第14話 嵐の前触れ

文字数 9,257文字

ー フルクトゥス 救護室 ー


あれから数時間...ようやく毒の除去を終えたサイゾウは麻酔の効果で眠り続けていた...どのみち安静のためこのまま救護室で休息させることに。

そして、無事治療を終えたリンクは…

「はぁ...なんとか終わったわね」
「はい、お疲れさまです!それから…助けていただきありがとうございました!」
「うふふお疲れさま、でもそんなにかしこまらなくて結構よ...こんないい男を連れ添ってるんですもの、助けないわけないわよね♪」
「い、いえそんなんじゃ...!」

どこか艶っぽい口振りの【彼】は医長のリンドウ。フルクトゥスの医療担当として手腕を振るい
口ぶりどころか長身の見た目から長い紫髪と長いまつ毛が女性と見まごうほどの印象を持つれっきとした【男性】である。

しかしながら今回は運が悪いことに、他にいたはずの助手担当の船員ほとんどが、昨夜飲み潰れてしまい...残っていたのは医長のリンドウと一人の船員のみであったが...

「でもほんと、あなたが協力してくれてすごく助かったわ...まさか医療の心得を持っていたとはねぇ...筋の方だってわたしが今まで見てきた医師達に比べて桁違いだったもの」
「そんな...あたしはまだ修行中の身で…」
「あらあなた、医師免許持ってないの?」

そう聞かれ、リンクはポシェットから
自分が通う医療学校から与えられた
【医学生証】をリンドウに見せると

「医学生…なるほど。どおりで熱心に治療手伝ってくれてた上に筋も素人とは思えないわけね」
「も、もちろんそれだけじゃありません…!あたしは、どんな人でも傷ついていれば必ず助けます!この方だって…なにか、なにか事情があってこんなことになったのかも知れませんし…」
「へぇ…」
「一緒にいたおにいさん達もすごく必死そうだった…たとえどんなに良い人でも…どんなに悪い人でも…あたしは、医師になる者として…傷ついてる人を見捨てるわけにはいかなかった…だから…」

コンコン...

《失礼します》

ガチャ...

「治療のほどはいかがですか?」
「あらキャビラ、えぇちょうどいま終わったところよ」
「そうでしたか、お疲れさまでした...あ、でしたらお嬢さん」
「は、はい!」
「さっそくですがお連れの方がいるお部屋へご案内します...こちらの用も一旦終えましたので、そちらで休息を」

キャビラは微笑みながらそう伝えた

「相変わらずせっかちさんね…キャビラってば」
「いえあたしなら大丈夫ですが...その...」
「ん?あぁ…彼のことならわたしが見ておくわ、何かあったらすぐに報告もするから、ね♪」
「リンドウ先生…本当に...ありがとうございます!」

律儀な彼女はリンドウに笑顔でお礼の言葉から深々とお辞儀をして、後を追うようにキャビラと共に救護室を去って行った








【あたしは、どんな人でも傷ついていれば必ず助けます!】

「...純粋で健気な可愛らしい子…だけど、なんだか危なっかしいわね...わたしやキャビラを見て警戒するどころか笑顔まで見せるなんて...あれで船長や【あの子】に会ったらどうなることやら...」

リンドウは、どこか不安の色を隠せない笑みで
淹れたての珈琲を口に含んだ


【第14話】


ー 船内 ー

「ここです」

部屋の前まで到着する二人
いざ入ろうと思うと妙に緊張してドキドキと
心臓が高鳴って顔が少し強ばるリンクにキャビラは

「少し窮屈に思いますが、しばらくの間お連れの方と共にここをお使いください。もし何かありましたら…私か船内にいる者達にお声掛けください」
「キャビラさん…」
「誤解無きよう申し上げますが、我々はあなた方を完全に信用してる訳ではありません。むしろ、疑わしい事だらけです。ただ…あなたのような敵意を感じられない者を乱暴に扱うほど鬼ではないことを、どうかご理解ください」
「…!」
「では...ごゆっくり」

キャビラの冷淡な言葉とは裏腹に
心が落ち着くような優しい声と佇まいに
不思議と緊張が解れた気分になったリンクは
すたすたと立ち去る彼を大きな声で呼び止めた

「キャ、キャビラさん!」
「…はい?」
「あの…た…助けてくれて、本当にありがとうございます…!」

作り笑顔にしては随分と自然な顔だ…
そう疑う傍らで、彼女の、心から告げる感謝の言葉と無防備にも感じる満面の笑みでお辞儀する姿に
思わず鳩が豆鉄砲でも食らったかのような
面持ちになったキャビラは

クスッ…

「どういたしまして」

少し笑みが零れると、それを隠すように
微笑んで立ち去っていった
そんな彼から垣間見えた人柄に暖かみを感じたリンクは彼の背中が見えなくなるまで見届けた、そして

「ふぅ……………よしっ」

気持ちを切り替えるように呟いたあと
リンクは慎重に扉をノックした

「失礼します!」

シーーー...ン...

「あ、あれ?」

ノックの音が小さかったのかな?
そう自分に疑心を抱きながら
今度は先程よりも強めに四回ほど
ノックするも同じ反応であった

(おかしいな…部屋、ここで間違いないはずですし…寝てるにしてもまだそんなに暗くは……も、もしかして…!)

二人の身に何かが起きた…!?
仮にも赤の他人であるシン達を疑うどころか
身を案じるという根っからの純真さを持つリンクは
恐怖と不安のあまり扉を勢いよく開けた

「失礼します!!...あ、あの、大丈夫で...っ!?」

そこには、何故か大の字で倒れてるシンと
彼を放って夢中で謎の箱の中身を覗き見るアンの姿にリンクはただただ困惑した

「こ、これは…いったい…」
「ん?やぁお嬢さんおかえり~♪サイゾウくんの様子どうだった?」
「え、あぁその…あの人でしたら、もう大丈夫…じゃなくて!こ、これ、何があったんですか?!どうしてこの人がこんな…っ」
「え?あぁ~……それは…ねぇ」

気絶してるシンにようやく気づいた様子のアンは苦笑いでリンクに事情を伝える


ーーー


十分後…

「ん...」

瞼を開けると診療館と似た木造の天井が視界に広がった

(あれ?俺確か…アンさんと、部屋の掃除してて、それから…)

気絶した影響でボーッとする気分が続く中
必死に記憶を遡っていると…

「...ご気分は、いかがですか?」

ふと横からひどく心地の良い優しい声と
見覚えのある橙色の髪と可愛らしい髪飾り
そして澄み渡るような蒼くて丸い瞳が
ひょこんと自分の顔を
心配そうに覗き込んできた瞬間…

ドクンッ!

「...っ!?......ぁ...痛っ……てぇ~」
「あ、急に身体を起こしちゃダメですよ!」

鼓動が急に高鳴ったと同時に
なぜか過剰なまでに驚いたシンは勢い良く体を起こした…が、その反動で先程強打した腹部と背中が激痛に襲われると顔も上げられないくらい悶絶する
そんな彼を介抱するように背中を擦りながら
深呼吸を促すと

「はぁ…はぁ…あ、ありがとう……助かった、よ……っ!」

ゆっくりと顔を上げると先程よりもリンクの顔が近い事に気づくと、またしても鼓動が乱れる

ドクン…ドクン……

「まだ、痛いですか?」
「い、いや…その…」

擦られる背中と支えてくれる肩から熱を感じる
頬も、耳も、わけも分からず熱くなることに
シンは心の中で激しく動揺する

ドクン...ドクン...

(な、なんだ...これ?へ、変だな...どうしたんだよ俺...)

「あの...本当に、大丈夫ですか?顔が、なんだかすごく赤くなってますよ?」
「えっ?あ、いや、ちょっと痛みのあまりボーッとしてただけで...今はもうへ、平気だっ…ははは…」
「そう…ですか?それなら、良かったです…てっきり、潮風に当たったせいで風邪でも引かれたのかと…」

不安な表情が安堵に変わるリンク。
シンはそんな彼女なりの心遣いに
今度は胸が温かくなるのを感じた...のも束の間

「い~や~なかなか良い雰囲気ですな~お二人さん♪」

「っ!!?」

今度は全く違った意味で心臓が高鳴るシン
二人の空気をあからさまに茶化したのは
行儀悪く椅子に座っているアンであった。
そんな彼女を見て、ようやく、全てを思い出したシンは徐々に眉間にシワを寄せた。

「アンさん~~~…」
「あはははっ…!ごめんねシン君~♪でもまさか気絶しちゃうなんて私もビックリだったんだよー?」
「だ、れ、の!せいだと思ってるんですか!」

事の始まりはリンクが訪れる少し前...
二人は埃にまみれた部屋を少しでも
キレイにするべく着々と掃除をしていた。

彼女が最初に手をつけた古い2段ベットの上段にはもう一切手を付けてなさそうなホコリまみれの箱がたくさん積まれていたので、使用出来るようにしようと二人で協力して下ろしてる途中、いきなり何を思ったのかアンは箱の中身を確認しながらポイポイと乱雑に荷物を下ろし始めた……そして

「キャッチ出来なかった箱が、おにいさんにぶつかってしまったと」
「あぁ…」
「……中身が気になる気持ちは分かりますが、一生懸命拾ってくださるおにいさんにもう少し気を配ってください」
「ほんとにごめんってば~…でもでも、今私達がいる場所って海賊船なんだよー?武器にお金に宝の地図…こんなところにもしまってあるんだから、ひとつくらい貰ってったって怒られないっしょ~?」

反省してるようには全く見えない彼女の傲慢っぷりにシンとリンクは呆れてものも言えず、深いため息をつくのであった


ーーー


それから三人はもう一度協力して掃除をして
ようやく、それぞれの自己紹介や事情を
説明するに至った…その中でも特に不明な点は

ーあのドラゴン達はどこから現れたのか?ー

ーあれほど執拗なまでにシン達を殺そうした理由は?ー

ーリンクを小舟に乗せた犯人とその目的は?ー

そして...

「...その前に君は…診療所で寝ていたはずなのに…気がついたら城の中にいたと?」
「えぇ...そこでも治療してくれてたみたいなのですが...その後あたし、またいつの間にか寝てしまったようで…小舟に乗っていたこと自体も...あの時に初めて…知ったんです」
「ほんと変な話だよね~?城で怪我人を治療するってんなら、リンクちゃんの他にもいっぱいいるから一緒に治療すりゃいいのに…あ…もしかして城に知り合いとかいたりする?」
「街にいる兵士さん達と喋った事があっても、そう簡単に城に入れるほど交流はしてません…ただ」
「ただ?」
「サクスの人とは、どこか、違った雰囲気の人が…看病してくれました」
「違った、雰囲気の人?」

リンクの記憶によると
名前は一切聞いていない為
不明だが長くて美しい金髪に
それぞれ異なる色をした切れ長の目が
特徴的な【女の子】が自分を看病したと

「金髪、異なる色をした目の、女の子…!?」
「はい」
「ねぇシンくん、これってもしかして…」
「…たしか、ルーリアっていう女の子と同じ特徴だ」

まだ不確定ではあるが、可能性が高いと見て
シンとアンは互いに顔を見合わせながら
ゾッ…と背筋を凍らせた

「その方が、どうかなさいましたか?」
「い、いや別に!ねぇ~?」
「あ、あぁ………」

素振りの感じからして
リンクは彼女と知り合いではない、のにも関わらず
なぜ彼女はリンクを看病している傍ら
自分達の命を狙ってきたのか?
リンクを小舟に乗せたのも彼女が犯人…にしては
さすがに随分とタイミングが早い上に
やってる事が不自然だ

わざわざ診療所に乗り込んで無理矢理捕らえ
手厚く看病していたはずの者を
途中で放棄するような真似など出来るのか?
そうなるとルーリアが小舟に乗せた犯人とは
考えにくいとし、シンは他に思い当たる人を考えたが

(ハルさんはずっと診療館にいたはずから、リンクさんがそんなことになってるなんて、きっと知る由もないからほぼ不可能だ…サイゾウさんのかつての仲間の人達はあくまでも俺達を殺すという命令で動いてて、それ以上の事はほとんど知らなそうだった…そうなると、本当に、誰が………)

思ったよりもサクスの情報が少なかったシンは
余計に頭を抱えた…そんな姿を見てリンクは

「あの…シン、さん」
「え、な、なんだい?」
「その、お役に立てなくて…ごめんなさい」
「え?」

突然ではあるが、その弱々しく呟いた一言から
微かながらリンクの人間性を感じた

「謝らなくたっていい…君は治療に専念してたんだ。そんな気に病む必要はない…」
「で、でも」
「むしろ俺…ずっと生死をさまよってた君が心配だったんだ…生きてほしい…負けないでくれって…そう祈ってたら、君は無事に生き延びてくれた上に…またこうして、会うことが出来た…俺、それだけですごく嬉しかった…!」
「…!」

自分を卑下するリンクを
シンはシンなりの素直な気持ちと笑顔でフォローした

「シンさん…ありがとうございます…あたしも、あなたが無事でいてくれて…本当に、良かった」
「!…い、いやそんな……はははっ…」

彼の笑顔を見てどこか心が救われたかのように顔が綻ぶリンク…照れくさそうに笑うも悪い気はしなかったシンは頬がさらに熱くなるのを感じつつ素直に彼女の言葉を心に留めた

一方…

(……ん?)

二人の会話を静観してたアンだが
なぜか、妙な違和感を覚えた

(ありゃりゃ?シンくん…もしかして…)

それぞれの反応を交互に観察していると
自然なやり取りに聞こえるようでその実は
全く噛み合ってない

を感じ取るが

(まぁ…いっか♪)

これはまた、面白くなりそうな展開だとして
二人の行方を見守ることを選んだアンは
どさくさに紛れたように一緒に笑い合うのだった


ーー


ー 船長室 ー

コンコン...

「失礼します」

ガチャン...

「...船長、ケルンから報せが届きました」

あれから二時間後…
前々から密かにサクスに送り込んだ調査員から
情報を知るべく手紙を求めたところ
筒状の箱に入れられた手紙が迅速に届いたキャビラは
急いで船長の元へ駆けつけそれを直ぐに手渡した

受け取ったディーネはすぐさま箱を空けて
手紙の中身を確認すると

「…」
「船長、内容はいかほどに?」

読み終えたディーネは何も言葉を発することなく
ため息ひとつついてキャビラに手紙を再度渡した


ーーー

         ー報告書ー

ここ数時間前
サクスにて謎の大規模な災害が発生していました。
その理由は【謎の巨大モンスターの襲撃】

しかもそれは【一度ならず二度】も発生し
その上、最初の発生時はちょうど一年前に生まれた王子の【誕生祭】が行われていた模様

だが、現在の様子を見る限り
都市全体が全くの無傷で襲撃の痕跡などは一切見当たりませんでした

モンスターの出所も不明で不可解なことばかりですがその中で興味深い情報が二つ

まず一つ目

サクスに訪れた観光者、旅人達の一斉取り締まり

これは、何者かがモンスターを意図的に
都市を襲わせたという理由で取り締まるのだが
なぜかサクスの民は誰一人取り締まられる事はなく
あくまでも部外者のみを捕まえて犯人を
突き止めようとしていた

下手をすれば他の都市と争い兼ねないことを
なぜ王族と政府はわざわざ強行したのか…
残念ながら真偽のほどは明らかには出来ませんでした

二つ目は

その捕らえられた部外者と脱獄の手助けをした裏切り者の忍の

がサクスから脱出した


忍というのは本来サクスの手の者のはず、なのに
部外者の脱獄を助けたとは
いったいどんな繋がりがあるのか?

ちなみに彼らの勢いに乗じて脱獄しようと者もいましたが案の定あっけなく捕まり...都市から逃げられたのは事実上、その【二人】だけでした

都市外に出たことで、政府は憤りを見せながらも止むを得ず捕縛計画を中止したが、肝心のモンスターに都市を襲わせた犯人はおそらくその二人だと見たのか、捕らえた者達を全員後日釈放することと成った

しかしサクスは、当分の間この壮大な誤認逮捕の件で捕まった者達だけでなく民達からの
厳しい批判の嵐が巻き起こることでしょう…

最後に、私が各地で聞いた
【王族に纏わる話】についてですが
誕生祭での出来事はもちろん、ここ一年
王子が生まれてからずっと
奇妙な噂が飛び交っていました

それは…王子が

【呪われた存在】だという

そちらもまた広まった原因は不明ですが、その噂の真偽について公表するつもりは無いのか、王族側は未だに沈黙を保ち続けている。これにより噂は今や民と何も知らない兵士達の間でずっと一人歩きし膨張し続けていました...そして悲劇な事にこの大惨事によって民達はついに恐怖で身を震わせながら、こう呟いた


これは、亡き先代達の報復だ…!


サクスの罪深い歴史がもたらした怨念か
はたまたそこにいる人間達が作り出した戯言なのか
どちらにせよこのまま王子が王位を継いだとしても
民達からの信頼を回復しなければ、きっと長くは持たないことでしょう……

のように


...以上、調査報告を終了いたします。

            ー 調査員 ケルンより ー

ーーー

文面を全て鵜呑みに出来ないキャビラと
後味が悪そうに渋い顔で沈黙するディーネ
手紙を見てどこか対照的な印象を抱く二人だが
先に口を開いたのは

「あの都市は昔から何かしらの秘密を抱えておりますからね。それと、逃走者が二人だということも…」
「...」
「ひとまず明日また彼らにもう一度問いただしましょう。調査のご報告はこれにて…」
「キャビラ」

ドアノブに手が伸びようとした寸前
キャビラは不意に呼び止められピタッと
身体が硬直した

「…なんでしょうか?」
「【お前の報告】を聞いてねぇんだが?」

誰にも真意を見せる素振りを見せない
キャビラを唯一理解するディーネ
その心に留めるものは
もはや彼には全てお見通しだったようだ

「そうですね、正直…どの方も中々の【曲者】のようです...船長を睨み返した彼は…特に」
「そうか」
「...では、これで失礼致します」

意味深な笑みと言葉を残して部屋を立ち去ったキャビラ一人になったディーネは気を張ってた気持ちを洗い流すように深いため息をついたあと、いつもの愛用の煙草をふかし始めた


ーーー


ー 小部屋 ー

外もすっかり暗くなった頃
差し出された食事を済ませたシン達
その後すぐ、風呂の用意までしてくれたが
船内は全員男だけなので
先にリンクとアンに入る事を勧められた。
お言葉に甘えて二人は先に浴場へ向かうと
一人部屋で静かに時を過ごすシンであった

(…はぁ……ほんっと、何もかもあっという間だったな...脱獄者扱いは本当に腑に落ちないが、逃げた末こんな大きな海賊船に出会うなんてな...それに...

サイゾウさんにアンさんに、ハルさんや都市の人達...それと俺達を捕まえようとしたあの女の子...いろんな人に出会ったな…あの子とも...祭の中で...)

一人で物思いにふけっていると
安堵と満腹中枢が満たされてるせいか
いつの間にかシンはその場で
眠りこけてしまうのだった。


ーーー


チュンチュン...

...船内のはずなのに小鳥の囀りが聞こえた
気がついて瞼を開くとそこは以前も見た花畑の光景が

(ここ…確か前にも来た場所…って、あれ?身体が、動ける…)

以前は負傷した影響もあって
ろくに動けないでいたが今は違う
シンはゆっくりと身体を起こして辺りを見回る
今のところ以前も見た花畑と完全に一致しているが、白頭巾を被った子供の容姿をした者が一向に見当たらない

シンは再びその子に会って話を聞きたい一心で
無心で花畑を歩き回っていると
遠くの方からふと誰かが啜り泣くような音が
僅かながらも耳に入ってきたのだ

(もしかして、また……泣いてるのか?)

声に近付こうと必死に歩み寄るとだんだん風が吹き荒れ、意識が薄れゆくせいで足が重くなるのを感じるシン…その声に心が軋む理由を考える暇などなく

(お願いだ、もう一度…会わせてくれ...意識がなくなる前に君と……はなしが、したい、んだ...たの、む..もう...いち、ど...も、う……いち………)

視界が全て真っ白になると
シンの意識はそこで途切れた


ーーー


バタバタ...!!

「...!...ん、...なん、だ?」

意識が覚醒したと同時に
外は…足音で妙に騒がしいことに気づいたシン
何かあったのだろうか?
リンク達が部屋に戻ってきていないということは
きっとまだ風呂に入っている頃であるとみたが

(……まさか)

悪い予感が過ぎったシンは急いで
騒音の元を辿った


ーー


ー 船内 浴場前 ー


「………………え?」

数分後、悪い予感が的中した
浴場前で男達がガヤガヤと人集りが出来ていた
現状、シンの推測が正しければ
これは素肌を晒して湯船に浸かる
女の子二人の姿を除き見ようとしてる
野蛮な奴らとしか言い様がない絵面だ

(いやいや待て待て…いくら女の子が風呂に入ってるからって…これは、可笑しいだろ…)

一気に血の気が引くように青ざめた表情を浮かべたままシンは近くの船員に事情を聞いた

「あの、皆さん…ここで何してるんですか?」
「...え、あぁ君か…ちょうど良かった、君のお仲間が風呂に入ってるところを、ウチの

がうっかり入ってしまって…」
「は?...た、隊長?」

それを聞いてますます悪い予感が過ぎったシンは
急いで人集りを掻き分けて浴場へ
すると…


「リンクさん!アンさん!大丈夫で…………っ!?」
「あ、あーっ!シン君!ちょうどいいところに!!」
「これ、は…どういう状況...て、てか!アンさんもあなたも何サラッと素っ裸で向き合ってるんですか!?早く服着てくださいっ!!」


「あぁ?...なんだてめぇ...いきなり現れて俺に指図するつもりか?あ?」

アンと向かい合っていた男がバツが悪そうに
シンを睨み付けて近づいてきた。
身の丈はサイゾウとほぼ近いが
目付きから態度まであからさまに横柄な素振りだが
船員達からは【隊長】と呼ばれるこの男

いったい、何者なのだろうか?

【終】
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登場人物紹介

シン(20歳)

この物語の主人公。三年前、突如記憶喪失となるも性格は明るく感情豊かで素直な一面を持つツッコミ担当。記憶を取り戻すための旅でサクスへ訪れた際に出会った少女・リンクに一目惚れして以来ずっと恋心を抱き、とある事情から彼女を守ることを決意する。


使用武器:双剣

属性:風

リンク=アソワール(19歳)

この物語のヒロイン。医師を志す家庭的で心優しい少女、ある事件を機に【白きドラゴン・メビウス】を覚醒させるが原因も分からないまま敵にその身を狙われることになる…


使用武器:なし。ドラゴンの力のみ

属性:?

サイゾウ(24歳)

【雷の都市ーサクスー】の忍として暗躍するシンの協力者。優れた分析能力と卓越した弓の使い手であるが、性格はドSで毒舌家、その上大食漢という端正な顔立ちからは想像し難い一面を持っている


使用武器:弓、忍道具など

属性:雷

アン・ダルチェル=ミーナ(19歳)

愛称は【アン】でトレジャーハンターと名乗る少女。好奇心旺盛で楽しい事が大好きな魔法と抜刀術の使い手。成り行きでシン達と出会い、興味を示した彼女は彼らと行動を共にする。ナッドに対して、恋心を抱いてからは毎日猛アプローチをするが全く相手にされていない模様


使用武器:杖+仕込み刀

属性:地

ミルファリア(およそ200歳)

幼い頃シンに命を救われた妖精(亜種)。愛称は【ミール】

非常に穏やかな性格で忠誠心に厚く、主であるシンを家族のように心から慕っている。実は恐ろしい獣の力を宿した事が原因で妖精界を追放された過去を持つ


使用武器:大槍

属性:炎

ケイ=オルネス(27歳)

【黒きドラゴン・リュクシオン】を追う女性。

勝気な性格だが根は優しく、面倒見の良い姉御肌な気質を持つ。アクアで最も忌み嫌う氷の魔力を持っていることが原因で人々から【氷の魔力】と呼ばれ恐れられている


使用武器:なし(魔法で剣などを作り出すことが出来る)

属性:氷(水の魔力から派生した力)

ナッド=モルダバイト(42歳)

ファクティスの罪を暴く為、暗躍し続ける狙撃手の男。かつてはネオンのエージェントとして活躍していたが、ある事情で引退し今に至る。シンの素性を知る者の一人として常に彼の事を気にかけている


使用武器:二丁拳銃(メイン)スナイパーライフルなど…

属性:闇

ハル老人(74歳)

【雷の都市ーサクスー】の住人で、かつては医師として活躍してきたが、現在は小さな診療館に隠居して余生を過ごすお茶目で明るいご老人である


使用武器:(非戦闘員のため)なし

属性:(覚醒してないので)無し

セシア=ウヅキ(26歳)

現在【雷の都市ーサクスー】の王として君臨する【マダラス】の甥。王族の身でありながら政治に関心が無く、非常にマイペースでずっと本を読んでばかりという事から周囲からは「本の虫」と揶揄されている。


使用武器:刀(護身用)

属性:雷

エル・ブリッヂ=サルジア(38歳)

【魔法科学支援団ファクティス】のリーダー。

表向きは長年の研究と実験の末に作られたファクティスの奇跡の象徴とされる「癒晶石」を使ってこのセブンズシティを支える存在として幅広く活躍するが、彼らの実態などが全く明かされていない為…不審に思う者達も少なくない


使用武器:無し(詠唱魔法のみ)

属性:闇

ルーリア(18歳)

同じくエルに仕えるルーファの双子の姉。

普段は高飛車な言動が目立つが、苛立ちを見せ始めると口調が徐々に崩れ、終いには容赦なく罵詈雑言を浴びせるといった気性の荒さも併せ持つ。弟の放浪癖にはかなり辟易しているが、内心では狼狽える程ひどく心配している。


使用武器:鉤爪(召喚型)

属性:闇

ルーファ(18歳)

エルに仕える少年で、ルーリアの双子の弟。

基本何でも楽観的でエルに対しても砕けた態度を見せたり、姉に無断で散歩に出掛けたりするといった非常に自由な性格であるが、その実は計算高く目的の為なら手段を選ばないといった非情さを併せ持っている。


使用武器:魔符

属性:闇

ヴォルトス(50歳)

医師としてセブンズシティのあらゆる情報を網羅するファクティスのスパイ。エルとは旧友の仲で共にファクティスが築く理想郷を実現させるために戦う。根は温厚で争いを好まず、人を慈しむ優しさを持っているのだが…


使用武器:棍棒

属性:地

ディーネ=アストラン・ヴォーク(50歳)

セブンズシティで最も名の知れた【フルクトゥス海賊団】の船長。

強面かつぶっきらぼうな性格で非常に取っ付きにくい印象だが、実際は面倒見が良く仲間を大事に想いやり、戦いの際は常に味方の士気を上げるほどの圧倒的な強さとカリスマ性を持っている。


使用武器:大剣

属性:雷

キャビラ=ネイス(29歳)

ディーネの右腕とも呼ばれるフルクトゥス海賊団の副船長。

普段は誰に対しても温厚かつ紳士的な振る舞いを見せているが、その裏ではなんの躊躇もなく汚い仕事をディーネの代わりに請け負い、敵対する者には冷酷かつ容赦の無い態度を見せる。眼帯で隠された左目には非常に強力な魔力が秘められているらしい


使用武器:細剣

属性:地

ジョー=イルベルター(24歳)

喧嘩と女性をこよなく愛するフルクトゥス海賊団の特攻隊長。

横柄な態度と短気な性格からディーネとキャビラとは度々衝突しているが、実力は本物で時折ディーネに引けを取らないカリスマ性を垣間見せる一面がある…。リンクに出会ってからは彼女に対して徐々に興味を持ち始めるようになる


使用武器:青龍刀

属性:水

リンドウ=ラジェ・ル(31歳)

女性と見まごうほどの美しい容姿と振る舞いが印象的なフルクトゥスの医長。れっきとした男性で、大の男を余裕で担げるほどの怪力も持っているが、治療だけでなく皆の相談も全て聞く器の広さや繊細さ、リンクの秘めたる才能を瞬時に見抜くといった一面を持っている。


使用武器:大鎌(召喚型)

属性:闇

メイリン=ファオロン(17歳)

【炎の都市ーグレイー】の王女

非常に好奇心旺盛で燃えるように明るいじゃじゃ馬娘。実はサイゾウの事が少し(?)気になってる模様。王になるため見聞を広め日々精進する彼女…その真意は…?


使用武器:なし(素手で戦う)

属性:炎

シャオル=エリリ(22歳)

メイリンが幼い頃から仕えている執事。

とても気弱で泣き虫な性分であるが、メイリンを傍で見守ってきた分、大切に思う気持ちは誰よりも強いあまり、過保護で子供扱いをしてしまうこともしばしば…実は料理(特にスイーツ)が大得意


使用武器:なし(非戦闘員)

属性:無反応型の為、不明

アクアール(25歳)

【水の都市ーアクアー】の女王

非常におっとりとした口調が目立つが、王としての気品と礼節さを重んじる芯の強さを併せ持つ女性。メイリンとは旧知の仲で互いの都市を行き来するほど交流が深い


使用武器:なし(魔法で戦う)

属性:水

トルマリン(年齢不詳)

アクアールに仕える護衛剣士の女性

彼女の右腕として冷静沈着に対処する参謀役でもある

アイオラは後輩にあたる存在で彼女のことをあたたかい目で(?)見守っている


使用武器:長剣

属性:水

アイオラ(年齢不詳)

トルマリンと同じくアクアールに仕える護衛戦士の女性

生真面目であるがゆえに他人(特に男性)を警戒または敵視している節がある。その中でアクアールは最も信じるに値する唯一の人として非常に慕っている。トルマリンは先輩でありライバルだとも思っている


使用武器:ハルバード

属性:水

キョウ=アルヴァリオ(28歳)

アルヴァリオ財団を率いる若き商人

たった一人で多くの利益をもたらし

各都市の名だたる人物達の信頼を集める傍ら

邪魔する者には徹底的な制裁を加える非情さをも持つ


使用武器:ナイフ(メインは魔法攻撃)

属性:雷

オルティナ(26歳)

キョウに仕える女アサシン

過去に命を救ってくれた彼のために

影に徹しながら任務を遂行する

愛情深い故にアサシンらしからぬ

感情の昂りを見せるのがたまにキズ


使用武器:ナイフ

属性:炎

ソラ=シラヌイ(18歳)

ガイア出身の少年。病弱の母のために

身を粉にして出稼ぎし

恩人であるキョウに協力する

根は礼儀正しくて純真無垢な母思いである


使用武器:なし(拳ひとつで戦う)

属性:地

ロック=ガーナック(50歳)

【地の都市ーガイアー】の王。別名【豪傑王】

現在のガイアを統率し、民達の暮らしを案じるが故に

秘密裏に街へ繰り出す(そしてその度に妻デイジーに怒られている)

性格は豪放磊落で、家族と仲間を心から愛する


使用武器:大斧

属性:地

デイジー=ガーナック(50歳)

ロックの妻(王妃)。普段は良妻賢母の名に恥じない

振る舞いを見せ、ロックに対しては妻としてでなく

同志かつ幼なじみとして彼を叱咤激励する。

料理が大得意で料理長顔負けの腕前だとか…

結婚する前は踊り子をやっていた(らしい)


使用武器:鉄扇

属性:地

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