第6話 堅物女と美人フランス語教師

文字数 1,353文字

 学校主催で週末に遠足も行われる。料金はかかるが色々連れて行ってもらえて、好きなコースを選べた。

 私はモナコに行くことにした。この時、何を見たかすっかり忘れてしまったけれど、この遠足で、出会ったかなり癖のある人物について書きたいと思う。
 その人は大学でフランス語を教えている先生で、生徒を引率しており、また個人でフランス語を教えている大人の生徒もこの短期留学に参加していた。

 私は完全部外者で、でも日本人だということで、その先生の方から声をかけられた。綺麗な女の人だった。

「一人で参加してるの? えらいわねぇ」と言われた。

 いつも周りに生徒がいるからか、そんな感想を持ったのかもしれない。そしてなぜか彼女の話を私は聞くことになる。
 子供が二人いて、シングルで恋人が二人ほどいるらしい。一人はミュージシャンで一人は年下の院生とのことだった。
「へぇ」

 私の食いつきが悪いのか、いろんな話を教えてくれた。
「美味しいフランスパンがあって、それを夜中に買ってくれてベッドで二人で食べたの」
 今考えれば「すごい。素敵」と言うのが正解なのだろうけれど、私はリアルにパン屑がベッドに落ちるのが想像できて、(ちょっと…それは)という気分になった。
「すごくパリパリで。焼きたてだから」とリアルに教えてくれたものの、それがリアルに嫌だった。
(完全にパン屑まみれやん)
「へ…ぇ」

 そう。私は堅物女。

 若干引く態度でいると、さらに押してくる。
(なぜに?)

 思うに大人の生徒さんはまるで取り巻きのように、美しいフランス語教師を崇拝している。女性同士だけれど、自由な生き方とか、その他色々…に惹かれたのだろう。
 私はそんなに素晴らしいものを持っていないけれど、周りの崇拝女性とは違っていたというだけで、なぜか「一緒にお茶しない?」と言われた。

 正直、私はフランス語を習いに来ていたから、日本人とお茶を積極的にしたいわけではなかったけれど、そのお茶の場所がモナコの一流ホテルだから、せっかくなので入ってみたかった。

 まぁ、でも入ってみたら、案の定、先生のお話を聞く会だったけれど。お嬢さんが不登校になって、平日にサボっていることを重荷に感じているお嬢さんを連れ出して、一緒に映画に出かけたりしていると言っていた。
「どうして…そんな真面目なお子さんが」と言いかけたら
「真面目だからそうなるのよ」と先生が言って、取り巻き達の冷たい視線を感じる。
「いや…あのそんな真面目なお子さんが先生から生まれたのかなぁ…と思って」と私が言うと、さらに周りの視線が突き刺さった。
 すると、笑いながら先生が「そうなのよ。ほんとびっくりするわよねぇ」と言って、なんとかことなきを得た。

 そう言うこと言う人、周りにいなかったんだろうな…。

 だからか、時々、話しかけられた。
 
「ねぇ、日本人の女の子が『寒ーい』って言うじゃない? あれさ、『あそこが濡れてる』っていう意味に聞こえるから言わない方がいいわよ。パリとかでみんな言うけど、聞いてるとハラハラするのよねぇ」と教えてくれた。

「あそこ?」

 そう。私は堅物。

 そんなことまで懇切丁寧に解説してもらった。フランス語と共に。

 変わった人にも知り合えて、そこまで深くは付き合わなかったけれど、そこそこ楽しい時間を持てた。













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