第25話 目指すべき、道
文字数 5,548文字
「さて…と、今が好機のようだし…とっとと…」
カチャ…
「!!」
どうやらシン達のやり取りを見続けていたのは
少年だけではなかった。
彼よりも遥かに背の高い男は
何の躊躇もなく彼の頭に銃を突きつけたのだ。
「…あはっ…ようやく会えたね♪サクスではとんだ邪魔をしてくれたから、気になって仕方がなかったんだよ」
男に顔を向ける事なく少年は
手持ちの札らしきものを
弄ぶように靡かせていた。
「で…僕の事…殺すの?殺さないの?」
「…」
「その無反応さ…てことは…【殺せない】んだね?
…それもそっか…だって【おじさん】にとっても僕は
【なくてはならない存在】……そうでしょ?」
振り向いて見ると
苦虫を噛み潰したような表情をする男
しかしそのまま黙って銃を突きつけている間にリンクの変身は解け、シンの腕の中へと落下したのだ。
「あ!…あーぁ…タイミング逃しちゃったじゃないかー…どうしてくれるの?おじさ…」
もう一度振り返ると、そこには既に男の姿はなかった。
「……はは……いいねぇ…揃いも揃って…
僕を、愉しませてくれるなんて…最高だよ…はははっ」
【第25話】
ー グレイ 繁華街道 ー
翌朝、ここグレイの繁華街道はグレイの入口となる場所で夜明け前から集っていた兵士達が調査のためブレイネル山へと赴く最中…大半の兵士達はその真意を知らないでいた。
そのため…
「な、なぁ本当に行かなきゃなんねぇのか?いくら噴火が収まったとはいえモンスターが完全にいなくなった訳じゃ…」
「俺だって知るかよっ…だけどこれは全て大統領の命令なんだ、逆らったらどうなるか……お前も知ってるだろ?」
「そう、かもしれねぇが…どの道俺らに命の保証なんて…」
ただの調査といえど
真意もわからないまま出兵されるのだから
当然不安も広がっている…しかも一部の兵士達によると、先頭立つ隊長もまたその真意を知らない可能性が
あったという…。
そんなあまりにも心許ない不安の中
隊長が視線の先にてあるものを見つけた。
「む?…なんだ?」
じっと見つめていると複数のシルエットが
徐々に浮かびこちらへ近づくと
ザッザッザッ……
「あぁ!皆さんようやく辿り着きましたよ!」
「はぁ~!やぁーっと着いたのね♪あぁ早くここの温泉入りたーい♪」
「残念だが温泉はもう少し後だ…先にやらねばならぬ事が山ほどあるんだからな!」
「ええー!」
「アンちゃん、もう少し頑張ろう、ね?」
「そうですアンさまがんばりましょう!」
「仕方ないわねぇ…じゃあそれまで私の暇つぶしに付き合ってもらうからねぇーミールー♪」
小悪魔の笑顔をしたアンは
容赦なく餅のように柔らかいミールの身体を
引っ張ったり弄り倒し始めた。
「ふぎゅっ!?おっおやっめっくだっひゃいいぃっシンひゃまぁぁ!!」
「おいおい」
山を降りていた間に意識を取り戻したリンクとミール
その後も無心になっていた一行であったが
グレイの街に辿りついた途端、張りつめた糸が切れたように談笑し始めた。
サイゾウはその光景を
静かに見つめていた
彼のその姿に気づいたシンは…
「サイゾウさん、どうかしましたか?」
「…いや、何も」
「…」
妙に素っ気ない態度を見せるサイゾウに
シンは心に引っ掛かりを覚える傍ら
シャオルが、あるものを指差しながら見つけた
「あ、姫様!あちらに兵士達がおりますよ!」
「!…兵士達だと?…なぜあんなところに…」
メイリンは早歩きで道の真ん中で
立ち尽くす兵士達の元へ駆け寄った。
「隊長殿!!」
「え、メ、メイリン王女様!?」
メイリンの姿を確認した隊長は
突然の遭遇に慌てふためいた。
「久しぶりであるなっ!隊長殿!」
「王女様っ…お戻りになられたのですね!?ですが何故また…そのように傷だらけで…」
「む?あぁこれは…色々とあってだな」
「な、なるほど…して、王女様…後ろにいるこの者らはいったい…」
「この者らは私を助けてくれた者達だ…ブレイネル山の噴火を治める事が出来たのも…彼らのおかげなのだ」
「噴火………ええっ!!も、もももしや王女様!まさかっ…あの山にっ!!」
「あぁ、行って、退治したぞ。清き魂に取り憑いた【モンスター】をな」
「メイリンさま…」
堂々と胸を張って伝えるメイリンの姿に
ミールはじーんと心が暖かくなるのを感じるのだった
ーーー
ー グレイ 政府館 ー
ガチャン!!
「フェっ、フェリオ大統領!!」
大統領の執務室に慌しく入ってきたのは
彼の幹部らしき者であった。
「騒がしい奴め…どうしたというのだ?」
「先ほど…宮殿に……メ、メイリン…王女様が…見知らぬよそ者達を連れて、ご、ご…帰還なさいましたっ!!」
幹部の言葉に大統領の傍にいた数人の大臣達が
一気にざわめき出すと…
「……どういうことなんだね?団長殿…」
「…」
大統領に問い詰められた男は
ふぅ、と息を吐きながら眼鏡を掛け直すと
「天はまだ、王女様を見捨ててはいない…という事なのでしょうね…」
「団長殿…っ」
「ご心配は無用です、大統領…手駒の数も、勢力も…全てこちらが有利…それから……
切り札
も…ね。」妖艶な低い声で意味深な言葉を
囁く団長と呼ばれたこの男
彼の正体は、はたして…
ーーー
ー グレイ フォイア宮殿 ー
あれから一行は神殿内にいた
行方不明となっていた民間人達を兵士達の手で
一人ずつ家に帰した。メイリンの父であるファオロン陛下にも事の顛末を全て、報告すると
王は亡き息子にもたらされた惨劇に
ショックを隠しきれなかった
息子の命が、亡くなった後
何者かの手によって弄ばれてしまっただなんて
聞いただけで気が狂ってしまいそうなほどに
手摺りに触れる手は怒りに震えていた
父の心情を察するメイリンも
悔しさで唇を強く噛んだ
「ねぇお姫さん。率直に言うけどお兄さんとミールをあんな目にあわせた奴らの目星はついてるわけだし、すぐに捕まえることって出来ないの?」
「そうしたいのは山々であるが、ファクティスと言えば、サクス、ネオン、そして我が都市グレイなど…各地の人々を支援する形で味方につけている。彼らを全員捕らえるためには全ての都市が逮捕を容認しないと、後々面倒なことになる」
「それは、どういうことですか?」
セブンズシティは各々の都市内の事情は
自分達で始末することが義務とされている。
シン達がサクスを出た後も追撃されなかったのは
サクスの領地から外れた言わば管轄外の対象と見なされたから。つまり…
「各都市の管轄内に居れば、奴らは…」
「そうだ。一つの都市だけ捕まえたとしても、ほんの一部に過ぎない上に、彼らの肩を持つ大臣らが逮捕は不当であると、大いに反発する可能性があるからだ」
現状、ファクティスは多くの者達を
助けた功績があるため
保護対象として大切に扱われている
しかも、グレイの統治を担い支える
大臣や貴族らが彼らの味方とあれば
逆に敵を増やし、王権の危機にもなりかねない
だから、彼らにいま罰を下す事は
既に簡単なことではなくなった
(それが、理由で…サイゾウさんは…)
サイゾウにチラッと視線を向けると
メイリン達の話を相変わらず冷静な表情で
聞いているが…彼の心情はきっと、おだやかなものではないと、チクッとした痛みがシンの胸に感じる
「何にせよ、今は捕まえる時ではないが、いつか奴らの尻尾を掴み一網打尽にすることが今後の目標の一つとなった。故に私は…一日でも早く、皆の光となる王として力を着けていかねば…」
「姫様…」
娘メイリンの強い意思を観た王は
「成長したな、我が娘よ」
「父上…!」
「正直に申せば、お前には…一人の女として幸せになってもらいたかった…王という荷を背負わせるなど、余には、出来なかった…だが、今は違う。お前は…しかと成長した。レイリンの為だけじゃない、私やここに住む皆の為に…お前は強くなった。お前は……余の誇りだ…!」
「父…上っ」
決意を秘めた表情で、王は大臣や民達を外に集めた
シン達もその場で立ち会うと
王はグレイ全体に響くような高らかな声で
皆に宣言した
「我が偉大なるグレイの民達に告ぐ!ここにいる我が娘メイリンは…先日まで起きていたブレイネル山の騒動をついに治めることが出来た!そしてその騒動を起こした犯人は、我が亡き息子、レイリンの命を弄んだ者達が仕組んだものと判明された!!」
その言葉に、民衆は驚きと悲嘆の声を上げる
「驚いたであろう、余も…その真実を聞かされ胸が張り裂けそうになった…息子の命と体を利用して、そのような悪行を働くなど…人として、恥ずべきことだと…だが、それに今まで気付けなかったことも、余の不覚であった…レイリンを、守ることが出来なかった…本当に、申し訳ない事をした…」
息子への想いから思わず溢れそうになる涙をグッと堪えながら、王は必死に言葉を口にする
「故に、余は決意した…息子の無念を晴らすため…余は、最後まで戦おう!!我が娘メイリンが女王として君臨するその日まで!!!!!!」
おおおおおおおおおおお!!!!!!
民衆の驚きが歓喜に変わった
「我が娘メイリン=ファオロン!!春の月、お前は余の意思を継ぐ者として…女王とならんことを、今ここに宣布する!!!!!!」
メイリンの王位継承はこれをもって
成立した瞬間であった。
「
胸を張って民衆の前に立つメイリン
「兄上…私、頑張るからね」
彼女は己の胸に手を当て
天国に旅立った最愛の兄に誓うのだった…
ーーー
ー グレイ ファオロン邸 ー
その後…
ミールに関しては
同じ【被害者】として認定され
主であるシンの元へ無事還すこととなった
そしてそのまま、シン達は
メイリンを助けた者として
彼女の屋敷へ招待された
「ここが私と父上の住む…ファオロンの屋敷だ」
「うわぁ…」
入ってすぐ左手には美しい庭園が広がっており
目の前には宮殿に勝るとも劣らない豪華な屋敷が
建っていた。そこからはブレイネル山もしっかりと一望出来、建物で入り組んでた街からは温泉宿の白い煙がいくつも立ち上っていた。何もかもが小さく見えるが、賑やかな光がグレイを鮮やかに彩られていることにシン達は改めて感動した。
「さ、ではまず私とお前達…皆揃って風呂へ参るぞ!こんな格好で客人をもてなす事など出来ぬからな!」
「は、はい」
「わぁい!やっとお風呂だよ~♪もう汗で気持ち悪くて仕方なかったんだ~!!」
「ささっ…浴場はこちらになります!着替えの方はこちらで準備しますので!」
意気揚々と浴場を目指すアンに
たじたじな一行、そんな彼らを
先導するのはシャオルであった
「リンちゃん!1番風呂は私が貰うかんね~♪」
「ち、ちょっと!ア、アンちゃんってば!……もう」
「ふふふ、相変わらず賑やかな方ですね。あ、それからシャワー室が脱衣場の隣に完備されてますので宜しければそちらもぜひお使いください!」
「いろいろと気を利かせてくれてありがとな、シャオルさん」
「いえいえとんでもない!これも全て、姫様を助けて下さいました皆様への恩返……はぁわぁっ!!」
ドサッ!!
「全く、お前というやつは…ふふ」
「も、申し訳ありません姫様……あ、あはは」
こうしてシン達はシャオルの案内の元
浴場へと赴いた…
ー ファオロン邸 シャワー室 ー
サァァァ……
「…はぁ、シャワーも、意外と気持ちいいもんだな」
「シンさま、サイゾウさま!着替えの服が到着されましたので籠の中に置いておきますね!」
「あぁ…ありがとうなミール!」
「…感謝する」
ミールは楽しそうに
鼻を鳴らしながら彼らの着替えを置いていく
「さて、ではシンさま!私も湯船に浸かって参りますね」
「分かった!もうちょっとしたら俺も…」
「いや…ミール殿。そなたはもうしばしそのままそこにいてくれ…誰も通さぬように…」
突然口を開いたと思いきやミールに
そこにいて見張りをさせるような
指示をするサイゾウにミールは困惑するが
「…は、はい…承知しました」
サイゾウの意に従い
二人がいるシャワー室の前に立ち尽くした
「…」
「…これなら拙者達以外、誰も聞かれぬでござろう」
「ミールの事…疑わないのですか?」
「…そなたらは昔からの縁にござろう、信用出来ぬのなら…そなた自身の手で始末させるでござるよ」
「……なんだとっ」
「シ、シンさま!私なら大丈夫です!!私は決してお二人を裏切るような真似は致しません!…ですから…」
「ミール……っ…」
ミールになだめられてしまうシン
今は必死にその場の重い空気に耐えていると
「で、何から話すのだ?…一部でも
記憶を取り戻したそなた
でも…疑問は止まないのであろう?」「あぁ…疑問だらけさ…あんたの事は……特に」
サァァァ……
シャワー室に響く二人の低い声
壁越しに通う言葉とはいえいつもと違う距離感が
漂う二人、その答えは互いの異変から生じたものだった
「ふ、やはりそなたは只者ではないようだな
シン=ウェルディ殿」
「!?……どうして…俺の名前を…!」
「カマをかけたつもりでござったが…やはり図星か」
「おいっ!!」
「騒ぐな…見張りの意味が無くなる…」
かなり低い声で厳しく指摘されると
二人の空気はより一層重々しくなる。
にしてもサイゾウは何故、自分の名を知るのか?
全くと言っていいほど面識のないはずの二人…シンはサイゾウにもう一度、尋ねてみると…
「主の元に…ある文が届いたのだ…名も無き…文がな…」
「サイゾウさんの、主に…文?」
その文にはこう記されていたという
『ファクティスの秘密を知る…最後の生き残り…【シン=ウェルディ】を…どうか救ってくれ…。』
ドクンッ…!!!
(ファクティスの、秘密?…俺が、最後の……生き残り?)
その場で聞いたシンとミールは
背筋が凍らせる
サイゾウから聞かされる数多の真実と
果てしなく蠢く数多の闇
そのすべてを知ったとき
シン達は…どこへ導かれるのであろうか?
【終】