第9話 私はライオン

文字数 726文字

 エクサンプロバンスの公園で一人の日本人の女の子に出会った。その子はユースホテルに泊まると言った。ユースホテルは中心部から少し遠くて、不便な場所にある。

「ユースホテルに泊まる料金でいいから一緒にホテルに泊まらない?」とナンパしてしまった。

 私の部屋はツインで、一人で泊まっていた。フランスは一部屋いくらと決まっていて、二人で泊まろうが、一人で泊まろうが同じ料金なのだ。彼女は半分払うと言ってくれたが、私としては、半分払ってもらわなくても、少しだけでも安くなるだけでも嬉しかった。
 何より、受付の兄さんが「今日はどこ行くの? 夕方、ご飯一緒に食べない?」とかそう言うのが面倒だったのだ。
 彼女もいれば、二人でいるからと断るのも楽だった。

 しかし異国の地で日本人だからと言って、声をかけたので、相当警戒された。でもその子とは何だかんだと繋がって、数年後、彼女はフランス人と結婚したのだけれど、結婚式にも出る仲になった。

 二日目は彼女と泊まって、朝に別れた。

 昼ご飯は感じのいいレストランを探していて、ウサギのように葉っぱを食べたので、肉が食べたくて仕方がなかった。私はウサギには結局なれなかった。

 そう言うわけで、何度読んでも「タルタル」と読める謎の「牛肉のタルタル」というものを頼んでみた。日本人的には焼いた肉にタルタルソースが掛かっていると信じて疑わなかった。
 
 ところが運ばれて来たものは完全に生肉にオリーブオイルがかけられているものだった。
「え?」
 タルタルソースは何処?

 お皿一面に生肉が乗せられていた。

「今日はライオン。私はライオン」

 タルタルって…何、と思いながら生肉を食べた。特に味付けもなかった。

 そしてまたバスに揺られて帰路に着いた。
 



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