第51話 初パリの思い出 その三 同じ月

文字数 1,435文字

 初めてパリに行った時、夜のパリに着つく。空港からパリ市内に行く小型の旅行会社のバスに乗った。景色が日本と全く違っていて、もちろん目にする言語が全てフランス語で、空気も違っていて、人の顔も違っていた。空港では香水の匂いを感じる。

 ディズニーランドに初めて行った時も思ったけれど、同じ地球にこんな場所があったなんて…、と言うぐらい異世界を感じた。

 旅行会社が提携するホテルの前に降ろされるのだが、各グループ違うホテルで、私たちは最後だった。私たちのホテルはエッフェル塔の近くの三つ星ホテルで、小さなホテルだった。各グループの人がチェックインできるようにわざわざ日本人の通訳の人が降りて、手続きをしてくれる。その間、バスで待っているのだが、バスの運転手さんが話しかけてきた。

「どこに行きたいの?」
 場所を言うと、「アピエ?(歩いて?)」と言う。
 分からないという顔をしていると、指を人差し指と中指の二本を手のひらで動かして歩く様子を伝えてくれた。
 なんて、ユニークで可愛い表現なんだろう、と私は感動した。
 私の拙すぎるフランス語は通じなかったけれど、でもフランス人の優しさとユニークさに触れて、この旅が楽しいものになると思った。
 旅の最初がよければ、意外とうまく行ったりするものだ。

 私たちのホテルに着いて、バスを降りた。月が丸く浮かんでいて、それは当たり前だけど、日本と同じ月が浮かんでいて、フランスにいるのに、何だか月がとっても和風で、情緒的に見えた。
 そして同じ月がずっと見ていてくれると言うのが、安心だった。

 小さなホテルだったが、壁紙が可愛らしくて、私たち二人は喜んで、そしてすぐにシャワーをして、寝た。飛行機に乗っている間も寝ているのだけれど、どうしてか疲れて、すぐに眠ってしまった。

 翌朝はホテルの食事だ。パンや、卵、ハム、チーズなどが置かれていて、自分で好きなのを取って食べられる。日本のホテルのバイキングとは違って、種類が少ない。
 黒人女性がカフェのスタッフとして働いていて、フランス語で挨拶をすると、笑顔で返してくれた。
 そういう細かいことが一々、嬉しいのが初めてのパリの旅行だった。

 特にブランド品を買う余裕はなかったので、何を自分のお土産にするか必死で悩んで、ルーブルの下のお土産屋さんみたいなところで、ガラスの器を買ったり(持って帰るのに、割れる恐れがあるので、あまりおすすめしないけど)、小さな鏡を買ったりと、特に必要ではないけれど、なんとなくフランスを感じさせる小物を選んだりと、一々楽しかった。

 ホテルの近くに中華屋があって、持ち帰りに焼き飯と、餃子を買って食べて、久しぶりの米が嬉しく(三日振りとかそんなもんだけれど)て、美味しく感じたりと…。日本では味わえない気持ちもたくさん味わえた。
 パリに来たからこそ、感動した、小さな一つ一つが、私をまたパリに連れてきたと思う。人によっては、「ふーん」と言った内容だけれど、あの時の私にはとても心に響いた。

 だからパリに行って、また来たい、と思えるような旅行だったし、いつか、この街で暮らすことができたら良いな、と思った。その時はいつか留学したいなんて思ってもなかったけれど。

 留学した時も、たまに月を見上げることがあった。一人で夜、歩きながら帰る時、友達と肩を並べて歩く時。空には月が浮かんでいる。
 あの頃と同じ月がいて、私は応援されている気持ちになる。
 今でも、日本でもたまに月を見て、歩く。


 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み