第14話 嵐の前触れ
文字数 9,257文字
あれから数時間...ようやく毒の除去を終えたサイゾウは麻酔の効果で眠り続けていた...どのみち安静のためこのまま救護室で休息させることに。
そして、無事治療を終えたリンクは…
「はぁ...なんとか終わったわね」
「はい、お疲れさまです!それから…助けていただきありがとうございました!」
「うふふお疲れさま、でもそんなにかしこまらなくて結構よ...こんないい男を連れ添ってるんですもの、助けないわけないわよね♪」
「い、いえそんなんじゃ...!」
どこか艶っぽい口振りの【彼】は医長のリンドウ。フルクトゥスの医療担当として手腕を振るい
口ぶりどころか長身の見た目から長い紫髪と長いまつ毛が女性と見まごうほどの印象を持つれっきとした【男性】である。
しかしながら今回は運が悪いことに、他にいたはずの助手担当の船員ほとんどが、昨夜飲み潰れてしまい...残っていたのは医長のリンドウと一人の船員のみであったが...
「でもほんと、あなたが協力してくれてすごく助かったわ...まさか医療の心得を持っていたとはねぇ...筋の方だってわたしが今まで見てきた医師達に比べて桁違いだったもの」
「そんな...あたしはまだ修行中の身で…」
「あらあなた、医師免許持ってないの?」
そう聞かれ、リンクはポシェットから
自分が通う医療学校から与えられた
【医学生証】をリンドウに見せると
「医学生…なるほど。どおりで熱心に治療手伝ってくれてた上に筋も素人とは思えないわけね」
「も、もちろんそれだけじゃありません…!あたしは、どんな人でも傷ついていれば必ず助けます!この方だって…なにか、なにか事情があってこんなことになったのかも知れませんし…」
「へぇ…」
「一緒にいたおにいさん達もすごく必死そうだった…たとえどんなに良い人でも…どんなに悪い人でも…あたしは、医師になる者として…傷ついてる人を見捨てるわけにはいかなかった…だから…」
コンコン...
《失礼します》
ガチャ...
「治療のほどはいかがですか?」
「あらキャビラ、えぇちょうどいま終わったところよ」
「そうでしたか、お疲れさまでした...あ、でしたらお嬢さん」
「は、はい!」
「さっそくですがお連れの方がいるお部屋へご案内します...こちらの用も一旦終えましたので、そちらで休息を」
キャビラは微笑みながらそう伝えた
「相変わらずせっかちさんね…キャビラってば」
「いえあたしなら大丈夫ですが...その...」
「ん?あぁ…彼のことならわたしが見ておくわ、何かあったらすぐに報告もするから、ね♪」
「リンドウ先生…本当に...ありがとうございます!」
律儀な彼女はリンドウに笑顔でお礼の言葉から深々とお辞儀をして、後を追うようにキャビラと共に救護室を去って行った
【あたしは、どんな人でも傷ついていれば必ず助けます!】
「...純粋で健気な可愛らしい子…だけど、なんだか危なっかしいわね...わたしやキャビラを見て警戒するどころか笑顔まで見せるなんて...あれで船長や【あの子】に会ったらどうなることやら...」
リンドウは、どこか不安の色を隠せない笑みで
淹れたての珈琲を口に含んだ
【第14話】
ー 船内 ー
「ここです」
部屋の前まで到着する二人
いざ入ろうと思うと妙に緊張してドキドキと
心臓が高鳴って顔が少し強ばるリンクにキャビラは
「少し窮屈に思いますが、しばらくの間お連れの方と共にここをお使いください。もし何かありましたら…私か船内にいる者達にお声掛けください」
「キャビラさん…」
「誤解無きよう申し上げますが、我々はあなた方を完全に信用してる訳ではありません。むしろ、疑わしい事だらけです。ただ…あなたのような敵意を感じられない者を乱暴に扱うほど鬼ではないことを、どうかご理解ください」
「…!」
「では...ごゆっくり」
キャビラの冷淡な言葉とは裏腹に
心が落ち着くような優しい声と佇まいに
不思議と緊張が解れた気分になったリンクは
すたすたと立ち去る彼を大きな声で呼び止めた
「キャ、キャビラさん!」
「…はい?」
「あの…た…助けてくれて、本当にありがとうございます…!」
作り笑顔にしては随分と自然な顔だ…
そう疑う傍らで、彼女の、心から告げる感謝の言葉と無防備にも感じる満面の笑みでお辞儀する姿に
思わず鳩が豆鉄砲でも食らったかのような
面持ちになったキャビラは
クスッ…
「どういたしまして」
少し笑みが零れると、それを隠すように
微笑んで立ち去っていった
そんな彼から垣間見えた人柄に暖かみを感じたリンクは彼の背中が見えなくなるまで見届けた、そして
「ふぅ……………よしっ」
気持ちを切り替えるように呟いたあと
リンクは慎重に扉をノックした
「失礼します!」
シーーー...ン...
「あ、あれ?」
ノックの音が小さかったのかな?
そう自分に疑心を抱きながら
今度は先程よりも強めに四回ほど
ノックするも同じ反応であった
(おかしいな…部屋、ここで間違いないはずですし…寝てるにしてもまだそんなに暗くは……も、もしかして…!)
二人の身に何かが起きた…!?
仮にも赤の他人であるシン達を疑うどころか
身を案じるという根っからの純真さを持つリンクは
恐怖と不安のあまり扉を勢いよく開けた
「失礼します!!...あ、あの、大丈夫で...っ!?」
そこには、何故か大の字で倒れてるシンと
彼を放って夢中で謎の箱の中身を覗き見るアンの姿にリンクはただただ困惑した
「こ、これは…いったい…」
「ん?やぁお嬢さんおかえり~♪サイゾウくんの様子どうだった?」
「え、あぁその…あの人でしたら、もう大丈夫…じゃなくて!こ、これ、何があったんですか?!どうしてこの人がこんな…っ」
「え?あぁ~……それは…ねぇ」
気絶してるシンにようやく気づいた様子のアンは苦笑いでリンクに事情を伝える
ーーー
十分後…
「ん...」
瞼を開けると診療館と似た木造の天井が視界に広がった
(あれ?俺確か…アンさんと、部屋の掃除してて、それから…)
気絶した影響でボーッとする気分が続く中
必死に記憶を遡っていると…
「...ご気分は、いかがですか?」
ふと横からひどく心地の良い優しい声と
見覚えのある橙色の髪と可愛らしい髪飾り
そして澄み渡るような蒼くて丸い瞳が
ひょこんと自分の顔を
心配そうに覗き込んできた瞬間…
ドクンッ!
「...っ!?......ぁ...痛っ……てぇ~」
「あ、急に身体を起こしちゃダメですよ!」
鼓動が急に高鳴ったと同時に
なぜか過剰なまでに驚いたシンは勢い良く体を起こした…が、その反動で先程強打した腹部と背中が激痛に襲われると顔も上げられないくらい悶絶する
そんな彼を介抱するように背中を擦りながら
深呼吸を促すと
「はぁ…はぁ…あ、ありがとう……助かった、よ……っ!」
ゆっくりと顔を上げると先程よりもリンクの顔が近い事に気づくと、またしても鼓動が乱れる
ドクン…ドクン……
「まだ、痛いですか?」
「い、いや…その…」
擦られる背中と支えてくれる肩から熱を感じる
頬も、耳も、わけも分からず熱くなることに
シンは心の中で激しく動揺する
ドクン...ドクン...
(な、なんだ...これ?へ、変だな...どうしたんだよ俺...)
「あの...本当に、大丈夫ですか?顔が、なんだかすごく赤くなってますよ?」
「えっ?あ、いや、ちょっと痛みのあまりボーッとしてただけで...今はもうへ、平気だっ…ははは…」
「そう…ですか?それなら、良かったです…てっきり、潮風に当たったせいで風邪でも引かれたのかと…」
不安な表情が安堵に変わるリンク。
シンはそんな彼女なりの心遣いに
今度は胸が温かくなるのを感じた...のも束の間
「い~や~なかなか良い雰囲気ですな~お二人さん♪」
「っ!!?」
今度は全く違った意味で心臓が高鳴るシン
二人の空気をあからさまに茶化したのは
行儀悪く椅子に座っているアンであった。
そんな彼女を見て、ようやく、全てを思い出したシンは徐々に眉間にシワを寄せた。
「アンさん~~~…」
「あはははっ…!ごめんねシン君~♪でもまさか気絶しちゃうなんて私もビックリだったんだよー?」
「だ、れ、の!せいだと思ってるんですか!」
事の始まりはリンクが訪れる少し前...
二人は埃にまみれた部屋を少しでも
キレイにするべく着々と掃除をしていた。
彼女が最初に手をつけた古い2段ベットの上段にはもう一切手を付けてなさそうなホコリまみれの箱がたくさん積まれていたので、使用出来るようにしようと二人で協力して下ろしてる途中、いきなり何を思ったのかアンは箱の中身を確認しながらポイポイと乱雑に荷物を下ろし始めた……そして
「キャッチ出来なかった箱が、おにいさんにぶつかってしまったと」
「あぁ…」
「……中身が気になる気持ちは分かりますが、一生懸命拾ってくださるおにいさんにもう少し気を配ってください」
「ほんとにごめんってば~…でもでも、今私達がいる場所って海賊船なんだよー?武器にお金に宝の地図…こんなところにもしまってあるんだから、ひとつくらい貰ってったって怒られないっしょ~?」
反省してるようには全く見えない彼女の傲慢っぷりにシンとリンクは呆れてものも言えず、深いため息をつくのであった
ーーー
それから三人はもう一度協力して掃除をして
ようやく、それぞれの自己紹介や事情を
説明するに至った…その中でも特に不明な点は
ーあのドラゴン達はどこから現れたのか?ー
ーあれほど執拗なまでにシン達を殺そうした理由は?ー
ーリンクを小舟に乗せた犯人とその目的は?ー
そして...
「...その前に君は…診療所で寝ていたはずなのに…気がついたら城の中にいたと?」
「えぇ...そこでも治療してくれてたみたいなのですが...その後あたし、またいつの間にか寝てしまったようで…小舟に乗っていたこと自体も...あの時に初めて…知ったんです」
「ほんと変な話だよね~?城で怪我人を治療するってんなら、リンクちゃんの他にもいっぱいいるから一緒に治療すりゃいいのに…あ…もしかして城に知り合いとかいたりする?」
「街にいる兵士さん達と喋った事があっても、そう簡単に城に入れるほど交流はしてません…ただ」
「ただ?」
「サクスの人とは、どこか、違った雰囲気の人が…看病してくれました」
「違った、雰囲気の人?」
リンクの記憶によると
名前は一切聞いていない為
不明だが長くて美しい金髪に
それぞれ異なる色をした切れ長の目が
特徴的な【女の子】が自分を看病したと
「金髪、異なる色をした目の、女の子…!?」
「はい」
「ねぇシンくん、これってもしかして…」
「…たしか、ルーリアっていう女の子と同じ特徴だ」
まだ不確定ではあるが、可能性が高いと見て
シンとアンは互いに顔を見合わせながら
ゾッ…と背筋を凍らせた
「その方が、どうかなさいましたか?」
「い、いや別に!ねぇ~?」
「あ、あぁ………」
素振りの感じからして
リンクは彼女と知り合いではない、のにも関わらず
なぜ彼女はリンクを看病している傍ら
自分達の命を狙ってきたのか?
リンクを小舟に乗せたのも彼女が犯人…にしては
さすがに随分とタイミングが早い上に
やってる事が不自然だ
わざわざ診療所に乗り込んで無理矢理捕らえ
手厚く看病していたはずの者を
途中で放棄するような真似など出来るのか?
そうなるとルーリアが小舟に乗せた犯人とは
考えにくいとし、シンは他に思い当たる人を考えたが
(ハルさんはずっと診療館にいたはずから、リンクさんがそんなことになってるなんて、きっと知る由もないからほぼ不可能だ…サイゾウさんのかつての仲間の人達はあくまでも俺達を殺すという命令で動いてて、それ以上の事はほとんど知らなそうだった…そうなると、本当に、誰が………)
思ったよりもサクスの情報が少なかったシンは
余計に頭を抱えた…そんな姿を見てリンクは
「あの…シン、さん」
「え、な、なんだい?」
「その、お役に立てなくて…ごめんなさい」
「え?」
突然ではあるが、その弱々しく呟いた一言から
微かながらリンクの人間性を感じた
「謝らなくたっていい…君は治療に専念してたんだ。そんな気に病む必要はない…」
「で、でも」
「むしろ俺…ずっと生死をさまよってた君が心配だったんだ…生きてほしい…負けないでくれって…そう祈ってたら、君は無事に生き延びてくれた上に…またこうして、会うことが出来た…俺、それだけですごく嬉しかった…!」
「…!」
自分を卑下するリンクを
シンはシンなりの素直な気持ちと笑顔でフォローした
「シンさん…ありがとうございます…あたしも、あなたが無事でいてくれて…本当に、良かった」
「!…い、いやそんな……はははっ…」
彼の笑顔を見てどこか心が救われたかのように顔が綻ぶリンク…照れくさそうに笑うも悪い気はしなかったシンは頬がさらに熱くなるのを感じつつ素直に彼女の言葉を心に留めた
一方…
(……ん?)
二人の会話を静観してたアンだが
なぜか、妙な違和感を覚えた
(ありゃりゃ?シンくん…もしかして…)
それぞれの反応を交互に観察していると
自然なやり取りに聞こえるようでその実は
全く噛み合ってない
温度差
を感じ取るが(まぁ…いっか♪)
これはまた、面白くなりそうな展開だとして
二人の行方を見守ることを選んだアンは
どさくさに紛れたように一緒に笑い合うのだった
ーー
ー 船長室 ー
コンコン...
「失礼します」
ガチャン...
「...船長、ケルンから報せが届きました」
あれから二時間後…
前々から密かにサクスに送り込んだ調査員から
情報を知るべく手紙を求めたところ
筒状の箱に入れられた手紙が迅速に届いたキャビラは
急いで船長の元へ駆けつけそれを直ぐに手渡した
受け取ったディーネはすぐさま箱を空けて
手紙の中身を確認すると
「…」
「船長、内容はいかほどに?」
読み終えたディーネは何も言葉を発することなく
ため息ひとつついてキャビラに手紙を再度渡した
ーーー
ー報告書ー
ここ数時間前
サクスにて謎の大規模な災害が発生していました。
その理由は【謎の巨大モンスターの襲撃】
しかもそれは【一度ならず二度】も発生し
その上、最初の発生時はちょうど一年前に生まれた王子の【誕生祭】が行われていた模様
だが、現在の様子を見る限り
都市全体が全くの無傷で襲撃の痕跡などは一切見当たりませんでした
モンスターの出所も不明で不可解なことばかりですがその中で興味深い情報が二つ
まず一つ目
サクスに訪れた観光者、旅人達の一斉取り締まり
これは、何者かがモンスターを意図的に
都市を襲わせたという理由で取り締まるのだが
なぜかサクスの民は誰一人取り締まられる事はなく
あくまでも部外者のみを捕まえて犯人を
突き止めようとしていた
下手をすれば他の都市と争い兼ねないことを
なぜ王族と政府はわざわざ強行したのか…
残念ながら真偽のほどは明らかには出来ませんでした
二つ目は
その捕らえられた部外者と脱獄の手助けをした裏切り者の忍の
二人
がサクスから脱出した忍というのは本来サクスの手の者のはず、なのに
部外者の脱獄を助けたとは
いったいどんな繋がりがあるのか?
ちなみに彼らの勢いに乗じて脱獄しようと者もいましたが案の定あっけなく捕まり...都市から逃げられたのは事実上、その【二人】だけでした
都市外に出たことで、政府は憤りを見せながらも止むを得ず捕縛計画を中止したが、肝心のモンスターに都市を襲わせた犯人はおそらくその二人だと見たのか、捕らえた者達を全員後日釈放することと成った
しかしサクスは、当分の間この壮大な誤認逮捕の件で捕まった者達だけでなく民達からの
厳しい批判の嵐が巻き起こることでしょう…
最後に、私が各地で聞いた
【王族に纏わる話】についてですが
誕生祭での出来事はもちろん、ここ一年
王子が生まれてからずっと
奇妙な噂が飛び交っていました
それは…王子が
【呪われた存在】だという
そちらもまた広まった原因は不明ですが、その噂の真偽について公表するつもりは無いのか、王族側は未だに沈黙を保ち続けている。これにより噂は今や民と何も知らない兵士達の間でずっと一人歩きし膨張し続けていました...そして悲劇な事にこの大惨事によって民達はついに恐怖で身を震わせながら、こう呟いた
これは、亡き先代達の報復だ…!
サクスの罪深い歴史がもたらした怨念か
はたまたそこにいる人間達が作り出した戯言なのか
どちらにせよこのまま王子が王位を継いだとしても
民達からの信頼を回復しなければ、きっと長くは持たないことでしょう……
先代の王達
のように...以上、調査報告を終了いたします。
ー 調査員 ケルンより ー
ーーー
文面を全て鵜呑みに出来ないキャビラと
後味が悪そうに渋い顔で沈黙するディーネ
手紙を見てどこか対照的な印象を抱く二人だが
先に口を開いたのは
「あの都市は昔から何かしらの秘密を抱えておりますからね。それと、逃走者が二人だということも…」
「...」
「ひとまず明日また彼らにもう一度問いただしましょう。調査のご報告はこれにて…」
「キャビラ」
ドアノブに手が伸びようとした寸前
キャビラは不意に呼び止められピタッと
身体が硬直した
「…なんでしょうか?」
「【お前の報告】を聞いてねぇんだが?」
誰にも真意を見せる素振りを見せない
キャビラを唯一理解するディーネ
その心に留めるものは
もはや彼には全てお見通しだったようだ
「そうですね、正直…どの方も中々の【曲者】のようです...船長を睨み返した彼は…特に」
「そうか」
「...では、これで失礼致します」
意味深な笑みと言葉を残して部屋を立ち去ったキャビラ一人になったディーネは気を張ってた気持ちを洗い流すように深いため息をついたあと、いつもの愛用の煙草をふかし始めた
ーーー
ー 小部屋 ー
外もすっかり暗くなった頃
差し出された食事を済ませたシン達
その後すぐ、風呂の用意までしてくれたが
船内は全員男だけなので
先にリンクとアンに入る事を勧められた。
お言葉に甘えて二人は先に浴場へ向かうと
一人部屋で静かに時を過ごすシンであった
(…はぁ……ほんっと、何もかもあっという間だったな...脱獄者扱いは本当に腑に落ちないが、逃げた末こんな大きな海賊船に出会うなんてな...それに...
サイゾウさんにアンさんに、ハルさんや都市の人達...それと俺達を捕まえようとしたあの女の子...いろんな人に出会ったな…あの子とも...祭の中で...)
一人で物思いにふけっていると
安堵と満腹中枢が満たされてるせいか
いつの間にかシンはその場で
眠りこけてしまうのだった。
ーーー
チュンチュン...
...船内のはずなのに小鳥の囀りが聞こえた
気がついて瞼を開くとそこは以前も見た花畑の光景が
(ここ…確か前にも来た場所…って、あれ?身体が、動ける…)
以前は負傷した影響もあって
ろくに動けないでいたが今は違う
シンはゆっくりと身体を起こして辺りを見回る
今のところ以前も見た花畑と完全に一致しているが、白頭巾を被った子供の容姿をした者が一向に見当たらない
シンは再びその子に会って話を聞きたい一心で
無心で花畑を歩き回っていると
遠くの方からふと誰かが啜り泣くような音が
僅かながらも耳に入ってきたのだ
(もしかして、また……泣いてるのか?)
声に近付こうと必死に歩み寄るとだんだん風が吹き荒れ、意識が薄れゆくせいで足が重くなるのを感じるシン…その声に心が軋む理由を考える暇などなく
(お願いだ、もう一度…会わせてくれ...意識がなくなる前に君と……はなしが、したい、んだ...たの、む..もう...いち、ど...も、う……いち………)
視界が全て真っ白になると
シンの意識はそこで途切れた
ーーー
バタバタ...!!
「...!...ん、...なん、だ?」
意識が覚醒したと同時に
外は…足音で妙に騒がしいことに気づいたシン
何かあったのだろうか?
リンク達が部屋に戻ってきていないということは
きっとまだ風呂に入っている頃であるとみたが
(……まさか)
悪い予感が過ぎったシンは急いで
騒音の元を辿った
ーー
ー 船内 浴場前 ー
「………………え?」
数分後、悪い予感が的中した
浴場前で男達がガヤガヤと人集りが出来ていた
現状、シンの推測が正しければ
これは素肌を晒して湯船に浸かる
女の子二人の姿を除き見ようとしてる
野蛮な奴らとしか言い様がない絵面だ
(いやいや待て待て…いくら女の子が風呂に入ってるからって…これは、可笑しいだろ…)
一気に血の気が引くように青ざめた表情を浮かべたままシンは近くの船員に事情を聞いた
「あの、皆さん…ここで何してるんですか?」
「...え、あぁ君か…ちょうど良かった、君のお仲間が風呂に入ってるところを、ウチの
隊長
がうっかり入ってしまって…」「は?...た、隊長?」
それを聞いてますます悪い予感が過ぎったシンは
急いで人集りを掻き分けて浴場へ
すると…
「リンクさん!アンさん!大丈夫で…………っ!?」
「あ、あーっ!シン君!ちょうどいいところに!!」
「これ、は…どういう状況...て、てか!アンさんもあなたも何サラッと素っ裸で向き合ってるんですか!?早く服着てくださいっ!!」
「あぁ?...なんだてめぇ...いきなり現れて俺に指図するつもりか?あ?」
アンと向かい合っていた男がバツが悪そうに
シンを睨み付けて近づいてきた。
身の丈はサイゾウとほぼ近いが
目付きから態度まであからさまに横柄な素振りだが
船員達からは【隊長】と呼ばれるこの男
いったい、何者なのだろうか?
【終】