の中身を漁り出していると

「ふむ、悪くはないか」

見つけたのは黒の着物や黄色と赤の帯
それから藍色が主となる複数の防具が一緒くたにされた物を箱から全て取り出すと、サイゾウは何の突拍子もなく患者用に使う服を脱ぎ捨てた

(はわぁぁ~~!!)
(ぎゃーーー!!!あやつ何しとるんじゃーー!!)

突然過ぎる目のやり場に困る展開に
二人は心の声で叫び倒すと
顔を真っ赤に染めながら思わず目を逸らしたが
少女はサイゾウが身に付けていた

に気がついた

(あ、あれ?あやつ今…胸に包帯…)

素肌に巻かれた包帯を何故か気にかける少女
それに心做しか彼のミステリアスな雰囲気に魅入られてしまった少女はもう一度隙間から見つめていると

(あやつ……ケガを、しておるのに…どうして)

次第に彼に釘付けとなっていくのだった

『あれ?ひ、姫様?』

それからしばらくして
サイゾウは箱に入っていた服と防具を身に付け終えると、最後に垂れ流しにしていた髪を軽く整え懐に入れていた【赤のリボン】でハープアップした

「さて」

着替えの準備を終え、再び辺りを見回すと今度は異様に大きく細長い箱を開けたサイゾウ。その中にはあまり手入れはされていないが使うには申し分ない【弓と矢筒】が入っていた

取り出してみると、慣れた手つきで弓のしなりや弦の張り具合などを確認。だが、仮にも人様が大事そうに保管してた物を当たり前の顔で全て強奪するサイゾウ、用意が完全に終わると後腐れも無く颯爽と部屋から出ていった

「はぁー…よかったです~…見つからなくって」
「…」

シャオルが見つからなかった
安堵から胸を撫で下ろす一方で、少女は…


(いや、あの男…おそらく私達に気づいていたはずだ…ここは私とシャオル、船長殿とキャビラ殿しか知らぬ

。それを、たった一人で乗り込んできたというのに、ただ武器と服を持っていくだけなど…ありえぬ……ま、まさかあやつ…わざと気づいていないフリを…?)









「…やれやれ、物好きな奴らばかりでござるな」


ーーー


ー フルクトゥス船内 小部屋 ー


ディーネが言い放った【人を斬る覚悟】

確かに、今のシンには
そんな覚悟は持ち合わせてはいなかった
ただ漠然と生きるため、自分が何者か知るため
極力戦うことなく穏便に済ませたいという
どこか甘ったれた気持ちがあったから…

…けれども、今は

見知らぬ森で死にかけてるところを
村人達に救われ、様々な戦い方や知識を学び
旅を始めた。サクスに来るまでの間も
来た後もまた違った価値観を持った人間達を
良くも悪くも目の当たりにしてきた

出会いは最悪だったけど頼りになる、サイゾウ
ハチャメチャだけど場を和ませてくれる、アン
そして…誰よりも皆を労わる優しい心の持ち主、リンク

まだ彼女達と出会って、日も浅いけれど
それでも…今のシンにとって彼ら一人一人が
大切な『宝』であることに間違いはない

だから…

「ディーネさん」
「なんだ」
「あなたの言う通り、俺には人を斬る覚悟はありません…今まで俺…自分のことで精一杯で、何かを守るために命懸けで戦ったことなんて、一度もなかった…誰かを守る余裕なんて……正直全く無かった、本当に情けないやつです、俺は」
「小僧…」
「でも…今は違います」
「ん?」
「どんなに情けなくても、どんなに人を斬る覚悟は無くとも、諦めない覚悟さえあれば……俺はっ…」
「なに?」





「んん…」
「あ!リンちゃん!」

彼らのやりとりの裏で唐突に
目覚めたリンクに小声で話しかけるアン

「?…声が急になくなって……ん?あれ…シンさん?」
「あー…取り込み中なの、色々とね」
「え?」

アンが軽く頭を抱えつつも
リンクに詳しく事情を説明すると

「そんな…どうしてこんな時に…あたし」
「別にリンちゃんは悪くないよ。それに今シンくんは、なんだか大事なことを言おうとしてるみたいよ?」
「大事な、こと」

リンクの目線から見て
顔は一切見えていないが
逞しく見える彼の背中から伝わる真剣な
雰囲気に何故か惹き込まれてゆくリンクは
アンと一緒に、二人の会話に耳を澄ませる

「いったい、何を諦めないというのだ?」
「俺が今一番諦めたくないのは…

です。生きて…忘れてしまった記憶を必ず取り戻したいんです」
「過去なんぞ思い出して何になるのだ?仮に思い出したところですべてお前のためになるとは限らないんだぞ?」

「構いません、どんな記憶であっても…どんな真実であったとしても、それらもすべて俺が歩んできた道です…そして…そこから俺は自分が生きていくための道を作るために、これまで手にした大切なものをもう二度と!失わないよう…守るために!俺は、何があっても!最後まで!しぶとく生き抜いてみせますっ!!」

シンはディーネ本人を押し負かすかのような
力強い声でそう言い切ってみせた
これにはディーネだけでなく後ろで聞いていた
リンクとアンもそれに圧倒された

シンの覚悟は…どこか簡単なようで
非常に困難な覚悟であることを暗示していた
人は大抵…嫌な過去を忘れようとする傾向がある
事情は変わるが、シンとて恐らく思い出したくもないほどの嫌な過去がひとつふたつ、あるかもしれない…なのにそれを、思い出すために生きるなど…怖いもの知らずのする事…………しかし

「お前は、本当に、それでいいんだな?」
「はい」

シンの迷いのない二つ返事から
ディーネはようやく理解した瞬間、思わず

「ハッハッハッハッハッハ…!!」

全員が呆気に取られるほどに大笑いした

「ディ、ディーネさん?」
「なるほど…あいつの言う通り、お前が一番のくせ者のようだな」
「く、くせ者?それは、どういう…」
「いや悪ぃ、こっちの話だ…小僧…お前の覚悟…しかと聞かせてもらった…そこにいる

も、コイツの話、ちゃんと聞いてたろ?」

「如何にも」

「えっ!!」

ディーネが中途半端に開いた扉を押すと

「サ、サイゾウさん!?どうしてここに…」
「騒々しい音が聞こえたゆえ、起きたまでにござるよ」
「てかサイゾウくん…その格好…」
「誰も来ておらぬと思い、少しばかり拝借させてもらったでござるよ……船長殿」
「ふん、どうやらてめぇも…なかなかのくせ者のようだな、小僧」

シン達は急いでサイゾウの元に駆け寄った

「ケガ、もう大丈夫なの?」
「それなりにな」
「まだ傷を塞いだばかりなので、無茶はなさらないでくださいね」
「…」

心配そうに自分の身を案じてくれるリンクにサイゾウは

「この傷の治療は、そなたがやったのだな?」
「え、は、はい…リンドウ先生と一緒に…微力ながら、その」
「感謝する」
「え?」
「薬の件も…正直助かった。拙者はサイゾウ…この借りは、またいずれ返させてもらうでござるよ」
「え、あのそんな…借りだなんて…困った時はお互い様ですからどうかお気になさらず……あ、あたしはリンクと言います!これからよろしくお願いします!」

サイゾウが彼女に対して妙なほど
優しい態度を見せる光景に
シンとアンは苦虫を噛み潰したかのような
激しい違和感に襲われた

「ねぇシンくん、サイゾウくんっていつもああなの?」
「んなの、俺が知りたいくらいですよ……」

段々話が疎らになるのを察知するとディーネは
大きい声で全員に区切りを付けた

「積もる話は後にしろ、お前ら…全員ついてこい」
「え?」


ーーー


ー フルクトゥス 浴場内 ー

「着いたぞ」
「って、ん?なんで浴場?」

いきなり案内されたのは何の変哲もない
浴場内、するとディーネがお湯が入ってない風呂のタイル壁を確認するようにノックし始めた

「ほんと何してんだろうね、船長さん」
「さ、さぁ…」
「……【隠し扉】でござるな」
「えっ!?」

「…まったく、ムカつくほど勘の良いガキだな」

ギィィ…

「…っ?!」

どう見てもディーネが押したわけではないのに
叩いた壁の裏側から扉が自動的に開いた

「ほ、ほんとに隠し扉!!?つかこの船、いったいどういう構造してるわけ?!」
「その辺は悪ぃが企業秘密だ。だがこの中には脱出用の船を用意してある、そいつを使えばあっという間に【グレイ】に辿り着くはずだ」
「俺達を、助けてくれるんですか?」
「へっ!そんなガラじゃねぇよ…だが、どのみちここにいても…生きるか死ぬかの選択肢しかない…特に、ろくに戦えそうにないやつがいるならなおさらの話だ」

それを聞いて横目で思わずリンクを見るシン

「あぁそれと、船には余分な【荷物】があるかもしれねぇが、煮るなり焼くなりお前達が決めろ。」
「余分な、荷物?」
「さぁ、無駄話はここまでだ!さっさと行け!」

ディーネの意味深な言葉に引っかかりを感じる暇もなく
四人は半ば強引に部屋に入れられていく

「わぁ!!…っと、ディーネさん!」

「達者でな、小僧」

不敵な笑みを浮かべると
ディーネは力強く扉を閉めるのだった

「ディーネ、さん…」







「…俺もそろそろ

ということか……ふっ」


ーーー


ー 秘密倉庫 ー


「皆さん、お待ちしておりましたよ」
「キャビラさん!」

意外にも倉庫内で立ち尽くしていたのは
なんとキャビラであった
彼の話によると、どうやら襲撃を受けた直後からディーネと既に準備していた模様だった。その証拠に擬似的に作られた船着場には全く見た事のない不思議な乗り物が二台用意されていた

「うっひゃー!!なにこれ!超カッコイイ!」
「こちらは【ネオン】で特別に作られた水上バイク【リベリオン】という乗り物です。これを使えば簡単に海を渡ることが可能ですが、代わりに皆さんの【魔力】が必要となります」
「魔力、ですか?」

【闇の都市ーネオンー】の最高技術によって造られた魔力で操縦可能な水上バイク・リベリオン

消費する魔力と耐久性の度合いは本人の実力と体力次第になるが、魔力を上手く調整して乗りこなせば最高速度120km以上出せる代物となっている

「そ、それってつまり…」
「えぇ、リスクはほどほど大きいかもしれませんが、その分追撃してくる敵を簡単に撒くことができますし、魔力の探知機能も付いてますのでグレイやアクアといった場所まで、決して迷うことはありません」
「…魔力ってそんな簡単に回復するものじゃないんですけどねー」

何故そんな物を所持しているのか
とことん疑問だらけであるが
今はそんなことぶつくさと言ってる暇はない
腹を決めた一同はすぐさま編成を考えた

その結果…
一人目の操縦者はシンで、後部座席にはリンクが
二人目の操縦者はサイゾウであるが、まだ完治しきれてないケガを考慮して魔力に一番余裕があるアンを後ろにそれぞれ配置した

「リンクさん、しっかりつかまっててくれ」
「は、はいっ」

「しんどくなったらいつでも交代してあげる♪」
「結構でござる」

安全のため全員ヘルメットを身に付け
準備を完全に整えた操縦者達はハンドルを強く握り締めた

すると…

ブオオオオオオオオオオオオ!!!!!


「うわぁぁぁぁ!!!!?」
「きゃああああ!!!!」

シンとリンクが乗るバイクが突如急発進した
恐らくシンが緊張のあまり
魔力を必要以上にバイクに注入した可能性が…

彼らに連られて危うく発進しかけたサイゾウとアン、冷静に見守っていたキャビラですら思わず呆然としてしまう

「あら~…やっちゃったわね~」
「……サイゾウ殿、でしたね…シン殿にどうかお知らせください………【

ですよ】とね」

「……ふふっ…それは、実に無茶な願いでござるな」
「でーすよねー♪あっ!じゃあ!まったねー♪キャビラくーん!無事でいてねー!!!」

アンが高らかな声でそう言い残したと同時に
安定した状態で無事発進していったサイゾウ達

姿が見えなくなるまで見送ると
キャビラは安堵した表情で腰に帯びていた
細剣を鞘から抜き取ると

「…やれやれ…気になる事は山ほどありますが、それはまたいずれ…にしても…彼らは本当に………賑やかで、くせ者ばかりな人達でしたね、船長」

どこか嬉しそうに呟いた瞬間
まるでスイッチが入ったように
冷たい笑みに変わるキャビラ

彼が振るう剣は
船長とフルクトゥスのため

「私達と関わった以上、どれほどの

をお持ちか…お手並み拝見と致しましょうか………ふふ…」



はたして、シン達は無事グレイへ
辿り着く事が出来るだろうか…?


【終】
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登場人物紹介

シン(20歳)

この物語の主人公。三年前、突如記憶喪失となるも性格は明るく感情豊かで素直な一面を持つツッコミ担当。記憶を取り戻すための旅でサクスへ訪れた際に出会った少女・リンクに一目惚れして以来ずっと恋心を抱き、とある事情から彼女を守ることを決意する。


使用武器:双剣

属性:風

リンク=アソワール(19歳)

この物語のヒロイン。医師を志す家庭的で心優しい少女、ある事件を機に【白きドラゴン・メビウス】を覚醒させるが原因も分からないまま敵にその身を狙われることになる…


使用武器:なし。ドラゴンの力のみ

属性:?

サイゾウ(24歳)

【雷の都市ーサクスー】の忍として暗躍するシンの協力者。優れた分析能力と卓越した弓の使い手であるが、性格はドSで毒舌家、その上大食漢という端正な顔立ちからは想像し難い一面を持っている


使用武器:弓、忍道具など

属性:雷

アン・ダルチェル=ミーナ(19歳)

愛称は【アン】でトレジャーハンターと名乗る少女。好奇心旺盛で楽しい事が大好きな魔法と抜刀術の使い手。成り行きでシン達と出会い、興味を示した彼女は彼らと行動を共にする。ナッドに対して、恋心を抱いてからは毎日猛アプローチをするが全く相手にされていない模様


使用武器:杖+仕込み刀

属性:地

ミルファリア(およそ200歳)

幼い頃シンに命を救われた妖精(亜種)。愛称は【ミール】

非常に穏やかな性格で忠誠心に厚く、主であるシンを家族のように心から慕っている。実は恐ろしい獣の力を宿した事が原因で妖精界を追放された過去を持つ


使用武器:大槍

属性:炎

ケイ=オルネス(27歳)

【黒きドラゴン・リュクシオン】を追う女性。

勝気な性格だが根は優しく、面倒見の良い姉御肌な気質を持つ。アクアで最も忌み嫌う氷の魔力を持っていることが原因で人々から【氷の魔力】と呼ばれ恐れられている


使用武器:なし(魔法で剣などを作り出すことが出来る)

属性:氷(水の魔力から派生した力)

ナッド=モルダバイト(42歳)

ファクティスの罪を暴く為、暗躍し続ける狙撃手の男。かつてはネオンのエージェントとして活躍していたが、ある事情で引退し今に至る。シンの素性を知る者の一人として常に彼の事を気にかけている


使用武器:二丁拳銃(メイン)スナイパーライフルなど…

属性:闇

ハル老人(74歳)

【雷の都市ーサクスー】の住人で、かつては医師として活躍してきたが、現在は小さな診療館に隠居して余生を過ごすお茶目で明るいご老人である


使用武器:(非戦闘員のため)なし

属性:(覚醒してないので)無し

セシア=ウヅキ(26歳)

現在【雷の都市ーサクスー】の王として君臨する【マダラス】の甥。王族の身でありながら政治に関心が無く、非常にマイペースでずっと本を読んでばかりという事から周囲からは「本の虫」と揶揄されている。


使用武器:刀(護身用)

属性:雷

エル・ブリッヂ=サルジア(38歳)

【魔法科学支援団ファクティス】のリーダー。

表向きは長年の研究と実験の末に作られたファクティスの奇跡の象徴とされる「癒晶石」を使ってこのセブンズシティを支える存在として幅広く活躍するが、彼らの実態などが全く明かされていない為…不審に思う者達も少なくない


使用武器:無し(詠唱魔法のみ)

属性:闇

ルーリア(18歳)

同じくエルに仕えるルーファの双子の姉。

普段は高飛車な言動が目立つが、苛立ちを見せ始めると口調が徐々に崩れ、終いには容赦なく罵詈雑言を浴びせるといった気性の荒さも併せ持つ。弟の放浪癖にはかなり辟易しているが、内心では狼狽える程ひどく心配している。


使用武器:鉤爪(召喚型)

属性:闇

ルーファ(18歳)

エルに仕える少年で、ルーリアの双子の弟。

基本何でも楽観的でエルに対しても砕けた態度を見せたり、姉に無断で散歩に出掛けたりするといった非常に自由な性格であるが、その実は計算高く目的の為なら手段を選ばないといった非情さを併せ持っている。


使用武器:魔符

属性:闇

ヴォルトス(50歳)

医師としてセブンズシティのあらゆる情報を網羅するファクティスのスパイ。エルとは旧友の仲で共にファクティスが築く理想郷を実現させるために戦う。根は温厚で争いを好まず、人を慈しむ優しさを持っているのだが…


使用武器:棍棒

属性:地

ディーネ=アストラン・ヴォーク(50歳)

セブンズシティで最も名の知れた【フルクトゥス海賊団】の船長。

強面かつぶっきらぼうな性格で非常に取っ付きにくい印象だが、実際は面倒見が良く仲間を大事に想いやり、戦いの際は常に味方の士気を上げるほどの圧倒的な強さとカリスマ性を持っている。


使用武器:大剣

属性:雷

キャビラ=ネイス(29歳)

ディーネの右腕とも呼ばれるフルクトゥス海賊団の副船長。

普段は誰に対しても温厚かつ紳士的な振る舞いを見せているが、その裏ではなんの躊躇もなく汚い仕事をディーネの代わりに請け負い、敵対する者には冷酷かつ容赦の無い態度を見せる。眼帯で隠された左目には非常に強力な魔力が秘められているらしい


使用武器:細剣

属性:地

ジョー=イルベルター(24歳)

喧嘩と女性をこよなく愛するフルクトゥス海賊団の特攻隊長。

横柄な態度と短気な性格からディーネとキャビラとは度々衝突しているが、実力は本物で時折ディーネに引けを取らないカリスマ性を垣間見せる一面がある…。リンクに出会ってからは彼女に対して徐々に興味を持ち始めるようになる


使用武器:青龍刀

属性:水

リンドウ=ラジェ・ル(31歳)

女性と見まごうほどの美しい容姿と振る舞いが印象的なフルクトゥスの医長。れっきとした男性で、大の男を余裕で担げるほどの怪力も持っているが、治療だけでなく皆の相談も全て聞く器の広さや繊細さ、リンクの秘めたる才能を瞬時に見抜くといった一面を持っている。


使用武器:大鎌(召喚型)

属性:闇

メイリン=ファオロン(17歳)

【炎の都市ーグレイー】の王女

非常に好奇心旺盛で燃えるように明るいじゃじゃ馬娘。実はサイゾウの事が少し(?)気になってる模様。王になるため見聞を広め日々精進する彼女…その真意は…?


使用武器:なし(素手で戦う)

属性:炎

シャオル=エリリ(22歳)

メイリンが幼い頃から仕えている執事。

とても気弱で泣き虫な性分であるが、メイリンを傍で見守ってきた分、大切に思う気持ちは誰よりも強いあまり、過保護で子供扱いをしてしまうこともしばしば…実は料理(特にスイーツ)が大得意


使用武器:なし(非戦闘員)

属性:無反応型の為、不明

アクアール(25歳)

【水の都市ーアクアー】の女王

非常におっとりとした口調が目立つが、王としての気品と礼節さを重んじる芯の強さを併せ持つ女性。メイリンとは旧知の仲で互いの都市を行き来するほど交流が深い


使用武器:なし(魔法で戦う)

属性:水

トルマリン(年齢不詳)

アクアールに仕える護衛剣士の女性

彼女の右腕として冷静沈着に対処する参謀役でもある

アイオラは後輩にあたる存在で彼女のことをあたたかい目で(?)見守っている


使用武器:長剣

属性:水

アイオラ(年齢不詳)

トルマリンと同じくアクアールに仕える護衛戦士の女性

生真面目であるがゆえに他人(特に男性)を警戒または敵視している節がある。その中でアクアールは最も信じるに値する唯一の人として非常に慕っている。トルマリンは先輩でありライバルだとも思っている


使用武器:ハルバード

属性:水

キョウ=アルヴァリオ(28歳)

アルヴァリオ財団を率いる若き商人

たった一人で多くの利益をもたらし

各都市の名だたる人物達の信頼を集める傍ら

邪魔する者には徹底的な制裁を加える非情さをも持つ


使用武器:ナイフ(メインは魔法攻撃)

属性:雷

オルティナ(26歳)

キョウに仕える女アサシン

過去に命を救ってくれた彼のために

影に徹しながら任務を遂行する

愛情深い故にアサシンらしからぬ

感情の昂りを見せるのがたまにキズ


使用武器:ナイフ

属性:炎

ソラ=シラヌイ(18歳)

ガイア出身の少年。病弱の母のために

身を粉にして出稼ぎし

恩人であるキョウに協力する

根は礼儀正しくて純真無垢な母思いである


使用武器:なし(拳ひとつで戦う)

属性:地

ロック=ガーナック(50歳)

【地の都市ーガイアー】の王。別名【豪傑王】

現在のガイアを統率し、民達の暮らしを案じるが故に

秘密裏に街へ繰り出す(そしてその度に妻デイジーに怒られている)

性格は豪放磊落で、家族と仲間を心から愛する


使用武器:大斧

属性:地

デイジー=ガーナック(50歳)

ロックの妻(王妃)。普段は良妻賢母の名に恥じない

振る舞いを見せ、ロックに対しては妻としてでなく

同志かつ幼なじみとして彼を叱咤激励する。

料理が大得意で料理長顔負けの腕前だとか…

結婚する前は踊り子をやっていた(らしい)


使用武器:鉄扇

属性:地

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