第18話 またしても大家と揉める

文字数 2,122文字

 ある日、家のドアの下に封筒が差し込まれていた。開けてみると、大家からで電気代の請求が来ていた。
(光熱費込みの家賃だったはず)と私は契約書を確認した。
 契約書には無料と書かれている。しかし請求書が来て、何日までに振り込めと書いている。
「あのオヤジー」と怒り心頭だった。
 ザ理不尽だった。

 その手紙と契約書を持って、難しい顔をしていると、担任の先生に声をかけられた。私はこの手紙と契約書を見せた。
「光熱費ただで契約したと思うんですけど、あってますか? 電気代払わなくてはダメなのですか?」
「テオリックモン ノン」と言われた。
(テオリックモン?)と少しわからない単語を言われたが、ノンと言われたのだから、払う義務はないのだろう、ととりあえず思った。しかしその後、
「君はこんなに高い家賃を払っているのか。大豪邸なのか?」と聞かれた。
「学校が紹介してくれたんです」と私も答えた。
 すると、肩を竦めて「相場より高すぎる」と言われたが、私にも先生にもどうすることもできない。

 地方の実力者が学校のために空き家を手入れして貸している。彼は顔が学校に利き、学校としても彼が便利なのだろう。そのため相場料金より高い賃料を学生が払っているし、学校は知っているのか知らないのか、知っていても見逃しているのか…何だかそういうところにまで腹が立ってきた。そういうシステムなのかもしれないが、その時はなぜか沸々と怒りが込み上げてきた。留学生を餌にしている、という(まぁ、そうなんだろうけど)ことにも、大家も学校も含めて怒りが湧いてきた。

 確かに長期で住むなら地元の不動産屋さんに行くべきなのだろうが、半年となると、なかなか貸し手がいないのかもしれないし、保証人の問題も生じる。それを留学生がするとなると、時間も手間もかかる。だから多少の割増料金は仕方がない。仕方がないが、留学生だから言葉が分からないであろうと甘く見られたり、そこに漬け込まれて、電気代を後から知らない顔して請求してくることにも腹が立った。語学を学ぼうとしてフランスに来ているのに、学校がそういうことを黙認、あるいはそういう斡旋先と関係を続けていくのはどうかと思うと、私は手紙を書いた。なぜなら話す時、緊張とパニックでうまく話せないからかもしれないからだ。アドレナリンがものすごく出ていたので、必死で辞書を引いて、訴えを書いたと思う。

 それと同時に次の滞在先を探すことにした。残り期間は約三ヶ月弱だったので、部屋を借りるのは諦めて、ホームステイをすることにした。
 環が住んでいたホームステイ先のところが来月から開くというので、今住んでいる日本人の子に次に入れるか聞いてもらった。環がいうには「別に悪くない」と言っていたので、そこに行けたら、そこで滞在しようと思ったからだ。

 滞在先も決まり、私は手紙を持って、オフィスへ言って「校長先生に渡してほしい手紙がある」と言った。しかし結局、その手紙は校長まで届くことはなかった。
 受付は「中を確認していい?」と言われたので、それは拒否できなかった。
 ちゃんと私が書いた内容を読んでくれて、
「イレ エクセプショネル」と言われた。

 その単語はある意味、私を絶望させた。
 直訳すると(彼は例外的です)という意味だった。学校も知っていて、それを認めているんだと思った。

 もう話すことはなかった。知っていて、そう言うのなら何も言う言葉はなかった。代わりに涙がこぼれた。悔し涙だった。自分は間違えていないという思いと、それなのに、長いものには巻かれなくては行けないということに対しての悔しさが涙になった。

 受付の人は慌てて言う。
「何か力になれることはない? 家はどうするの?」
「今月で解約させてください」
「新しい家はあるの?」
「はい。〇〇家です(名前が既に思い出せない)」
「あー、分かったわ」

 自分の無力さを知った。努力をしても何も変わらない。
 そうだよなぁ…。留学生はどんどん入れ替わるのだから、数ヶ月で去っていく私の訴えを聞くより、地元の大家の言うことを聞くよなぁ…と納得した。

 でも私にとっては数ヶ月であれ、お金もかけてここの学校に決めた。ここの先生たちはとってもよかったが、ホームステイ、大家についてはいいとは言えなかった。

 後で聞いたことだけど、その大家の家にホームステイしている日本人の男の子が言うにはホームステイ先へのアンケートがあるという。
「俺、ムカついたから(色々あったらしい)、全部悪いにチェックした。大家に見せないって言うから。そしたら家帰ったら、あいつが『お前、なんで悪いにチェックした?』て聞いてきて、見せないって言ってるのに、内容知ってて、学校とツーツーで驚いたわ。だから『フランス語間違えて、反対側にチェックした』って言った。だって数日とは言え、まだ滞在しないと…だし」

 もう私が流した涙なんてなんの意味もなさない。

 そういうわけで、私は退去することになった。学校に近くてよかったんだけど。

 後日、大家がカビが台所に生えていることについて、
「毎日料理しているのか」と聞いてきて、
「してる」と答えた。

 もう本当に閉鎖されたこの場所が私は嫌いだった。

























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