第48話 パリの日本人経営語学学校 その3 ガレット・デ・ロワの魅力

文字数 1,241文字

 少人数制のクラスで、年明け早々、ガレット・デ・ロワというものを体験させてくれた。学校で特に料金を請求されることもなく、パイのお菓子が食べられるのが嬉しかった。(子供か)

 クリームもフルーツも入っていない素朴なケーキはアーモンドペーストが詰まったパイだった。そして、その中にフェーブという陶器の小さな飾りをパイの底から差し込んで、くるくるパイを回して、そしてみんなでパイを選んで食べる。フェーブが入っている人はその日は王様、王女様になって、みんなに色々命令をしていいらしい。

 みんなが真剣にパイを選んでいたが、私は後でいいと言った。最後に残ったやつを食べたら、なんと私が当たった。紙の王冠をもらって、王様を決めろ、と言われた。

(えー。何もして欲しいことないけど…。誰を選んでも面倒臭そうだな)と思ったので、先生を選んだら「ノン」と拒否された。

 別に決めたくないのに、「決めろ」って言われて、私、王女様なのに、拒否られるって何? と早々に苛立ちを覚えた。

 で、その話はそれで終わりで特にいいことは何もなく、フェーブをもらえたことだけだった。でもこの時、初めて食べたガレット・デ・ロワはシンプルで何の飾り気もないのに、とっても美味しくて、以来、日本でも食べれる時は食べるようにしている。
 すごく見た目は地味なのに、味が絶品なので、損をしているお菓子だと思う。だから私だけでも理解して美味しいと言うことを全力で伝えたい。フランスの菓子で一目惚れならぬ一口惚れしたのはこのお菓子だ。
 
 ガレット・デ・ロワは味も美味しいし、そして何より楽しい。食べ物で遊んじゃいけませんと言われてきた私だから、その背徳的な楽しさもあって、私は大好きな行事になった。

 日本でも豆まきはなんて楽しいんだろうと子供の頃に思っていて、本当に大好きな行事だった。あれだって、食べ物で思い切り遊んでいるのだけれど、怒られることはなかった。本当に子供の頃は食べ物で遊ぶと激しく怒られてたので、豆まきの時だけは思い切り遊べる。そして本当に福が来ると信じて豆を撒いていたから、楽しくて楽しくて仕方がなかった。歳の数だけ食べさせられるのは次第に辛くなってきたけれど。

 ガレット・デ・ロワは味も美味しいし、楽しい行事だ。そんな行事を教えてくれて、この学校のことが私は好きになった。たった二週間だけしか在籍しなかったけれど、いい学校だなぁと思った。語学だけでなく、その国の文化も体験させてくれるなんて…、しかも私はその行事がすごく気に入ったのだ。そして智子にガレット・デ・ロワを偉そうに教えて、二人で食べた気がする。

 智子はワーホリビザだが、一ヶ月だけパリでも語学学校に通っていた。そして南仏からの知り合いと一緒に韓国人の家にホームステイしていたので、私にもたまに会っていた。

 地味なガレット・デ・ロワを食べさせてその美味しさに驚かせるのも、楽しかった。パリに来て、友達もいるし、日本人も多いし、毎日賑やかだし、とっても楽しかった。













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