第47話 パリの日本人経営語学学校 その2  繋がる日本人

文字数 2,050文字

 2001年から2002年、パリに来た頃、丁度、ユーロ切り替えの年だった。50フランの星の王子さまの図柄がなくなるのは残念だった。

 クリスマスは家族で教会に行って過ごすのがフランス流だが、年末年始のカウントダウンは凱旋門に向かうシャンゼリゼ通りは人で埋め尽くされる。そして誰彼構わず、ビズー(ほっぺにキス)してお祝いするというのがパリの習慣だった。

 日本人のクラスメイトである元スッチーは旦那様が半分公的な民間企業の方で政府から「年末年始における過ごし方の注意」を守らなくてはいけないらしくて、「行きたいけど、行けないの」と言っていた。彼女は私とは全く違うタイプの人で…女子力も高いし、綺麗な人で、行動力もあった。
 駐在員のお嫁さんなので、素敵な部屋に住んでいたけれど、電気代だけで七万円する…と言っていた。そんな素敵なお家に一度行ってみたいと思っていたら、誘ってくれて、一度遊びに行った。本当に素敵なお部屋で、何というか、貴族になった気分になる。(いや、訂正。貴族のお家に潜入した気分になった)
 そこで彼女の知り合いの日本人が何人か、招かれてお食事をご馳走になった。何だかおしゃれなものが並んでいたと思う。覚えているのは洋梨の赤ワインコンポート。赤ワインに洋梨を漬けるだけと言っていたが、なかなか美味しかった。
 彼女の知り合いの人の中にフランスのJALで働いている日本人女性がいて、その人と何となく喋って、なぜかその人のお家も遊びに行った。私、図々しくも人のお宅訪問しまくってるな…と思うけれど、パリでなければ、そんなに気軽に人の家に行ったりはしない。こちらは豪華ではないけれど、パリらしいシャビー感があるお洒落なお部屋で(伝わるか?)猫を飼っていた。そこで少し色々お話しをして、フランスで一人で生活している彼女が本当にすごいと思ったし、尊敬した。
 不思議なことだけれど日本人だというだけで、なぜかフランスでは簡単につながってしまう。何の警戒心もなく、つながってしまうのだが、中にはトラブルもあったらしい。私は親切な人にしか合わなかったけれど、例の本屋の掲示板には何かを貸して、返ってきません。ご存知の方は…などという張り紙を見たこともある。

 ちなみに私が必死で探し当てた部屋はものすごくコンパクトな正方形で、その中にキッチンもあって、素晴らしく機能的で、下手したら両手を伸ばしたら、壁が届きそうな…確実に二人だと壁に届く広さである。トイレとバスはあるけれど、極寒なので、気合を入れないとできない。
 お風呂に入るのにものすごく気合いがいるので、私は絶対、夜にお風呂入りたい人だったのに、朝シャワー派になった。フランス人は朝シャワー派だと言う。それはフランスの空気が乾燥しているせいか、何なのか分からないけれど、私の場合は極寒のバスルームだからだった。

 後、エクサンプロバンスで知り合った女の子(覚えてる? 一緒にホテルに泊まった子)がパリにやってきて、恋人と結婚するというので、会いに行った。
 その子が友達を紹介してくれたが「おじさんの家に住んでいるの」と言った。
 おじさん…? あえて、恋人とは言っていないので、そこは何も突っ込めず…、スルーしようかと思ったら、おじさんの家に遊びに来て、と言われた。

 私一人で行くのは嫌だったので、エクサンプロバンスの子と一緒に出かけることになった。
 部屋はアンティークな調度品で囲まれて、パリのいい地区でなかなかいい部屋だった。おじさん…(若干、おじ○さんに近い気がしたが)は私たちのためにピーマン肉詰めを作ってくれたり、デザートにはアイスクリームウィスキーがけを用意してくれた。日本の浮世絵もコレクションしていて、一体、何者か分からないし、どういう付き合いか分からないけれど、何だか明らかにしてはいけないような気がして、お暇した。

「あれって…恋人?」
「多分?」

 帰り道でエクサンプロバンスの子とそんな話をしながら、「もっといい人いそうなんだけど」とお互い言った。

 でも…彼女の選択に私が何か言える立場でもない。大体、一、二回しか会ってないのになぜ家に招待されたのか、そして私も行ったのか…。謎である。

 日本人女性はフランス人にもてる。黒髪が艶やかで華奢な女の子は割とフランス人と一緒にいるのを見た。

 私はモシャモシャの天パで、顔も濃いのでモテたことはなかった。老婦人、電気を借りにきたフランス人(なんだ、それ…ということがよくあるけれど)には「ポルトガル人?」と聞かれた。

 なぜにポルトガル…。日本でだと顔が濃いから沖縄の人? とよく言われたけれど、地下鉄の窓に映る私の顔はどう見ても東洋人だった。パリに来て、私は自分の顔が薄いと思った。

 高校の時にオーストリーから留学生が来て、まぁ、なかなかに失礼なやつだったんだけど「日本人は転んで顔ぺっちゃんこになったの?」と言い放つ男だった。

「…ラルフの言ってたこと…なんとなく分かる」とふと地下鉄の窓を見て思った。









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