第73話 罪
文字数 2,466文字
すべて救済への道に繋がるのであれば
私は…喜んで鬼となろう
仏の心を捨てた…【鬼】として…
ー マリア 霊園 ー
霊園に着いてから数分…
そこに人気はなく、ヴォルトスは手慣れたように
水汲み場に置かれていた手桶に水を入れ、さらに奥へと進んだ
道が開けた静かな霊園では容易に
接近しづらくなったケイは
気配を消し、背中が見える程度に
距離を保ちながら尾行していくと…
「…!」
そこには、どの墓よりも大きく
堂々とした墓が目の前に聳え立っていた
「…これは、いったい誰の……」
墓石に名前が一切記されていないため
誰の墓なのかケイは全く検討がつかない
一方ヴォルトスは粛々と墓参りの準備を始めた
……___
準備を滞りなく済ませたヴォルトス
最後は蝋燭と線香に火をつけ、拝礼した
結局情報が得られなかった事に
がくんと肩を落としため息をついたケイ
このまま黙って立ち去るだけというのは
非常に癪に障る展開であったのだが…
「……
サーラ
、アリス
」「!!」
「…君達に花を供えるのは、今日で最後だ」
(何…?)
見知らぬ誰かの名前を口にしてすぐ
謎の言葉を囁いたヴォルトス
ケイはいったい何の話だと思い
さらに耳を傾ける
「私はこれまで…自分の夢の為に歩んできた。その夢が叶い、役目を果たした時、すぐに君達の元へ参ろう…君達を含め、多くの命をこの手で奪った罪を償う為に」
「…っ!?」
その告白を聞いた瞬間
ケイはまるで心臓を抉られたような気分に陥った
(…夢?多くの…命?いったい、なんのこ……)
ジャリッ…
「!…そこで盗み聞きしているのは誰だね?」
(しまった…!)
迂闊に動いた事で気配を察知されたケイ
警戒するヴォルトスは慎重な足取りで近付く
ドクンッ…ドクンッ…
足音が近くなると共にケイの心臓の鼓動が速く脈打つ
ここでの戦闘は避けたいところだがそんなことを言っていられる状況ではないと悟るケイは
一度深呼吸し、意を決して立ち上がろうとした
その時…
ジャリッ…!!
別の場所から別の足音が聞こえた
「む、貴殿は…」
「ふふ…いかに無防備であろうとも、武人の性は消えぬ、か…流石はエル・ブリッヂ=サルジアに認められた医師……ヴォルトス=クラージュ殿」
「……そうか。貴殿はたしか、リンク=アソワールらと共にいた…サクスの忍…私の名をこうも容易く探し当てるとは大したものだ」
(サ、サイゾウ!?なんで、こんなところに…!)
毎度恒例の飄々とした態度で現れたサイゾウ
ケイと別行動を取ってたはずの彼が
ここに来た目的とは…?
ーーー
ー マリア 宿屋付近 ー
「おや、このお店…なんのお店でしょうか?」
宿屋に到着する直前にて
シン達はある店に目を引かれた
その店の名は【雑貨屋メモリー】
白い建物が軒並み揃う中で
一軒だけ赤を主にしたカラフルで異様な雰囲気を醸した店であった
「なんか、あからさまに他の店と全然違うな…何を売ってるんだ、ここ」
「雑貨屋…でしたら、きっと日用品からアクセサリーと色んな物が売られているんじゃないでしょうか」
「おお!なんだか面白そうですね…入ってみましょう!」
「カランはこの店のこと、何か言ってたっけな…?ま、いいか」
シンプルな名前に反して
建物の主張が激しい謎の雑貨屋
いろいろと疑わしい点が拭えぬも
好奇心が勝ってシン達は躊躇なく店に入った
「お、いらっしゃい~」
「こんにち、は…」
この気の抜けた声の主は、少し痩せ気味な容姿をした白髪の老人
おそらく彼が店主のようであるが
カウンター台の上で足を乗せくつろぎながら
街の新聞を読んでる姿から、客を迎える態度とは到底思えなかった
「久しぶりの客だなぁ。ま、大したもんはねぇが、ゆっくり見てくれ~」
「あ、はい…」
そう言って店主は再び新聞を眺める
不安がありつつも、彼からはあまり悪意を感じない
そう思う理由はなぜだか分からなかった
分からないからこそ慎重に足を踏み入れるべきだと
理解したシン達であったが
いつの間にか、並べられた物珍しい商品の数々を夢中で眺めるのだった
「シンさまシンさま!この船の模型…中にある部屋までちゃんと造られてますよ!?」
「こんな細かいところまで造られてるのか…すごいな」
シンの目線と同じ位置に置かれた船の模型はどれも港で見かけたことのある
船ばかりであるが、その造りは素人の目から見ても本物とそっくりな
素晴らしい傑作品ばかりであった
「こんな素晴らしい作品が店で売られているとは本当に驚きです…お値段は……ひえええ!!?」
人生で幾度お目にかかるか分からないほど高額な値段に
驚愕するミール…シンも驚きを通り越して苦笑いしか出なかった
一方、カウンター付近にあるアクセサリーコーナーで
リンクが異様なまでに、静かに、立ち尽くしていた
「…!……リンク?」
呼んでみるも返事が返ってこない
まるで何かに惹き付けられたかのように
(なんだ?何か気になるものでも見つけた、のか?)
妙な胸騒ぎを感じたシンは迷わず彼女の隣まで近づくと
「リンク…リンク!」
「あっ…シ、シンさん」
「何か、気になるものでもあったかい?」
「い、いえ別に…っ」
誤魔化すような素振りを見せるリンクだが
その手に持つアクセサリーが手掛かりだと察知したシンは
それと似た物を見つけた。形はハート型のアクセサリー
真ん中からジグザグの裂け目があるが、磁石でくっつく仕様になっている
こんな可愛いらしい物を前に、ひどく動揺を隠せない彼女の様子がどうしても気になったシンは
差し障りのないよう遠回しの形で質問してみた
「これ…なんだか可愛い形のアクセサリーだね。気に入ったのかい?」
「あ、いえ…これは、その…………あ、あたしの知ってる人が、持ってた物で…」
「知ってる人?」
「おや兄ちゃん。そういったまじないもんは知らんかね?それは昔、恋人同士が片方ずつ大人になるまで持っていると必ず結婚出来ると、子供達の間で流行ってたアクセサリーなんだよ」
「えっ?」
「…」
突然輪に入ってきた店主から聞かされた思いもよらぬ事実に
シンは絶句し、リンクは…何故か悲しげな表情で俯いてしまった
アクセサリーに秘められた
リンクの小さな
過去
【終】