第26話 セレブなタイ人

文字数 1,619文字

 クラスに小柄なタイ人の女の子がいた。
「スパカーニャと呼んで」と言うので、
「呼んで? 本当の名前は違うの?」と聞くと、本当に覚えられないような長さの名前で、何度か聞いたが無理だった。
「無理でしょ?」とごく普通に言われた。
 スパカーニャは利発な女の子で、割と直球で聞いてきた。
「お父様のお仕事は何?」
「え? 父? 普通…の会社勤め」
「私の父は大学教授なの」(医学部だったか、理工学部だったか忘れたけれど…)
「え? すごい」
 そしてタイ人留学生はみんな寮に住んでいて、タイ料理作ってくれるというので、聞いたことのあるトムヤムクンをお願いした。それが初めて食べたトムヤムクンでとっても美味しかった。
「タイは日本と違って、ものすごく物価の安い国なんだからそんなのをオーダーしたらかわいそうだ」とヤスに怒られた。
 しかし…タイ人で留学できるというのは日本とは違って、とてつもないお金持ちしかこれないという国の背景がある。確かにヤスの言う通り、物価の安い国ではあるが、貧富の差も激しく、みんなとんでもないお坊ちゃん、お嬢様が留学していたのだった。

 日本だと、OLがお金貯めて、アメリカ留学しましたとかあるのだろうけれど、タイではやはりそれは難しいのかもしれない。だからここで知り合うタイ人は大学教授の娘、大企業の息子、そんな人ばかりだった。

 フランスでタイのセレブと知り合うことになるとは。でもそのタイからの留学生はセレブらしい雰囲気は全くない。服もとってもカジュアルだし、飾りっけが全くなかった。

 夏期講習にいた日本人の学生で「パパのカードの限度額超えて買い物できない」と言っている女の子の方がきらびやかな格好をしていた。

 私はスパカーニャがな好きで、よく話をして、彼女の恋の相談を聞いたりした。同じタイ人の男の子で、素朴で優しそうな美男子だった。
「彼、そんなに男前じゃないけど…優しいし。どう思う?」とスパカーニャは言う。
「え? 男前だと思うけど? それに性格いいんだったらいいと思う」と話していた。
 私の彼の写真を見せてと言った時も、スパカーニャは
「彼と同じで顔はそんなでもないけど、優しそう」と言うコメントをくれた。
 内心、
(よかったー。もう少しで私の一目惚れから付き合ったって言うところだった)と安心した。
 自分が格好いいと思っても口に出すことはやめようとこの一件で学んだ。
 彼女の屈託がなく、正直なところが好きだった。
 数日後、銀の指輪をもらったと嬉しそうに見せてくれた。

 タイ人はみんないつも一緒に過ごしていたが、ヤスも仲良かったらしく、何度か一緒に夜に出かけたりした。ノリの良いシャイヨーというタイ人の男の子がいたけれど、私はそんなに好きじゃなかった。「私なんか…」と自分を下げて、みんなをヨイショする感じだったが、どこか暗い冷めさを感じた。でも周りは明るい人柄を気に入っている人が多かった。
 
 もう一人、タイガというタイ人の男の人がいたが、一人だけ年が離れていたのもあって、かなり大人で紳士的だった。
 みんな仲良くしてくれて、クラブに出かけたりしていた。
 踊ったり、お酒飲んだりするだけだったが、楽しかった。

 ある日、クラブにテンションの高いアメリカ人が私たちのテーブルに来て、絡んできた。私はそのテンションがアメリカ人だからなのか分からなかったが、タイガが「薬やってる」と言った。
「え? ほんと?」
「うん。ほら、グラニュー糖飲んでるだろ?」
 確かにコーヒーに入れるグラニュー糖をそのまま口に放り込んでいた。
「…薬やってると、砂糖が欲しくなるんだよ」
 落ち着いた声でタイガに言われて、私はゾッとした。
 タイでは麻薬は厳しく取り締られている。それなのにやっている人が多いようで、そんな知識も持ち合わせていた。アメリカ人はそのまま去って行った。
 
 海外に行くと薬の問題は絶対に出てくるし、確実に側にある。この話をまた次回に書こうと思う。

















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