第58話 地上階のご近所さん その2

文字数 1,555文字

 お家がいよいよ完成した。(私のお向かいさんのお部屋が私のささやかな…えぇ、えぇ、本当にささやかな…の電力を使い改装していた)

 知ってましたか? フランス人は引っ越しした後、ものすごいパーティーをすることを。一晩中、ガンガン音楽を鳴らして、飲めや、食えやの大騒ぎを起こす。そして他の住人はたった一日だからそれは我慢するそうだ。
 主義主張をきっちりするイメージのフランス人だが、意外に耐えるときは耐えるんだな…と思うことが多々ある。郵便局での長蛇の列もみんなきちんと並んで待つのも特に苛立つことなくこなしているし、突然、受付の人が「受付終了」と言う札を出して、そこに列があろうがなかろうが、受付拒否するのにも、「オーララ」と言って、また別の列に並び直す姿を見ると、なんでも利便性を追求している日本からすると、フランス人がすごく「器が大きい」人たちに見えてくる。そこらへんもとっても不思議だった。
 後、フランスでカイロを売ったら、きっと大儲けできるんじゃない? と密かに二十年間思い続けているのだが、いまだに売っている気配がない。フランス人と結婚している友達にその話をすると、
「フランス人は別に新しいものとか便利なものに価値を見出してないんじゃないかな?」と言った。
 むしろ、古いものを歴史として大切にしているのかな? と。意外と、天皇について好意的なのもそう言う歴史的な観点からきているのかも知れない。
 確かに建物は古いし、そう言うものを長く使っている。価値観の違いだろうか。
 あとついでに言うが、フランス人は肩が凝らないそうだ。日本でフランス語の先生が、肩が痛いと言う単語がなくて、強いて言うなら「背中が痛い」と教えてくれた。
「いや、背中違う」と思ったが。

 話は元に戻るが…。

 そんなことも知らずに私は夜に前の住人の友達であるMちゃん(直接部屋を借りるときにやりとりして、仲良くなった)と一緒にいて、そのまま二人で部屋まで戻ってきた。爆音がすごくて、びっくりした。扉が半分開いてるので、音漏れもそりゃあするだろう。

 すごい人数がちらっと見えた隙間から見える。

 しかし夜の十一時。爆音は収まらない。みんな本当に我慢するのだろうか。いや、マジで爆音ミュージックがすさまじいのだ。我慢できるレベルではなく。すると階段から降りて来て、何やら言い争う? ような声がする。そっと扉を開けて覗いてみた。

 ついに音に我慢できない住人が突撃したのだった。その日だけは我慢すると言う習慣なのに、我慢できずに(いや、本当にすごい大音量だったのだ)文句を言いに行った住人が発生した。
「よし、いいぞ、抗議してくれ」と思っていたら、なんと、ミイラ取りがミイラに。

「まぁまぁ、そんなに怒らずに、ほら、中にはお酒もありますよ。どうですか? 一杯?」
「いやいや、そうじゃなくて」
「何がいいですか? 白ワイン? シャンパン?」
「いやいや…」
「あぁ、シャンパン、どうぞ、ほら」と言われて、扉の中に吸い込まれるのを見送った。

 あぁ…。こうしてここの住人が吸い込まれていくのね、と大音量の中で友達と眠った。

「うるさーい」と怒ったところで、きっと届かない。

 それから三、四日後に引っ越ししてきた住人にすれ違った時に挨拶された。若い男性だった。

「いやあ、今日は。この間、引っ越ししてきたんだ」と言う。
「知ってる。パーティしてたから」
「あぁ、うるさかった?」
「うん」
(外国語だと、なんていうか、婉曲表現知らないからうっかりストレートな言い方しちゃうよねぇ。外国人だし)などと、心の中で開き直りながら言う。
「ごめんね。でも参加してくれればよかったのに…」

 さすが…、フランス人と思った出来事だった。皮肉でもなんでもない。心からそう思ってくれていたみたいだった。











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