第19話 ホームステイ先とメキシコ人

文字数 1,555文字

 ホームステイ先は仲良かった環がいたところだったから話を聞いてはいたし、メールで聞くこともできた。大きな一軒家で三階建てだった。三階の一部屋を借りることにした。広くて、部屋にシャワーもあった。そして隣の部屋? というのには独立していない場所に二人のメキシコ人が住んでいた。階段に上がって、扉もないその部屋を通らないと私の部屋に入れない。シャワーはメキシコ人と共有だった。
 
 十八歳の女の子たちは明るくて、楽しいメキシコ人で私にすごく懐いてくれた。
 私はアヤだが、AYAのYがジャジジュジェジョの音になるらしくて、
「アジャー」と話しかけてくる。
「アヤ」と何度も言ったが、どうしてもYの文字を見るとアジャーと言いたくなるらしい。
 まぁ、どうでもいいかと途中では思ったが、そもそもAYAが日本語でないし、単なる音の表記だけなので、アジャーではないのだが、もう言い直すのも面倒くさい。
 本当に可愛い二人組で、結構いろんなことをされたが、私はある意味いい思い出になった。

「映画見に行こう」と頻繁に誘われるし、断ると「お願い、お願い、一緒に行きたいの」と言われる。
 日本人と一緒で楽しいのだろうか? と思うけれど、本当によく誘われた。そして誘われて、行くと、ずらっとメキシコ人がいて、みんなで映画を見に行くのだが、なんだか迫力のあるスケバンのような女の子が冗談か何かで「マフィアなんだ」と言った。
 冗談だったんだろうけど、本当に思えそうな魅力があって、なかなか怖かった。結局、その子の隣でハリーポッターを見るという経験をさせてもらった。
 一緒に行ったけれど、別に見るのは私の隣というわけでないので、意味がわからないが、よく誘われた。

「日本語の歌教えて」と言われて、その時、クリスマス前だったので赤鼻のトナカイを教えることにした。メロディだけでもわかっている曲の方がいいだろうと思ったからだ。しかしこの歌を日本語で歌って一体何になるのだろうと思ったが、なぜか思いの外、二人は真剣に努力してくれた。
 通学、息が白くなる冷たい朝、三人で
「マッカな オハナノー トナカイさんハー」と歌いながら歩いたのは本当に楽しかった。
「メキシコにも日本語の歌がある」と言って、「イチ、ニー、サン、シー、ゴー、ロク(後はスペイン語だった)」と披露してくれたが、郷ひろみさんが歌いそうな明るいノリの曲だった。

 ものすごく純真で可愛い女の子たちだった。朝ご飯、本当によく食べるので、驚いたが、聞くと、「メキシコは朝ご飯をたっぷり食べて、夜は簡素なの。だからフランスの朝ごはんが耐えられない」と言っていた。
 ホームステイ先の家では家人は起きてこず、戸棚にあるものを取り出したり、冷蔵庫の中のものを勝手に食べていいと言うことだった。私はいつもあればカトルカールというお菓子を二切れと熱い紅茶というメニューだった。しかしメキシコ人はハムやらヨーグルトやらシリアルやら、チーズやら探し出しては食べていた。
「こんなもんじゃないの。でもフランスは夜も多いから…ここに来て太ってしまった」と残念そうに言った。
「でも朝からそれだけ用意するのはメキシコのお母さんは大変だね」と言うと、
「お母さん? お母さんは大変じゃないよ。用意する人がいるから」と言われた。
「用意する人?」
「ご飯作る人、掃除する人、他にも色々」と言われて、驚いた。
(家事の外注である)
 メキシコではそれが当たり前だという。
(いやいやいや、待って、待って)と思わず思ったが、のちに解るが経済格差のある国では余程のお金持ちでなければ留学などできないのだ。

 マフィアだと嘘を言っていたあのメキシコ人もメキシコの上流階級の人たちだったのだ。私はメキシコのお嬢様たちと、赤鼻のトナカイを歌いながら登校していた。

















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