第21話 心の声
文字数 5,426文字
でもそれは…とても忌み嫌われる存在の証だった
生まれてすぐそれが分かると
彼ら
は私を追放し、人間達がいるこの地に降り立った
真っ暗な空、静寂の森、降りしきる雨
それが背中に冷たく打たれるうちに、私は悟った
あぁ…私の居場所はもうどこにもないのだと
絶望のあまり私はその場でずっと泣きじゃくった
そんな幼かった私に
救いの手を差し伸べてくれた
あの方は…お元気でしょうか…?
あの方とは離れ離れになってから
もう、どれくらい時間がたったのだろうか?
そういえば…先程お会いしたあの方
顔立ちがあの方に似ていて
とても凛々しかったな
怪我したお嬢さんを必死に庇う姿も
まるであの方を見てるようだった
あれ?ということは…もしかして…
しまった……名前…聞き逃してしまいました…
私ってば…ほんと昔からおっちょこちょいだな
あの方が聞いたらまた笑われてしまいますね…ふふふ
………また、お会いしたいものです
この姿ではなく…
元の姿
で…あなたに会いたい
だから
そのためには今、私のやるべき事をやらなくては
それまで、どうか待っていてください…
シンさま
【第21話】
ー ブレイネル山 神殿の入口 ー
結局シン達はメイリンの後に続いた
リンクが聞いた【警告】の意に反して…
「ねぇ、あのお姫さんにあの警告言わなくていいの?」
「言ったところでそれを信じることはおろか、足を止めるような姫君ではあるまい」
「あー…たしかにそんな気する~…って…ちょっとちょっとそこのお二人さーん!なんで君達まで黙っちゃってんのー?」
「いや、別に俺は…」
「あたしも、大丈夫です」
「ふーん…」
気になるところだが、アンは敢えて押し黙った
それから少し歩いてる途中
リンクがふとシンに問いかける
「あの…シンさん」
「なんだい?」
「さっきあたしが口にした警告ですが…その、変だと思います、よね?」
リンクは自嘲気味に笑ってそう呟いた
「いや、そんなことは」
「シンさんの素直な気持ちで構いません…サイゾウさんもアンちゃんも…口には出さずともきっと…あたしですら信じ難い事ですから…こんなこと、疑ってしまうのも、無理は…ありませんから」
「リンクさん……っ」
(違う…俺は本当に…)
ジャリっ……
「え?あの…」
シンは咄嗟にリンクの前に立った
「…俺も、最初記憶を失ったことに気づいた時…自分が何者なのか、すごく疑った…今も時々考えてしまって迷ったりもする、でも…だからこそ自分の意思を貫かなきゃ…強く信じていなきゃ…きっと誰も信じてはくれない…そう、思うんだ…!」
「シンさん」
「だからリンクさん、君は…君自身を信じてくれ…俺が君を信じてるように」
「!!」
シンの嘘偽りのない真っ直ぐな想いと言葉に
リンクの不安そうな顔色がゆっくりと
安心に変わっていく
「シンさん…本当にありがとうございます…あたしも…あなたを信じ、あたし自身の事ももう一度、信じます…っ」
優しく包むような彼女の笑顔に
また一瞬だけドクンと胸の高鳴りを感じながら
シンは一緒に笑みをこぼした
「おーおーおー♪リンちゃんの前でなぁにカッコつけちゃってんのー?シーンくーん♪」
いきなり満面の笑みで二人を茶化してきたアン
驚きのあまりシンの顔は一瞬で
真っ赤になり必死で「ち、違う!」と反論するも
アンは「またまた~♪」と脇腹を人差し指でつつきながら彼をからかった
重苦しかったはずの空気が和気藹々となる中で
リンクはたまらず笑い出し、サイゾウも内心呆れつつも口元はどこかホッとしたかのようにふふっと笑っていた
『私には、そちたちは実に息の合った者達のように見えた…縁の浅い者同士とは思えぬほどにな 』
(…ほんと…不思議なもんだな…でもまぁ、悪くはないな)
ふとメイリンの言葉がよぎると
シンは満更でもない心境になった
奇縁ではあるが
ずっと孤独だと思った旅の中で出会った、仲間と
こうして共に歩いているのだから
ーーー
ー ブレイネル山 神殿 ー
「……見えたっ!」
「あ!姫様っ!」
タッタッタッタッ……
暗く長い道のりを越えて一番乗りしたメイリンは
怪我を忘れたかのように、急ぎ足で駆けていくと
そこは、自然によって造られた空間で
岩で造られた【宝玉】を祀る祭壇が奥に一つ
その道の下では凄まじい熱気でブクブクと泡立つ
マグマが噴火口から漏れて流れている
ちなみにこの神殿は必要以上に
安全を考慮した造りではないので
風に巻き込まれて落ちたら
ひとたまりもないだろう
そんなシンプルで無骨な造りでありながらも
人を寄せ付けないほどの神秘さと威圧さが漂う
神殿内にひとり佇んでいたのは
「ひ、姫様…あれ…」
数時間前に会った
狼のようにギラついた瞳で威嚇し
赤黒いオーラを纏う、モンスターである
「そちは下がっておれ…あやつは、私がなんとかする」
「そんなっ…姫様っ…危険です!姫様ぁ!」
シャオルの制止を振り切ると
メイリンはたった一人で
モンスターの元へ徐々に近付いた
「…そち以外、誰もいないのか?」
モンスターの威嚇とマグマの流れる音だけが聞こえる
「そうであろうな…当然だ……
あの方
は用もない限り宮殿の外に出るような方ではない…レイリン兄上を失ってから…ずっと…」モンスターは静かに唸る
「のぅ、お前はどう思う?…この神殿…殺風景ではあるが、とても美しい場所であろう?ここは私と兄上にとって…大切な場所の一つであった…王となる事を誓った…この場所を…」
この地を離れる直前
メイリンは一度、この地に訪れた
そこで改めて気付かされた
兄が…どんな想いで病に苦しみながらも
王になることを誓ったのか?
この地に住む人々の幸せのため
この地に住む家族の笑顔のため
言葉ではいとも容易く聞こえてしまうが
レイリンはきっと…守りたかったはずだ
自分の手で…グレイを、みんなを
この世で一番優しい兄は、きっと、そう願ったはず
だから、メイリンは、兄とこの地に誓った
『必ず王となって、皆を守ってみせる』と
すると、モンスターは
ザッザッザッ…
ゆっくりとメイリンに近づいたと思いきや
何故かいきなり彼女に対して
礼を尽くすかのように跪いた
「!…そ、そち…何を……っ!」
モンスターの姿で隠れていた背後に目をやると
そこにはなんと…震えながら隠れてる者が数人発見
「あの者達は…いったい…?」
もしや、遭難者か?
しかしなぜこんな時にこんなところにいるのか
全く検討がつかないメイリンであるが
彼らの様子を見る限り、このモンスターに
傷つけられた形跡は見られなかった
「理由はよく分からぬが、あの者達を…解放してくれるというのか?」
モンスターはチラッと彼らに視線を向けると
「早く行け」と言わんばなりに首を降った
メイリンはそれに察して彼らに
「心配するな!こちらに来い!」と叫んで誘導した
最初は戸惑った遭難者達だがすぐに逃げるように
神殿から駆け足で脱出していった
「これで良いのか?」
モンスターは立ち上がって一歩引いた
「そうか」
OKと認識したメイリンはモンスターに微笑んだ
しかし
ヴッ…ウウゥゥ…!!!
今度は頭を抱えて苦しみ始めるモンスター
「どうした!何があった!?」と歩み寄って
心配するメイリンに…
「ひ、姫様いけません!!!もうお下がりくださいっ!!!!」
近くで見て嫌な予感したシャオルが咄嗟に叫ぶと
平静だったはずのモンスターの瞳の色は一気に殺意へと変貌すると
ガアアアアアァァ!!!!!!!
召喚した大きな槍を手に
シャオルへ向かって飛び掛っていく
「シャオルッ!!やめろ!!そやつは敵ではないっ!!!」
「はわぁぁぁぁあっ!!! 」
「シャオルッッ!!!!!!!!!!!!」
ガキィィィィィン!!!!!!
今にもシャオルを貫こうとした
大槍を一目散に受け止めたのは
「へ…?…え………あ、ぁあっ…」
グルルル……ッ!!
「シ、シンっ!!!」
凄まじい力にも屈しない
立ち向かうことを恐れない
風を纏うシンの双剣であった
「っ……ぐっ…ぅおらぁっ!!!」
ビュオオオオッ!!!!!
風の勢いを利用して
力いっぱい押し返すとモンスターは
道の端に複数ある一本の柱の頂上に着地した
「シャオルさん!怪我は?!」
「だ、大丈夫です…が…その…腰抜かしちゃいましたぁ」
「え…」
その後すぐにサイゾウ達が到着すると
「シン君!もう早速やっちゃってる感じー?」
「やはり待ち構えていたようでござるな」
「あぁ…」
「みんな…シャオル…良かった…」
シャオルが無事であることを理解すると
メイリンも安堵で肩を落とした
「皆さん大丈夫ですか!?」
「リンクさん、ここは危ないからシャオルさんと一緒に離れて!」
「は、はいっ!」
リンクが腰を抜かしたシャオルを抱えて
入口付近まで離れると
シンと一緒にサイゾウとアンも武器を持って
戦闘態勢に入るが
グルルル…ッッ!ガアアアァァ!!!!!
「なっ!?」
唸り声を上げた直後、モンスターは柱から降りて
無防備となっていたメイリンをいきなり人質にとった
ジャキンッ!!
「なっ…何をする!!」
「お姫さん!!」
先程まで敵意がなかったはずのモンスターが
なぜ急に気が変わったのか?
理解が追いつかないままメイリンは
モンスターに問いかけるが
返事など返ってくるはずもなく
一方で三人は急いで彼らの元に近付くが
モンスターはメイリンの首を軽く抑えて槍を構える
「ちょっとちょっとー?お姫さんを人質に取るなんて反則よ反則ー!!」
「戦いにおいて合理性の高いモンスター…とんだ曲者にこざるな」
「くそ…どうすればっ…」
彼らの戦いの様子を見守っていたリンクとシャオルは
「姫様っ!!姫様ー!!こっ、こらお前ー!!姫様の恩を仇で返すとは何事だ!!離さぬかこの卑怯者ー!!!!」
「シャオルさん!落ち着いてっ!今は静かに……」
キーーーー…ン!!!!
「うっ!!……ま、また…っ」
再び響く耳鳴り…しかし今度はいやに強烈だった
けれどその理由はすぐに分かった
(まさか、この音、この声…ずっとあのモンスターさんが…?)
劈く音に耳を抑えながらリンクは
モンスターから水のように波打つ
波長のようなオーラが流れてるのを目撃すると
また徐々にあの悲しげな声が聞こえ始める
(…今のあたしに…出来ることは…)
リンクは声に対して真剣に耳を傾けると同時に
心の声で対話出来るかどうか、試してみると
(…モンスターさん…今…あたしの声…聞こえてますでしょうか?聞こえてるのでしたら…返事を…)
…!……オマエハ、ダレタ"?
(!…聞こえるのですね!!良かった!…あの!あたしは皆さんの仲間のリンクです!ここに来てからずっと叫
び続けていたのは…あなたなのですね?)
キコエテルノナラ…ココカラタチサレ…コレイジョウチカヅケバコノムスメヲコロス!
(本当に…そう思ってるんですか?)
…ナンダト?
(あなたの声はずっと悲しそうでした…時折泣いてるような声も…聞こえました……あなたはもしや…そんなこと、望んでここにいるわけじゃ…)
…イマサラ、オマエタチニンゲンニナニガデキル?
…ドンナニ
ワタシタチ
ノコエガキコエタトシテモ…オマエタチニ、ナニガデキルトイウノダ?
(諦めてはいけませんっ!!
何か他にも方法はあるはず!!
シンさんやあたし達が必ず、必ずあなたを…!!
……え、あれ?…
わたしたち
?)!………イマ、ナントモウシタ?……シン?…シン、サマ…?
(え……あの…もしかしてあなた、シンさんをご存知で…?)
……ソウカ……ヤハリソウナノカ…
…リンク、サマ…オネガイデス、アノカタニ、ツタエクレマセンカ?
ワタシハ……ワタシタチハ……!!
緊迫する状況下で、三人は未だ動けず動揺していた
(この下はマグマ…落ちたら命はないか…他には)
シンやサイゾウは周囲を見渡してみたものの
隠れる場所もないために奇襲は
囮役でも立てないと難しいと見た
それにあのモンスターが本当にメイリンを殺すのか否かさえも、分からないまま
だが…
「待ってくださいっ!!!」
突然走って近づいてきたリンク
予想外の行動に三人はさらに動揺した
「リ、リンクさん!?」
「リンちゃん!なんで降りてきちゃったの!?」
「すみません!さきほど…またあの声が聞こえて」
「確かか?」
リンクが力強く頷くと
シン達を遮ってモンスターの元へ近寄ろうとする
「だ、だめだリンクさん!今近づいたら…!」
「大丈夫ですシンさん!そして、メイリン様…あたし…このモンスターさんから、二人への
伝言
を預かりましたので…!」「伝、言?」
「それはどういうことなのだ…?」
リンクは安心させるようにモンスターに視線を送ると
グルルルル……
「え……っわ!」
モンスターはリンクを信用したのか
メイリンの背中をトンっと押して
あっさりと手放し、また一歩後ろに引いた
「メイリン様!」
リンクが咄嗟にメイリンの身体を支える
シン達も彼女達の元へ近寄ると
「メイリン様…よかった…」
「リンク…なんなのじゃ?これはいったい何が…伝言ってなんのことなのだ?」
全員がリンクに注目すると
リンクはゆっくりと口を開いた
「モンスターさんから
話を…たくさん、聞かせてもらいました
この方は…いいえ…このおふた方は
ずっと苦しい思いをしてきたんですよね?
…心優しい【妖精】さんと
…心優しい【メイリン様のお兄様】は」
「!!?」
「この者が…兄上!?…そんなっ…な…なぜ、兄上が…っ!!」
「妖精と…メイリン様の…お兄さんだと…」
ドクンッッッ!!!!
(!?…あ、あれ……俺、こいつを…どこかで…)
ひとつの身体に
ふたつの魂と記憶が交差するモンスター
その始まりは、あまりにも突然で
あまりにも悲劇であった__
【終】