第60話 地上階のご近所さん その4
文字数 1,539文字
地上階のご近所さんシリーズも最終回となりました。私は円滑なご近所付き合いができたのでしょうか?
GWって日本だけかと思ったら、意外とフランスも同じ頃に同じような感じで連休がありまして、そこでみなさん、お出かけしたりするんですね。夏のバカンスも「パリから脱出」とかなんとかで、パリジャン、パリジェンヌ、パリマダム、パリムッシューたちは地方や外国へお出かけします。
でも意外なことに全員が旅行に行けるというわけではないんですよ。そんなに裕福でない人たちがパリでバカンスができるようにセーヌ川に砂場を作って、パリプラージュというのを始めたのちょうど2002年。
私はそんなに裕福でない人+パリが好きなので、わざわざ他の場所にいきたくないということで、ほぼパリステイしていました。トゥールにいた頃はボルドーに行ったりしたけれど、パリでは他の都市に行こうという気持ちが沸かなかったです。
そんな訳でGW的なおやすみもパリで(というか、部屋の中で)過ごすつもりだった私は例のお向かいさんに捕まった。
「ねぇ、休み中、どこかに行く?」
「行かないけど?」
「じゃあさ、僕の部屋の観葉植物に水あげてくれない?」
「え?」
(えー、いやだ。勝手に人ん家に入るの嫌だー。何かなくなったら私のせいとか…)とかなり疑い深い。
「鍵、渡すから」
「えぇ? いや…でも」と言ってる私に鍵を渡して来る。
「この鍵はちょっと開けるのに難しいんだ」
「え? あ…私には無理かなぁ…」
「練習して」
(いや、待ってよ。やるって言ってないじゃん)と思いつつ、もう鍵の開け閉めの訓練をさせられた。
確かに彼が言うように簡単に開かない。
「あ、やっぱり無理かも」と私が言うと…あろうことか、開けられるようになるまで練習させられた。
一度開いただけでは許してもらえず、必ず開けれるようになるまで練習させられた。おいおいお前のバカンスになんで私が…。
「水は二日に一度しっかり上げて」とジョウロまで渡してくれる。
(げ、二日に? 一度? 多くね?)
部屋にいた彼女が「ねぇ、大丈夫なの?」と聞いてる。
(だよねー? そう思う、あなたの感覚は正しいはず。だから断ってー)と私は思っていたが、
「大丈夫」と彼はなぜか私に全幅の信頼を置いてくれている。
そんな訳で彼は私に鍵を託して彼女と旅行に出て行ってしまった。
「…」
二日に一度ね。
私はお家が好きな人なので、たとえ狭くてもあまり気にせず、ずっと家にいれる。スーパーに行ったり、コインランドリーに行く以外はあまり出歩かず、そして向かいの家にちゃんと二日に一度、水をやりに行った。人ん家に勝手に入るという不思議な体験だが、私は水をやるとさっさと自分の部屋に戻った。
三回目の時だった「あれ? なんか…白っぽいもやもやが?」と思ったが、近づいて確認するのはやめた。
室内の日当たりの悪い場所の観葉植物に本当に二日に一度の水が必要だったのだろうか。白いモヤモヤはカビだったのではないだろうか。
いや、カビだろう。
(でも私、悪くない。ちゃんと水あげた証拠だし)と思うことにした。
そしてバカンスに帰ってきて、彼らからもちろん土産文化というものはないのだから、土産はない。ただ私はカビを増やしてしまったが。鍵を返して、しばらくすると、私の窓の外に水道があるのだが、彼がどうやら植木鉢を洗っているようだった。
「何か問題あった?」と私はわざわざ部屋から出て聞いた。
「…いや…大丈夫」と彼は悲しそうに言った。
意外とフランス人だからと言って、なんでも言いたいことを言うんじゃないんだな…と思った。自分が頼んだことだからか、文句ひとつ言わなかった。そして夏のバカンス時に、いや、それ以外にも…彼に何か頼まれることはなかった。
GWって日本だけかと思ったら、意外とフランスも同じ頃に同じような感じで連休がありまして、そこでみなさん、お出かけしたりするんですね。夏のバカンスも「パリから脱出」とかなんとかで、パリジャン、パリジェンヌ、パリマダム、パリムッシューたちは地方や外国へお出かけします。
でも意外なことに全員が旅行に行けるというわけではないんですよ。そんなに裕福でない人たちがパリでバカンスができるようにセーヌ川に砂場を作って、パリプラージュというのを始めたのちょうど2002年。
私はそんなに裕福でない人+パリが好きなので、わざわざ他の場所にいきたくないということで、ほぼパリステイしていました。トゥールにいた頃はボルドーに行ったりしたけれど、パリでは他の都市に行こうという気持ちが沸かなかったです。
そんな訳でGW的なおやすみもパリで(というか、部屋の中で)過ごすつもりだった私は例のお向かいさんに捕まった。
「ねぇ、休み中、どこかに行く?」
「行かないけど?」
「じゃあさ、僕の部屋の観葉植物に水あげてくれない?」
「え?」
(えー、いやだ。勝手に人ん家に入るの嫌だー。何かなくなったら私のせいとか…)とかなり疑い深い。
「鍵、渡すから」
「えぇ? いや…でも」と言ってる私に鍵を渡して来る。
「この鍵はちょっと開けるのに難しいんだ」
「え? あ…私には無理かなぁ…」
「練習して」
(いや、待ってよ。やるって言ってないじゃん)と思いつつ、もう鍵の開け閉めの訓練をさせられた。
確かに彼が言うように簡単に開かない。
「あ、やっぱり無理かも」と私が言うと…あろうことか、開けられるようになるまで練習させられた。
一度開いただけでは許してもらえず、必ず開けれるようになるまで練習させられた。おいおいお前のバカンスになんで私が…。
「水は二日に一度しっかり上げて」とジョウロまで渡してくれる。
(げ、二日に? 一度? 多くね?)
部屋にいた彼女が「ねぇ、大丈夫なの?」と聞いてる。
(だよねー? そう思う、あなたの感覚は正しいはず。だから断ってー)と私は思っていたが、
「大丈夫」と彼はなぜか私に全幅の信頼を置いてくれている。
そんな訳で彼は私に鍵を託して彼女と旅行に出て行ってしまった。
「…」
二日に一度ね。
私はお家が好きな人なので、たとえ狭くてもあまり気にせず、ずっと家にいれる。スーパーに行ったり、コインランドリーに行く以外はあまり出歩かず、そして向かいの家にちゃんと二日に一度、水をやりに行った。人ん家に勝手に入るという不思議な体験だが、私は水をやるとさっさと自分の部屋に戻った。
三回目の時だった「あれ? なんか…白っぽいもやもやが?」と思ったが、近づいて確認するのはやめた。
室内の日当たりの悪い場所の観葉植物に本当に二日に一度の水が必要だったのだろうか。白いモヤモヤはカビだったのではないだろうか。
いや、カビだろう。
(でも私、悪くない。ちゃんと水あげた証拠だし)と思うことにした。
そしてバカンスに帰ってきて、彼らからもちろん土産文化というものはないのだから、土産はない。ただ私はカビを増やしてしまったが。鍵を返して、しばらくすると、私の窓の外に水道があるのだが、彼がどうやら植木鉢を洗っているようだった。
「何か問題あった?」と私はわざわざ部屋から出て聞いた。
「…いや…大丈夫」と彼は悲しそうに言った。
意外とフランス人だからと言って、なんでも言いたいことを言うんじゃないんだな…と思った。自分が頼んだことだからか、文句ひとつ言わなかった。そして夏のバカンス時に、いや、それ以外にも…彼に何か頼まれることはなかった。