第20話 警告
文字数 5,136文字
あれから話し合いの末…
シン達はメイリンの【目的】に協力するため
神殿まで連れていくことになった
そしてその目的が果たされた暁には彼らを
屋敷に丁重に扱うことを約束した
王族である彼女の身分を利用するというのは
シンにとって少々気が引ける話でもあったが
現状、そうも言っていられる余裕などなく
むしろ今の自分達の安全を確保させるためには
これが一番手っ取り早いとして、話が決まる
メイリンも、それをしかと理解した上で
自分達の要求を受け入れた
さて、肝心の目的であるが
さきほどモンスターに山道を破壊され
完全に通行不能となって詰んだように見える
状況下でメイリンが自信ありげに「心配するな」と
一言発した
「実はこの山、少し前に戻ると裏道なるものがあって、そこから頂上まで通ることが出来るのだ」
思いもよらぬ情報にサイゾウを除いた
一行は「ええっ!?」と叫んだ
「うっそ!?この山にそんな道があったの!?」
「まぁ、な…しかし、そっちの道は火山灰や岩が落下しやすくてな…人が通るのに厳しいが…」
「他に通る道はない…そういうことでござるな?」
メイリンは少し申し訳なさそうに頷いた
「で、でも…別に通れない訳じゃないだろ?ゆっくりでいいから慎重に進めばきっと行けるはず」
「そうですね。あたしもそう思います」
「みんなポジティブでいいわね~まぁ私は楽しけりゃそれでいいけど♪」
「アン様も…充分ポジティブな気がしますよ…」
みんなの話を聞いてやれやれといった
リアクションをしたサイゾウは
「話が決まったのなら、行くでござるよ」
どこか微笑ましそうにふっと笑みをこぼすと
一人そそくさと裏道の入口まで歩み出し
シン達もそれを追いかけるように進み始めた
__それからしばらくして
「…よっ…と」
「シン…といったな……すまない、私のためにいらぬ苦労を…」
「別に謝らないでください…俺は俺の意思もあってここにいますから…っと」
「のぅシン…あやつは…サイゾウとはどういう男なのだ?」
それはシンでさえも不可解な質問であった
「んー…どういう男、でしょうかね…俺もまだ会ったばかりですから…はっきりとは…」
「そう、なのか?…私には、そちたちは実に息の合った者達のように見えた…
縁の浅い者同士
とは思えぬほどにな」その言葉を聞いてシンは内心驚いた反面
まんざらでもない気持ちでいっぱいになった
「はは…それは大変な褒め言葉ですよ、王女様…でもどうしてまたサイゾウさんの事を…」
「え?……ち、ちょっと…聞いてみただけじゃっ!」
「?」
質問に対してなぜか
急に拗ねたようにそっぽ向いてしまったメイリン
その心に秘めるものとは…?
【第20話】
ー ブレイネル山 六合目 ー
ようやく裏道を通り抜けた一行
辿り着いた先はちょうど表道の六合目であった
「はぁーもうこんなに登ってたのね!」
「…すごい、グレイが小さく見えます」
黙々と登り続けてもうどれだけの時間が流れたのか
空はいつしか薄暗く、山から広々と見える街は
無数の灯りで照らされていた
そして、無事に辿り着いて安堵したのか
グゥーー…キュルル…
…誰かの腹の虫が鳴った
「今のって…」
「あっははー♪やーだもぅー!私ったら!」
「アンちゃん…」
「すごいタイミングですね…」
「でもでも!あの船が今朝襲われてから私だけでなくリンちゃんや皆だってなーーんにも食べないで来たのよ?むしろもっと前から皆お腹空いてたっしょ?」
「確かにそうだな…俺も今気が抜けたせいか腹が…」
「そうですね」
「そういえば姫様も私も、でしたね」
「うむ……む?そうだシャオル…たしかこの近くに休憩場がなかったか?」
「あ!そうでした!では確認して参りま……どわぁ!」
ズザァッ!!
「…」
意気揚々と出向いた矢先
シャオルは小岩に足を引っかけ、転倒
しまった…と言わんばかりのため息を漏らすメイリンと
見ていて非常に気まずくなったシン達は
「一緒に手伝った方が、いいよな」
「気持ちは嬉しいが、やめておけ…どうせ今のあやつにそれはお節介であろうからな」
そう言って待ってから数分後
何故か砂埃にまみれた状態でシャオルは帰ってきた
「ありましたー!!こちらですーーー!!!」
シャオルが大きく手を振りシン達は
ゆっくりとした足取りで彼に導かれる
「姫様方…こちらです!」
導かれた先は明らかに廃れた雰囲気を
醸し出している休憩用の小屋であるが
中にはいざという時のための
非常食がしっかりと蓄えられてる上に
体を温める毛布や救急セットなどが完備された
言わば避難所のような場所でもある
「すごいな、こんなにたくさんの非常食と道具が…」
「にしてもこの非常食…どうやって料理するわけ?私この手のもの全然扱い分かんないんですけど~」
「それでしたら私にお任せを!これでも宮中では姫様や王族の方にお食事をお出しする役目を担っておりまして…料理に関しましては自信がございます!」
「宮廷料理人…ということでござるか」
「はい!」
「そうだったんですね…でも、たしかにその方がしっくりきますね…シャオルさんって」
「あー…たしかに」
「だね♪」
「はい?」
空いた口が塞がらなくなるほどに
シャオルにはその言葉の意味が伝わらなかった
「よ、よく分かりませんが…とにかく皆様お待ちくださいね!今すぐ料理を…はわぁっ!!」
そして二度目の転倒である
「…あの、シャオルさん…」
「!?…こ、これはまたお見苦しいところを…!では気を取り直してっ!!」
バタバタバタ…
「やっぱり何かお手伝いした方が…あたしもシャオルさんほどではありませんが、料理することが出来ますので…」
「言いたいことは分かるけどリンちゃん…さすがにその格好で料理はまずいんじゃない?」
「あ…」
自分の衣服に染み付いた血を見て
直ぐに察したリンクはどんよりとした表情を浮かべる
「よいのだ…ここは全てあやつに任せよ…そちは私を治療してくれたという事実かつ誉れがある…だから気にするな」
「王女様」
「ん、メイリンでよい…王女と呼ばれるとなんだかよそよそしいではないか」
「そんな…気安く名前を呼ぶだなんて恐れ多いことを」
「別にそのようなこと………ふむ、ではこうしよう!これは【王女として】そなたに命令する!さすれば何も気にする事はあるまい!」
「それは、かなり強引な提案ですね…王女様」
「私とてこんな手は使いたくはないが、そち達が気が引けるというから、これしかないだろう!さぁ、呼んでみよ!」
シン達は困惑した表情で見合わせるが
彼女は彼女なりに自分達と打ち解け合おうと積極的に
なってくれている事に気づかないはずは無く
「え、と…メイリン、さん?」
「む…なんだがぎこちないが、まぁ良しとしよう…なにぶん、偶然とはいえそち達には私のわがままに付き合わせてしまった…故にこの一件が終わり次第、改めてそち達に礼をしよう。王女としての権限を最大限に使ってな!」
「ありがとうございます…」
(メイリンさんって…まだお若いのに時々威厳を感じるな…まぁ王女様だから当然…なんだよ、な…)
その後も数十分ほど雑談した後…
ようやく、シャオルの手により改良された
非常食が全員分用意された
「おー!」
「お待たせ致しました!ささっ!皆さんどうぞお召上がりください!」
「いただきまーす」
出来たての料理をひとつ口に運ぶと…
「ん?んー♪美味しいー♪え、なにこれ本当に非常食?」
「昔からここは非常食を用いる事が多い地ですので、質も年々向上しているんです」
「すごいなぁ…普通に手料理みたいで美味しい」
「このお米は確か…グレイ独自の乾燥米ですよね?普段の食事はもちろんこういった非常時にすぐ食べられるとして作られた…」
「おおよくご存知ですね!このお米、実は宮廷料理人を輩出する我がエリリ家が昔から改良に改良を重ねて…」
いつの間にかリンクとシャオルが
乾燥米について熱く語り合うと
取り残された一同は…
「はぁ…やれやれだ」
「似たモン同士ってどこにでもいるのねー」
「は、はは…ってサイゾウさん…それ何杯目ですか?」
「見ての通りにござるが?」
「…」
無事腹ごしらえを済ませた一行
しかし、いま外が暗いのはもちろん
気温も登った時に比べてかなり下がってる上に
山登りの対策をまともにしてない状態の
今のシン達にとってこれ以上の登山は
非常に危険であると判断
致し方無いが今夜はここでゆっくりと体を休ませ
改めて対策してから登山を再開することが決まった
思うように進まないもどかしさの中
食事前、リンクに包帯を取り替えたおかげで
先ほどよりだいぶ動けるようになったメイリンは
一人、神妙な顔つきで小屋から出て頂上を眺めていた
「…そうだ…私が…この手で守らなくては…」
亡き兄との約束を必ず果たしたい
そんな強い決意を秘める彼女の姿を
静かに見つめていたのは、サイゾウ
「…」
少女の背中をどこか切なげに見つめる彼は
いま何を思う?
ーーー
夜明けと共に目を覚まし全ての準備を済ませて
再出発した一行…特に何か喋ることはなくただ黙々と登り続けてさらに時間が過ぎた、頂上に近づくにつれ熱気がさらに高まり思わず項垂れた声を漏らしつつも
必死に耐えて登りに登り続けると
ようやく…メイリンの目的地である
【神殿】の入口が見えるのだった
だが不思議なことに、入口の前には何故か白い紙と鳥居に括り付けられていたはずの太く赤い糸が散乱していた
「…え、なにこれ?」
「誰かがいたずらしたのでしょうか?」
「可能性としたら、あの時のモンスターの仕業か?」
一行が納得しようとした瞬間
メイリンがそれを否定する
「違う…いくらあのモンスターでも…これを破る事は出来ぬはず」
「どうしてですか?」
「…シャオル」
名指しされたシャオルは戸惑いながらも答える
「この鳥居に括りつけられた糸はグレイの王族の方だけが取り外し出来るように仕込まれておりまして…普通の人間はもちろんモンスターでもそう容易く破ることは出来ません」
「それってつまり…姫さんと同じ王族の人がこれを破ったってこと?」
「そんな…!で、でもそれじゃあ、あのモンスターはいったいどこから…」
あまりにも奇妙過ぎる展開に
一行が頭を抱える傍らサイゾウがボソッと呟く
「王族の中に…あのモンスターを招き入れた者がいる…という事でござろう」
「招き入れた、だって?」
もっと詳しく聞かせてくれとシンが話を促すと
サイゾウは淡々と口を開いた
「さきほどリンク殿が申したあの話のとおりなら…グレイの王族と政府は…あのモンスターに関与してる者がいないと思うでござろうが…姫君の言うようにこの糸は王族にしか破れないものだとしたら…答えはひとつ」
「王族の誰かが…隙を見てこの糸を破った…そう言いたいんですね?」
サイゾウは静かに頷いた
「姫君、これを破る者に心当たりは?」
「そんな不届き者、我が一族には……っ!」
「………その反応…まさか…」
あからさまに何か思い当たる節がある
メイリンの瞳は次第に虚ろうが
ジャリッ…
「え、あの…メイリンさん?」
「行くぞ…真の答えは………この先だ」
何かを悟ったかのように言い放つと
メイリンは一人中へ
シャオルは慌てながらも彼女の後を追いかけ
シン達は
「…真の答え、か」
「あの感じじゃあ、ろくでもない答えなんじゃないのかしら?」
「いや、むしろろくでもないからこそ、進むのでござろう…姫君は」
「どういう、ことですか?」
瞳を閉じながらサイゾウは語る
「いくら兄との約束とはいえ、王になるということはこの地を守るだけでなく…反発する者たちともいずれ争う時が来る…人は皆、あの姫君と同じ志を持っているとは限らぬからな」
「そんな…」
「お姫さんも所詮は人の子…ああやって笑ってみせても、心の内には嫌いなやつ一人や二人居そうだもんね~…あーぁ、人間ってやっぱめんどくさーい」
「メイリンさん」
彼女に対して哀れみを感じる中…
キーーーーー…ン!!
「っ!?」
「リンクさん?」
突然響いた激しい耳鳴りに
驚いたリンクは思わず耳を塞ぐと
それに気づいた一行は彼女に目を向け首を傾げると
「す、すみません…その…いきなりだったのでつい驚いて」
「もしかして、また?」
「……はい」
「今度は…どんな言葉が聞こえたんだい?」
リンクは少しずつ鮮明に響く言葉をそのまま口にする
「今…すぐ…ここから…離れ、ろ…そうし、なければ…みんな…殺される……っ!!?」
「…離れろ?殺される?」
「え、なに…どういうこと?殺されるって…誰に…?」
「…」
意味深で不可解な言葉に全員が頭を抱える
「リンクさん…その声は、他に何か言ってるかい?」
「いいえ…それ以上は何も、ただ…この声…どうしてなのかは分かりませんが…
…ずっと、泣いてるように聞こえるんです」
「泣いてる?」
ドクンッ…ドクンッ……
心のざわめきが一層激しくなる事を自覚するシン
悲痛な警告に秘められた真実とは…
【終】