第71話 目的
文字数 2,569文字
シン達が来る一時間ほど前、マリアに到着した
しかし彼らはその中心地に足を踏み入れず
少し外れた場所に建てられたある人物の大豪邸へ赴いた
淡々と当たり前のように馬車を降りるキョウと
見知らぬ大豪邸を前に萎縮しながらソラがついて行くと
「財団長殿ぉ!!」
大声で呼ぶのはやや中年太りの男。真っ赤なスーツで身を包むだけでなく、首にシンプルな金のアクセサリー、両指には色とりどりの宝石が散りばめられた指輪…いかにも大金持ちをアピールするかのような容姿に、一切触れずキョウはにこやかな表情で挨拶した
「はは、久しぶりですね。ルエン殿…どうやらまた私の見ないうちに業績を上げていたようですね…流石は私の
「久しぶりの再会だというのに我が
かなり砕けた雰囲気で会話する二人
再会を喜ぶ姿にソラは入りづらさと相まって
黙って疑問符を頭上に浮かべていると
「おやおや財団長殿…そちらの若人は?」
「む?あぁ…紹介が遅れましたね。彼はこの度、私の用心棒となったソラだ…ソラ、お前からも挨拶を」
「は、はい!ソラと言います、よろしくお願いします!」
ソラは深々と頭を下げる
「私がこの屋敷の主【ルエン】だ。反応は初々しいが、雰囲気から察して相当な腕を持っているということはこの私にも分かるぞ、流石はキョウ=アルヴォリオ……人を見る目はいつもながら確かなようじゃ、がっはっはっはっ……!!」
緊張でぎこちない挨拶をするソラを
歓迎するように豪快に笑うルエン
ひとまず悪いようには取られていない事に安堵したソラは
緊張の糸が切れたようにふぅ…とため息をついた
「ところで財団長殿…急用の話があると聞いたのじゃが…」
「その件でしたら、中で後ほど…」
「そうか。よし!皆の者!さっそくもてなしを準備を…」
「かしこまりました」
「さぁさぁお二方…どうぞ中へ」
「感謝しますよ、ルエン殿」
ーーー
一方、マリアに到着したばかりのシン達は
「へぇ~すっごいねぇ~!【目的が同じ】ってだけでこんな大勢で旅してるなんて、これはもう運命的なものを感じるよ~♪」
余所者に対しての警戒心は微塵もなく
軽率に絡んできた謎の少年、カラン
シン達の旅の経緯(重要な話は除く)を聞いても尚
異様なテンションですごいと褒め称えてくる
「運命的、か…口にしてみると一層胡散臭く聞こえるな」
「えーおじさんひどーい、せっかく褒めてあげたのにぃ」
「口調のせいでわざとらしく聞こえるのも罪深いわね…ってそんなこと言ってる場合じゃないの、私達これから急いでるんだから…」
彼の奔放な態度に早くも振り回されそうになる一行は
セレイン大聖堂に向かう為、強引に話を切り上げようとすると
カランが不思議そうに質問してきた
「急ぎってどこへ…」
「…セレイン大聖堂だ」
「え、聖堂!!今から?」
「何か問題でも?」
「問題も何も…
今は
聖堂に入れる時間じゃないよ」「はい?」
セレイン大聖堂ではしきたりとして
この世界の神メモリアに【祈りを捧げる時間】や知識や学問を学ぶ為の【講習】などが行われている。先程通り過ぎていった行列の人々も祈りを捧げる者として聖堂に参列した後、このマリアから少し離れたところにある別の教会にて再び祈りを捧げる…
それが終われば、今度はマリアの女王
トベラ=アイシュプルムによる
【講習】が、今現在行われているのとのこと
「え、女王様が直々に講習を?」
「優秀な人材は身分関係なく出来る限り多く育てる…それがこのマリアの管理者でもある女王様の信条らしいからね」
「それで、あなたもその優秀な人材というわけ?」
「まっさか~オレは気ままに自由に人生を過ごすっていう信条があるんだ!真面目にコツコツ勉強なんて真っ平御免だね!」
「…マリアの人間とは思えないセリフね」
笑顔でそう言い切るカランに一同苦笑い
それにしても、今講習で聖堂に入れないとすれば
この空き時間をどう有効活用すべきか…?
そもそも講習はいったいいつまで行われているのだろうか?
再びカランに尋ねてみると
「ん?あぁ講習なら確か…夕刻までやってる事が多いかな…あそこにいる人達みんな本当に勉強熱心だからねぇ」
「ゆ、夕刻!?」
「予定よりも遥かに時間が空いたでござるな…」
「ど、どうしましょう…」
必要以上に予定を立てなかったのもあって
他に行く宛のないシン達は、この空いた時間の使い道に頭を悩ませていると…
「行く宛が無いならオレがこの街を案内してあげようか?」
「へ?」
いきなり街案内を提案するカラン
表情は…何故かあからさまににやにやしており、見つめる視線はリンク、アン、ケイに対して露骨に送っているせいで、余計に怪しさ倍増であった
「ちょっと坊や…何なのその誘い文句は…てか、なにこっちをじっと見てんのよ」
「やだなぁ~そんな怖い顔しないでよ~オレはただせっかく知り合った皆にここを知ってもらおうと思ってぇ…」
「あの、カランさま…お顔が…」
白々しく聞こえる言葉とデレデレし過ぎて崩れゆくその表情に
シン達はさらに不審感を募らせる
どうにかしてこの面倒くさそうな彼から
離れるタイミングがないか様子を伺っていると
「悪いけど、そのお誘い私パスするね♪」
「えっ?」
口火を切ったのは、アンであった
「実は私、前々からこのおじさまとデートしたいなぁと思っててね…もし回る時間が出来たら一緒に行くってこの前二人で約束してたのー♪ねぇおじさま~♪」
ナッドの腕をきつく掴まえながら断るアン
シン達は全くの初耳だが、肝心のナッドは少し困ったような表情で彼女を見つめていた
(アンさん、また適当なこと言ってるんじゃ…)
カラン以外の全員がそう思った、すると
バッ…!ガシッ!
「ふぇ?」
強引にアンの掴む手を振り払ってすぐ
ナッドはやり返すような勢いでアンの肩を抱き、自分に引き寄せた
「え…!」
彼の思いもよらぬ行動に、アンも含め全員が目を丸くした
「あぁ…そうだ。時間が出来れば、こいつの見に行きたいところを二人で回ろうって約束したんだったな………うっかり忘れてて…悪かったな、アン」
「え………」
「え、えええええええぇ!?」
「お、おじ、さま……?」
彼女の耳元近くで珍しく名前を呼び
らしからぬほど甘い囁き声で告げるナッドに
耳だけでなく頬まで真っ赤に染まるアン
これは、彼のイタズラ?それとも…
【終】