第39話 仲間
文字数 5,017文字
アァ、ハヤク…ケシ、タイ…ワタシ、ノ…テデ…ゼンブ…コワシタイ
ナンデ…コンナコ、トニナッタ…ノ?…コレハ…ゼンブ…ワタシ、ノセイ?
フ、フフフ……チガ…ウ……ゼンブ…アイツ、ラダ
アイツラ、ガワルイ…ゼンブ…
アイツラサエ…イナケレバ……ワタシハ…ワタシ…ハ
ハ…ハハハ、ハハ…
…ネェ……ネエサマ
ワタシ、タチ…
ドコ…で…ま、ち、ガエ、えた…の、カナ…?
ーーー
ー 執務室 ー
「!」
「どうかしましたか、リンクさま」
シン達が街へ向かってから数十分ほど経ったころ
ミールとアクアールと共に執務室で待機していたら
突然、怒りと悲しみに満ちる声のような幻聴が聞こえた
リンクは静かに「いえ…」と答えるもどこか震えていて
その違和感に気づいたミールはリンクの傍に寄り添った
「シンさま達は必ず戻ります」
「!」
「あなたを刺客から守った方々ですし、わたしもあなたを必ず守ってみせます。だから…元気をお出しください!」
「ミールさん…ありがとうございます」
彼女の不安を少しでも軽くしようと
ミールは笑顔で励ました
その後、トルマリンとアイオラが
護衛兵を五人ほど連れた状態で
再び部屋を訪れた
「陛下、リンクさんの避難場所を確保致しました」
「ありがとう。街の人々の避難状況は?」
「宮殿と地下壕に避難した民はまだ半分ほどしかおらず、行方不明者も出ているのでもうしばらく時間が掛かるかと…」
「分かりました。ではまずリンクさんを安全な場所へ移送します、
「はい」
ゴゴゴゴ…
「…っ……今のは…」
窓の外から聞こえてきた雷の音に近い不穏な音
リンクにとっては聞き覚えのある音に似ていた
活気と華で彩られたサクスを一瞬で火の海と化した
あの恐ろしいドラゴンが現れた時と同じように…
(みんな…どうか、無事に帰ってきてください…)
ーーー
ー アクア ウェイブタウン ー
「こんのっ!!」
ドカァッ!!バタァン!!!
「はぁはぁ…クソ、これじゃキリがないっ」
「シンくーーーん!!!!」
街に暴れるモンスターを片っ端から討伐するシン達
しかし数が予想以上に多く
雑魚とはいえ言葉通りキリがなかった
途中で別れたアンとサイゾウが再びシンの元に集まると
状況確認をし合うが、肝心の主犯格が見つからないでいた
「早く親玉を見つけなきゃ、被害が拡大する一方だっ…」
「だからと言って、これ以上しらみ潰しをする訳にもいかぬ。最も被害の出てるこの場所から、足取りを掴むしかないでござるよ」
「でもここ、他の都市と同じくらいバカ広い場所なんだよ?一番高いとこから確認でもしないと探し切れそうにな…………ん?」
アンがよそ見をしながら話してる途中
何かを見つけたようにキョロキョロと目線を動かした
それに気づいて「どうかしたのか?」とシンが声を掛けると
「今あの屋根に人影が…」とアンが答え、突然動き出す
思わぬ行動に戸惑い警戒しつつも、彼女の後を着いて行くと
「あ!あれ!」
「あいつは…ルーファ、なのか…!?」
「見つけた以上は放っておけぬ、追いかけるぞ」
「よし行こう!」
三人はルーファと思しき人物の後を追いかけるため
一斉に走り出そうとしたそのとき
「誰を追いかけるですって?」
ルーファと同じ金色の髪の少女、ルーリアが単身で
彼らの背後に現れた
「き、君は…サクスにいた…」
「あら?私を覚えているとは少しはマトモになったようね…脱獄犯共が」
相変わらずトゲのある物言いで威圧するルーリア
シン達を捉えるその瞳も鋭く歪んだ殺気を帯びていた
「ちょっとちょっとー?なーんでお姉さんがこんなところにいるわけー?もしかしてまた捕まえに来たつもり?」
「ハッ…捕まえるですって?全くこれだから馬鹿はっ」
「なにぃ〜?!」
「アンさん!」
「今日はあなた達にかまけてる暇はないの…とっととそこをどきなさい」
「何が目的だ?」
「あなた達に言う筋合いはない」
「
リンク殿
を…狙っているのだな?」サイゾウの問いかけに
その場の空気が凍りつく
「…命が惜しければ、今のうちにその口を閉じて、失せなさい」
「なんだ、図星でござったか…どうやらそなたもシン殿と同じくらい馬鹿正直な娘だったとは、実に愉快だ」
「ちょっと、なんで俺まで巻き添い食らってるんですか?!」
「チッ…大人しく引っ込んでいりゃ良かったものをっ…」
火が点いたように激昂したルーリアは
黄と青のオッドアイを赤黒く染め、輝かせた
「なんだ!?」
「今更命乞いをしても無駄よ、お前達全員…ここで皆殺しにしてやる!!」
彼女の周囲から小さな紫紺色の魔法陣が大量に発生すると
そこから人間の女性の体を模した灰色のマネキンが同じ数で現れた
「うげぇ!何よこれ!!?」
無機質な身体は少しばかりあらぬ方向に曲がってより不気味さを漂わせながらマネキンはシン達の姿に気づいた瞬間、襲いかかった
「っ!!」
一斉に降り注いできた殴る蹴るの嵐、手数の多さで
圧倒されるシン達は反撃の隙を探すのに精一杯となる
「わわわっ!!ちょ!一気にっ…来ないでよー!!」
「語る言葉など……っ…持ち合わせてなど…おらぬだろう……っ!!」
ドスッドスッ!!
『っ!!キェェエエアァァアーー!!!』
「くっ!」
サイゾウが放った数本の苦無も全く効果がなく
口の開かないマネキン達は発狂混じりの雄叫びを上げながら
容赦なく畳み掛けてくる
(ちくしょう…っ…こうなったら…)
ブワッ!!
「吹き飛べええええ!!!」
ゴオオオオオオオ!!!!!!!!!
シンは咄嗟の思いつきで
双剣に風の魔力を纏わせると
勢い良く地面を叩きつけて風圧を起こし
マネキンを軽々と吹き飛すのだが
「っ!…ほぉ、パワーは大したものね…でも、その程度の力でいつまで耐えられるかしらっ?」
ルーリアは再び大量のマネキンを出現させた
こうなるともはやルーリア本人を
直接叩くしかないと見るが
目の前のマネキン達が彼女の盾となっているため
簡単に前へ進めないでいると
「アイツ、見たところ私と同じくらいの魔力が多そうね」
「魔力が?どうして分かるんだ?」
「具現魔法は普通の魔法よりも強力だが、魔力と体力の消耗も激しい代物…だが」
ルーリアの表情は疲れの色が微塵も見えず、呼吸も乱れていない
むしろ、余裕の笑みを浮かべてシン達を攻撃出来るほど
ルーリアの体には膨大な魔力が秘められていると二人は推察した
そんな彼女といくら体力勝負をしたところで
こちらの魔力が先に尽きて根負けする
未来しか見えないと悟ったシン達は
(なんとか、なんとかしないと!)
まさに八方塞がりと言えるこの状況…このまま彼女の時間稼ぎに呑まてしまうのか?と必死に考えを巡らせていると
とうとう、マネキン達に囲まれる形で壁際に追い詰められてしまう
「く、くそっ…!はぁはぁ…」
「思ったよりも呆気ない奴らね…ルーファは何故コイツらごときに苦戦したのかしら…」
マネキンがトドメを刺そうと前屈みになって近寄り出すと
「シン殿、もう一度風を放て…」
「え?」
「風が吹いた隙に逃げて、あいつを追っかけて…ここは私達が食い止めるあげるから♪」
思いもよらぬ提案にシンは戸惑った
「な、何言ってるんだ!このまま二人を置いていけるわけ…」
「ではこのまま…リンク殿を奴らに奪われても良いのか?」
「!?」
「屋根から走ってったアイツ…宮殿の方に向かってったぽいから…きっとまたリンちゃんを狙ってる…だから、宮殿に着く前にあいつを止めないと」
「そ、そうかもしれないが…こんな状況で…」
「仲間を信じるのが…そなたの取り柄ではなかったのか?」
仲間…彼の口からそんな言葉が出るとは思わなかったシンは
驚くあまりギョッと目を見開いてしまう
「え…サ、サイゾウさ…」
「全く、心配は無用だと何度言わせるのだ。大馬鹿者」
「…!」
「あの水路にいたモンスターを倒し、ミール達を助けた私達が、今更こんなヤツらにくたばるわけないっしょ?」
「二人共…」
「そ・れ・に♪リンちゃんを守るって、自分でもう腹括ってるでしょ?だったら尚更…私達の事信じて、助けに行って!でなきゃ、白馬の王子様が聞いて呆れるわよ?」
「は、白馬の、王子?」
「フッ…」
「にひひ~♪」
危機的状況で不敵な笑みを浮かべるサイゾウとアン
口では懲りずにシンを茶化した物言いを見せるが
今のシンにとってその言葉ひとつひとつがとても心強く感じた
「…ははっ…わかりました…分かりましたよ!ここは、、二人を信じて任せます!…ですから、絶対…絶対に…死なないで、生き残ってください…サイゾウさんもアンさんも…みんなみんな…俺の大事な、仲間なんですから!!!」
「「了解…!」」
ブワァァッ…
「!」
シンは再び双剣に風の魔力を込めた
「遺言を済ませたのかと思ったら…また風を起こすつもり?…そんな苦し紛れの力なんて…っ!?」
ブワッ!!!
「はあああああああ!!!!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!
風を纏った双剣を地面に突き刺すと、先程の風圧とは比べ物にならない大型魔法・サイクロンがマネキンをすべて粉砕し、巻き込まれたルーリアは必死に避けるも間に合わず
「きゃあぁっ!!」
軽々と後方へ吹き飛ばされた
そしてようやく竜巻の勢いが無くなると
ルーリアは体を起こして周囲を確認した
「う…っ……なんだったのよ、あれは……っ!!」
前方を見上がると
サイゾウとアンが平然とした態度で立ち塞がっていた
「お前達…あの風を…どうやって」
「そなたに言う筋合いは、ござらぬが?」
「!…ま、まさか」
「ところでお姉さん!いい加減、私達とガチで勝負しない?お人形さんごっこも、そろそろ飽きちゃった♪」
「…」
大きなダメージは与えられなかったが
身動きを取れなくしたおかげで
シンが戦線離脱する時間を大いに稼ぐことに成功した
そんな彼らの思惑を理解したとき、ルーリアは…
「はは…はははっ…全く……どいつもこいつも…手加減してるからと、いい気になりやがってぇっ!…クソが、クソがクソがっクソがあぁぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁあああっ!!!!!」
絶叫と共にルーリアの両手に発現したのは
可憐な容姿に似つかわしくない
歪で長細い刃が三枚ずつ装備された
魔法陣と同じ紫紺色の鉤爪であった
「ふ、ふふっ…さぁ、いらっしゃいクズ共…
「あーぁ…あんなに怒っちゃってまぁ」
「それは…そなたが言えた義理か?」
二人はハァ、とため息を吐いた
「こんだけ大騒ぎする奴らを野放しにしてるなんて、みんなホントにどうかしてるわね」
「今さら文句を言っても仕方あるまい」
「便利なようで不便すぎるのよ、この世界は」
「古びた
掟
に従うがゆえ…でござるよ」ーーー
ーアクアール宮殿 廊下 ー
「陛下っ!!」
移動の途中、調査隊員が
アクアール達の元へ足早に駆け寄った
「何事です?」
「ハッ…モンスターを操る者の正体を突き止めてる最中、怪しい金色の髪の少年少女の二人が、建物の上を歩いてる姿を目撃しました」
「建物の上を…金色の髪……まさかっ」
隊員の話を聞いて、アクアールは悟った
傍で聞いていたトルマリンとミールも直ぐにそれを理解すると
「陛下…もしこれが
「分かっています。彼らを裁くためには…」
「同意など必要ありません陛下!奴らは今、このアクアを破壊してるんです!なのにわざわざ、奴らの肩を持つ者達の同意を得るなど、時間の無駄です!!」
「お気持ちは痛いほど分かりますアイオラさん。しかしそれでは…無用な争いも引き起こし兼ねないのです!」
「上等です!もういい加減、奴らの好きにはさせません…!」
「口を慎みなさいアイオラ…!」
「ですが!!」
いつの間にか三人の口論が始まり
リンクとミールは止める術もなく困惑していた
「じ、女王様…」
「あわわわ…ど、どうしましょう~」
セブンズシティで定められた、掟
元々それは
無意味な争いで何かを奪い合っても最後は結局、何も残らなかった
それを思い知らされた先代の王達は
自分達の犯した罪への戒めと
未来の者達に希望を託して作られた
しかし、それが今では善人だけでなく悪人の手にも渡り
骨の髄まで幾度となく利用され続けたことで
忌まわしき存在へと変わり果ててしまった
何が正義で、何が悪なのか
正しき答えが見つからず想いが交錯する中でも
空に浮かぶ赤黒い雲は
待つことを知らずに、じわじわと広がっていくのだった
【終】