第66話 私はシンデレラ

文字数 1,103文字

 パリのセールは世界中から買いに来る。一流ブランドもセールになるからだ。それも半額以上七十パーセント引きになる。
 そもそも日本で売る時には同じバッグでも倍の値段なので、もともとが半額、さらに半額以上となる。だから世界中から飛行機代を払ってでも来る人は来る。

 そんな訳で、Mちゃんとグッチのセールに出かけることになった。靴が欲しかったのだ。貧乏人なのに、そんなところに行っていいのかと恐ろしく感じたが、とりあえず出かけることにした。いや、女性はお買い物が好きなんだ、と例のブラジル人の言葉を思い出す。

 グッチの靴を見て、値段を見て驚いた。黒い革のサンダルがセールになって一万五千円くらいだった(二十年前のお話)。通常ノンブランドの五千円くらいのサンダルを買って履いていたのだが、一万五千円のサンダルを見て、やっぱりデザインが素敵だなぁ…と思っていた。
 すると黒服を着たイケメン店員が(絵に描いたようなイケメン店員)「あなたのサイズをお出ししますよ」と言ってくれる。断る理由…を探せなかった。(イケメンの対応力がない)
 しかも椅子に座らさせられ、片膝ついたイケメンに持ってきた靴を履かせてもらう…と言う体験をした。シンデレラ? 私はシンデレラなの?

「パリのイケメンはゲイ」と言う謎の呪文を唱える。
 当時、パリのとっておきのイケメンはほとんどゲイであるという噂が流れてきた。本当なのか、嘘なのか、それを確かめる術はなかったけれど、イケメンを見る度に、なぜか私はそう思ってきた。
 正気を保つために「パリのイケメンはゲイ」という呪文を五回は唱えた。
 しかしこの呪文は圧倒的イケメンの前では少しも効力を発揮しなかった。

 目の前にイケメンが片膝をついて、私に靴をはかしてくれている。(二度目)
 両足履かせてくれている。

 何これ…。
 夢かな。
 現実感ない。
 ふわふわしてる。

「これ…頂きます」
 ってなるよね。
 え? ならない?
 それともそういう商法?

 私はお会計を済ませ、さっさと店を出た。Mちゃんも買っていて、二人で店から離れて「ぎゃー、すごいイケメンに接客されたんだけどー」と私は言った。
「うん、うん。私も」
「しかも片膝つかれたんだけどー」
「そうそう」
「何、あれ? なんなの?」と買った靴よりイケメン店員にテンションが上がった。

 外国人って片膝ついてプロポーズするらしいけど、そんなこと日本でされることないから、当時の私には破壊力半端なかった。

「もう…二度と行けないっ」と思うくらい、素敵なお買い物だった。
 実際のところ、今に至るまで二度と行ってない。

 でも一生に一度の体験として、とっても素敵だったと今でも思ってる。
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