第41話 二つの光

文字数 2,733文字

アァ…マタ……キコエル…イカリト、カナシミ…ゾウオ、ニ、ミチル、コエ…

ワタシヲ…ヨブ……ゾウオノ、コエ…

アァ…ナんと…イマ、いマシい、ほドに…カナ…しクて…ミニ、くイ

カン美ナ…声、ナノダロウカ…!!

フフフ…サァ…モット、哭ケ…モット…!叫べ…!

サスレバ、私ハ…強クナレル!

強ク、ナッテ…今度コソ…壊シテヤルッ!!

スベテ…壊シ尽クシテヤル!!!!!



ー憎悪なる絶望の光よー

ー復讐の剣となりてー

ー罪なるものに裁きを下せー


リュクシオン・スカージ



ーーー



ゴゴゴゴゴ…

アクア一帯に広がる赤黒い雲の中心から
生み出されるように現れてきたのは
黒きドラゴン…又の名はリュクシオン

憎悪で心を蝕み変貌したアクアールの姉・エメラルの姿
威厳と殺意に満ちた漆黒の羽を広げ、嫌悪するような咆哮を上げた。その凄まじい脅威と圧迫感はサクスで見た時と同じ
再び現れた恐怖と危機感で心がざわめくシンと
迎えるような目で眺めているルーファは

「ん~何度見ても大きいね~」
「やめろエメラルさん!これ以上…街を壊したら…!!」
「ムダだよ。もうあの人に他人の声なんて耳に入らない」
「ルーファ…!」
「そもそも…そうしたいと望んだのはお姉さん自身だよ。気が変わることでもない限り、あの人は永遠に、この世界を破壊し尽くすだろう…己の心のままに、ね」
「お前っ!!」

シンの怒りが頂点に達するも
ルーファの態度は全く変わらない

「ははっ…そう怒らないでよお兄さん、宴はまだ始まったばかりなんだからさ」

言い切ったタイミングでルーファの青い瞳が赤く染まると
足元から呼び寄せるように発生した魔法陣から
ルーリアのものと似た灰色のマネキンが一体召喚された

「コイツは…!!」
「見覚えがある感じかい?まぁそうだろうね。この人形を召喚出来るのは僕と姉さんだけなんだから」
「ね、姉さんだと?」
「正しくは僕の双子の姉。僕の…唯一の家族だ」
「っ!!」

マネキンは目にも止まらぬ速さの打撃でシンに襲いかかった

「ぐっ…な、なんだコイツ!?さっきのやつらと、

!?」

ルーリアが召喚したマネキンは
猪突猛進の勢いだけで攻めてきたが
ルーファの場合は、トリッキーな動きで相手を翻弄し
反撃の機会すら与えない連撃を容赦なく繰り出してきた

「姉さんは何でもかんでも力技でねじ伏せるような人だからね。僕は違うけど」
「お、お前っ…」
「まぁそんなこと…どうでもいいよね。どうせみんな…ここで死ぬんだからさ、あはは♪」

ルーファは悪戦苦闘するシンを嘲笑う


ーー


ー ウェイブタウン ー

同じ頃、サイゾウ達の戦いは未だ平行線が続いていた

「くっ……!…あれって」
「よそ見してんじゃねぇよ!!!」
「うわっ!!」

隙を突いてアンを杖ごと蹴り飛ばしたルーリア
彼女は何とか持ち堪えるが
単なる蹴りとは思えない威力に内心驚いた

「はぁはぁ…あーびっくりした…つか、いい加減しつこ過ぎない?さっさと倒れろっての!」
「ハッ!そういうお前達の方こそ…いい加減往生際が悪いんじゃなくて?」
「馬鹿力お姉さんに言われたくなーーい!」
「…これ以上舐めた口聞いてんじゃねぇぞ、この白髪女っ!!!」

少女達の罵詈雑言の嵐をよそにサイゾウが変わって空を仰ぐ

(ドラゴン…まさかこのタイミングで現れるとは……っ!)
「サイゾウくん!」

上空から奇襲を仕掛けてきたルーリアの気配を
アンの声と同時に察知したサイゾウは冷静に防御した

「お前も戦いの最中によそ見とは、私も随分と舐められたものね」
「これは失礼した。なにぶん拙者達は急ぎの用がござるからな」
「…そう、なら心配いらないわ。お前も、あの女も、ここで私に切り裂かれて死ぬんだからなぁ!!」
「!?」

バッ!!!!

ルーリアはサイゾウ自身をバネにして宙を舞い
背後にいるアンのところまで一気に距離を詰めた

「あっ!!」
「くたばれ白髪女ぁ!!!」

迫り来るルーリアに対し混乱したアンは
その場で固まってしまった。サイゾウがすぐさま
弓を構えるが既にアンとの距離が近く間に合わない
このままでは…

(やられる…!!)

バァン!!!!

「ッ!!」

鉤爪が迫る寸前で右方向の遠くから放たれた銃弾が一発
ルーリアの片足を掠めた

「う”ぁっ!!」

掠ったとはいえ痛みが伴うがあまり
ルーリアはそのまま地面に転がり込んでしまった

「これって…もしかしてまた……!」

再び難を逃れることが出来たアンは予感して辺りを見回した
これはまたしても…彼の仕業なんじゃないのか?

そして…

「やっぱり…!」
「貴殿は…」
「説明は後だ。急いでアイツと合流するぞ」



ーーー



ー アクアール宮殿前 ー


ドカッ!!!!

「うあぁっ!!」

マネキンに背後の隙を突かれたシンは
鉛玉のような重い蹴りをまともに食らって
地上へと勢い良く吹き飛ばされてしまう

ガシャアアアアン!!!!

「…っ!……ぐ……ぅ…はぁ…はぁ……っ!」

背中を強く打ったせいで身体が思うように動かない
だがシンの心はまだ諦めていない
その証拠に息を切らしながらも必死に立ち上がろうと
腕に力が込もった。一方でルーファが哀れむような瞳で近寄ってきた

「いやはや恐れ入ったよ…人形に臆することなく向かってきただけでなく、攻撃をまともに食らっても…なお立ち上がろうとするなんて…本当にすごいよ、おにいさん♪」
「そりゃ…どうも…はぁ…お前達なんかに負けるつもりはないし……リンクも…お前らなんかには渡さない!それだけだ!」
「ふふふ…涙ぐましいね。そのあつーい恋心…でも、その恋心で守れるものなんて…本当は何もないかもしれないよ?」

耳を劈く破壊の轟音、人々の泣き叫ぶ絶望の声
美しいアクアの街が徐々に崩れていく光景が、現実が
弱くて情けない自分に対して「無力だ」と心に訴えてくる
どんなに頑張っても、どんなに誓ったとしても
全ては「無駄」なんだと容赦なく握り潰そうとする

絶望が、果てしなく押し寄せる…

「…そうだと、しても」
「?」
「今の…俺が、お前達に敵わないのだとしても、この気持ちだけは…誰にも、誰にも負けるつもりは、絶対にない!たとえお前でも!」
「え…」
「俺は…何があっても、絶対に諦めないっ…諦めたりしない!!俺を信じてくれる仲間が、家族が……大切な人達が…大事な人が…この心と身体が…記憶が…ある限りなぁっっ!!」

「…っ!……おにい、さん……どうして、そこまで……っ!!」





宮殿から少し離れた場所から白くて眩い光が上空へ昇った

「あの光は…」

光は徐々に大きくなった
それに気づいたリュクシオンは
威嚇しながら見つめ、サイゾウ達も
その光の行方に目を奪われる

あなたの助けになれるなら…あたし…なんだって力になりますね…!

「…リンク……どうして…君は…」






「………ふふ…ほんっと…優しいにも程があるよ……お姉さん」


二つの光が

アクアの空に輝く

【終】
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登場人物紹介

シン(20歳)

この物語の主人公。三年前、突如記憶喪失となるも性格は明るく感情豊かで素直な一面を持つツッコミ担当。記憶を取り戻すための旅でサクスへ訪れた際に出会った少女・リンクに一目惚れして以来ずっと恋心を抱き、とある事情から彼女を守ることを決意する。


使用武器:双剣

属性:風

リンク=アソワール(19歳)

この物語のヒロイン。医師を志す家庭的で心優しい少女、ある事件を機に【白きドラゴン・メビウス】を覚醒させるが原因も分からないまま敵にその身を狙われることになる…


使用武器:なし。ドラゴンの力のみ

属性:?

サイゾウ(24歳)

【雷の都市ーサクスー】の忍として暗躍するシンの協力者。優れた分析能力と卓越した弓の使い手であるが、性格はドSで毒舌家、その上大食漢という端正な顔立ちからは想像し難い一面を持っている


使用武器:弓、忍道具など

属性:雷

アン・ダルチェル=ミーナ(19歳)

愛称は【アン】でトレジャーハンターと名乗る少女。好奇心旺盛で楽しい事が大好きな魔法と抜刀術の使い手。成り行きでシン達と出会い、興味を示した彼女は彼らと行動を共にする。ナッドに対して、恋心を抱いてからは毎日猛アプローチをするが全く相手にされていない模様


使用武器:杖+仕込み刀

属性:地

ミルファリア(およそ200歳)

幼い頃シンに命を救われた妖精(亜種)。愛称は【ミール】

非常に穏やかな性格で忠誠心に厚く、主であるシンを家族のように心から慕っている。実は恐ろしい獣の力を宿した事が原因で妖精界を追放された過去を持つ


使用武器:大槍

属性:炎

ケイ=オルネス(27歳)

【黒きドラゴン・リュクシオン】を追う女性。

勝気な性格だが根は優しく、面倒見の良い姉御肌な気質を持つ。アクアで最も忌み嫌う氷の魔力を持っていることが原因で人々から【氷の魔力】と呼ばれ恐れられている


使用武器:なし(魔法で剣などを作り出すことが出来る)

属性:氷(水の魔力から派生した力)

ナッド=モルダバイト(42歳)

ファクティスの罪を暴く為、暗躍し続ける狙撃手の男。かつてはネオンのエージェントとして活躍していたが、ある事情で引退し今に至る。シンの素性を知る者の一人として常に彼の事を気にかけている


使用武器:二丁拳銃(メイン)スナイパーライフルなど…

属性:闇

ハル老人(74歳)

【雷の都市ーサクスー】の住人で、かつては医師として活躍してきたが、現在は小さな診療館に隠居して余生を過ごすお茶目で明るいご老人である


使用武器:(非戦闘員のため)なし

属性:(覚醒してないので)無し

セシア=ウヅキ(26歳)

現在【雷の都市ーサクスー】の王として君臨する【マダラス】の甥。王族の身でありながら政治に関心が無く、非常にマイペースでずっと本を読んでばかりという事から周囲からは「本の虫」と揶揄されている。


使用武器:刀(護身用)

属性:雷

エル・ブリッヂ=サルジア(38歳)

【魔法科学支援団ファクティス】のリーダー。

表向きは長年の研究と実験の末に作られたファクティスの奇跡の象徴とされる「癒晶石」を使ってこのセブンズシティを支える存在として幅広く活躍するが、彼らの実態などが全く明かされていない為…不審に思う者達も少なくない


使用武器:無し(詠唱魔法のみ)

属性:闇

ルーリア(18歳)

同じくエルに仕えるルーファの双子の姉。

普段は高飛車な言動が目立つが、苛立ちを見せ始めると口調が徐々に崩れ、終いには容赦なく罵詈雑言を浴びせるといった気性の荒さも併せ持つ。弟の放浪癖にはかなり辟易しているが、内心では狼狽える程ひどく心配している。


使用武器:鉤爪(召喚型)

属性:闇

ルーファ(18歳)

エルに仕える少年で、ルーリアの双子の弟。

基本何でも楽観的でエルに対しても砕けた態度を見せたり、姉に無断で散歩に出掛けたりするといった非常に自由な性格であるが、その実は計算高く目的の為なら手段を選ばないといった非情さを併せ持っている。


使用武器:魔符

属性:闇

ヴォルトス(50歳)

医師としてセブンズシティのあらゆる情報を網羅するファクティスのスパイ。エルとは旧友の仲で共にファクティスが築く理想郷を実現させるために戦う。根は温厚で争いを好まず、人を慈しむ優しさを持っているのだが…


使用武器:棍棒

属性:地

ディーネ=アストラン・ヴォーク(50歳)

セブンズシティで最も名の知れた【フルクトゥス海賊団】の船長。

強面かつぶっきらぼうな性格で非常に取っ付きにくい印象だが、実際は面倒見が良く仲間を大事に想いやり、戦いの際は常に味方の士気を上げるほどの圧倒的な強さとカリスマ性を持っている。


使用武器:大剣

属性:雷

キャビラ=ネイス(29歳)

ディーネの右腕とも呼ばれるフルクトゥス海賊団の副船長。

普段は誰に対しても温厚かつ紳士的な振る舞いを見せているが、その裏ではなんの躊躇もなく汚い仕事をディーネの代わりに請け負い、敵対する者には冷酷かつ容赦の無い態度を見せる。眼帯で隠された左目には非常に強力な魔力が秘められているらしい


使用武器:細剣

属性:地

ジョー=イルベルター(24歳)

喧嘩と女性をこよなく愛するフルクトゥス海賊団の特攻隊長。

横柄な態度と短気な性格からディーネとキャビラとは度々衝突しているが、実力は本物で時折ディーネに引けを取らないカリスマ性を垣間見せる一面がある…。リンクに出会ってからは彼女に対して徐々に興味を持ち始めるようになる


使用武器:青龍刀

属性:水

リンドウ=ラジェ・ル(31歳)

女性と見まごうほどの美しい容姿と振る舞いが印象的なフルクトゥスの医長。れっきとした男性で、大の男を余裕で担げるほどの怪力も持っているが、治療だけでなく皆の相談も全て聞く器の広さや繊細さ、リンクの秘めたる才能を瞬時に見抜くといった一面を持っている。


使用武器:大鎌(召喚型)

属性:闇

メイリン=ファオロン(17歳)

【炎の都市ーグレイー】の王女

非常に好奇心旺盛で燃えるように明るいじゃじゃ馬娘。実はサイゾウの事が少し(?)気になってる模様。王になるため見聞を広め日々精進する彼女…その真意は…?


使用武器:なし(素手で戦う)

属性:炎

シャオル=エリリ(22歳)

メイリンが幼い頃から仕えている執事。

とても気弱で泣き虫な性分であるが、メイリンを傍で見守ってきた分、大切に思う気持ちは誰よりも強いあまり、過保護で子供扱いをしてしまうこともしばしば…実は料理(特にスイーツ)が大得意


使用武器:なし(非戦闘員)

属性:無反応型の為、不明

アクアール(25歳)

【水の都市ーアクアー】の女王

非常におっとりとした口調が目立つが、王としての気品と礼節さを重んじる芯の強さを併せ持つ女性。メイリンとは旧知の仲で互いの都市を行き来するほど交流が深い


使用武器:なし(魔法で戦う)

属性:水

トルマリン(年齢不詳)

アクアールに仕える護衛剣士の女性

彼女の右腕として冷静沈着に対処する参謀役でもある

アイオラは後輩にあたる存在で彼女のことをあたたかい目で(?)見守っている


使用武器:長剣

属性:水

アイオラ(年齢不詳)

トルマリンと同じくアクアールに仕える護衛戦士の女性

生真面目であるがゆえに他人(特に男性)を警戒または敵視している節がある。その中でアクアールは最も信じるに値する唯一の人として非常に慕っている。トルマリンは先輩でありライバルだとも思っている


使用武器:ハルバード

属性:水

キョウ=アルヴァリオ(28歳)

アルヴァリオ財団を率いる若き商人

たった一人で多くの利益をもたらし

各都市の名だたる人物達の信頼を集める傍ら

邪魔する者には徹底的な制裁を加える非情さをも持つ


使用武器:ナイフ(メインは魔法攻撃)

属性:雷

オルティナ(26歳)

キョウに仕える女アサシン

過去に命を救ってくれた彼のために

影に徹しながら任務を遂行する

愛情深い故にアサシンらしからぬ

感情の昂りを見せるのがたまにキズ


使用武器:ナイフ

属性:炎

ソラ=シラヌイ(18歳)

ガイア出身の少年。病弱の母のために

身を粉にして出稼ぎし

恩人であるキョウに協力する

根は礼儀正しくて純真無垢な母思いである


使用武器:なし(拳ひとつで戦う)

属性:地

ロック=ガーナック(50歳)

【地の都市ーガイアー】の王。別名【豪傑王】

現在のガイアを統率し、民達の暮らしを案じるが故に

秘密裏に街へ繰り出す(そしてその度に妻デイジーに怒られている)

性格は豪放磊落で、家族と仲間を心から愛する


使用武器:大斧

属性:地

デイジー=ガーナック(50歳)

ロックの妻(王妃)。普段は良妻賢母の名に恥じない

振る舞いを見せ、ロックに対しては妻としてでなく

同志かつ幼なじみとして彼を叱咤激励する。

料理が大得意で料理長顔負けの腕前だとか…

結婚する前は踊り子をやっていた(らしい)


使用武器:鉄扇

属性:地

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