第89話 ご近所のレストラン

文字数 1,749文字

 私は以前にも書いたように、お菓子用の米を食べ、夜はポテチだったりするので、せっかくフランスにいるのに、フランス料理をそんなに食べていない。
 外食でフランス料理を食べるとすると、クスクス(もはやフランス料理と言っていいのか…?)やケバブ(いや、だから…)、ステーキ&フリットだった。
 ステーキはそれ専門の店がポルトマイヨー駅十分くらいのところがあって、そこに入って、座ると、焼き加減だけ確認されるという店がある。ステーキとフライドポテトが運ばれてくるが、まずはステーキ半分の量である。そしてそれを食べ終えた頃、また半分運ばれてくる。温かいお肉を食べ続けられるという素敵な配慮だった。フランスの牛肉は和牛とは違って、柔らかくない。柔らかくないから絶対「アポワン(ミディアム)」にするべきなのだ。「ビヤンキュイ(ウェルダン)」にすると、マジで焦げた硬い肉が出てくる。しっかり焼いても柔らかい和牛の柔らかさを求めてはいけない。レアでもいいのだが、私が行った頃は狂牛病が流行っていた頃で、旅行者はステーキも敬遠していた。
 ともかく、ミディアムでお願いすると、本当においしい赤身のステーキが食べられる。そんなに頻繁にステーキを食べることがないので、私は狂牛病の話があったが、ミディアムで食べていた。
 街のブラッスリーにもアントレコットというメニューがあって、それはステーキなので、何を食べていいのか分からない時はそれをオーダーすれば、満足いくはず。私のように牛のタルタルを頼んで生肉とご対面にならなくて済む。

 今書いたものが、フランス料理…とは言えないかもしれないが、私が外食するフランス料理カテゴリー(いや、絶対違う)だ。あ、蕎麦粉のクレープもある。でもそれはちょっとおしゃれな気分の時だけしか行かなかった。
 そして私にそんな気分は二回くらいしか訪れなかった。

 有名なフランス料理店に行くお金もなければ、服もなかった。フランスはもともと貴族もいた階級社会なので、それなりのところへ行くにはそれなりの格好で行かなくてはいけない。
 だから予約もしなかった。

 ただ私のアパートの数軒隣くらいに小さなフランス料理店があった。まさにプティレストランである。規模も小さいながら、本当に美味しいレストランだった。最初に入った時は予約もせずに、友達と行って食べて、びっくりするくらい美味しかった。前菜、メイン、デザートで、前菜は色々あったが、私はそこの子羊のステーキ(ステーキ好き)とフォンダンショコラの虜になった。
 あまり羊肉は苦手な方だったが、このレストランの子羊の肉は素材がいいのか、そしてソースが美味しいのか本当に素敵な味で、初めて「美味しい」と羊肉で感じた。そして今はフォンダンショコラが日本にもあるが、私は初めてフランスで食べて、その虜になった。温かいチョコレートがこんなに美味しいなんて、思いもしなかった。
 電話でフランス語で予約するのはちょっと大変だ。日本名に慣れていないフランス人に名前を言ってもすぐに分かってもらえない。だからまず私は「日本人です」と言ってから、名前を言うようにしている。もうすぐに綴から言う。電話番号ともなると、数字が面倒なのだ。二桁の数字がフランス語は慣れるまで大変だ。
 でもこのレストランはご近所さんなので、直接お店に言って、名前と電話番号を書いた紙を見せて、予約ができた。
 
 どうしても予約なしで食べたいなぁーと友達と出かけたことがある。レストランはどんどん人気になって、結構、いつも混んでいた。
「満席なんだよ。店内は…」と外に二人がけの椅子が出されている。
 それは飾りか、従業員の休憩場所かもしれないような歩道に置かれた簡易なテーブル。
「ここでよければ…」と言われて、速攻オッケーした。

 しかしフランスのゴミ収集車は夜に訪れる。ゴミ収集車が真横に来る場所でディナーを食べた。
 まぁ、なかなかの匂いがするが、ずっといるわけでもないし、自分がオッケーしたのだから我慢した。

 でもそれを我慢してでも食べたい…そんな思いをさせるほどの美味しいレストランだったのだ。そこで食べるご飯が唯一のちゃんとしたフランス料理だったと思う。ご近所に素敵なレストランがあって、本当によかった。









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