第11話 悪夢の再来
文字数 4,797文字
ゴゴゴゴ....
「...おい、また空が暗いぞ」
「ほんとだ...まさか、また」
「よせっ!こちとらまだ修理もまだなんだっ!冗談でも口に出すな」
「に、しても…脱獄犯の奴ら、まだこの辺りを逃げ回ってるみたいだからな...なんてことだよ...全く」
「あれ?あそこにいるのって………人か?」
民達が指差した方には警鐘用の櫓の頂上にて
人らしき者が佇んでいた
「ん?あの人ってたしか...祭のときにもいたような...」
【第11話】
ー 地下道 ー
突如崩れた地面から地下へと落下した二人
幸い怪我はなく、しかも偶然にも
何故か土ぼこりにまみれていた
少女アンと再合流するのだった
「君はさっきの…てか、なんでまたこんなところに?」
「あーこれ?君達の事が気になって追いかけてたらいつの間にかこんなところに迷いこんじゃったみたいで...あははっ」
「........えっ?」
もう一度詳しく事の成り行きを聞くと
アンは本当に二人の後を追っている途中、例の騒ぎで彼らの姿を見失ってしまった…それからしらみ潰しのように黙々と探し回っていると、いつの間か裏道に侵入していたらしく、さらにはあの毒ガスに彼女も巻き込まれ逃げ道として選んだのが落とし穴のような場所へ潜り込んだ結果、無事逃げ切りを果たし今に至るという…ちなみに
「で?なぜよりにもよってあそこに穴を空けたのだ?」
「え?...んー...なんとなーく、かなっ♪」
「えー…」
彼女の気まぐれさ?に救われたものの
二人は開いた口が塞がらなかった
「それにしても~お兄さん方よく無事だったね!罠だらけの森を抜け道から通った時はびっくりした!私、最初何にも知らないで森に入っちゃったから全然気が付かなったよ~」
「森に、入った?あの罠だらけの道の方を、君が?」
「そうよ!もうほんっとに大変だったんだからー!」
「…嘘、だろ」
大変、という言葉の割には
恐ろしいまでの陽気さで軽々とそう言い退けるアン
奇想天外な彼女に対しもはや
開いた口がどうこうという問題ではなかった
ーーー
それから三人は暗闇の地下道をたいまつで照らしながらアンが街側から進んできた道中で見つけたもうひとつの別れ道を進んだ
「この道の先っていったいどこに繋がってんだ?さすがに城の中って事はないだろうが…」
「案ずるな。この道の先は…西の山道に繋がってるはずでござる」
「西の、山道…あれ?どこかで聞いたような」
【西の山道の先に診療館があります!そこへ...!】
「あ…!」
思い出してすぐに頭に浮かんだのは
先日の騒動にて出会った少女リンクのその一言であった
「そうだ、あの山道には診療館が…?!あんなところにこんな道があったなんて…」
「診療所といえば…そなた、たしかあの館にいた者らの世話になっておったな。あそこでの顔見知りはどの程度いるのだ?」
「と、言われましても...ちゃんと話した相手はハルさんぐらいしかいないし…それに…」
「それに?」
ずっと頭の片隅に残っていた
リンクの、彼女の傷付いた痛々しい姿を不意に思い出しては心がチクンとした痛みを感じるシン。何故かはまだ、分からない…どうしてこんなにも、彼女の事が心配で仕方ないのか…こうした「想い」に自覚するのも…シンはまだまだ先、なのかもしれない
「いや、なんでもない」
「んん?」
「…」
「と、ところで…サイゾウさんこそ他に知り合いはいないんですか?あの時は状況が状況だったかもしれないが、サイゾウさんだったらあの診療所にも知り合いの一人二人くらいは…」
「さて、どうでござろうな…拙者を知る者など、今となっては……たかが知れている、でござるよ」
「サイゾウ、さん?」
何か、不快な事を言ってしまったのだろうか?
サイゾウはそれ以上何も口に出さなかった
気にならない、わけではないが…わずかなたいまつの光からうっすらとひどく【険しい顔つき】が見えた時
「やはり、まずい事を聞いてしまったのだろうか?」と、妙な罪悪感から生まれるとシンはそれ以上何も言えなくなるのだった
数分後、ようやく外へ出てみると
そこには歩いてすぐ目の前の診療所の姿があり
シンの提案で一旦、ここでハルに事情を説明した上で
身を隠そうと考えた直後…
「ん?…え、えっ?!ねぇ!ちょっと二人ともっ!!」
唐突にアンが慌てた声を発して
「なんだどうした?」とシンが問いかけると
「いいから!あれ見て!」と妙に忙しく返されて
彼女が指差す方向を見てみると
そこには...
ヴゥア"ア".........ァアア"ァ...ァア、アアァ"...
「黒い雲に、奇妙な音...まさか…」
あの時と同じように空は黒く覆われ
都市一帯に響き渡るあの忌まわしき呻き声
次第に雲が渦を巻き、その中心から
再び、黒きドラゴンが...姿を現す
ーーー
ー サクス城内 ー
あの時と同様の手段で迫るドラゴンの襲撃に
街中だけでなく城内でもすぐさま大パニックとなってしまっていた…ちょうど、会議を終えて廊下を悠長に歩いていたセシアもまたそれに気づいて思わず釘付けになっていると…
「セシア様っ!!」
反対方向から付き人が慌ててセシアの元へ
「セシア様!早くお逃げくださいっ!」
「私の事は気にせず、早く民達を避難させるのだ…!」
「セシア様は…!?」
「私は……」
ーーー
「…この音は」
一方、客人館で再び眠らされていたリンクもまた
部屋にまで響き渡るあの呻き声で目を覚まし
体を起こすと、心に嫌な予感をよぎらせながら
恐る恐る襖を開けると…
「…っ!?」
少女の心に深く刻まれたあの日の恐怖が、再び甦る
「ひっ....ぁ........ぁあ...っ!」
イヤダァアア...タスケテクレェエ...シニタクナイイイィィ...!!!!!!!
ーーー
ー 西の山道 ー
三人は身の安全を優先するため診療館へ急行した直後
なんとドラゴンが放った魔弾が診療館に直撃した
「あぁっ!!」
館はその一撃であっという間に崩壊した
周辺の木々も引火して火の海と化し
中にいたとされる人々、そして、彼女も……
「そん、な…ハルさ…リンク…さん……っ!」
一瞬にして赤く染められた絶望の光景に
三人が絶句していると…
「……わ、若造、若造ぉっ!!」
背後から聞こえてきたのは
てっきり、館の中にいたとばかり思い込んでいた
【ハル老人】がなんと無傷で
三人の元に慌てて駆け寄ってきた
「は、ハルさん…どうして、ここに…」
「すまぬ、昨夜から起きてる脱獄犯の話を聞いて以来、ずっと胸騒ぎがしおってな、念の為と思い、館にいる怪我人や患者達を全員地下へ避難させたのじゃ...そうしたら案の定...」
「じ、じゃあみんな、みんな!無事、なんですね!?」
そう伝えた瞬間
ハル老人は何故か、ひどく浮かない顔を見せた
「その事なんじゃが…若造…ワシはお主に詫びねばならないことが…」
「詫び?詫びって、なんの、事ですか?」
「実はお主が去ってすぐ……奴らが、
あの子
を…」ドゴオオオオオオオオン!!!!
再び襲いかかる魔弾が近辺に直撃し
その衝撃から来る爆風に危うく呑み込まれそうになった
「ぐっ、うぅ...ちくしょう...なんだってこんなときに...」
「あの日に比べ、また力が強まったようにも見える...」
「ほーんと、いい迷惑...ん?」
突然言葉を止めて目の前から飛び込んできたアンにシンが必死に
呼び掛ける
「お、おいアンさんっ!急にまたどうしたんですか?アンさんっ?」
「!...ねえねえ二人とも!あれよく見てっ!!」
「あ、あれっていったい...っ!?」
遠目からでもはっきりと見えた
それは、ドラゴンに対抗している者の姿であった
遠目であるせいかはっきりとした輪郭線が見えず
例えるならばドラゴンの周辺を蝿のように飛び交う様に見えたが、一つだけ確かに見えているものがあった
「あれって.......もしかして、魔法?」
連続で繰り出されているのはおそらく魔法...だがサイゾウとアンは違和感に気づいた
「確かに...魔法に見えるけど...あんな魔法あったかしら?」
「えっ?どういうことで...」
「やはりここに来てたのね」
背後から言葉を遮るのは、先程花街道で会った兵士達を連れた少女であった
「君はさっきの...こんなときでも俺達を追っているなんてな...」
「えぇ...こんなときでも動きますわよ…あなた方を捕え、あのモンスターの盾にでもすれば、処刑する時間と手間が省かれますしね」
「うーわー...美人なお顔でえげつなーい」
何ともとち狂った執念深さにもはや恐れ入った三人だが
ドラゴンの流れ弾の恐れを思うと戦うに戦えない
幾度となく遭遇する四面楚歌を前にシンは、もはや苦笑いを浮かべることしかできなかった
「さて、さっさと鬼ごっこを終わらせたいのでしたらすぐにでもお縄を頂戴なさい...すぐに楽にして差し上げますから」
「本当に容赦ないんだな...君は」
(...女の子を相手になんてのは、正直気が引ける...けどあっちはもう戦闘態勢だ........やるしかないのか)
渋々と剣を抜こうとしたその時...
パァアアアアア!!!!!!
サクス城から...大きく輝く白い光が現れた
「な、なんだあの光はっ?!」
「城から光が出てるぞっ!」
「大殿か?、それとも王子様の魔法なのか?」
「もし、そうだとすればっ!!!」
兵士達が一瞬にしてざわつき始める
その場で静かに見つめていたのはシンとサイゾウとアン
そして少女の四人だけであった
「あの光が、魔法?」
「否...あれは魔法などとは比べ物にならぬ」
「じゃあ...いったいあれは」
クスクス...
笑い声に気づいたシンは視線を少女に向けると
少女は小さく笑っていた
「...そんなに笑って、何がおかしいんだ?」
「あら失礼...別にあなた方のことではありませんわ...ほんの少しばかり【用件】を思い出していましたのよ」
「用件?」
「...えぇそうですわ...そういうわけですので...今回は特別にあなた方を【見逃して差し上げますわ】」
「な、なんだと?」
それは思いもよらぬ発言であった
「どういう風の吹き回しにござるか?」
「詳しい事など言うはずがありませんわ...まぁせいぜい言えるのは【私達の用件は、今...変わった】...それだけですわ」
(...今、変わった?...あの光と何か関係があるのか?)
「る、ルーリア様っ!良いのですか?!罪人を放ってしまっては...!!!」
「えぇもちろんよ...ふふふ...」
そう言い放つと少女は一人、引き下がった
置いてきぼりをくらった兵士達も必死に後を追いかけていった。
あまりに意味深な言葉を前に三人は
「なんだか、よくわかんないお姉さんね」
「...サイゾウさんは、彼女の事を知っているようでしたが...いったいどういうことなんですか?」
「......説明なれば後にする、今は...っ!」
サイゾウが目を見開く
シンとアンもそれに気づき視線を向けた
白い光の中から...巨大な生命体
まるで黒いドラゴンと【対となる存在】……それが
「
白い
..........【ドラゴン】...!?」【終】