第45話 明かされる事実
文字数 3,535文字
ナッドの口から飛び出した、衝撃の事実
傍で聞いていたリンク達は疑問のあまり首を傾げていると
「…あのさシンくん、つかぬ事聞くんだけど、そもそもシンくんのお母さんってどんな人なの?」
「え?それは…」
母について…そういきなり問いかけられると
シンは自身の目で見た姿をありのままに明かした
母のイリーナはシンが幼い頃から毎日毎日
庭で育てた野菜を近くの街や村で売り捌くなどして出稼ぎしていた。息子を育てるため、生活を守るため、贅沢をせず…ただひたすら家族のために働く、強くて優しい人だった
セミショートの黒髪、きりっとした鋭い目付き
背丈はこの面々の中で、ケイが一番近い…かもしれない
声は少し低いがハキハキと歯に衣着せぬ物言いが印象的だった
そんな母が、ある日病で倒れた
近くに住む医師からも「もう手遅れだ」と言われ
何の処置も出来ず亡くなった
「お母様…亡くなられてたのですね」
「あぁ…」
「ご、ごめん…嫌な話させちゃって」
「いいんだ。これは、紛れもない事実だから」
寂しそうに笑うシン
しかし、真実はまだ残されていた
「ナッドさん」
「なんだ」
「…父さんは…生きてるんですか?」
率直に問いかけるシンに、ナッドは
「お前の父は…とうの昔に、死んだ」
「!」
「し、死んだ…マクシィ、お父さまが?」
ミールが体を震わせ、そう答えると
ナッドは無言で頷いた、その一方でシンは
「…やっぱり、そうなんですね」
「シン」
「名前を聞いた時…もしかしたらとは、思いましたが…」
「シンさん…」
「ただ、もうひとつ教えてください…父さんは、いつ、どんな風に、死んだのですか?」
顔は覚えていなくても、父親であることに変わりはない
幼いからずっと知りたかった父について
シンは切実な瞳で「知りたい」と、ナッドに訴えかけると
「十七年前…アイツの故郷であるリーフで、王位継承を巡る内乱が起きた。その内乱で、アイツは…命を落とした。自分の主人を守るために」
ナッドの答えに、シンは全てを悟った
十七年前、リーフで起きた、内乱、ウェルディという姓
そして…
「…………サイゾウさん」
「…」
「あなたは、どこまで知ってたんですか?俺の正体について…」
「十七年前の春、サクスでは王に不満を持った者達の革命クーデター…リーフでは…王位継承を巡る骨肉の争いが、同時に起きた」
屋敷でサイゾウが語った
十七年前の出来事…
その中に父が関係してたことを
全く聞かされていなかったシンは
サイゾウに問いかけると
ガサッ…
「…これは」
「以前そなたに伝えた、例の手紙だ」
「…!」
サイゾウが懐から出した手紙
それについて思い出したシンは
焦りと緊張を抑えながら手紙を広げると
『ファクティスの秘密を知る…最後の生き残り…シン=ウェルディを…どうか救ってくれ…』
サイゾウから聞いた匿名の手紙は
中身は彼の一言一句間違いはなく、文字通り
最後の希望を求め、藁にもすがる思いで綴られていた
自分一人を見つけたい一心で、他人を頼り
手を尽くしてきた…送り主の思いが、必死さが
心にズシンと鉛のように重く伝わってきた
「初めは、何かの冗談かと思った」
「え…」
「だが調べ上げると…ウェルディはリーフで最も優秀な騎士を輩出した名高い貴族の姓として知られていた…しかし、先の内乱で家は廃され、そなたの父は……裏切り者という汚名を着せられて死んだ…そんな父の元に産まれたのが、シン殿…そなたであることを、そなた自身を通して、理解した」
サイゾウの口から明かされた
本当に何かの冗談であってほしいと思えるほどの事実を
なぜこのタイミングで彼は打ち明ける気になったのだろうか…?
「確証がなかったのは勿論、ただでさえ記憶が曖昧な者に…真実を告げるのは些か酷だと、思っただけでござるよ」
「サイゾウさん…」
「だが、拙者にも唯一分かってなかったのは、この手紙の送り主が、誰かということだ」
「あ、そういえば」
「…送り主なら、もう
目の前に
いるんじゃなくて?」一人だけ距離を置いて静かに見守っていたケイが
そう言ってチラッと視線を向けたのは
「まさか…」
「ナッドさま、なのですか?」
「そうだ。俺が…そいつの主に送ったのさ…お前を救う為に」
ーーー
ー ??? ー
鳥の囀と川のせせらぎが心地良く響く山麓付近
そこはアクアの街から遠く離れた場所で
誰も居ないと理解してなのか
拍子抜けするほど陽気な口笛が響いてきた
「~♪」
ボサボサとなった髪、磨り減った革靴
挙句には虫食い状態なボロボロのマントを
当たり前のように身を包む一人の男
旅人にしては非常にお粗末な格好であるにも関わらず
唯一武器として携えている長剣は毎日磨いてるのか
綺麗なままで保っていた
そんな不思議な男の元に颯爽と近寄ったのは
「ウィン様」
男の名を尊敬混じりに呼ぶ長身の男性一人であった
「エリオル…見回りにしては少し遅かったな」
「申し訳ありませんでした」
「それで、周囲はどんな感じだい?」
「は。近くに小さな村がございます…そこにはリーフだけでなく他の都市から追放された者達が集まっているとのことです」
「ほう…こんな辺境にまで追い出された者達がいたとはな…って、俺が言う台詞でもないか、はははっ」
「ウィン様…」
エリオルと呼ばれた男は少し心配そうに見つめていた
「気にするなエリオル…んーそうだな…本来なら極力民と接触することは避けてきたが…いい加減…本腰入れようかと思ってな」
「ウィン様…もしや、先日街の方から聞こえた爆音と何か関係でも?」
「そうじゃない…とは言い切れないかな」
歯切れの悪い返事をするウィンという男は
何かを思い出したように剣を鞘から引き抜いた
「あの音を聞いた時…感じたんだ…
時が来た
のだと」「…時が来た…それはもしやっ」
「あぁ…今こそ…立ち上がる時だ…」
不可解な言葉を天に向かって呟いた謎の男・ウィン
秘めたるその想いを剣に宿すかのように磨き始めるのであった
ーーー
「俺を、救うために…?」
「あぁ」
「…たしかに、先程の話の流れを聞いた上で、送り主がそなたでなければ逆に不自然な話だったでござろうな」
「言ってくれるな、小僧」
苦笑いしたナッドは、改めて手紙を送った経緯を説明した
まず三年前…ナッドはシンと呼ばれる青年が
トゥール騎士団に所属しているという情報を手に入れた
しかしそれを知った時、騎士団にいる全員が
【謀反の兆しがある】という理由だけで
既に処刑されたとのことだった
「し、処刑ですと?!」
「騎士団にいたとされる者達は、親族を含め全員殺され、遺体を跡形もなく燃やし、葬り去られたんだ」
「そんな…ひどい…」
「それ以降…情報が途絶え…二年と八ヶ月が過ぎ去った頃…俺は、マクシィにそっくりな男が現れたと聞かされた…」
「えっ!」
ナッドは、ありとあらゆる人脈を使って
このセブンズシティにめぐり巡る情報を掻き集めてきた
そしてその中にまたしても、シンの存在が浮上したことで
ナッドはもう一度動き出し、あの手紙をサイゾウ達に送り付け
「随分とややこしいマネをしてお前ら全員を巻き込んじまったことについては、謝る…すまなかった」
「おじさま…」
「だが同時に、感謝してる。俺の無責任なわがままの為に…必死になってくれた、お前達の勇敢さに」
「とんでもありません…!私たちはただ、生きる為に戦ってきたまでです…!」
ミールの堂々たる言葉に続くようにシン達は力強く頷いた
「そうか…」
くしゃっ…
「!…ナ、ナッド…さん?」
ホッとしたように不器用な笑みを浮かべるナッドは
シンの頭を愛おしそうにくしゃくしゃと撫でた
「立派になったな。シン」
「!」
「俺は父親じゃないが、お前が立派になったと知って凄く誇らしくなった…がむしゃらで、無鉄砲だが、大切な人を思いやり助ける心と強さを持った、いい男だ」
シンにとって、そんな風に言われたのは
生まれて初めてだった
頭では分かってても、まるで本当の父親に頭を撫でられているようで、ひどく心地が良かった…張り詰めていた心が緩んで、うっかり涙も出てしまいそうな程に…
サイゾウも自分達の為に協力してくれた
彼の無愛想な優しさを信じて本当に良かったと、心から思った
「ナッドさん…サイゾウさん、みんな……ありがとう」
…縺れていたわだかまりが少し解れてきたところで
再びサイゾウが懐からある物を取り出しナッドに渡した
「ナッド殿。その巻き物について見覚えは?」
「ないな…だが、これは…」
渡したのは、サイゾウがサクスで見せた
王族と政府が交わした誓約書であった
「ハッ…またとんでもねぇ代物だな…いったいどうやって盗んだんだ?」
「それについては企業秘密でござる…まぁ、どうやらその様子だと、記された
たった一つの巻物に記された真の意味とは?
【終】