第71話 絵の学校

文字数 1,095文字

 私が通っていたのは絵の学校で日本人も多かったし、フランス人もいた。静物を描く日もあれば、モデルがポーズをとってくれて、裸婦を描くこともあった。今から思えばすごく贅沢な時間だったと思う。モデルさんがいて、それを描くというのは日本の大学では一年に一、二度くらいしかなかった。最終学年では卒業制作があったので、その一年はなかった。

 ただ私は絵を描くのは好きだったが、反面辛くなっていた。

 絵なんて、何がいいのか、きちんとしたスコアが出ない。もちろんデッサンだったら、狂っているとかそういうのはあるかもしれない。ただ絵に関しては本当に何がいいのか、いまだに分からない。描く人も人間なら、ジャッジする人も人間だ。
 その人の感性が合うか、合わないか、そういう曖昧なものだった。

 ふわふわした基準。
 私がいいものが描けたと思った絵がある。それは高校卒業後からフランスに来ているSさんもいいと言ってくれた。でも先生が「そんな絵を描く暇があるなら、アトリエのモチーフを描きなさい」と言った。
 そのアトリエのモチーフを描いても、褒めてくれる日もあれば、全く違うことを言う日もある。感性が合わなければ、絵の評価はなかなか出ない。

 そしてその評価を覆すような情熱は大学で、すでに私は失っていた。

 評価をする先生だって、やはり人間だから素直に言うことを聞く子がいいに決まっている。何でもそうだけれど、自分が作ったものはその時の自分のベストなものだ。それが作品とは違うところで評価されることを目にすると、本当に力が抜ける。
 担当の先生がいいとも言ってくれたものが公募展に落ちたこともある。評価とは一体何なんだろうと、本当に心が砕けた。
(それは小説もそうだろうけれど…。他人がつける作品の評価というものはあれは、存在しないものなのだ。それなのに、やはり心が砕ける)

 ただ本当に芸術家になりたいのなら、心を砕く暇があったら、それでも絵を描くべきだったんだろうと今は思う。それでどうなるか、なんて先のことを考えずに、ただひたすら絵を描くことを続けるしかなかった。年齢が…とか考えずに、ただひたすら絵を描くだけだった。

 そんな訳で、私は学校にだんだん行かなくなってしまう。学校を一度休むと、今度は簡単に行かなくなってしまった。

 私はずっと優等生で、サボったことなんて一度もなかった。大学も卒業時には学部長賞をもらうほど、生真面目に通っていた。(大学の授業は真面目にさえ行けば、それなりの成績がもらえる)
 ザ堅物な私がパリですでに外れている道からさらに外れていった。

 これから何をしたらいいんだろう? 私はずっと考えていた。












 
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