第72話 花に込めた意味
文字数 3,156文字
互いの昔話や最近の出来事などで
早くも話を弾ませるキョウとルエン
ソラは彼らの話についていけなかったのか
外の空気を吸ってくると言って席を外した
もちろん二人は彼のことなど気にも止めず話を続けた
「はっはっはっ…全く君は相変わらずだのぉ……あーところで、そろそろ本題に入らないかね?君もだいぶ痺れを切らしていただろうに」
「いえいえお気になさらず………では、お言葉に甘えてさっそく」
キョウが懐から出したのは…
「これは…押し花の栞?中は…四つ葉のクローバー…かね?」
「えぇ、ちょうどそのクローバーに似た髪飾りを着ける、娘を…探していましてね」
「ほほぅ…娘とな?….君にしては随分と珍しい案件だが、きっと君の事だ。決して生温い理由で探してるわけではないのだろう?この私に
直接
人探しを頼むという事は…」キョウがそれを肯定するようにニコニコと穏やかな表情を浮かべる姿に
ルエンは鳥肌が立つほど不気味に感じた
「…いいだろう、その件…乗ってやる。だが財団長殿、もし…私の期待を裏切るようなことがあれば、そのときは」
「ふふっ…ルエン殿。彼女をその辺の娘らと一緒にすると…痛い目を見てしまいますよ?」
「なに…?」
「ふふふ…」
誇らしげな顔でルエンを挑発するキョウ
優雅に紅茶を啜る彼の、次なる一手とは……
ーー
ー マリア 大通り ー
ナッドの突然の大胆発言に
思わず固まってから数秒
アンも呆然としながら黙ってナッドに肩を抱かれたまま
シン達に背を向ける
「あ、ちょ、ナッドさん!!」
「合流場所は入口近くの宿屋。じゃ、また後でな…シン」
半ば強引に立ち去ったナッドとアン
今までの彼からは想像もつかなかった行動力に
呆気にとられていると
「はぁ…私も遠慮しておくわ。案内されるより一人で散策する方が気楽なものでね」
「拙者も、少し野暮用を思い出したでござるよ」
ナッド達にしれっと便乗するようにその場を去ろうとするケイとサイゾウに
慌てたシンが二人を引き留めようとしたとき
「あの子の傍は、あなたに任せるわよ…坊や」
「…!」
ケイが至近距離でシンにそう囁くと、サイゾウと共に颯爽と歩き出した
シンは二人の背中をただただ見送る中で
彼女の意味深な言葉に首を傾げ立ち尽くしていると、カランが気まずそうに頭を掻いた
「あー…なんかオレ…悪いことしちゃったかな?」
「い、いえ…そんなことは…」
リンクが咄嗟にフォローするも
余計に重くなるこの空気にシンは…
「…分かった。この街を、案内してくれるかい?カラン」
「え!いいの?!」
シンが意を決してそう伝えるとカランは驚きつつも
どこか嬉しそうに目を輝かせた
「い、言っておくがリンクに何かしたら承知しねぇからな…!」
「おにいさん、ひょっとしてあの子のこと好きなんじゃ…」
「う・る・さ・い」
最初のやり取り以外は二人にしか聞こえない声量だったため
リンクとミールは状況が全く読み込めずにいた
「あははっ、いいよ。案内してあげる!ついでにオレが選んだおすすめスイーツも、友達になった印として教えてあげる♪」
「まだ君と会って間もないんだが?」
「いいからいいからっ」
その後、リンク達にも事情を説明すると
リンクは何の躊躇もなく歓迎し、ミールはシンが言うなら、と
それぞれの了解を得てついに街へと繰り出した
_____それから数時間ほど時が過ぎ、空は雲の隙間から夕日が見えていた
初めはカランのリードに戸惑うシン達であったが
そのお店の魅力や特徴を楽しそうに紹介したり
おすすめのスイーツやシン達が好みそうなものを親身になって選んだりと
距離は非常に近いが、それは妙なほど居心地の良い距離と感じるほど
「楽しい」と思えるほどに、いつの間にか彼に惹き込まれていた
「今日はありがとな、カラン」
「とっても楽しかったですし、おすすめのスイーツもすごく美味しかったです」
「えへへっ、どういたしまして♪でも、残念だな~…せっかく仲良くなったのにもうお別れなんて」
「そうですね…」
旅に別れは付きもの…けれど、心から穏やかに時を過ごせたこの時間は
シン達にとってかけがえのない思い出となった、だから
「次に会ったときは、カランの事、いろいろ教えてくれるか?」
「あれ?おにいさん、オレのこと口説いてんの?」
「…前言撤回」
「あははは冗談だよ~」
「それじゃあまたねっ」カランは陽気な声でそう言って
手をブンブンと振りながら立ち去った
シン達も彼の姿が見えなくなるまで見送ると
半分ホッと胸を撫で下ろし、もう半分はどこか寂しさを感じながら
シンとリンクはふと、目が合った
「………さ、さて、宿屋に行こうか」
「は、はい」
夢から覚めたように先日の出来事を思い出すと
一気に緊張した空気の中でシン達は宿屋へと向かった
ーーー
「……ふんふんふーん♪まさかこっちの提案に乗ってくれるなんて…ほんとにお人好しだなぁ…ま、そういうとこ…オレは嫌いじゃないけどね……さーて、おっちゃんにはなんて説明すべきかなぁ…手順が狂ったとでも言えばどうにか……」
ゴスッッ!!!
「ぁいったぁぁぁ~!!!!…っ…だ、誰だよ今殴ったのはっ……!?」
「…手順が狂ったとは、どういうことなのだ?カランよ」
「うげっ…イ、イゼルクのおっちゃん…まさか今の話、全部聞いて…」
「どういうことかと、聞いておるのだ」
「…っ……ち、ちょっと…からかってみただけだよ!
あの子達
の事を…!」「それで?奴らに悟られたりはしなかっただろうな?」
「悟られるも何も…オレ達は彼らと住む世界が違うだろ?今頃オレは変人として認識されてるか…それとも、ファクティスの手先?にでも思われてんじゃ………多分」
「ふんっ…まぁ良い…とにかくすぐに戻るぞ。あのお方が我々を呼んでる」
「え、えええっ!?……はぁ、ホントいきなりだよなぁ……ま、あの方がオレたちを呼ぶってことは重大な何かを…視たって事なんだよね?」
「あのお方が視る真実に…間違いなどはないからな」
「…真実、ねぇ…」
ーー
一方、あの場の空気から
つい便乗して輪から離れてしまったケイは
ひとり悠々と真っ白に染まるマリアの街並みを
歩きながら眺めていた
(…この街は本当に全部白に染まって綺麗ね…水と自然に囲まれたアクアとはまたひと味違うけど、こういう景色も中々新鮮ね…あとは…空がしっかり晴れていればもっと良かったかもね……あら?)
心の内で軽くボヤいた直後
少し先の真正面にある花屋に視線を向けた
(あいつは…!)
そこには、色とりどりに咲く花束を買う
ヴォルトスの姿が…
条件反射で物陰に隠れたケイは
じっと彼の動きを観察してみた
(どうして…あいつがこんなところに…?)
渋めの緑で染まる着物を着て一人
花束を携え歩き出したヴォルトス
その姿はファクティスの幹部ではなく
以前の自分と接していた医師でもなく
どこにでもいる【普通の男】そのものであった
(…探ってみるしかないわね)
それでも怪しいと踏むケイは彼に気取られないよう
距離を取りながら尾行を始めた
ーー
ー ??? ー
尾行から数分…
気がつくとそこは街中からかなり外れ
マリアの入口付近に生い茂る森の中のような道が続いていた
しかし、入口付近と比べてひとつ違ってのは
人気のない
雰囲気というより人を寄せ付けない
雰囲気と表現すべきだろうか…不気味にも程があるこの道に
息が詰まりそうになっていると
今度は上の道に繋がる寂れた石階段に
ヴォルトスがゆっくりとした足取りで登り始めた
(なんだ、この先は…神社か?にしては…)
鳥居も何もないシンプルな階段が上に続いている
いまいち想像がつかないまま後を追うと
「え…?」
そこは…
ケイが予想していた神社や寺ではなく
庭のように開けた場所で静かに、たくさんの墓が並ぶ
霊園なのであった
「…これ、は…どういう、ことなんだ?」
ヴォルトスが、たった一人でここに訪れた理由とは…?
【終】