第27話 シナリオ
文字数 3,902文字
ー グレイ 政府館 ー
外はすっかり暗くなったが、街全体はまだ明かりがついて人も歩いてる中
サイゾウは一人、ある場所へと向かっていた
それは、シン達に野暮用と称した
ここ、グレイ政府の重要拠点である【政府館】であった
(……ここだな)
ちょうど会議が終わったのか
政府館の明かりが徐々に消え始めていた
中に入るのではなく、外から隠れて様子を見るサイゾウ
すると…
ガチャン!
「!」
館の出入口から現れたのは…
「では皆の衆、明日の晩餐会でな」
「承知しました」
(晩餐会…?)
大臣と思しき者達と
一人明らかに格上の軍服を着た者が
互いに別れの挨拶をしていると
「大統領」
次に出入口から眼鏡をかけた背高の男が現れた
「団長殿…次こそは…頼みましたぞ?」
「…えぇ、フェリオ大統領、次こそは……
抜かりなく
」二人が意味深な言葉を交わした後
フェリオ大統領が乗り込んだ馬車を団長と呼ばれる男は影も形も見えなくなるまで見送ると、自分も用意された馬車に乗り込み後を去った
そして、最後まで男の不気味な笑みを見逃さなかったサイゾウは
(キョウ=アルヴァリオ…フェリオ大統領…やはり手を組んでいたか、厄介なものだな)
あの状況を見て何か確信を得たサイゾウは考える
(晩餐会と言ったか…そこで何かを仕掛ける気か?…となれば…)
月夜に潜む新たな影…
【第27話】
ー ファオロン邸付近 草原 ー
翌日の早朝…
キンッ!!ガシャン!!
朝の冷たい風に触れながら
鍛錬がてら剣を交えていたのは…シンと
「そこかぁっ!!」
「なんのっ!!はぁぁっ!!!」
先日見た赤黒い獣…ではなく
美しい毛を朱に染め
ミールの全てを物語る真摯な瞳と…
妖精の亜種の力【獣人】の姿と化した
ミールなのであった。
「…っ…はぁ、十年ぶりだってのに…やっぱりお前は強いな…ミールっ」
「お褒めいただき光栄です…シンさま…ですが、あなたさまも…大変強くなられました…本当に…」
「強くなれたのはお前のおかげでもあるんだ…お前から…たくさん剣を学んだ、あの時から…」
「シンさま…」
シンに初めて剣術を教えたのは実は【ミール】であった。
当時シンが八歳を迎えたその年にて
ある出来事の最中に【あるもの】を見つけた
そしてそれが、剣術だけでなく…
ある目的のために旅立つきっかけとなった
休憩中、久しぶりの稽古で
出会ったあの頃の記憶がより鮮明に蘇って浸るふたりは
「お前とこうしてると昔に戻ったような気分だ」
「はい、あの日あなた様に助けられてからの日々は私にとって大切な思い出になりましたから」
ふたりの出会いは降りしきる雨の中
まだ少年だったシンはあどけない笑顔で
ひとりぼっちのミールを受け入れた
大好きな母もミールを快く歓迎した
こうしてさんにんは家族として仲良く暮らし始め
一緒に…泣いたり、笑ったり…喧嘩したりと
何気なく過ぎてゆく大切な日々が
ずっと続くと誰もが信じていた矢先…
大切な母がある日…病に倒れ息絶えた
「母さんが死んでから…もう十二年になるのか…」
「それと同時に、私達が旅立ちを決意した年にもなりますね…イリーナお母さまが遺した…【大切な指輪】を見たあの日から…」
シンの母、イリーナが唯一大切に遺した【結婚指輪】
偶然見つけた小さな箱の中から指輪を一つ見つけたが
その隣に明らかにもう一つ指輪が保管出来るような
窪みを見て、幼いふたりは
すぐに察した…片方はおそらく
父が…顔も知らない実の父の手元にあるのだと…
もちろんそれは全て、彼らの想像に過ぎないが
幼かった心にはそんな疑いの余地などなかった
ゆえにシンは決意を固めた
「それからだよな、お前から剣術を本格的に教えてもらったのは…」
「えぇ、あの時あなたさまの申し出には大変驚かされましたが…あなたさまの熱意は、いつも揺らぎない事は知っておりましたから…こっちはもう折れざるを得ませんでしたよ?」
「ははっ…そいつは悪かったよ…と同時に、感謝してるよミール」
「どういたしまして、です」
旅と修行が始まってから四年目のある日…
唐突にふたりの間に空白が生まれた。
「確かあの日私達は…【リーフ】に訪れましたね」
「リーフ………風の都市か…」
ふたりが離れ離れとなり全てが変わった場所
【風の都市ーリーフー】
「父さんの事もそうだが…やっぱりあそこには何かがあるんだろうな」
「シンさまのその後の記憶、でございますね?」
シンがゆっくり頷くと
「リーフ……でござるか」
「!!?」
背後から聞き慣れた低い声
視線を向けるとそこには、サイゾウの姿が
「サイゾウさま!いつから聞いておられたのですか?」
「つい先程な…だが、実に興味深いでござるな」
「どういう意味ですか?」
シンの周りをゆっくりと歩きながら、サイゾウは答えた
「リーフ…その都市は…影で【ファクティスの真の拠点】があると囁かれている都市でござる」
「ファクティスの…っ」
「真の拠点…でございますか?!」
サイゾウは話を続ける
ファクティスは魔法と科学で駆使した技術力が
評価され、真っ先にその技術を取り入れたいと申し出た
当時のリーフの王が彼らを【最重要機関】として手厚く招き入れた
それに続いてサクス、グレイと…彼らを受け入れる者達が
どんどん増えていった。それが悲劇の始まりであるとも気付かずに…
「悲劇…?どういうことなんですか?」
「十七年前の春、サクスでは王に不満を持った者達の
…リーフでは…王位継承を巡る
「えぇっ!?」
ーーー
ー サクス城 ??? ー
バサバサっ…
「おや…」
突如遠方から白い伝書鳩がやってきた
突き出した手に着地した鳩の足首に、
小さな書状が入った包みが着けられていた
その包みから書状を出して確認するのは
「…これはこれは、厄介なことになりましたねぇ」
エル・ブリッヂ=サルジア
彼は内容を見て頷いた後、返事の筆を取った
書き記した書状を包みに入れると
伝書鳩は再びどこか遠くの空へ羽ばたく…
「…さて…次はどう出るのでしょうかねぇ…ふふ」
彼の思惑は、はたして…?
ーーー
ー ファオロン邸 草原 ー
サイゾウの衝撃的な発言にふたりは呆然としつつ
何故そのようなことがあったのか?彼に問い掛けると
「元々サクスとリーフには致命的な【不安要素】があった」
「不安、要素?」
サクスとリーフにあった共通の不安要素
それは…【世代交代】
「なぜ、世代交代なのですか?」
「どちらも次の王位について悩みに悩み倒していた…リーフは二人の王子のどちらを王にするべきか…サクスは…都市を乱す暴虐の王をどうやって廃し新たな王を据えるべきかを、な」
リーフには
二人の王子が、王位継承を巡って牽制し合ってきた
聞くところによると
第一王子は粗野で自尊心が強いが、戦闘能力が高く
第二王子は非常に内気だが、聡明で思慮深いとそれぞれ称えられていた
性格だけなら第二王子が相応しいが
血の正統性を主張した王族と政府全員が第一王子を支持した
「お、お待ちを…!この世界の王というのは本来、素質のある者であれば身分などは問わないものではなかったのですか…!?」
「確かに。だが王族と政府は…そんなことなどお構い無しに主張し続けた。彼を取り巻く者達が自分の都合のいい流れを作る為に」
「そんな…」
ちなみに、第二王子の元には勇敢で忠実な騎士団として
名を馳せたと「トゥール騎士団」とリーフに暮らす民全員が
王に相応しいとして、彼を支持した
(トゥール…騎士団…なんだろう、どこかで、聞いたような…)
一方、サクスは
苛烈な道を歩む王は
軍事や行商の強化を重んじるあまり
民や兵士達の心を蔑ろにしているという理由で
多くの人から反感を買った
この二つの事態の隙を見抜いたファクティスは
友好関係であることを利用して暗躍してきた結果
「リーフでは第一王子が王位に就き、サクスでは革命という名のクーデター起こして先代の王は廃された…全て、ファクティスの思惑通りとなってな」
まさに悲劇と言わざるを得ない現実を前に
シンとミールは…絶句した
サイゾウもその頃はまだ幼い少年であったため
その現実を知ったのはだいぶ先となったが
彼もシン達と同じように愕然とした…
それぞれの都市で起きた、時代の終焉と始まり
だがそれらは全て、ファクティスという
卑劣極まりない者達が描いたシナリオの一部だった
………あぁ、なんて、馬鹿げた真実なんだ
「…」
「サイゾウさん…あなたはいったい…」
「別に…ただ、こういつまでもタチの悪い現実をのさばらせるのはさすがの拙者も忍びないと思ったまででござるよ…」
「サイゾウさま…」
「まぁ、そうした事態を真っ先に変えようとしたのは拙者の主だ…
そして、主と拙者が内密に計画を立てる最中で…あの文が届き
そなたの話を聞いて…ひとつ賭けたのだ
シン=ウェルディ…そなたという可能性にな」
ついに胸の内を明かしたサイゾウ
見ず知らずの他者と組んで
身内と故郷を裏切った
すべては…元凶たるファクティスを打ち破るために
己が命を賭して
【シン=ウェルディ】という可能性の道を選んだ
「サイゾウさん、ありがとう」
「礼なら、この一件が終わってからにするでござるよ………それに」
「それに?」
「リンク=アソワール…彼女についてひとつ気がかりなことが」
「リンクさん?」
突然彼女の話題になると
二人の間から不穏な空気が流れる
「リンク殿は…理由も分からず城に一人居たと、本人の口から聞いたのだが…そなたは他に何か知っているか?」
シンは「いや特に何も」と言って首を横に振った
「あのサイゾウさま…リンクさまにいったい何か?」
「いや…これもまだ【可能性】の域でござるが…」
「!!……サイゾウさん……まさか…リンクさんのことを…」
「…」
サイゾウの言う可能性……それは……
【終】