第50話 砂漠を歩いて
文字数 2,788文字
「団長、これが今回の売上金と団長が不在中に記した決算書になります」
「どれどれ………ふむ、ようやく売り上げが伸びてきた…といったところか」
団長と呼ばれるこの男、キョウは
グレイでの騒動からすぐにここガイアへと赴き
定期的な運営状況の確認を行っていた
「ところで団長」
「何かね?」
「余計なお世話かもしれませんが…その、いつも一緒にいた
あの少年
はどこへ…?」「む?…あぁ…あやつの事か…」
「放っておいて大丈夫なんですか?仮にも彼はあなたの事を…」
部下達の憂う表情に対し、キョウは
「…ふふ、心配要らぬ。彼奴は近い将来私の右腕になる者…武者修行のひとつやふたつ……どうということはないはずだ」
ーーー
ー ガイア 砂漠地帯 ー
「うぅ…ぁ…ぅあ"っっづぅいぃぃぃ…」
「…あ、汗も…凄いことになってきましたね」
「汗だけでなく…身体中砂まみれです…」
「夜は冬の月らしく寒いのになぁ…」
各々ボヤきながら砂漠を歩いて数日
常日頃喋る者はさらに喋り、口数の少ない者はさらに口数が減る
なるべく日が沈むまでの間に足を動かすも、砂のせいで足取りが重く、照らされる太陽のせいでジリジリと身を焼かれるような勢いで体力を削られて、ガイアへの道のりが遠く感じるばかり
「いっそ…凍らせてやろうかしらこのうざったい砂を…」
「…よ、余計に疲れますよ…ケイさま」
それぞれの苛立ちが頂点に達しかけたとき
サイゾウとリンクが遠くにある
砂に隠れた草木のような異物を目撃した
「草木…それってもしかして…」
「水ぅ!?つまりオアシスってこと!?ひゃっほぉ水キターーー!!!!」
「ちょ、アンさん!?」
「…あの馬鹿」
実は準備していた水がほとんど飲んで足りなくなっていたシン達
故に最も水を欲しがっていたアンが疾風の如くダッシュし、シン達は相変わらずだなぁと心の中で半ば呆れつつ急いで彼女の後を追った
「水~♪水ぅ~♪水が私を呼ーんで…んきゃあ!!」
ドサッ!!
「アンさま!?」
走っていたアンが突然何かにつまづいたかのように派手に転んだ
彼女の急変に気づいたシン達は警戒しながら近付くと
何やら不自然な形で出来た山盛りの砂が
「大丈夫ですかアンさま~?」
「いてて、なんとか…」
「全くそそっかしい子ね…ところでこれ、なんなの?」
「砂の山にしては…モグラが地面の中を潜りながら歩いたみたいにモコっとしてて…変ですね」
不審な山盛りの砂を観察すると、表面が砂の色にとほぼ同化した茶色の何かで覆われる異物が砂の奥から僅かに見えていた
「これって…もしかして人間?」
「ま、まさか」
「砂漠では行き倒れになる者も多いと言うでござるからな」
「何しれっと怖いこと言ってるんですか」
「でもでも!足引っ掛けた時、砂とは違う感触だったよ!」
「砂とは、違う感触?」
「そういうことなら…ちょっと坊や、確認なさい!」
「え、え、え?俺?!」
ビシッと力強く指差して指示するケイ
なんだか以前もあったような無茶振りにシンは
「ちょっと待ってくださいよなんで俺がっ…」
「リンちゃん守るってんならこのくらい訳ないでしょ?」
「男を見せるっていう点でもね」
「うわぁ理不尽っ!!!!」
ケイもシンの扱い?がだいぶ分かってきたのか
シンへの対応がより一層雑になっていく今日この頃
隣で見ていたリンクが再び助け舟を出してきたが
悲しきかな男の意地…想い人の前でまたしても
カッコつけてしまったシンは一人で確認することに
「シンさま…」
「はぁ」
慎重に近付き、指先でちょんちょんと小突いてみたりとしてみると確かにアンの言う通り、砂とは違いぷにっとしてて柔らかいが、表面は少しガサガサした固めの布のような感触の素材で覆われている
(この感触…やっぱり人間なのか?…だとしたら、まだ生暖かい…)
微動だにしないがゆえに一層気味が悪くなる一方
「シンくーーんどーう?何かわかったー?」
「全くいつまで確認してんのよ?」
「ヘタレ故に仕方ないでござるなぁシン殿は」
「そこっ!!煽り文句禁止っっ!!!」
これ以上考えても外野に煽られてばかりで埒が明かない
異物への恐怖と彼らに対する苛立ちが頂点に立つ前に
シンは「ええいこのぉっ!!?」とやけくそな叫び声を
上げてそれを両手で鷲掴みすると
「んがっ!!?」
「!!…なっ…なんだっ!」
一瞬、人の驚いたような叫び声と同時に異物がビクンと動いた
「ま、まさ…か…」
シンの嫌な予感は数秒後に当たった
グググ………ガバァ!!!!
「だぁぁぁっ!!!!!」
「うわっ!?」
「えぇ!?」
動いた異物は山が噴火するような勢いで砂を巻き散らながら弾けた驚いた調子に尻餅ついたシンは口をパクパクさせながら必死に奥に潜むものを見据えていると
「ぺっ!ぺっ!…げほっげほっ……し、しくじった…水飲もうとしたらそのまま倒れて…あ、あれ?」
異物の正体はなんとシンとさほど変わらない体格の持ち主の少年であった。そして少年は横で呆然としているシンに気づいた
「あ…もしかして…俺を助けてくれた人ですか?」
「いや、その…」
「わぁ!ありがとうございますっ!ありがとうございます!あなたが起こしてくれなかったら今頃お陀仏になってたことです!あははっ!」
「い、いや、それは良かったけどっ…ちょ、手…っ」
キラキラとした瞳と爽やかな笑顔でシンと握手する手を縦にブンブンと振る少年のハイテンションぶりに頭が追いつかないシンは困惑した。一方リンク達もその異様な光景に恐る恐る近づくと
「やや!あなた方は…」
「はーいどうもー♪私達この、シン君のお仲間でーす♪」
「なんだその白々しい言い方は」
「え、この人たち…あなたのお仲間なんですか!すごいですね!カッコイイおじさんからキレイなお姉さんとお兄さん…ちっこいお人形さんまでお揃いとは…っ!」
「お、お人形さんではなく私は妖精のミー…ふがっ!」
「や~ん君ってば意外と褒め上手なのね~♪」
「んんんんん~!!」
「ミールさん…」
顔を合わせたところでシン達は少年に問いかける
「で…あなた、何者なの?」
「あ!すみません言いそびれてましたね!……ゴホンッ!初めまして!俺の名前はソラ…ソラ=シラヌイと言います!よろしくお願いします!!」
この無茶苦茶なほど熱い砂漠のど真ん中で、律儀に正座して挨拶する少年ソラ。初々しいほどに礼儀正しい彼を微笑ましく思いながらシン達も流れるように自己紹介してゆく
「シンさんにリンクさん、サイゾウさんに……………はい、ばっちり把握しましたよ!」
「さっそくだけどソラ…あなた、なんでここで砂に埋もれてたの?」
「あはは…里帰りの途中で水がなくなったので、あそこのオアシスに寄ろうと思ったら…いつの間にか力尽きて…」
「里帰り?君、もしかして…」
「はい、俺…ガイア出身なんです!」
白い歯を出してニカッと笑うソラ
その笑顔はこの砂漠に広がる光と、潜む闇の中で…雲一つない青空のように澄み渡り輝いていた
【終】