第23話 居場所
文字数 5,261文字
ー現象は異なるも、根源は同じー
その意味が理解できないまま
誰一人望まない戦いが今、始まる__
【第23話】
癒晶石の力により、声が途切れた上に
理性を失ってホンモノのモンスターと化した
レイリンとミルファリア
がむしゃらに振り回す大槍を受け止め続ける中で
シンは必死に声を張り上げて二人の名を何度も何度も
必死に、呼び掛けた
ガンッ!ガンッ!ガンッ!!
「ぐっ……っ!…やめろ…やめるんだっ!レイリンさんっ!正気に、戻ってくれ!!!ミルファリ……っ!!」
ブォンッ!!!
振り回す大槍を寸前で避けると
シンの背後からサイゾウが矢を放つも
即座に切り捨てられ、その隙にアンは
魔法で食い止める……が
ガァァァァァァァ!!!!
「げっ…!うそっ…」
威圧的な咆哮であっさりと魔法を打ち破ると
「!…きゃあぁぁっ!!」
そのまま吹き荒れる突風により
アンは後方へ軽々と吹き飛ばされてしまう
「ぐっ…こ、の……!!」
追い討ちを掛けるように
大槍で薙ぎ払われるところを
魔法で防御するも間に合わず…
ガァァァン!!!!
モンスターの凄まじいパワーの前に
呆気なく力尽きるアンであった
「アンさんっ!!…はぁぁ!!」
風の魔力を剣に纏わせ
上空からモンスターを狙う
ガキィィィィン!!!!!
激しい攻防、互いに魔力を増幅させながら
刃を交えるも、致命的な攻撃を与えることが出来ず
ただただ体力と魔力が無駄に消耗していくばかりであった
一方、モンスターの中にいる
レイリンとミルファリアは
『シンさま!!皆さん!!ダ、ダメ!!殺さないで!!もう、これ以上…誰も傷付けたくはないのに…!こんな、こんなの…シンさま…シンさまぁ…!』
『…メイリン、みんな…っ……頼む、どうか…生き延びてくれ…頼む…!』
ふたりがどんなに涙を流そうと
どんなに握りしめる手から血が出ようとも
彼らの戦いを見守ることしか出来なかった
この理不尽で不毛な戦いを、ただ………
「っ!……はぁ…はぁ…」
距離を置いた瞬間、魔力が底を突いたのか
案の定、心身の疲弊が押し寄せ、一瞬だけ目眩を起こし膝を崩した。サイゾウも幾度となく矢を放って援護に回っていたが、まだ完治していなかった身体に負担を掛けすぎて…体力だけでなく弓を射る腕の力が徐々に抜けていくのを感じていた
「クソっ…これじゃ、埒が明かない…どうにか方法を…っ」
【癒晶石は…現象が異なっていたとしても、バケモノと化させる根源そのものは全て同じ…】
ふとサイゾウの言葉を思い出したシン
癒晶石…それが今ふたりの魂をバケモノに変化させた恐ろしい石。正直まだ何一つ理解出来てないが
先日遭遇したサクスの地下水路に棲んでいた
あのモンスターも…また…
(あの、モンスターも…元は…人間…っ)
思い返せば、あのモンスターにいったい
どれだけの魂が宿っていたのだろうか?
誰にも知られることなく命を奪われた上に
醜いバケモノにされただなんて誰が想像するだろうか?
(ファク…ティス…あいつらが、ミルファリアと、レイリンさん…みんなを…)
妹を思う優しい兄と
自分のことを恩人を呼んでくれる優しい妖精
こんな理不尽なことがあっていいのか?
考えれば考えるほど
シンの心は怒りと悲しみで張り裂けそうになる
(…ちくしょう…ちくしょうっ……ちくしょう!!!!)
だが、今は憤りする暇など与えられるはずもなく
モンスターは追い詰めるように隙だらけのシンに狙いを定めた。
「っ!?」
力を振り絞るようにモンスターの突進を咄嗟の判断で
間一髪避けるも、見た目以上に俊敏なモンスターはすぐさま方向転換し、懐へ飛び込むように突進する
ドゴォォっ!!!
「がっ…!!」
腹部に強烈な打撃…それによりよろけたシンをさらに追い打ちをかけるように手ぶらとなった腕を強引に掴むと
「!!…しまっ…!」
グァァァァァァァァ!!!!!!!!
モンスターはシンを地面へと激しく叩きつけた
「シ、シ…シンさんっ!!!!!!!」
一瞬で起きた凄惨な光景にリンクは顔を青ざめながら
シンの名を叫んだ。一方でメイリンとシャオルは
恐怖で絶句するしかなかった
「嘘だ…兄上…兄上ぇ…こんなっ…」
「姫様っ」
「何故だ…どうしてだ、どうして兄上なのだ…どうして、あの妖精なのだ…ふたりが、何をしたというのだ…!悪いことしたわけではないのに…なぜこんな仕打ちをさせるんだ…!…どうしてっ…どうして…!!!」
本当は、メイリンが一番怒りを感じるのは
自分自身であった。自分の知らないところで
兄は何者かの手によって命を弄ばれた
その事実を知らないまま、兄がずっと苦しみながら生きていた間、自分は…何をしていたのだろうか?
どうにもならない感情が、涙で現すので精一杯だった
しかし、理性を失い非情となった業火は
妹の心情に見向きもせず
ガシッ!!!…グググッ!!
「ぐっ……ぁ…っ!……!」
大きな手でダウンするシンの首を
ガッ!!と首を絞める勢いで掴むと
ジュウゥゥゥゥゥゥ……!!
「!!」
首を絞める手から経験したことのない
灼熱地獄がシンの首に伝わる
「うあ”ぁぁ…っ!…がっ…!…ぁ…!!!」
「!?…シンさん!やめて!やめてぇ!!!!」
「ダメです兄上っ!!その者を…!!シンを殺してはいけません!!兄上ぇぇ!!!!」
彼女達の必死の説得も虚しく
モンスターはシンを一息に殺すのではなく
ゆっくりといたぶるようにジリジリと焦がし
彼が少しずつ息絶えるのを見守っていた
シンも手を必死に剥がそうと抵抗するも
微動だにせず、ただ窒息していく体はどんどん力を失うことしか出来なかった、そのとき
ヒュンッ!バチンッ!!!
……っ!!!!
「チッ…」
サイゾウが自身の傷を省みずに
三本の雷矢を同時に放ったが
先ほどよりもさらに強化された
モンスターの装甲には傷一つ、つかなかった
だがその矢に怒りを示したモンスターは
シンの首を掴んだまま、もう片方の手で
炎の大槍をサイゾウに目掛けて勢い良く投げつけた
グゥゥゥ……ガァァァァァアッッ!!!!!
「くっ……!!」
危険を察知したサイゾウはそれをいち早く避けると
「ひ、姫様ぁ!!」
後ろにいたシャオルがメイリン達を押し倒す勢いで
自分もろとも回避したと思われたが…
ジュッ…!!
「っ!!」
「ひっ…ぁ…!」
「サイゾウさん!!シャオルさん!!」
不思議なことに炎の大槍を直接受けた筈がないにも
関わらず、サイゾウの肋と、シャオルの背に
火傷の効果を得た切り傷が二人の体に現れた
それを見て驚きつつメイリンはすかさず
背後の壁に突き刺さった大槍を見てある事に気づいた
「まさか…炎の…衝撃波…っ!!」
魔力による衝撃波…それは武器や魔力の使い方次第で何通りものの衝撃波を生み出せるシンのように、剣に風を纏わせ振りかぶるとかまいたちのような衝撃波が発生するようにモンスターの放った大槍は
投げた大槍そのものに追撃効果のある
衝撃波を纏わせていたのだ
「なんてことだ…これでは迂闊に責められない…兄上っ…!」
現状、動けるのはリンクとメイリンだけ
しかしメイリンの場合は先の奇襲で足を負傷したせいでろくに戦えないし、リンクはそもそも戦闘経験のない一般人…つまり、戦力は皆無ということだ
すると、モンスターは急に何を思ったのか
ゆっくりと道の端へ進んだ
当然シンは首を掴まれたままで
「な、なにをするつもりですか?…兄上っ」
手すりも柵もない道の端の下は、マグマの川
「ま、まさか……だめっ…だめです!シンさんっ!!」
嫌な予感したリンクの声に変わらず耳を貸すことなく
モンスターは今にもシンを川へ落とすような形で
首を掴む腕を伸ばした
「やめ…ろ……っ……やめるん…だ……」
必死に呼びかけようと精一杯声を出そうとするが
抗えきれない圧迫感と抉るような熱気で
喉が掠れて小さくなる…
「もう…やめ、る……ん、だ………
ミー
……ル
…っ!」………っ!!!!!?
ーーー
【ミール!今日からお前は俺の家族だ!】
【家…族…わたしが…?】
【もちろんだ!!】
【で、ですが…私は、他の妖精とは、違います…いつか、あなたを傷付けてしまうかもしれ…】
【ならその時は、俺がお前を止める!!】
【…!!】
【家族が悪いことしたら、家族である俺が止めるのは当たり前だ!】
【シンさま…】
【だからミール…一緒に暮らそう!お前はもう、ひとりなんかじゃない…!】
【シンさま……はいっ!】
『うっ…うぅ…帰りたい…帰りたいです…あの方の元へ
……帰りたいです…シンさまっ……シンさまっ!!』
『………そうだよミール…お前の居場所はここではない
………お前が心から想う場所こそが
…お前の大切な
居場所
だ』ーーー
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙っっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
突如、苦痛と悲嘆混じりの絶叫を上げるモンスター
その苦しむ姿はまるでふたりが葛藤してるようにも見え
リンク達は疑問に思いつつも、胸を締め付けられる思いに駆られた
「兄上?兄上…!」
「お兄さん、妖精さん…いったい、これは…」
次第に苦しみに耐えきれなくなったのかモンスターは
首を掴んでいたシンを川にではなく地面の方へ乱暴ながらも振り落とした
「……っ!!」
「あ、シンさん!!」
今のうちと見て、リンクはシンの元へ駆け寄った
「げほっげほっ…っ!…はぁ、はぁ…」
「シンさん…大丈夫ですか!…っ…喉が…」
「このくら、い…へいき…さ…はぁ…それよりも…ふたりを……ぅ…げほっ!」
想像以上に喉がやられてしまったのか
思うように言葉を発せられずむせるばかりのシンに
リンクが胸を痛めていると
「…妖精さんの伝言、お伝えそびれてしまいましたね」
「え…」
そう言うと、リンクはそっとシンの耳元に近づき
…シンさま…大好きです
「っ!!!」
温かく包み込むような優しい声で
ミルファリアの伝言を囁いたリンク
彼女の蒼い瞳には深い慈悲と強い意志の光が宿っていた
「リ、リンクさ…っ…」
何かを予感したシンだが、上手く声が出ないせいで
何も伝えられないままリンクはそっと立ち上がり
彼の傍を離れると…武器も持たぬまま、苦しみ喘ぐモンスターの元へ
(だめだ…今近づいたら……っ!!)
徐々に遠のいていく彼女の背に必死に手を伸ばすが
身体の方も言う事を訊いてはくれなかった
「リンクっ!戻るのだっ!!リンクっ!!!」
メイリンも必死に引き止めようと声を上げるが
リンクの足は止まることはなく…
「妖精さん…お兄さん…」
至近距離まで近付くとリンクは
ふたりに届くようにもう一度呼び掛ける
「おふたりは、あたしにたくさんの声を届けてくれました…あたしにしか届かない声があるのなら…助ける方法はあるはずっ…希望を、どうか捨てないで下さい!!石の力なんかに、負けないでください!!」
語りかけながら一歩一歩近付くリンクにモンスターは
ガァァァッ…!!!!
「…!!」
「リンク!!」
彼女が腕を伸ばそうとした直後、振り払うように
鋭い爪でリンクの腕を掠るが
「だ、大丈夫です…ずっと辛い思いをしてきたおふたりの心の傷に比べたら、こんなの…」
じわりじわりと出血する傷口を抑えながら
リンクは怯えることなくモンスターの肩に触れる
…ッ!!!
「みんな、おふたりの帰りを待ってるんです…おふたりの居場所は…ここにあります…だから…だから、どうか…諦めないでください…!」
涙と共に言葉に熱がこもるリンク
モンスターも彼女のその姿に
抵抗出来ずにいると
パァァァ……
「!…あれ、は」
何の変哲もなかったはずのリンクの首飾りの宝石が
突然花びらのような光に全員が驚き
リンクですら、何も知らないのか
困惑する状況であったが…
「……もう
誰も
…失いたくない」「リンク…さん?」
リンクは血塗れた手で光る首飾りを握り締める
「もうこれ以上…大切な人を…失いたくないっ…絶対に…………絶対にっ!!!」
涙ながらに訴えるリンク
その強い想い、願いが込められた涙は
首飾りへと零れ落ちると
より輝かしい光となって現れた
パァァァァァっ…!!!
「……っ!?」
その光はモンスターだけでなく神殿全体を包み込んだ
「この光は…っ」
「わぁ!な、なに!なんなのー!?」
「ひ、姫様ー!」
「くっ…うぅ」
やがて、リンクが瞳を閉じると
聞き慣れない言葉を呟いた
ー聡明なる希望の光よー
ー永劫の輪の名においてー
ー業火に宿る悲しき二つの魂を解放せよー
ーメビウス・リベレイトー
パァァァァァァァァァァっ!!!!
光が一層煌めく中で
リンクの身体を軽々と上回るモンスターの巨体が
徐々に浮かび上がった
しかしその姿はシン達が一番知ってるモノだった
それは…
「こ、これ…まさか…」
「ドラゴン…」
サクスで現れた…あの、白きドラゴンの姿
少しずつ露になるにつれ
三人は確信する
「まさ、か…君が………あのとき、の…」
ドクンッ!!!
(…っ…なんだ…!!)
不意に心臓の高鳴る音と
三度目となる金属音が外れた音が聞こえた
(これは…この
記憶
は……!)「ははは…いやぁすごいな~♪正直
予定
よりちょっと早い気もするけど…ま、いっか」神殿内の頂上にて悠々と戦いの眺めていた少年の表情は意味深な言葉を並べて、笑っていた。
「…ほんと、素敵にも程があるよ、お姉さん♪」
【終】