第3話 ホームステイのその前に

文字数 1,004文字


 ホームステイ先に何時に着くのか旅行会社から教えてほしいと連絡が来たので、その日の午後二時と伝えておいた。午後二時だったらお昼の食事も終わっているだろう、という私の配慮した時間だった。

 しかしこの配慮は完全に無視されることになる。

 伝言ゲームスタート:「留学生が日曜、午後二時に来ます」
 旅行会社→語学学校→ホームステイ先まで。
 メッセージは…ゴールしなかった。

 失敗した原因…海外の学校は想像以上に大らかなので、細かいやりとりは自己責任でするべき。自分でステイ先にメールするべきだったと後悔した。メールアドレスはもらっていたから。

 そして結果、私は日曜の昼下がりにホームステイ先のアパルトマンの玄関すら突破できずに、スーツケースと共にぼんやり過ごすことになる。

 何度か電話しても家の留守電につながる。その度に失われるコイン。もう電話も気楽にかけれない。かなりの住宅地に来ているけど、もう一度、街に戻ろうか。
 でももしかしたら、ちょっとお買い物に行って、すぐ帰ってくるかもしれない。

 そんなことを思っていたら、通りすがりの男性が「ボンジュー(こんにちは)」と声をかけてくれた。
 私も挨拶を返した。
「サバ? (大丈夫? あるいは元気?)」
「ウィ、サバ(うん。大丈夫)」と答えた。
内心(サバパだよ。大丈夫じゃない)と思ったが、見も知らぬ人に相談することも、話すフランス語もなかった。

 南仏の夏の日差しは強くて、木陰で待つことにした。青い空。異国の場所で、でも私はそんなに切羽詰まった気持ちにはならなかった。

 しかし一時間くらい待ったが、帰ってこない。

 そしたら、さっきの人がまた声をかけてきた。

「さっきから、ずっといるけど…大丈夫?」(脳内和訳)
「あ、約束してて」
「いつ?」
「二時」
「もう一時間も過ぎてるよ」
(知ってる)
「よかったら、家で待ったら?」
「いやいや、大丈夫」
「でもどうするの?」
「カフェにでも行こうかな…。それでたまに電話かけて…」
「カフェ? ここらへんにないよ。電話、家にあるよ。家でもかけさせてあげれるし」
「…」
 確かに手持ちのコインも無駄に留守番電話に繋がるので減っていた。すごく親切な人だったし、そして喉も乾いていた。

 結局、私はその人の家に行くことにした。全く知らない男性の。

 その人がどんな生活をしているのかも知らないのに。南仏の明るい昼下がりに。眩しい太陽光であまりよく見えてなかった。
















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