第17話 炎の都市ーグレイー
文字数 4,882文字
海賊船から離れて間もない頃
シンはサイゾウ達から伝えられた
【平常心】という助言により
無事グレイまでの道のりを進んでいた
「はぁ、ようやく安定してきたな…あ、リンク…さん?」
「は、はいっ」
「その…ごめん…操縦、初めてとはいえ…君に迷惑をかけてしまって…」
落ち着いてみるとシンの心には
彼女への申し訳なさでいっぱいになったが
リンク本人は、変わらず優しく包むように微笑んだ。
「いえ、あたしなら平気です…シンさんは、本当に優しい方なんですね」
「え?…お、俺が?」
一瞬動揺したが、鎮まれ鎮まれ…と心の声で必死に抑えた。
「昨日の事はもちろん祭の時も、あなたはみんなの為に一生懸命になってくださった…それに引き替えあたしには何の力もないせいで、みんなをちゃんと守ることが出来なかった…本当に、情けないです。あたし」
「そ、そんなことはないっ!あの時の俺は…ただがむしゃらに突っ走っただけで、サイゾウさんやアンさんに何度助けられたことか…む、むしろ、君の方が、子供達が怪我しないよう庇ったり、サイゾウさんの毒を、ちゃんと治してくれた…!それは…本当に本当に、凄い事だから…だから、君はもっと自信を持っていいと、俺は思うんだ!」
緊張と照れから時々声を詰まらせながらも
必死にありのままの思いをぶつけるように彼女を励ました。ヘルメットを被ってるせいで唇を噛み締め、顔から耳まで真っ赤になっていることを…リンクは知りもしないが
「シンさん…ありがとうございます…本当に、優しいのですね。」
彼の言葉がとても嬉しかったのか
酷く重苦しかった心が少しずつ
軽くなるのを確かに感じていた。
それからしばらく走行しているうち
シン達はようやく【炎の都市ーグレイー】がある島を発見した。そしてその島から大きく目立っていた
あるもの
にも気づいた「おおー!あれが噂のブレイネル
「ブレイネル山?」
「グレイにある一番大きな山です。」
ちょうど一年前、リンクはサクスの時と同様医師となるための勉強でグレイに滞在していた時期があった。その時に聞いた人々の話によると、ブレイネル山はグレイで最も大きな火山とされているだけでなく、鉱石の方も他の山に比べて金銀銅はもちろん、稀に売られている貴重な宝石の原石など種類がとても豊富なことで有名とされているが…
「ここ数年は悪戯に採掘する方が多いので、上の方々から許可を貰わないと採掘出来ないんです」
「トレジャーハンターも涙目でござるな」
「ほーんと!迷惑な話だよね~」
「は、はは…」
むくれるアンに苦笑いするシン
だがリンクが気にかけているのは
別のことだった
「…あたしがこの都市を出た後、ブレイネル山に異変が起きたという噂を聞きました」
「噂?」
リンクが聞いたブレイネル山の噂…それは
【第17話】
ー グレイ 海岸 ー
無事グレイに着岸した四人
周囲は人っ子一人見当たらない中
リンクが憂えるような瞳で
ブレイネル山を見つめていると
「リンク殿」
「はい」
「先程申した噂…どのような内容なのか、聞かせてもらえぬか?」
「え…」
「無論、知ってる分だけで構わぬでござるよ。」
サイゾウに言葉を促されると
リンクはゆっくりと重い口を開いた。
「噂だけなので、あたしもこの目で直接見たわけではないのですが…あの山、あたしがこの地を離れた後…とても恐ろしいモンスターが棲みついてしまったと聞きました」
「モンスター、だと?」
リンクがグレイを離れてから数週間後
道中で偶然出会ったグレイの人々がどこか怯えた様子で
その噂を口にしていたのを見て聞いて知ったという。しかし、棲みついたという噂から何日経っても都市を襲うどころか姿を目撃した者が一人もいなかったせいで、一部の人間が興味本位で登山を禁じているはずのブレイネル山を無許可で登ったのだという
…その結果、哀れと言うべきか
それとも、案の定…と言うべきなのか
登山した者達は全員生死不明のまま
山から降りてくる事はなかった
その話を聞いてグレイの民達は
登山はおろか、次第に実感する恐怖から
口にする者がどんどん減っていったという
それを聞いて真っ先に口を開いたのはアンであった
「いやいやちょっと待って!そんな恐ろしいモンスターが棲みついたなら、上の人達は何か対策は…」
「それが…王族や政府の人達は、その話をデタラメな話として、全然取り合って下さらなかったようなのです」
「取り合ってくれなかった、だと…?」
シンはどこか見覚えのある状況を思い出すと
「サイゾウさん…これってまさか…」
「…」
「ん?なにどうかしたの?」
リンクとアンはぽかんとした表情でシンはサイゾウを見つめると、二人は一瞬だけ言葉を詰まらせるが状況が状況なだけにここは致し方ないと判断して彼女達に【地下水路】に棲みついていたモンスターの秘密を打ち明けた
「そ、そんなことがっ…」
「へぇ…あのモンスター、そんな
ワケあり
なヤツだったとは…あの罠もそうだけど、サクスってほんとろくでもない都市だよね」「俺もサイゾウさんから話を聞いた時は驚いた、だけどあの時見たモンスターやモンスターにやられた人達の遺体が川に流されていたこと自体が全て証拠になる…だけど」
真実はサクスの王室や政府に
属する人間達の手で全て、闇に葬られた
王族の
宝
を守るためだけに…多くの兵士達が無惨にも殺された
家族や友人に何の報せもなく、殺された
血で塗り固められた嘘は
バケモノという形で造られ
真実を求める者たちを命諸共喰らい尽くす
そんな従順に回り続けていた負の連鎖を
あの日シンとサイゾウ、そしてアンが
ほんの一部ではあるがそれを止めることが出来た
もしかしたら、今のグレイもまた
サクスとほぼ同じ状況であるかもしれない
もちろんこれもまた憶測ではあるが、そう考えれば考えるほど思わずため息がこぼれた…無理もない。どんな形にせよ尊い命が闇に葬られたという真実に対して平気な顔をしていられる者など、ここには誰もいない
ここには…誰も
そんな、重苦しい空気に沈黙する
四人の間を割って入るかのような物音が
ドンドンドンドン!!!!
「えっ!?」
「な、何!何の音!?」
『…れかぁー!…だ…おらぬ…!…おーーい!!…』
「な、なんか、バイクから声みたいなのが聞こえるんだけど」
「あのバイクって…喋れましたっけ?」
「さ、さぁ…」
ドンドンドンドン!!!!!!!!!
「ひぁぁっ!!!?」
音は、水上バイクから聞こえきた。エンジンを起動させていないバイクから物音がするというあまりに不気味な光景に、三人が硬直する一方…サイゾウが冷静にある言葉を思い出した。
「なるほど、
余分な荷物
…でござるか。」「余分な荷物…って、まさか…あれがですか!?」
「荷物ということは………よし!シンくん、出番よっ!!」
「はっ!!?」
アンはすかさずシンを水上バイクの元へ突き出した
「ちょっ…ちょっと!なんで俺が…!」
「
シンくんが乗ってたバイク
から聞こえてんだから操縦者のシンくんが確認するのは当然っしょー?」「…みたいでござるな、シン殿。」
「なに満面の笑みで正論かましてるんですか!嫌ですよ俺だって!!行くならアンタらでっ…」
次第に口論が始まる三人の様子にリンクは
「あ、あの!あたしもバイク乗りましたから…確認はあたしが…!」
「え!?」
怯えながらも立候補するリンクに、シンは
「いやいやリンクさん!君は無理しないで!?か、確認だけなら……お、俺一人で大丈夫だ!!だから、だからアンさんたちと一緒にそこにいてくれ!」
「で、でもっ…」
「そーーよねーー♪か弱い女の子にそーーんな危ないこと、させられるわけないもんねーー?」
そこには
戸惑うリンクの肩を抱きながら
後ろで悪魔のような微笑みでシンを見るアンと
顔色一つ変えないで笑いを堪えるサイゾウがいた。
(あ、あの鬼共っ…ちっっっくしょう…っ!)
怒りを堪えつつ、シンは水上バイクに接近した。
ドンドンドンドン!!!!
近づいても変わらず物音が激しい
音のする場所は座席の中
どうやらこの座席は箱のように開閉するらしく
船長が言った荷物もこの中に余裕で入るような
設計となっているのだ。
バクバクと騒ぐ心音を深呼吸で落ち着かせ
恐る恐る、ゆっくりと、その座席を開いた
次の瞬間___
「かーーーーーっつ!!!!!!」
ドゴォッ!!!!
「ふごぉあぁ!?」
やたら硬いものがシンの顎を直撃すると
そのままドスンと海の砂埃が派手に舞う勢いで転倒するのであった。
「シ、シンさんっ!?」
「あらー…」
血の気が引いたように驚いたリンクは
すかさずシンの元へ走り出し
サイゾウとアンもその光景に一瞬だけ呆気に取られながらもリンクに続いてゆっくりと歩み寄った
そして肝心の座席の中から現れたのは
「…い、たたぁ…な、なんじゃ?頭に変なものが当たったような気が…ん?」
「シンさん!怪我は!?大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ…顎打っただけだから…へいきへいき…いてて」
「あらあら、全然平気じゃなさそうね~大丈夫~?」
「実に災難でござったな、シン殿」
「…人任せにしたアンタらに言われたくないですよ」
「なんじゃなんじゃ、おなごに囲まれて倒れてるとは情けない男だな!」
「え?」
全員が声の主に目を向けると
そこには堂々とした出立ちで
お団子ヘアが特徴的な桃色の髪を靡かせる少女の姿が
「あ、あなたは……えぇと……どちらさま、でしょうか?」
「なにっ!?グレイに来たというのに私を知らないだと!?」
「…いや、面識ないんだから当然っしょ?つか、ほんとに誰よ?」
アンが伏せ目がちで少女にツッコミを入れると
「ぬ!!そ、そうか…なら仕方あるまい…改めて言おう!私は!!」
ドゴォオオオオオオオオン!!!!!!!!
「わ、私の話を遮るとは何事じゃーー!!!」
「今の音は!?」
さきほどの音とは比べ物にならない
突然の轟音、それは
「山が…噴火した?」
「ちょっと~なんでまたこんなタイミングに~!」
例のブレイネル山の噴火
それを見て不審に思ったシン達と
少女は
「な、何故だ…何故…ブレイネル山が噴火して…っ!!……いけない!!」
「あっあのっ!?」
噴火を見た途端
少女は焦った様子でブレイネル山へと
いきなり一目散に走りだした。
「あー!ちょっとー!?どこへ行くのよー!ねぇー!!」
声が届かないほど少女は瞬く間に山へ向かって走り去った
「ど、どうしましょう…あの速さじゃとても追いつけません…!」
あれほどまでに必死な様子の少女の姿にシンは
不思議に気にかかったのか
即座に砂を取っ払い、立ち上がる
「…俺が、あの子の後を追う…サイゾウさんは二人をお願いします!!」
「!」
「え、シンくんっ!?どうしたのよいきなり」
「分からない、でも…放っておいたら、ダメな気がするんだ……あの子を、だから……」
「シンさん!!」
「大丈夫、心配しないで」
「!!」
ニカッと笑うその姿に三人は思わず息を飲む間
シンは颯爽と少女を追いかけていった
あまりに超展開なこの状況に残された三人は
「あーらら、シンくんってば、どこまでお人好しなのかしらねー」
「…自重というものを知らぬだけでござるよ。」
「でもこのままシンさんを放っては…」
「冗談よリンちゃん、どうせ、私達にはシンくんを追う以外選択肢なんて無いはずだもの、ね?サイゾウくん♪」
「…仕方あるまいな」
二人のその言葉に胸が高鳴るリンク
こうして三人もまた
シンを追いかける事を決めたその矢先
ドンドン!!
『…めさまーーー!!ひ…さまぁ…ずこへーーー!?』
「…え?」
「まさ、か…あっちにも?」
次なる物音はもう一台の水上バイクからであった。
ーーー
すばしっこい少女の後を必死に追いかける中で
再び違和感を抱き始めるシン
(なんだ?この感覚…前にもどこかで…)
それは、少女に対してか?走り続ける己に対してか?
それともまた別の何かか?
このざわめく音は
果たしてどのような結果が待ってるのだろうか__
一方、別方向から彼らの姿をじっくりと目にするのは
「…わざわざ死地に赴くとは、さすがは世間知らずのお姫様…手間が省けそうで何よりね…」
少女をつけ狙うかのように微笑む新たな存在
グレイにもまた彼らの知らない闇が存在していた
【終】