第24話 勇気を
文字数 4,299文字
『いいのか、ミール…俺の用事に付き合うなんて』
『今更何をおっしゃいますか!わたしはシンさまの家族であり相棒です!シンさまの行くところならたとえ火の中水の中っ!でございますよ!』
『ミール…』
『それにわたし…シンさまだけでなく…イリーナお母さまにも感謝しているのです…お二人は、唯一わたしの事を…受け入れて下さった大切な家族なのですから!』
『ミール、わかった…一緒に行こう!』
『はいっ!』
家族と呼んでくれた、愛しい『ミール』
どうして、こんな大事なことを忘れていたのだろうか
どうして、あいつが苦しんでる時に
そばにいてやれなかったのだろうか
俺がもっと強ければ、こんなことには
ならなかったのか?
考えれば考えるほど、後悔が募るばかり
辛かったろ?苦しかっただろ?ミール…
そばにいてやれなくて
本当に…本当に、ごめん…ごめんなっ…
俺を許さなくてもいい、軽蔑してくれて構わない
だけど俺は…今度こそお前の事を
助けたい…守りたい……今度こそ…っ!!
【第24話】
ー ブレイネル山 神殿 ー
詠唱が行われた後
リンクは光に包まれながら
徐々に不思議な形を成していった
真っ白な体、鋭利な黄金の角、光が反射するほど澄んだ鱗、そしてその身をまるで天使のような神々しく美しい羽根を身に纏うドラゴン【メビウス】は
リンクと同じ蒼い瞳を輝かせ
未だ悶え苦しむモンスターに慈悲の光を浴びせると
ヴヴゥゥ…ガァァァァ…!!!
突然心臓がドクドクと脈打つと
今度はジリジリと身を焼かれるような熱い痛みを胸に感じる、それを必死に手で抑えるモンスター
しかしその手の中からは小さな赤黒い光が現れて…
「あれって…まさか」
「癒晶石…?」
露になった光、もとい癒晶石は
メビウスの力に押し負けるように
あっけなくひび割れを起こし、粉々に散った
パキパキ……パリ……ン!
「兄上…!!」
癒晶石による歪な魔力で形成されたモンスターの身体は砂のようにサラサラと崩れていく
それは本来の
あるべき姿
を取り戻すように…ーーー
パキパキパキパキ……
『これは…あ、あれ?身体が………レイリンさ…!!』
ゆっくりと崩れ去る異空間
そこから漏れ出す暖かな光が
ミール自身にずっとこびりついていた
歪な力を消し去っていく、けれど…
何故かレイリンの体は歪な力ごと
消えてゆくのをミールは決して見逃さなかった
『レイリンさま…お、お身体が…』
『ミール…お前との時間…とても楽しかったよ』
『な、なにをおっしゃるのですレイリンさま!戻るんです!私と一緒にっ…シンさまとメイリンさまの元へ…!』
『ミール』
『…っ!』
少年の姿からは想像もつかない威厳ある声が
ミールの体を強ばらせる
『…生前の私は…自分の身体と運命を呪いに呪った…死んだ後もそれは変わることはなかった…お前と、出会うまではな』
『レイリン、さま』
『この十年…辛かった日もあれば楽しかった日もあったな…姿形はどうあれ、お前と過ごした日々だけでも私はとても幸せだったのに、最後の最後であいつの成長をこの目で見ることが出来た…お前達は…私に、かけがえのないものをくれた…ありがとう』
『レ、レイリンさまぁ…っ』
『これでもう…思い残すことはない』
『そ、そんなの…そんなの、ダメです!言ったではありませんか!!!元に戻ったら…メイリンさまに会うって!会ってもう一度、抱きしめたいって!…いっしょ、に…いっしょに、また兄妹で、みんなで、野山を駆けたり、ピクニックしたり、いろんな思い出を作ろうって…!!』
ボロボロと涙をこぼしながら
ミールはゆっくりと消えゆくレイリンの手を
掴もうとするが
『あ…!』
ついさっきまで触れられたはずの手がまだ
目の前にあるのにも関わらず、するりと抜けた
彼がもう、この世に存在してないという
鮮明で、残酷な現実がミールの心に
鋭いトゲとなって突き刺さる
『あ、あぁ…』
『約束したのに、すまないな…ミール。でも泣かないで…これは、決して間違いなどではない…たとえこの命が誰かに弄ばれようとも、命の道理は必ずやってくる、誰も逆らうことの出来ない…命の道理が』
『いのちの…道理…』
レイリンは儚く透ける手でミールに触れた
『私はもうこの世に生きてはおらぬが…ミール…お前は違う。お前の命はまだ…ちゃんと生きている』
『…!』
『ミール、お前は、お前の守りたいもののために戦え。お前を待ってくれる者達を、家族と呼んでくれる彼を、お前が、支えるんだ……これが私の…最後の、わがままであり、約束だ……良いな?』
『ひっく……うぅ…はいっ…約束します!レイリンさまっ…わたしは…必ず皆さんを守ります!必ず!皆さんを支えてみせます…!!だから…だからっ』
『うん…ありがとうミール…本当に…ありがとう』
スゥ…と光に吸い込まれるレイリン
離された手は既に遠く
『あ、ぁああ…レイリンさま…レイリンさまぁ!』
『彼と、メイリンにも…よろしく伝えてくれ』
『レイリンさまーーーーーー!!!!!』
ーーー
スゥゥゥゥ……
歪な力が完全に消えると
空から赤く丸みのある人形のような姿をした
妖精・ミルファリア…ミールが姿を現したが
メイリンの兄、レイリンの姿は…どこにもなかった
「ミ、ミール…!!」
シンは痛みを忘れたようにすぐさま飛び起きると
落下してくるミールに手を伸ばした
だが安心したのも束の間
掴まえたのはいいが、うっかり足を滑らせ背中から転倒してしまい傷ついた体が何倍にもなって響いた
「っ…ミール…しっかり…!」
まだ意識が戻っていないミールの目元に
大粒の涙が溜まってるのを見て
シンはすぐに察しがついた。
(レイリン、さん…)
メイリンのたった一人の兄で
ずっとミールを友達のように支えてくれた彼を
救えなかった…救うことが出来なかった
「ミール…レイリンさん…ごめん……ごめんっ…」
ギュッとミールを抱きしめながら
シンは悔しさのあまり涙した、すると
ありがとう
「!…い、今のは…」
シン
「レイリンさん…!」
君たちのおかげで、私もミールもようやく解放された。本当に感謝してるよ
「そんな、俺は何も…」
ミールと、メイリンの事、よろしく頼むよ…
澄み切った少年の優しい声
幻聴…だったのだろうか…
にしては現実味のある声だった
シンはもう一度ミールを強く抱きしめると
「レイリンさん…ありがとう…」
彼への思いを口にし
微かな光が空へ登りきるのを見守りつづけていると
ゴゴゴゴゴゴ……
「こ、この振動は…!」
「まさか…またも噴火が起きようとしてるのか」
「やーん!ちょっとー!このタイミングで噴火だなんて空気読まなさすぎー!!」
「あわわわ…どうしましょうっ姫様!」
「…」
「姫…様?」
グラグラと地面が揺れる最中
メイリンは突如、何も言わずに
一歩一歩、宝玉が奉られた
神殿へと足を運んだ
(兄上…)
メイリン…私はいつでも、お前を見守っているからな
夢でもいい、幻聴でもいい
背中を押すように語りかけられた
兄の言葉が今のメイリンにとって何よりの…
「私…頑張るよ…兄上…!」
「姫様…!何を…」
「宝玉を修復する…私の魔力で…この噴火を止めるっ!」
「無茶だよっ!そんな体で魔力を使ったら…!」
「無茶ではない…兄上が、私にくれたのだ…勇気を…大切な人達を守る…勇気をっ!!!」
メイリンが宝玉に向かって勢いよく両手を翳すと
「勇敢なる灼熱の光よ、私に力を…!!」
両手から炎のような光を発生させると
宝玉はそれを一気に吸収し出した
しかし、アンの言う通り
今のメイリンに修復出来るほど魔力が残ってるとは
到底思えない、それこそ、自殺行為だ
誰もがそう思った、そのとき__
パァァァァァァァァァァ!!!
白きドラゴン・メビウスが
メイリンの体を癒した上に魔力を増幅させた
心の奥底から力がみなぎる…それはまるで
限界を越えたかのように…!!
「リンク…!」
チラッと振り向くとドラゴンの姿から
リンクの微笑む姿が浮かび上がったように見えた
メイリンの心はより一層の勇気が湧き上がる
「ありがとう、リンク…感謝する…!!
はぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
魔力はどんどん宝玉に吸収されていく
「いっっけぇぇぇぇぇぇえええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!」
失われつつあった光とメイリンの行方や如何に?
ーーー
ー グレイ ファオロン邸 ー
メイリンが宝玉に魔力を注いでから
数分経った頃…
「……止まっ…た…いったい、どうなって」
コンコン…
『アクアール陛下』
「トルマリンさん?…お入りなさい」
ガチャ…
「失礼します」
「トルマリンさん、さっきの揺れは何事ですか?もしや、また噴火が…」
「はい、確かにブレイネル山から発生した振動でしたが、近くにいる調査隊の報告によると…ブレイネル山は今…噴火はおろか、山全体が回復に向かっているそうなのです」
「回復?どういうこと、ですの?ファオロン陛下は今宮殿にいらっしゃるのに、どうやって…」
「陛下、私の推測ではありますがおそらく……
「!?…………まさかメイリンさんが?」
ーーー
ー ブレイネル山 神殿 ー
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
メイリンは…
宝玉の修復を、無事成し遂げた…
皆で一緒に辿り着くことができたから
兄やリンクが、自分の背中を押してくれたから
全部…やりきったんだ
それに安堵したメイリンは
身体の力が抜けてしまい足元を崩してしまう
「…わっ!」
ドサッ…
「!!…サ、サイゾウ…そち………あ、怪我っ…」
「全く…ここには無茶ばかりするお人好ししかおらぬようでこざるな」
「なっ…それを言うならそちは……物好きな奴だ!」
「ふ……そうかもしれぬでござるな…お人好しの姫君」
「…!!……ふんっ!」
サイゾウにからかわれ
むくれてそっぽ向くメイリンであったが
ひっそり、微笑んだことは…きっと誰も知らない
パァァァ……
「!………リンクさん…」
まばゆい光を納めるように白きドラゴンの身体は
少しずつ消え始めると、今度はそこからリンクが
ゆっくりと床に着地するも慣れない力を使った影響か
疲れ果てたように意識を失っておりそのまま膝を崩して倒れ込むのだった
「アンさん、ミールを頼む」
「え!あ、シンくん!……あれ?この子の名前って…」
ミールを助けてから
先ほどまで受けた傷の痛みはどこへやら…
シンは急いで彼女の元へ駆け寄る
「リンクさん!大丈夫か!」
力を使い果たしたリンクだが
呼吸は正常であることを確認した
(無事で、よかった…)
リンクの持つあの不思議な姿と力…
自分達ではどうすることも出来なかったモンスターを
こうもあっけなく消滅させてしまうとは…
何もかもか不可解で謎に満ちてる彼女であるが
今は……
「…ふたりを救ってくれて…本当に…ありがとう」
今はただ、その言葉以外…何も浮かばないでいた__
【終】