第8話 共闘
文字数 4,917文字
モンスターとの対峙からかなりの時が過ぎ去った
疲弊する中でもここからの脱出を目指すシンとサイゾウ
そして成り行きで出会った少女、アン
彼らが打ち出した打開策は
「俺が囮になります。サイゾウさんはこの子を守りつつ援護をお願いします」
「ふ、満身創痍のそなたに言われるとはな...ま、はなからそのつもりでいたでござるがな」
「えへへお兄さん方、よろしくー♪」
モンスターの咆哮もより一層の荒々しさを増すと振り絞るように水の触手を繰り出すとシンが再び風を纏う剣で切り裂いた
「...いい加減おんなじ攻撃ばっか出してないで他の攻撃もしてきたらどうなんだ?!!つまらないにも程があるぞ!!この腐れモンスター!!!!!」
ヴゥゥウぅう......ヴァアアアァアアア!!!!!!!!
反撃の狼煙が今、上がる...
【第8話】
言葉が通じたか否かは不明だがおそらくシンの大声かつ荒々しい言葉遣いを威嚇と判断したかのようにモンスターも同様に威嚇しだすとシンは勢いよくモンスターの側面へと走り出した
さらに増えた触手と新たに繰り出す無数の【水の大針】の猛追にシンは全力で躱しつつ駆け回った
...っっ!!!!!!
モンスターは見違えるほどに素早い動きで全ての攻撃を躱してゆくシンに微かに動揺するも怯むことなく攻撃を仕掛ける
(よし、このまま走り続けるぞ…!!)
本来なら満身創痍な筈のシンが
これほどまでに素早く動けるのは
単なる意地と根性だけでなく
あの時、争いに巻き込まれた心優しい少女、リンクや
ハル老人…多くの悲しみの表情が脳裏に過ぎっていたからだ
理不尽に家を、街を、大切なひとを、何もかも蹂躙され
悲しみと怒りが沸々と湧き上がるシン
そして、この怪物の手によって消された多くの命と
それを揉み消した人々の心の闇
全てを知るその時まで、争いが終わるその時まで
この三年で鍛え抜いた心と体で
シンは、全力で…走り続ける
一方、サイゾウとアンは
詠唱するアンの周囲に蔓延る魔の手を
繰り返し一掃し続けるサイゾウ
「そろそろ頃合ではござらぬか?」
「んも~せっかちね!あと、もう少し…っと!」
辛く厳しい時を耐え抜くと
ーついに
その時
が訪れたーパァアアアア....!!!!!
モンスターが立ち尽くす地面から詠唱によって発現した大きな魔法陣がきらびやかな黄土色に光っている
「よぉーーしきたーーー!!!!みんなはなれてよねー!!!!...それじゃいっくよーーせぇーーっのぉー!!ロックピラー!!!!!!」
ドゴォオオオオオオン!!!!!
設置された巨大な魔法陣から
勢いよく飛び出したのはなんと
【土や岩で出来た無数の柱】であった
「これは…【地の魔力】…!」
「突き抜けてる…柱が、モンスターを」
「いやいや、こんなんじゃ終わんないわよ…ってね♪」
パチィン!!
指を鳴らしたと同時に
貫通していた柱がモンスターの体内で砕け散る
ガァアアアアアァア!!!!
「……なるほど、ただ貫くのではなく、体内で岩を砕けばモンスターは…」
「動きが…鈍ってきてる…!」
怪物は体内で蠢く異物感により
苦痛の声で激しく掻き鳴らした
すると、サイゾウが発見した
体内にある【核】となるモノが突如光りだした
「あれが核?...なんだかめっちゃ綺麗に光ってるから、お宝にしかみえなーい!」
「否、あれはこのモンスターを生み出した元凶…【
「癒晶…石?!」
名前を聞いて僅かな引っかかりを感じる中
サイゾウがゆっくりと弓を構え始める
バチバチバチ…
「!!......矢に雷が!」
そう、彼の持つ魔力はこのサクスの象徴とされる
【雷の魔力】
シンの風やアンの地とはまた異なった力を前に二人は
「げぇ!?緑髪のおにいさん雷使い!!?ちょ...そ、そこのハチマキのおにいさん!!ボケっとしてないで早く!!避難しないと
感電
しちゃうよー!!」「か、感電?...っ!!」
水に浸かる足元を見てすぐさま察したシンは、やむなくアンと共に壁際にあった鉄の梯子に登ると
「…サ、サイゾウさんっ!!!!」
「心配など無用だ」
パシュゥン!!!!
目にも止まらぬ速さのまま
雷を纏う矢は光り輝く核を的確に貫いた
グァアアアアアアアアアア!!!!!!
貫かれた核が粉々に砕け散ると
内側から抉られたような痛みが伴った
怪物は悲痛にも似た苦悶の咆哮を唸らす
次第に身体中はひび割れてゆき
溢れ出る眩しい光に包まれながら消えゆくのであった。
ーーー
ー サクス城 会議場 ー
一方その頃、サクス城にある会議場では
家臣達が今回の脱獄について
ずっとしかめっ面したまま頭を抱えていた
その中には急遽ウヅキ家の代表として選ばれた
セシアの姿もあった
「全くなんと役立たずなのだ!たかが罪人二人もまともに見つけられぬとはっ!サクスきっての兵士と忍が聞いて呆れるわ!!」
「何を申すか!先陣切って兵士達に激励したそなたがそのような事を申すとは...情けない奴よ!」
「黙れこの腰抜け!お主など普段から縁側で茶を啜ることしか能のないやつなどに言われる筋合いないわっ!!」
「そ、それとこれとは話が違いますぞ!!」
苛立ちから二人の家臣が揉み合う光景に周囲は
「また揉めてるな、あのお二人は」
「本当だな。にしても、あの罪人たちがこうも見つからないとなれば、やはりあの水路から逃げたとしか...」
「いや、それはないだろ?なんせあそこには兵士達を食い荒らした怪物が...」
「しっ!...それは表でしてはならぬ話であろう...口を慎めお主ら」
「それはそれでよいのではないですか?もし水路を通ってあの化け物に喰われたのなら、金に飢えた下賎の民達にわざわざ褒賞金を払う必要がなくなるではありませんか...はははっ」
家臣達の心底呆れる本音がだだ漏れする論争にセシアはただひたすらに聞き流していた、なにせ彼にとってもこの光景は日常茶飯事なのだから
すると背後の襖が小さく開くと
付き人の小さな声が聞こえた
「...あれからどうなったのだ?」
「はい、どうやら無事切り抜けたようでございます」
「そうか、わかった.........ところで、あの娘は?」
「それが、一度目を覚ましたようなのですが...監視してる者達に咎められ部屋に戻ったそうで…」
「監視か…わかった…引き続き様子を探ってくれ」
「は…」
襖は音を立てずに閉じられると
タイミング良く家臣の一人がセシアを名指す
「セシア殿...また本読みながら独り言にございますか?呑気なものですね」
「さようでしたか?でしたらまことに申し訳ない...私は争い事に関してはこうして皆さんについ任せっきりにしてしまう故…」
「セシア殿、仮にも貴殿は【ウヅキ家】の人間...大殿と王子を守る者としての務めを...どうかお忘れなきよう」
「えぇ、肝に命じますよ」
セシアはにこやかに頭を下げるとそのまま何食わぬ顔で届いていた巻物を再び読みふけったのだった
ーーー
ー サクス城 ??? ー
「お呼びでしょうか?」
「あっ姉さん!早かったねー」
数十分ほど前にリンクを部屋に戻した少女ルーリアは弟のルーファに誘われエルの居る部屋を訪ねた
「いつも迅速で有りがたいですよルーリアさん」
「お呼びとあらばなんなりと」
「律儀だねー姉さんは」
薄ら笑いをこぼす弟に
若干イラッとしつつ聞き流すと
エルの口から告げられたのは
「どうやらあの者達は二人の予測を遥かに越えた者達のようでした」
「!…それでは、あの脱獄犯達は」
「えぇ、突破したそうです。
あの
地下水路に棲むモンスターを倒して、ね」それを聞いてあからさまに
不服な表情で大きくため息をつくルーリア
逆にエルとルーファはその結果をどこか嬉しそうに
微笑んでいると
「さて…こうなると、どうしたものですかね?ルーリアさん、ルーファさん?」
「次なる策を…出すまでです」
「ふふ、どうやら既に考えていただいてたようですね」
「あははっ♪だって、久々におじさんも僕も面白い余興になりそうだから僕も腕がなって仕方ないんだ~ね、姉さん♪」
「私は…私達の邪魔をする奴らを排除するまでです」
凛々しい瞳が鋭く輝かせるルーリア
「それはそれは...実に楽しみです、期待しておりますよ?お二人とも………ふふふふ…」
ーーー
ー 地下水路 ー
モンスターの気配がなくなると
シンとアンがサイゾウの元へ駆け寄る
「おぉ~跡形もなく消えちゃったわね~」
「ひとまず難を逃れた...だが、先はまだまだ長いでござろうがな」
「ところでサイゾウさん...大丈夫なんですか?その...」
パチンっ!
「痛っ!?...な、なにするんですか?!」
「心配は無用だと言ったはずでござろう。拙者は己の魔力に打ちのめされるほど、軟弱者でいたつもりはござらぬからな」
心配したかと思えばまさかのでこぴんで
返されてしまったシン
「まぁよくよく見ればお兄さん、足...普通に水浸かってもんね~♪」
「…」
「で、そなたはいったい何者でござるか?」
「ん?」
「そういえば名前、聞いてなかったね...あ、先に言えばよかったんだよな...俺はシンこっちは...」
「サイゾウ君...でしょ?シン君がずっと連呼してたからねー♪」
笑顔でそう言い返されるとシンは
またしても困惑したが少女はそのまま話を続ける
「自己紹介だったよね?私はトレジャーハンターの【アン・ダルチェル=ミーナ】!アンって呼んでね♪」
無邪気な笑顔も立ち振舞いも
そしてあの戦い振りも正直少女とは思えぬほどに
堂々としていたこともシンは困惑もあったがどこか感心もしていた
さて、まだ互いに疑いを払拭しきれてはいないが
それでも二人は脱出するため次なる道へと模索
アンはその言動に驚いたもののすぐさま二人が脱獄犯だということを思い出す
「報告するか?拙者達を連れて」
「へっ?報告?なーんでそんな面倒くさいことを私がやるのよー!」
「面倒くさいって...」
「言ったでしょ?私はトレジャーハンター!人様を観察するのは嫌いじゃないけど、あくまでも私の目的は宝をゲットするため!だからお金と人間同士の醜い争いに興味なーし!」
と、キッパリと言い放つアンにシンは
「…根性逞しいね、君」
「あはっどうもー♪」
「誉めてませんから…」
やりとりにうんざりしてきたのか
サイゾウはそっぽ向いて一番狭い水路へと歩いてゆく
「する気がないのならそれで結構...拙者達は他に用がござるからな、では」
「ちょ...サイゾウさん?!お、おいっ!…ア、アンさん、協力してくれてほんとにありがとう!それじゃあ!!」
慌ててサイゾウを追うシン
咄嗟の行動にキョトンとするアンであった
「あら~、もう行っちゃった……あ、そんなことより、あのおにいさん方ってば、あの道に行っちゃったんだ...あっちって確か私が入ってきた【罠だらけ】の道だったわよね?分かってて行ったのかしら?それとも...うーんどうしよう...追って言うべきかしら?どのみちここにはお宝は無さそうだし……それに…
あの緑髪のおにいさんが射抜いたやつは
どうやら
ハズレ
だったみたいだし…うーん、困ったなぁ」はたしてそれぞれの判断は
いったいどのように繋がってゆくのか?
【終】