第6話 自称・トレジャーハンター
文字数 3,383文字
ガサガサ...ガサガサ...
「.....っあ~~つっかれたぁ~...ったく、この森はいったいどうなってんのかしら?宝っちゅう宝なんてぜんっぜん見当たらないわ、至るところに罠が張られて怪我しそうになったわ、そのせいでがっつり迷子になっちゃうわでもう散々っ!!…ほーんと!!サクラと見栄だけは無駄にご立派なんだからサクスはぁ…あぁぁぁもおおおお!!!!!…………はぁ~」
森の中、いきなりストレス発散するかのように
罵詈雑言な独り言を絶叫する少女【アン】
普段はもっと天真爛漫に振る舞う彼女は
シンとほぼ同じタイミングでこの地を訪れ
ある【宝】を手に入れる為、都市内を探索する
自称
・トレジャーハンターであった今日は都市内にある森林地帯に
一人、意気揚々と入るが
サクス城が意外と目前という距離とあって
ご丁寧に崖が近く
夥しい数の罠があちこち張り巡らされ
まともに歩けず迷子になるというのも
非常に気の毒…であるが…
「やれやれ、あの変なモンスターのせいで街は大惨事になって外回りが兵士さん方がめーーーっちゃ増えたから、余計歩きにくくなっちゃったなぁ…早くほとぼり冷めてくんないかなぁ~~………ふぅ…言いたいこと言いまくってたら喉乾いてきちゃった...どこかに都合良く水はないかし...ら?」
ふと耳を済ませると
微かな川のせせらぎが聞こえると
アンは期待に胸を膨らませながら
罠を、崖を、森を、颯爽と駆け抜けた
そして…
「わあぁっ!みーずーだー♪」
近くにある水路を通して流れてくる水に
アンは感激のあまり豪快に顔を
川の中に突っ込ませながら水をがぶ飲みした
「ぷはぁ!!…っあ~~生き返った~♪やっぱ人間水がないとダメよね~……...ん?」
何の気なしに水路に視線を向けたアン
その先には今、シン達がモンスターと対峙している
場所に繋がっているが、無論彼女は
そんなことなど知るはずもない、が...
(んーー...やっぱ宝を集める冒険者としてはこういう寄り道も大事よね♪んでもってぇ…これで宝も見つかったりしたら...むふふふ♪)
自称とはいえトレジャーハンターとしての熱意を抱く
アンの心には欲望はあれど迷いは一切なかった
はたして、この不思議な少女の好奇心は
吉と出るか、凶と出るか...
【第6話】
ヴォオオオオオオオ!!!!!
水で造られた予測不可能な攻撃と
聞いてるだけで気が狂いそうなほどに響く絶叫が
シンとサイゾウを徐々に追い詰めていた
下から攻撃すると分厚く覆われた水で全く歯が立たず
上から攻撃しても無数の水の触手が彼らに迫り
油断すれば身体の一部を掴まれ
そのまま地面へと強く叩き落とされてしまうという
案の定、満身創痍のシンには完全に分が悪い戦いだ
サイゾウもこの苦戦を強いられる中でも
形勢を変えようと必死に思案した
(魔力を矢に一点集中させ弱点を突けばどうとでもなるが.......難儀なものだ)
今の彼に必要なのは、強力な一撃を与えるための時間の猶予と無造作に動き回る怪物の弱点であるが、事態は彼の想定していたものよりも酷く、非常に困難を極めていた…
そんな状況事態がそもそも予想外であると
心の中でひたすら項垂れるシンは
(ちくしょう…上も下も、ろくに攻撃が当たらない...物体が全部水なもんだから剣で斬ろうにも斬れないっ...どうすれば....っっ!!)
考える暇を与えない攻撃がシンに襲いかかる
鞭のようにしなる水の強烈な横薙ぎにより壁へ激突した
凄まじい攻撃と俊敏過ぎる攻撃に手も足も出ないまま
ゆっくりと膝を崩した
「っ...ぐぅう、くっ.....くそっ....」
激痛で意識が次第に朦朧とし始めた
自分は…ここで終わってしまうのか?
(し、死んで、たまるかよっ...こんな、ところで...モンスターに殺されるだなんて、絶対に、いやだ...!
...俺には、まだ...!!)
否、シンの心は決して死にはしなかった
ーーー
パシャンパシャン....
「ふんふんふーん♪おっ宝おっ宝~お宝が私を待ってるっかも~!なーんてっ...およよ?」
呑気にスキップしながら口ずさむアンだが
前方から、聞こえる異様な雄叫びを聞くと
さすがに只事ではないなと、足を止めながら
考えた末、彼女が導き出した答えは…
「......闇に潜むモンスターが、サクスの秘密の宝を隠していた…?!......そうだとしたら…!くっ…ふふふふ♪ぃよーしっ!!とつにゅーかいしー!!」
非常に呑気で前向きな答えであった。
「おったから♪おったか......やや?」
当然ながら辿り着いた先の光景は
お宝とは程遠い光景であった
「ぐぁっ!!!!」
人と怪物が広い空間で繰り広げる、乱戦
思いもよらぬ光景にアンは
「なぁんだ~先客いたんだぁ~しっかも若い男前が二人も…!物好きってほんと多いわね~」
ニヤニヤしながら全く見当違いなツッコミを入れるアン
ここまで来るともはや清々しいと言わざるを得なかった
グォアアアァァアァアァァア!!!!
しかも、空気なんて知ったこっちゃないと
言わんばかりの大声でシン達に話しかけた
「おーーーいそこのおにいさん方ーーー!!お宝見つけられたーー!?」
拍子抜けする無邪気な声が聞こえたシンとサイゾウは
思わずそちらに目を向けると
「...お、女の子っ?!...ここは危ない!!いますぐ逃げるんだ!!!」
「へっ?」
声に反応した怪物が少女の背後から
複数の水の触手を差し向けた
「しまっ…!!!」
カチャン...
(えっ...)
気がつくと触手は
一歩たりとも微動だにしなかった少女の
周囲で弾け、水に還った
ただひとつ違っていたのは
腰に巻き付けられていたはずの大きな杖を
いつの間にか手に取って
まるで刀を鞘に納めたかのように
静かに佇んでいた
少女はいったい何をしたのか
刹那よりも遥かに速いその一瞬は
二人の目で追いつくことは叶わなかった
そして、肝心のアンはなに食わぬ顔のまま
口に入った悪臭混じりの水を吐き捨てながら呟いた
「んん?んわっ!やだ何この水超クサーーイ!!!…ぺっぺっ…!!…んぁ~もう~超さいあくなんですけどー!……っ!!」
またまた不機嫌モードとなった彼女が睨んだ先は
「ちょっとそこの無駄ーーにでっかい!デカブツモンスターさん!!私を狙うのは結構だけど、私の服や体に変なモノ付けるなんていい度胸してるわね!?やらかしたからには、どう責任、取ってくれるのかしらァ?」
「そこ、怒るところなのか?」
「…」
小声でツッコミを入れるシンと
呆れつつ無言で眉間にシワを寄せるサイゾウであった
一方で怪物はアンの言葉を理解するはずもなく
ただ【敵意】という感情を読み取り
アンに対して激しく威嚇し始めた
ギャアアァァアァアアアアア!!!!!!
「へぇそう…それがアナタの答えなのね?いいわ、だったら力づくで責任取らせてやるわ…
アナタの持ってる【
お宝
】で、ね♪」ーーーーーーー
ーサクス城 客間ー
「んん…」
呆然としたままリンクはついに目を覚ました
目線で周囲を見回したものの全く見知らぬ部屋ゆえ
戸惑いながらゆっくりとふわふわする体を起こした
(ここ、どこ…なんだろう...あたしは確か、街で子供達と...一緒に........いっしょ、に)
包帯が巻かれた頭に手を添えながら記憶を遡ると
そこにはドラゴンに町を襲われ
怯える子供達を抱えながら
一緒に避難していた青年...シンの姿が浮かんだ
記憶はあのドラゴンの攻撃で起きた
爆風に巻き込まれたところで途切れると
(そうだっ……あの人は、子供達は…今どこに…!?)
全てを思い出したのと
彼らの安否を確認するべく
リンクは腕に施された点滴を
無理矢理外し、立ち上がった
(行かなきゃ…子供達の、あの人の、ところへ...!!)
負傷した影響で激しい頭痛と貧血に襲われながらも
リンクは必死な思いで外に出る準備をするのだった。
【終】