第52話 素晴らしきパリ生活

文字数 1,390文字

 初めてパリに来た時はパリに住める日が来るとは思わなかったけれど、ついにパリに住むことができた。

 旅行できた時はパリで犬の散歩をしている人が羨ましかった。パリで犬の散歩をしていると言うことは、そこで暮らしていると言うことだから。
 そしてパリで犬を飼っている人は多い。よく散歩している人を見かける。一緒にカフェに入る人もいる。テラスで犬と一緒にカフェタイムを取っているなんて、すごく優雅だった。

 パリに住むとは言っても、期間限定だし、犬を飼うことはできないけれど、とにかく、住めるというだけで嬉しかった。

 そして絵画の学校へ通うことになる。そこで今、画家として活躍している(名前出していいのか聞いてないから、とりあえず)Sちゃんと出会った。彼女は高校卒業して、すぐにフランスに来て、絵描きを目指していた。

「幼稚園の頃から絵描きになるって決めてた」と言うくらい絵に対して真剣だった。

 私の大学の友達が前に同じ絵画学校へ来ていて、Sちゃんと知り合いだったようで、
「え? Kさんの友達?」と驚いていた。
「うん。大学が同じで」
「よかったー。友達ほとんどいなくて、Kさんは仲良くしてもらってた」

 友達の友達は友達。

 私はすぐに友達になってもらえた。家も、路線は違うけれど、同じ15区で歩いて行ける範囲だった。彼女は屋根裏部屋、私はレッドゥショッセ(地上階。日本だと一階になる)の部屋で天と地の差があった。どっちも使用人部屋のような感じではあるがSちゃんの家の方がお風呂が部屋の中にあって、(その上がベッドという不思議な作りだけど)風呂場が寒くなかった。私のはバスルームが外に突き出た形してて、寒かった。トイレも同じ空間だったので、寒かった。

 絵を描くことを本当に心の喜びとしているような子だった。私は大学に入って、絵を習ったけれど、絵を習うというより、何だか人間関係に疲れて、(先生にうまく取り入るとか…。でもきっと他にも色々あったんだろうけれど…)大学に行ったから、絵を描く情熱がなくなった気がする。

 だから絵は描けるけれど、絵を描く気持ちが全く無かった。

 それでなんで、絵の学校に行ったのか…なんだけど、やっぱりそこでも絵は描けるけど、描きたいという気持ちが復活することは無かった。

 でも学校に行って、絵を描いたりしていた。ただ…なんというか、フランスで描いたから、日本で描いたから…って、思ったより差がなくて、どこで描いても、(もちろん風景は違うけれど)自分に向き合わなければいけないのだから、結局、どこで描いても同じなんだな、っていうことが分かった。

 私はその教室に通いながら、絵に対する情熱を持てずにただ絵を描いていた。その教室はいろんな国の人もいたけれど、日本人も割といて、余生の最後にと自分の母を連れて、定年退職した女性が親子で通っていた。ずっとフランスに住んでいて、絵を描いている男性もいた。
 何というか…そこで自分が中途半端に思えて仕方がない。

 出された課題、静物画、人物画を描いて、描けるのだけれど、全く自分の絵に対して情熱というものがないことに気付かされた。思えば、高校の頃が一番あったんじゃないだろうか。

 そうして、Sちゃんと話しながら、絵を描いたりして…、素晴らしい時間を過ごしつつ、私はずっと自問自答していた。一体、何がしたいのか。これから先、何をするべきなのか。










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