第70話 パリの冬の過ごし方

文字数 1,293文字

 パリの部屋の暖房はオイルヒーターで温められるところが多い。オイルヒーターは電気代を食うらしく、そしてフランスは電気代が高いと聞いていたので、私は節約していた。地上階だからなのか、床が本当に冷たい。足はいつもふわふわのスリッパを履いて、過ごしていた。

 シャワー室は本当に寒くて、まるで修行僧のような気持ちになる。しかも固定する場所がないので、片手で持っていなければならないという不便さがあった。
 あのシャワーのおかげで、ニースのホームステイ先のお母さんには及ばないけれど、私は短時間シャワーを会得した。

 そして私の家に来た友達はダウンを脱がずに過ごしていた。とても広い日本家屋の一軒家なら、ユニクロのライトダウンを来て、室内で過ごすこともあるかもしれないが、パリのアパートでライトではなく本格的なダウンを来て、室内で過ごしていた。

 ニースで知り合った恭子さんも遊びに来てくれて、毛皮のコートを室内でずっと着用していた。今思うと、自分はいいがお客様には申し訳なかったな。
 そしてなぜかプルーンのドライフルーツがあって、(買ってきたのか、覚えていない)それを食べていたら、急にお腹が痛くなり、極寒のトイレに篭ることになり、寝る時はすっかり凍えてしまった。
 私のワンルームの部屋に一つの大きいソファベッドがあり、それを広げて眠るのだが、恭子さんと一緒に寝た時、つま先を彼女が自分のふくらはぎで温めてくれて、何だか気恥ずかしい思いやら、懐かしい思いやら…でもやっぱり気恥ずかしい思いをしながら眠った。
 
 寒すぎるので、私はウィスキーで暖を取ることにした。ロシアの人がウォッカを飲む理由がわかる気がする。フランスにいて、私はワインより、ウィスキーを飲むことが多かった。それも嗜好品ではなく、体を温めるために飲んでいた。美味しいとか、良くわからないけれど、体がぽかぽかした気がする。

 寒くて、朝も遅いし、夜もすぐに暗くなる。そんなフランスの冬がなかなか辛いなぁと思っていたら、Mちゃんが「冬は夜が長いから、演奏会とか行われて、夜を楽しむ季節になるんだよ」と教えてくれた。
「夜を楽しむ!」
 シャンゼリゼ通りはイルミネーションがキラキラで、眩く飾られており、確かにパリの冬は寒いけれど、綺麗だった。
 そんな訳で、Mちゃんとピアニストのキーシンの演奏会にも出かけた。展覧会の絵を弾いてくれた。フランスは学生に優しいので学生料金がとってもお安く設定されている。きっと日本ではないような値段で有名ピアニストの演奏が聞ける。
 本当に芸術に触れ合うことの敷居が高くない。
 私はピアノを聴くと、上手い人であればあるほど、なぜか眠ってしまいそうになる。ピアノの音が眠りに誘うのだ。キーシンも途中、うとうとしかけていた。
 しかし曲が大曲だし、最後は大盛り上がりで終わった。確かアンコール曲は「熊蜂の飛行」だった。すごい勢いで弾いていた。「ノーミス」とMちゃんが隣で呟いていた。

 あまりクラシックに詳しくないのだが、その夜は終わった後、なぜかウキウキした気持ちで冬のシャンゼリゼのイルミネーションの道を見ながら歩いた。



 





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