第54話 パリの日本食屋

文字数 1,283文字

 パリにはなんでもある。お望みのものが手に入る。日本食屋もあるし、食材店も豊富だ。中華街に行けば、大きなスーパーがあって、大抵のアジアのものは手に入る。

 私はパリでラーメンを食べたことはないけれど、日本食が食べたくなったら、最寄駅近くにある「KUSHIKEN」通称「くしけん」に言った。焼き鳥定食をいつも頼む。日本人ではない人(多分中国系?)がなんちゃって日本食をやっているお店が多かった。なんちゃってでも十分だった。
 焼き鳥とご飯とスープは生姜が浮かんでいる。
 店員さんはアジア人だが全く日本語ができない。
「こんにちはー」と片言の日本語を話してくれる。
 気がいいが、メニューは謎のものも多くて、デザートの解説は「甘い。美味しい」とのことだった。頼んでみたが、謎のあんこのお菓子だった。まぁ、甘くて美味しいは間違えてなかった。

 資金に余裕がない私はくしけんにすらろくに行けない。でも何か喜ばしいことや、嬉しい日はくしけんに行った。

 智子がくしけんの甘いタレが大好きで、テーブルの上に置かれたタレをほぼ半分以上かけていた。しかしそこまでかけてもそこまで味が濃くならないという不思議なさっぱりしている甘だれだった。
 偽物でもご飯と焼き鳥…それはご馳走だった。
 異国の地で食べるご飯は格別…というほど、ご飯を食べていないわけではない。

 私はお米にそこまでこだわりがないので、ライスプディングを作る用のお米をスーパーで買ってくる。一袋、一キロくらいかな? 一ユーロしなかった。
 フランスにいると、パンを食べる機会は増えるが、フランスパン一本の値段で、お米が一袋買える。どちらが経済的かというと、断然お米なのだ。
 それを片手鍋で炊いて目玉焼きで食べるのが常だった。ほぼ日本食。味噌汁はないけれど、ほぼ日本の朝ごはんである。
 フランスパンを一本一日中で食べ切ることはないけれど、お米の方が断然経済的だった。お昼は外でケバブを買って食べていた。フランスパンより柔らかいケバブのパンはお肉もたっぷりだし、ポテトまで挟まれていてボリューミーだった。だから夜は本当にポテチとビールとか…(あまり健康に良くないけれど)そんな感じで済ませていた。

 そんな食生活だからくしけんはご馳走であり、生活の潤いだった。智子の誕生日もくしけんでお祝いした。

 当然だけど、今はもうない。

 フランスでパン生活は贅沢しようと思った時だけだった。エシレバターはフランスでも高級品で、そして美味しかった。パンにバター、それだけでご馳走だ。

 だから意外なことかもしれないが、私はほぼ毎日、お米を食べていた。毎食ではないけれど。そのおかげで、だいぶ節約できた。

「なんのお米食べてるの?」
「ライスプディング用」
「えー? 美味しい?」
「意外と普通だよ」

 そして炊飯器はないから、お鍋で普通にお米が炊けるということを知って、私は今でも鍋でご飯を炊いている。
 足りない生活は足りないながら、何かを教えてくれたし、ちゃんとした日本食屋の日本食じゃなかったとしても物凄い喜びを感じながら食べていたので、それはそれで幸せだった。





 





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み