第92話 脳内自動和訳

文字数 980文字

 あれはなんだろう。

 世の中には動物と意思疎通ができる人がいるらしい。素敵だと思う。私もできるのなら、動物と話してみたいと思う。特にイルカとか。なんか超音波とかで意思疎通してるとかなんとか。私もイルカと意思疎通してみたい。でも彼らは優秀だから、彼らの意志を私が分からなくても、私の意志は彼らに伝わっている気がする。

 さて。そんな話とフランスの話が何に繋がるかと言うと、ある程度でフランス語が頭打ちになってしまった私。(絵の学校に行ってるから仕方ないにしても)
 フランス人の友達もいないし、そんなに社交的でもない私。
 そんな私に脳内自動和訳という能力が身についた。

 フランス人が私に向かってペラペラ喋っている時、その人が言わんとしていることが何となく分かるのだ。
 悲しいことに聞き取りではない。もちろん、単語単語は聞こえるのだが、なんていうか、ものすごく瞬時に何を言っているのか理解できる。
 これはまさに動物と意思疎通できる人と同じ能力ではないだろうか、と思った。

「ペラペラペラペラ(出席が少なすぎます。これでは書類にOK出せません。週に三回は最低でも来なさい。さもなくば、あなたの滞在許可書の書類に在籍証明を書くことができません。私たちとしても違法になります。良いですか?)」
「アー、ウィ(あ、はい)」
(あぁ、怖い。大人になって怒られてる)←堅物な私はどこへ行った?

「ペラペラペラ(今日は白ワインのワイナリーのみです。大丈夫ですか? 赤ワインは明日になります。回るワイナリーは〇〇、△△です。集合時間は〇〇時。場所はこの目の前です)」
「アー、ボン(あぁ。そうですか)」

 もちろんこれはシュチュエーションがわかっているのだから、ある程度脳内で予測つく会話だからだと思われる。
 思われるが訳すという作業を完全に脳がストップし、聞き取った単語単語をつなげ、シチュエーションによって、相手の会話を推測するという機能が発達してしまった。

 だから地下鉄で唐突に自分の苦境を叫びカンパを募る人がいるが、彼らには脳内自動和訳は使えなかった。

 つまり超能力でもなんでもなく、推測によって相手の言わんとしているところを察する能力が飛躍的に伸びてしまって、これまたフランス語の会話が伸びる邪魔をすることになった。

 しかし勝手に和訳してしまうこの脳みそよ…。良いんだか、悪いんだか。
 







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